増え続ける救急出動件数 救急隊の課題を考える

けさの“聞きたい”

放送日:2024/04/26

#インタビュー

全国で救急車が出動する件数が増え続けています。総務省消防庁がまとめた去年(令和5年)の救急車の出動件数は速報値でおよそ764万件となり、過去最多を更新しました。
救急の現場では「このままでは重症者や重篤な人を搬送できなくなるのでは?」と危惧されています。救急隊が直面している課題について、総務省消防庁の救急企画室長・高野一樹さんに聞きました。(聞き手・田中逸人キャスター)

【出演者】
高野:高野一樹さん(総務省消防庁 救急企画室長)

1年間に国民の20人に1人

――先日、消防庁が公表した去年(令和5年)の全国の救急車の出動件数の速報値によると、「救急車の出動件数」や「搬送した人数」がともに過去最多を更新しました。具体的にはどういう状況なんでしょうか?

高野一樹さん

高野:
はい。救急出動件数は前年に比べて5.6%増の約764万件、搬送した方の数は前年に比べて6.8%増の約664万人となり、どちらも過去最高を更新しています。
実感していただくために言いますと「年間660万人」というのは、日本の人口から計算すると「1年間に国民の20人に1人が救急搬送された」ことになります。

救急車による救急出動件数と搬送人員の推移

推移を見ますと、コロナ禍で外出が控えられた2020年・2021年を除き、統計を取り始めてから増加の一途をたどっています。

救急車を呼ぶ人が増える背景

――119番通報してくる人の中には「えっ、そんなことで救急車を呼ぶの?」という事例も増えていると聞きますが、実際どうなんでしょう?

高野:
最近では報道でも取り上げられるようになりましたが、「ヘビ!」という通報だったので、かまれたのかと思ったら、「公園にいるヘビをどうにかしてほしい」という通報内容だったそうです。

また、救急搬送されている最中、緊急時なのに救急車内でスマホで自撮りをしてSNSにアップする傷病者もいるという事例もあるようです。これは救急隊員からすれば疑問を抱くケースだと思います。

現場の救急隊員の声を聞いてみると、入院に必要な荷物をばっちり準備して玄関前で手を振って待っていたという方や「鍋の火を消し忘れた気がするので見てきてほしい」と通報してくる人など、そういった方が実際いるのも事実です。

――救急車を呼ぶ人の中には何度も119番通報する方がいらっしゃるとも聞きますが、救急車の出動件数がこれだけ増えている要因は、そうした一部の通報だけではないですよね?

高野:
要因はさまざまあると思います。ただ、構造的な問題としてはやはり高齢化の進展が挙げられると思います。年齢別にみれば、高齢になると、どうしても救急車を利用することが多くなります。高齢者が増えれば救急出動件数も増えるので、今後も高齢化が進んで救急車の出動がますます増えていくことが予想されています。

また、夏場には熱中症患者の搬送が増えますが、近年の猛暑で搬送される人が増えています。冬場には心臓疾患関係の搬送が増えますし、今回のように新型コロナウイルスが流行すると感染症患者の搬送も増加します。救急隊はこうした季節的な要因や突発的な要因による増加にも対応していかなければなりません。

重篤な人を搬送できなくなる

――これだけ出動件数が増えていることを、救急企画室にいる高野さんはどう感じていますか?

高野:
救急企画室は20年ほど前に消防庁に設けられた組織ですが、実は私、救急企画室が設置された時にも在籍していました。当時は2004年中の救急出動件数が初めて500万件を突破したという年で、もうそれこそ“てんやわんや”な状況でした。
その当時からさまざまな対策を実施してきましたが、出動件数は右肩上がりに増え続け、この20年でさらに1.5倍以上になっています。それで救急現場では「このままだと重症者や重篤な人を搬送できなくなる」と危惧されるまでになっています。
もちろん救急隊も毎年のように増隊してきていますが、人的・財政的な面もあり、無限に増やせるわけではありません。

救急車ではたどりつけないところへ、急な階段をのぼっていく隊員

――救急現場に関わる救急隊の皆さんは、搬送者が増え続けていく状況をどのように見ているのでしょう?

高野:
救急隊をいくらでも増やせればいいんですけれども、そうもいかない中で、救急事案の多い消防本部では24時間勤務の中で10回以上出動することもあります。
救急隊員は、人命救助を最優先に、高い使命感を持って一生懸命活動しています。通報があれば、仮眠をとるための夜中の待機時間であっても、全く休まずに出動しているという状況もあります。
ですからさきほどのケースのように「本当に救急出動が必要なのか?」と思わざるを得ないような事案に当たると、正直「いったい何のために救急搬送しているのか?」と感じることもあるでしょうし、「真に救急搬送を必要とし、一刻を争う事態の人への対応が遅れてしまったらどうするのか?」と不安になることもあると思います。

それでもあんまりネガティブなことを言い過ぎて本当に必要な方が救急要請を躊躇(ちゅうちょ)するというようなことがあっては絶対にいけません。
救急隊員もそれをよく理解していますので、あまり文句を口に出さないと思います。だからこそ国民の皆さまにもこの救急現場の状況をよく知っていただいて、常識的な対応をお願いしたいと思います。

――では、消防庁や全国の消防本部ではこうした課題をどう捉えているんでしょうか?

高野:
さまざまな取り組みを行ってきたことで、これまで幸いなんとかパンクすることなく対応してきています。しかしながら救急出動件数の増加に伴い、「救急隊が現場に到着するまでの時間」も「病院に収容するまでの所要時間」もそれぞれ長くかかるようになってきています。
こうした状況を考えると、「どこかで本当は救える命が救えなかった…」ということが起こってしまっているかもしれません。そのゆえに、より充実した救急体制が必要だというふうに考えています。

病院に搬送されるまでの時間も長くなっている

そうした中、消防庁の対策は

――そうした認識のもとで、どのように対応しているんでしょうか?

高野:
まずは体制整備です。さきほども紹介しましたように救急隊の数は増加してきています。
これに加えて、救急出動が多い日中のみ活動する「デイタイム救急隊」を新たに設けている消防本部もあり、子育てなどで夜勤は難しいなどといった事情のある救急隊員が活躍できる場としても期待されています。

また一部の消防本部では、心臓が止まっているとか息をしていないという心肺機能停止など、緊急度の高い傷病者に確実に対応するために、専用の救急隊を別に設置しているところもあります。

――やはり緊急性の乏しい要請は課題となりますが、どういう対策をしていますか?

高野:
はい。救急要請が増加する中で、不要不急のものを少しでも減らすために「#7119」の活用を進めています。

相談ダイヤル「#7119」

これは「救急車を呼んだほうがいいのかどうか?」迷った時に看護師さんなどに電話で聞ける相談ダイヤルです。症状を伝えて「119番通報して救急車を呼ぶべきなのかどうか?」の判断や、呼ばない場合でも対処法などを相談することができます。
すでに人口ベースで全国の6割以上の地域をカバーしていて、今後も「#7119」の活用エリアを広げていく予定です。

詳しくはこちら(※NHKサイトを離れます)

――今後に向けて、そのほかにはどんな対策をしていくのでしょう?

高野:
「#7119」の全国展開を進めながら、やはり国民の皆さまに救急車の適正利用についてご理解いただけるように訴え続けていきたいと考えています。また、救急隊員の事務的な負担をできるかぎり軽減するための救急業務のデジタル化や、職務環境の向上にも積極的に取り組んでいきます。

さらに新しい取り組みとして「マイナ救急」の全国導入を進めていきたいと考えています。
いま、マイナンバーカードの取得や、保険証としての活用が進んでいます。救急業務で「マイナ保険証」を活用して、通院している病院や飲んでいる薬、健康診断の結果などの情報を救急隊員が速やかに把握できれば、病院までの搬送時間を短縮できますし、適切な応急措置も行えます。5月から全国的な実証実験を開始するとともに、必要なシステム開発を進めて早期に全国に広めていく予定です。

救急車内での処置

番組リスナーの声

――お聞きの皆さんからも、このような声をいただいています。

京都府 東山のたまにゃんさん
救急車を呼んでも、高熱があると受け入れてもらえず、自宅付近で待機。救急隊員の方には必死で対処していただき、9件目でやっと受け入れ先が決まったのは2時間後でした。

――救急隊員は到着しているんだけれども、受け入れ先がなかなか決まらないこともありますね?

高野:
あります。救急隊はやっぱり最終的には病院まで運ばなければなりません。どうしても病院のほうの受け入れの協力が必要になってきますので、そういった医療機関との連携も強めていきたいというふうに考えています。

快眠グースカさん
救急車をタダで病院まで運んでくれるタクシーと考える人が増えてきた、ということではないでしょうか?  適切な利用方法を啓発しないといけないのかもしれません。

――「#7119」についてお話しいただきましたが、私たち一人一人も身近な人へ「そういう通報はだめだよ」ということを含めて利用方法を伝えていく必要があると感じました。
総務省消防庁の救急企画室長、高野一樹さんに聞きました。どうもありがとうございました。


【放送】
2024/04/26 「マイあさ!」

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