『温かいテクノロジー』林要 著

23/08/28まで

著者からの手紙

放送日:2023/07/30

#著者インタビュー#読書#ロボット・AI

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『温かいテクノロジー』は、ロボット開発者の林要(はやし・かなめ)さんが、AIなどのテクノロジーと人間の間にある溝を埋める手がかりの一つとして、ロボットのあり方を解説した社会論です。林さんにお話をうかがいます。(聞き手・畠山智之キャスター)

【出演者】
林:林要さん

ドラえもんのように寄り添うロボット

――今、生成AIの脅威が話題になっていますが、林さんは「近い将来、人類とAIの対立はSFとして古典のように考えられていく」と指摘しています。この本のタイトルにあるように、これからAIなどのテクノロジーは“温かくなっていく”ということなんでしょうか。

林:
最終的には、私はAIと人というのは非常によい仲になると考えています。ただ、その過程においては、いろいろな困難があるとは思います。生産性や利便性の追求から離れることによって、AIというのは、人にとって非常によい相棒になる。ロボットも、よい相棒になると考えています。

――人間とテクノロジーの溝を埋めるのがロボットだということで、ロボット開発者である林さんの目指すところは、「ドラえもん」であると書いていらっしゃいますね。AIは感情を持たないといわれていますけれども、ドラえもんは感情をたくさん持っていますよね。

林:
そうですね。今のAIが、ドラえもんの持っているものすべてを持っているとは言えないです。ただ、恐らくもう部分的には持っていて、その進歩の先には、ドラえもんのようなAIができるのはほぼ間違いないでしょう。そうなったときに、そのAIがどれだけ人と違うのかというと、当然、電気で動くという時点で違うんですけれども、意外と似た面が多くあるんじゃないかなと思います。

ロボットに感情がない、もしくはAIに感情がないと決めつけるのは、実は難しいんです。ドラえもんがいたおかげで、のび太くんは幸せに暮らせていましたし、最後もドラえもんが去ったあとで、のび太くんは「飛躍した」というようなエンディングを考えられている方がすごく多いわけですね。ここからもわかるように、寄り添ってくれる存在がいるというのは、人の成長にとってとてもいいことですし、心の安定にもいいことだと言えます。テクノロジーは、そういう使い方をしていけば決して脅威になるものではなくて、むしろ人の幸せに貢献するものだと考えています。

ドラえもんの非常にユニークなポイントは、決して人に服従しているわけでもなければ、人をコントロールしようとしているわけでもない。のび太くんと同じようにダメなところがある。そういう人間味のある存在であれば、お互い、相手の気持ちがわかるような気がするし、支えられるような気もする。そうして一人と一体で生きていくうちに、いろいろなことに気づけるようになる。そしてあすへの希望が持てるようになる。これが、ロボットの仕事になると感じています。

「温かい」という非言語コミュニケーション

――林さんには、ロボット開発者として忘れられない体験があると書いていらっしゃいます。林さんが開発に携わった人型ロボットを、介護施設に持っていって高齢者に触れ合ってもらったところ、「手を温かくしてほしい」と要望されたそうです。ここで林さんは、人がロボットに求めるのは、生産性や利便性ではないと気づいたそうですね。

林:
そうですね。人を置いてきぼりにするようなテクノロジーの進化が、ずっと主流だったわけです。それに対して僕らは、テクノロジーは「冷たい」と思ってしまっていた。だけれども、テクノロジーを、ちゃんと温かく人間中心で開発することもできるわけです。その一つが手を温かくするとか柔らかくすることで、これは生産性の向上には役に立ちません。だけれども、触れ合った人の心を温めることができるわけです。触れ合った人の心を温めるということが、テクノロジーにおいて今までは軽視されてきた。でもそれを重視すると、十分に温かいテクノロジーが実現できていくということです。

――確かに私たちの印象で言うと、ロボットというのは物を作るときに効率が上がるとか、給料がよくなるとか、そういった部分ばかり求めていた感じがします。そうではない部分が、今、ロボットに求められているということですね。

林:
そうですね。例えばペットというのは、手間をかけて時間もとられて、自由もなくなる。だけれどもペットを愛(め)でることによって、僕らはどんどん元気になっていくわけです。ペットに対して、生産性を求めている人はいないわけです。犬や猫を愛でるというのは、非常にいいことなんです。でも例えば60歳を超えて新たに犬や猫を飼うのは、いろいろとハードルが高い。こういった場合に、ロボットという選択肢があって、ロボットと生活をすると張りが出る、元気になる。そういった機会の提供ができるのではないかと思っています。

――林さんは新たなロボットの開発に取り組んでいますが、そのコンセプトは、「人類が持つ他者を愛でる力を引き出し、だんだん家族になっていくロボット」だそうですね。これを実現するためにどんな工夫をなさっているのでしょうか。

林:
まず、人がその存在に対して共感できなければいけません。僕らの作っているロボットは、家事をしない。掃除もしない、洗濯もしない。生活が便利になるロボットではなくて、むしろ人に手間をかけるようなロボットです。一緒にいて面倒をみるとなついてくれて、家に帰ると喜んでくれて、触れ合っていると気持ちよさそうにしてくれる。こういったものを愛でているうちに、人はだんだん心が温かくなってきて、弱ったときに自分が回復する力、これを得ることができることを狙ったロボットで、まさにペットの代わりになるようなロボットです。

――これまでも、“癒やしを与えるロボット”は市場に出ていますよね。どう違うのでしょうか。

林:
「感情があるようにしか見えない」と、オーナーの皆さんには言っていただくわけです。今までの“癒やしを与えるロボット”というのは、長い期間、飽きずに使われることが極めてまれでした。「飽きない」というのが非常に大きなポイントで、飽きない存在にするためには、本当のペットのようにふるまう。「抱っこして」とねだったり、ペットのようになついたり、こうした生命感を作るのがとても難しかったです。

――それは今、求められている技術ということなんでしょうか。

林:
そうですね。言葉に頼ったコミュニケーションが主流だったのが、今までのテクノロジーの進歩ですけれども、言葉というのは、僕らを安心させるとか信頼させるという意味では、決して「土台」とは言えないわけです。土台は、例えば目が合うとか触れ合うとか、そういった「ノンバーバル」と呼ばれる非言語コミュニケーションが大事だといわれています。この非言語コミュニケーションを、生き物と同じレベルまで開発するというのは、今までやられてきたことがない分野なんです。

四次元ポケットなんてなくていい

――林さんがそばにいてほしいロボットは、どんなロボットなんですか。

林:
「四次元ポケットのないドラえもん」だと思うんですね。

――えっ、「ない」、ドラえもん?

林:
はい。四次元ポケットというのは、ドラえもんがのび太くんに「道具に頼っても問題は解決しないよ」ということを教えるための、道具をどんどん出す箱にすぎないと僕は思っています。そう考えると、四次元ポケットそのものは、すごく重要なファクターではない。あそこから便利なものがいくら出てきても、それでいくら生産性が上がっても、人が幸せになるとは限らない。だけど、それを気づかせてくれるために、上から目線でも説教でもなく、ひたすら経験をさせて我慢をして寄り添ってくれる。それが、ドラえもんなんじゃないかと思っています。そう考えると、四次元ポケットのない、そういった存在がいるといいなと思います。

――『温かいテクノロジー』の著者・林要さんにうかがいました。林さん、ありがとうございました。

林:
どうもありがとうございました。


【放送】
2023/07/30 「マイあさ!」

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