“東京2020大会公式報告書”の概要を読む~東京モデル“透明性”確保のために~

22/04/04まで

深よみ。

放送日:2022/03/28

#インタビュー#オリンピック#パラリンピック#政治#経済

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22/04/04 7:40まで

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東京オリンピック・パラリンピックの“公式報告書”が、早ければこの4月にも、IOC=国際オリンピック委員会に提出されることになっていますが、3月24日木曜日、その概要が示されました。さまざまな議論があった2020大会。一体どのように総括されようとしているのか。その概要に目を通された、地方自治・行政学がご専門で、オリンピックについて研究をしてらっしゃる、宇都宮大学教授の中村祐司さんに話を聞きました。(聞き手・三宅民夫キャスター)

【出演者】
中村:中村祐司さん(宇都宮大学 行政学 教授)

「五輪公式報告書」は、国際的な“歴史的資料”

――まず、どうして今、オリンピックの話題なんだと感じている方もいらっしゃると思うんですね。中村さんはこの公式報告書、とても大事というふうにお考えだということですが、なぜ大事と考えるか、ひと言お願いできますか。

中村: これはですね。東京大会に関する公式文書の中で最も重要なものだと思うんですね。招致の活動の過程や準備、運営面、どうやって解決していったかっていう、そのプロセスが、非常に詳しく書かれているもので、しかも、英語やフランス語にも翻訳される。ですから、歴史的にも今後、10年、20年、いや100年後もですね、この東京オリンピックの、公式の文書としての位置づけ的なものなので、非常に重要なものだと思っています。

世論を分断させた事態は、どう記述されるのか?

――その概要が先週、示されたんですけれど、ずばり、読んでみてどんなことをお感じになりましたか。

中村: はい。踏み込んで書こうとしている部分というのは確かにあるんですけれども、私が見た感じでは、このままでいいのかなとか、まあちょっとこう、首をかしげるというんですか、ひと言で言うと矛盾する内容がですね、ちょっとこう、散見されてるんですね。

今回のオリンピックって、エンブレムの問題だとか、国立競技場の建設問題とか、組織委員会会長の辞任問題だとかね、開会式を巡る問題とか、いろいろあったんですけど、そういったことは書かれてるんですけども、肝心のですね、この史上初めての開催の延期ということがあったり、あと、コロナ禍での開催を巡って世論が分断したってこともあったんだけれども、こういう最も大切な、何て言うかな、残すべきところの言及はですね、私は、その概要、スライドで見たかぎりでは、あまりにも脆弱というか、弱いという印象を持ちました。

――特に気になった点に絞ってあげていただくと、どんなことになりますか。

中村: あの、3点なんですけど、「復興五輪に資する記述」といったものはやっぱり疑問でしたね。それから、「透明性という表現」が出てくるんですけども、これについてもちょっと何言ってるのかなと。それから3つ目はですね、「財務」っていうところの、あの記載の部分ですね。

“復興オリンピック・パラリンピック”の検証は?

――「復興五輪の記述」「透明性」、そして「財務」について気にかかるところがあると…。具体的に見ていこうと思うんですけれど、報告書の概要を見てみますと、まず「東京2020大会の特色」から始まっていて、その中で「大会の価値と取り組み」として、今、中村さんが指摘をされた「復興オリンピック・パラリンピック」のことが記されています。「スポーツの力で被災地の人々に希望と笑顔を生み出す」という理念と取り組みについて書かれているんですが、どういうところが気になりましたか。

中村: 理念については、まさにそのとおりなんですね。でも、その復興五輪の実際、実態が、どうだったのかということなんですね。ここに関しての結果や検証がないんで。その何か、あたかも立派なことをやり遂げたような、そういう内容に見えてしまうと…。

例えば2013年に東京大会の開催が決定したんですけれども、それ以後、復興五輪と言いながら、特に東京のベイエリアという、会場の建設だとか、あるいは、人手だとか、いろんな準備のところに、東京にこう、何て言うかな、そういったものを集中してしまって、現実には、復興の担い手となるその人手が足りなかったり、あたかもその復興の進捗を止めてしまうような、そのような現象が生じたんですね。だからこういったような、実際、実態の検証がないんじゃないかなっていうふうに思いました。

――復興にどれだけ寄与したのかという検証があるかどうか、注目してるってことですね。

“透明性”をめぐる議論~組織委員会と市民の評価がかい離しているのはなぜ?~

――2番目に気になる点としておっしゃったのは「透明性」ですね。

中村: これは概要の中では“東京2020モデル”として「東京2020大会で得られた成果や学び」として5つのポイントが挙げられていて、そのうちの1つが、「簡素化、効率化、透明性」とされています。

――「今後のオリンピック・パラリンピック競技大会に選択肢を提示」というふうに書いてあるんですが、どういうところが「透明性」について気にかかりますか。

中村: 普通、一般に「透明性」っていうと、例えばですね、組織委員会における意思決定なんかの過程が外部っていうか、私たちにですね、オープンになっていると。あるいは、その情報について積極的に私たちに公開されているっていう、要するにその「透明性」ってのは、ガラスばりっていうか、外に対して、私たちに対してオープンになってるって理解するのが普通だと思うんですけれども、このあたりのところが、ちょっとこう決定的に欠けているなというふうには思いました。

具体的にはですね。私がその概要書を読んだ限りなんですけど、「透明性」というのは、どうも組織委員会が言っている「透明性」というのは、例えば「理事会を50回も開催した」とかですね、あるいは「重要案件などについて、全局長が出席する経営会議の検討をした」とか言ってね。こういうことなんです。確かに、やり直しとなったエンブレムの選考過程だとか、大会マスコットは、小学生による投票で決めたってことは、外部に向けたものなんですけど、今、言った2つの、前半のものは、内部的なものにとどまっていて、ちょっと、これをもって透明性と言えるのかなっていう思いはしたんですね。

ですから実際には、先ほど言いました「大会の1年延期」だとか、「無観客開催の決定」というのが、もうある意味で重要な、歴史的に重要な決定だったと思うんですね。ただ、この点についての、議論の透明性があったとは、どうも読み取れないんですね。ないんです。このところの透明性の有無についてこそ、記載してほしいというふうには思いました。

経済効果への言及がない!? ~負のレガシーも検証・記載すべきでは?~

――そして、もう1点、挙げられました。「財務」について気にかかると…。「財務」については、「国内関係者間の役割分担」や「大会経費縮減の取り組み」「財務オペレーション」などについて記されています。中村さんはどのように受け止められたのでしょうか。

中村: ちょっと財務についていく前に、先ほどの「透明性」について概要書には気になる点もあって、「民主的でオープンなプロセスでの大会準備や運営は、今後の大会のあり方の選択肢となりうる」というふうな記載もあるんですね。こういう点ではですね、非常にこう、行政学を研究してる私から見ると興味深いというか、今後の社会のあり方を考える上で極めて重要なことだというふうに思うので、このへんのところもその選択肢はね、実際のその完成版というか、報告書にどういうふうに書かれるのか、興味あります。

そして「財務」の点なんですけど、私は、一番の疑問は、経済効果についてって言ったことが全く書いてない。オリンピックの東京大会の経済効果っていうのは、実は当時のですね、アベノミクスの、何て言うかな、政策の集大成として位置づけられている、すごく重要なものだったんですね。東京大会そのものを原動力というか、一番重要な成果として、例えば「経済浮揚効果」って、(経済が)上がってくっていう、そういったようなものと言われてたんですけど、こういったところが、現実には、何て言うかな、インバウンドの観光客の方とか、ホテルの需要っていうのは期待されたんですけど、言葉はあれですが、コロナで吹き飛んでしまったわけですよね。こうしたこのある意味では見込み違いというか、あてが外れた、あえて言うと“負のレガシー”、そのマイナスのレガシーって言ったようなことが、それは、やっぱり、公式報告書には、しっかり盛り込まれる必要があるというふうに思うんですね。

――そこら辺のことっていうのは、記載はないんですか。

中村: 実はですね。概要書の中には、こういう記載があって、こう書いてあるんですね。「パートナー及び経済界からの課題」っていう項目があって、その中の記載として、パートナー企業からの声なんですけど、「重要な意思決定において、パートナー企業に事前の相談・説明のないまま、事後通達される例も多かった」と。「観客の有無などが不透明な中で準備をしなければならず、無駄となった準備やコストが多く発生した」っていう、パートナー企業からの声といったものが記載されてるんですね。

これはですね、少なくとも私が見る限り、オリンピックでも初めてで、こういう声が出たというのは、これはすごいことで、これをどう受け止めるべきかといったことがあるし、例えばですね、ほかの記載でも「総経費の縮減や効率化について」ですね、これは組織委員会が言っているんですけれども、「中長期的な課題としても引き続き、基本・根本に立ち返って議論が求められる」っていうようなことも言ってるんですね。これが一体どういう意味を持つのかってことは、やはり公式報告書の中でどういうふうに表現されるかっていうのは、私たちは注目すべきということかと思います。

未来へ継承すべき“宿題”…~「対話と検証」の大切さを札幌の関係者にも…~

――そのあたりが書かれるのか、早ければ来月にも“公式報告書”がまとまるということで注目したいと思いますけど、今そうすると改めて問われていることは何だと思ってらっしゃいますか。

中村: 私、矛盾が散見されるっていう言い方をしたんですけれども、ただ実は、史上初めての困難に直面した大会でもあったんですね。その総括をすることというのは、ものすごい大変なことで、ひょっとしたらこれからやらなければいけないこととか、やるべきことっていうのはあるというふうに思うんですね。

実はですね、概要書ではそのことを示唆する記載がありまして、こう言ってるんです。「世の中の価値観が多様化する中、大会の価値や運営方法に絶対の正解はなく、対話と検証を通じてこそ、大会スポーツの価値がより強靱なものになり、未来に継承されていく」。これ、“未来への継承”というと、今、札幌で、2030年大会、(冬季)オリンピック・パラリンピックを招致する動きがありますよね。私、最も大切なことは、「対話」だと思います。ここのところがですね、6月までの、私は、この組織委員会(が解散するまで)に課せられた「宿題」だと思います。

担当ディレクターより

放送に対して、さまざまな意見をいただきました。ありがとうございます。これまでの関連番組や、未来へ継承すべき場として言及された「札幌の動き」などを交え、補足させていただきます。

  •  ● 「インバウンドがマイナスだったことは載せていいはず」、「“復興五輪”が、知らないうちに“コロナに打ち勝つ五輪”に変質した経緯も知りたい」、「色々な事が“無かったことに”されそう。強行は妥当ではなかったと思うし、数字は徹底的に明らかにして欲しい」、「総括は重要」など、前向きなご意見と同時に、「公式報告書なんてどれもそんなもの。読む人がどれだけいるのか、今後に活かされるかは謎。」という指摘もありました。いろんな問題が山積する今、今さらオリンピックの話なんて…という声も、思い出したくもないという声も聞きます。しかし、“史上初”の大会を総括する作業自体、“史上初”だと思います。だれかがIOC対して、注文をつけないと、議論は始まりません。

関連放送<東京2020を検証する③ IOCに対しての注文
山本浩(法政大学教授)出演(2021/09/23 NHKラジオ)>

  •  ● 例えば、こんな意見もあります。「SDGsを考えたら、アテネなどの永年開催も考えないと」。確かに以前から、ある議論であり、選択肢の1つです。ただ、我々が1964年東京大会から得た価値、2012年ロンドン大会で社会問題の解決に寄与できたと言われる事例のような、そこにある可能性を放棄してしまっていいのか、という議論もあります。今回、東京モデルとして「簡素化、効率化、透明性」を1つの選択肢として打ち出そうとしているのは、オリンピックと世界のスポーツ大会の違いを改めて考えるきっかけを提示してくれている、史上初の機会でもあるという提言もあります。

関連放送<東京2020を検証する① コロナ禍で見えた根本的な問題
山本浩(法政大学教授)出演(2021/09/09 NHKラジオ)>

  •  ● どこから議論すればいいのか。「数字は徹底的に明らかにして欲しい」、「透明性と言っても、公開時には、すべて黒塗りになるのは見えている…」という声もいただきました。今回、出演の中村先生に、以前、真の総額を問い続ける意味と、そのために、必要なことをご指摘いただいています。

前回放送<東京2020“真の総額”とは? 中村祐司 出演(2021/12/23 NHKラジオ)>

関連企画<五輪マネーは何を残すのか? NHK政治マガジン(2020/03/04)>

  •  ● そして、みなさんからも、札幌で招致に向けての動きに対しても、いろんな指摘をいただいています。
    「TOKYO2020の良い事も悪い事も検証して、残すべきところは残さないとやった意味がないし、(そのまま)札幌へ、というのはもっての他」とか、「あれだけ強行したから、今さら、都合の悪いことは出したくないだろうけど、これから札幌五輪を…と言っているのはどうか」という意見もありました。さらに、「オリンピックも同様だが、実質、過去の問題を解決しないまま、理想の未来を創造する、それは、同じ間違いを繰り返す」という厳しい指摘もいただきました。
  •  ● 今年3月、NHK札幌放送局が市民の意見を募集したところ、「開催経費」や「経済効果」などについての意見に加え、「東京大会を見ていると予算がきれいに収まるとは思えない」、「費用がなし崩しになるのを東京大会で目の当たりにした」など、「東京大会を踏まえて」議論することの必要性も寄せられました。
    それに対して、秋元市長は「東京大会でかかった経費を参考に、かなり具体的に積算できるようになっている」とした上で、IOC関係者とも「IOC自体もかなり招致段階と実際の経費が大幅に変わる形がないようにということで、対話を進めてきています」と、NHK札幌局のニュース番組の中で発言しました。その上で招致の最終判断に向けたプロセスは、「札幌だけでなく、道民の皆さんの意向を確認し、子どもたちの意見なども聞き、市議会、他の自治体などとも話をしていき、今後のプロセス、計画づくりにも反映させていきたい」と語っています。

関連ページ<再び聖火は灯るのか?札幌冬季オリンピック・パラリンピック招致
NHK政治マガジン(2022/03/16)>

  •  ● “未来へ継承すべき宿題”に我々はどう答えを出していけるのか、議論を継承できるのか。
    早ければ、4月に出される公式報告書の検証、そして、大会組織委員会が解散する6月までに、すべきことは確実にあるような気がしています。

【放送】
2022/03/28 三宅民夫のマイあさ! 深よみ。「“東京2020大会公式報告書”の概要を読む~正式文書化への注文~」中村祐司さん(宇都宮大学行政学教授)

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