『離れていても家族』品田知美・水無田気流・野田潤・高橋幸 共著

23/10/23まで

著者からの手紙

放送日:2023/09/24

#著者インタビュー#読書

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『離れていても家族』は、4人の社会学者が、日本人がイメージする家族像と現在の家族構成の違いを指摘しながら、新しい家族像のつくり方を提案する社会論です。共著者の品田知美(しなだ・ともみ)さんにお話をうかがいます。(聞き手・畠山智之キャスター)

【出演者】
品田:品田知美さん

「サザエさん」のような家族はもはや…

――この本は日本人の家族像について提言する本ですが、特に高齢者世代は、本の冒頭で指摘されているように、「家族」というと「ちびまる子ちゃん」や「サザエさん」のような三世代で食卓を囲むイメージを持つかもしれません。こうした家族観を変えていく必要があるということですよね。

品田:
現在の家族というのは多様化していまして、ひとりで住んでいる方が本当に多いし、ひとり親の方も多いし、共働きという方が増えていたりワンオペで育児されている方も多いんですよね。昔は家族の周りに親族の方とか近所の方もいたので、そういったお手伝いもないというのは大きく違う点じゃないかなと思います。そこをまず1回理解したほうが、私たち、次の家族を考えやすいんじゃないかなと思っています。

――今、日本の家族がどんな状況に置かれているのか、うかがっていきます。まず「時間の貧困」というキーワードが出てきます。男性の長時間労働によって父親不在の時間が長くて、日本は家族で過ごす時間が世界的に見ても短いそうです。父親がいない時間が長い状況というのは、家族にどんな影響を与えますか。

品田:
平日はほとんど不在というのが、日本の家族の実情だと思うんです。そうしますと、子どもにとってお父さんは遠い存在になっちゃっていて、将来自分が家族をつくるイメージを持つことはできるのかな、というあたりでしょうか。

――父親が不在だと、どういう家族をつくったらいいのかという像ができないということですか。

品田:
結局モデルがないわけだから、じゃあ自分はどうしよう……って、そういう感じですね。こういう話を私も授業でしますけれど、学生さんたちはやっぱり「いなかった」と言う人ばっかりなんですよ。だから自分が父になるというイメージがないし、お母さんになるイメージも、今の女性はみんなお仕事をしたいと思っていますから、だからイメージができない。みんな模索中で悩んでいるんじゃないでしょうか。

――働く女性は増えましたが、女性の家事・育児の負担は減っていないということですから、これも家族には大きな影響を与えますよね。

品田:
社会学ですと、いろいろな方のお話を聞くというかたちで調査をすることがあるんですけれども、今回はそういう方法でインタビューをさせていただきました。男性はずっと長時間働いていますので、さすがに家事・育児にはなかなか手が出せない状況なんですけど、そんなに皆さん、気にされていないという印象だったんです。だからやっぱり女性が常勤の職に就くというのができなくなって、それを避けるために、結婚しなかったり子どもを持つのはちょっとねとか、そういうかたちで逆に影響が出てしまうのかなと思います。自分がある程度、家事・育児と仕事を両立させてやっていくかたちで人生を楽しもうという人だけが、今、結婚しているのかなと、そういうふうに思いますね。

――そのあたりにつながるのかもしれませんが、「今は生まれ育った家族から離れて、自分から家族をつくろうとする人が減っている」という指摘が出てきます。これは婚姻数の減少が理由とされていますが、つまり、「結婚する人が減っている=家族の必要性を感じなくなっている人が増えている」ということなんでしょうか。

品田:
逆なんじゃないかな、という部分がありますね。ちゃんと家族をつくろうと思ったら今の状況ではつくれないというか、家族のことを大事と思う人は、もう50年ぐらいずっと増えているんですね。だから家族が大事と思えば思うほど結婚しないとか、ちゃんと子どもは教育してあげたいと思う人ほどお金がないから産めないとか、その辺かなと思うんです。

家族に見いだす価値。日英の比較から

――品田さんは「ひとりでも生きられるようになった現代社会でなお家族を形成するのは、家庭生活になんらかの価値が見いだされているからであろう」とも書いています。それはどんな価値だと言えるでしょうか。

品田:
お互いに気にかけ合うような関係、なんとなく精神的なつながりを持って、というところが、価値になっているんじゃないか。そこに日本人が持つ価値というのを、今回はイギリスと比較することで浮き彫りにしてみたわけなんです。イギリスと比べると、今までの日本の場合は、必要だからとか家を継がなきゃとか、そういうことを目的にしてつくってきた感じがするんです。だからそれがなくなっちゃうと何のためにつくるかがよくわからなくなってきたところに、そうじゃなくて、家族と一緒に過ごすことが価値なんじゃないかなと、思い始めている。

――思い始めている?

品田:
はい。そういう人もいるように感じます。

――この本の中で、気になった表現があったんです。家族になって夫婦になって、だんなさんと奥さん、愛してるかどうかっていうのが書いてあったんですけど……。

品田:
厳しいところを質問されますね(笑)。

――家族であれば、心のよりどころというかそういったものを当然求めるのかなと思ったら、実態とすれば、奥さんのほうがあまり愛情表現をしていないとか、そういうふうに書いてありましたよね。

品田:
うーん、そこが一番イギリスと違うところだなと本当に私も思ったんですけれど、あちらだと、夫のことを愛しているのは当たり前で、だから夫と2人で一緒に過ごしたいし、そういう時間がほしいと、ちゃんと言葉でストレートに出される方がいるんです。でも日本だと、夫婦のカップルとしての重要性というのはまだまだそんなになくて、逆にそれを大事にしようと思うと、お子さんを持たないとか、そういった選択になっているような気もするんです。
子どもができちゃうとどうしても親子関係が優先になって母と子の絆が強くなって、また社会全体がお母さんと子ども(の関係)を強めていく方向になっていますので、(お父さんは)疎外されていっちゃうというか、お父さん自身が一生懸命子どもとかかわろうと思っても実際家には帰れないし、母と子で仲良くやっていて、知らないうちにだんだん自分の家じゃないみたいになってくるとか、そうなったらイギリスの場合は完全に離婚しちゃうと思うんです。そういうのは家族じゃないと思われていますから。
でも日本の場合は、それでも別に大丈夫というふうに今までやってきているんですよね。でも最近は、ちょっとそれだとやっぱり老後が長いしねとか、それにみんなうすうす気づいてきて(笑)、そういう感じなのかなと思います。ですけれど、うまくそういう家族になっていない、というところかな。

日本に多い「離れていても家族」のよさ

――本のタイトルの「離れていても家族」に込めた思いは何でしょう。

品田:
日本の家族をひと言で言うなら、「離れていても家族」ということなんですよね。「離れていても家族」で大丈夫、というあたりは、日本の家族のとてもいいところだと思うんですよ。単身赴任なんかも目新しくないから、バラバラに暮らしていても、例えばだんなさんが遠くに行ってても、戻って来ればみんなで家族になれると思います。
いつも一緒にいなきゃいけないとなると、共働きのときに職業の場所を一緒にしなきゃとか、実際、アメリカの家族なんかは一生懸命同じ場所で仕事を探すということで大変だと思うんです。そういったところがない分、楽だったり、そういったところの自由度は確かに日本はあると思うんだけれども、そのよさを認めたうえで、でもやっぱり一緒に過ごさなきゃねというふうに考える人は考えてもらえばいいというようなかたちでしょうか。私の中で、はっきりこうしてほしいということは最後までなかったです。

――この本を書くために、いろいろなデータを集めていろいろなインタビューをして、品田さん自身の中でも改めて家族というものが見えてきたと思うんですけれど、どういったイメージですか。

品田:
この本を出版して1か月か2か月しかたっていないんですけど、その間に私、孫ができたり、親が介護状態になったりしたんです。そしたらまた私の家族像が揺らいでしまって、なかなか今、どうしたら幸せになれるんだろうと思ったりもしています。お互いにあまり強い呪縛を持つんじゃなくてゆるくつながって、お互いにできるところをしてあげるというのはあるんだけれども、家族だからしなければいけないと思うと、きつくなると思うんです。お互い人間としてリスペクトできる関係を続けられるなら家族でいることはできるなと思っているので、ただ本当にそれが残らなかったときには無理して家族でやらなくてもいいのかな、くらいのつもりなんです。

――『離れていても家族』の共著者、品田知美さんにお話をうかがいました。品田さん、ありがとうございました。

品田:
ありがとうございます。


【放送】
2023/09/24 「マイあさ!」

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