“水が飲めない子ども”が増えている

23/10/23まで

けさの“聞きたい”

放送日:2023/10/16

#インタビュー

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きょうは、子どもたちをめぐる、ちょっと気になる状況をとりあげます。それは「水が飲めない子どもたちが増えている」というものです。
水に関する問題を調査し情報発信を行っている橋本淳司さんにうかがいます。(聞き手:野村正育キャスター)

【出演者】
橋本:橋本淳司さん(武蔵野大学客員教授、東京財団政策研究所研究主幹)

味のない水が飲めない

――「水が飲めない子どもが増えている」ということですが、私が初めてこのことを聞いた時に、「えっ?」と思いまして、例えば、どこか遠くの国で飲料水が足りない状況なのかと思ったらそうではなくて、水はあるのに飲めない子どもたちが日本で増えている、ということだそうですね?

橋本:
今年は猛暑が続いて、メディアではこまめな水分補給が呼びかけられていましたが、小学校では水を飲めない子が一定数いるようです。都内のある小学校の学級通信に次のような記述があり、私はショックを受けました。
『1学期に熱中症疑いで保健室を利用した児童の様子を見ていると、「水を飲めない」児童が目につくという観察結果があります。自分の判断で水を飲もうとしないこともありますが、症状が出ている子にコップにくんだ水を渡して飲むようにうながしても、唇をぬらす程度しか飲まず、コップの水が減っていきません。』というものです。学校では、「味のない水」や「冷えていない水」は飲み慣れていない様子だと考えています。
そこで、私が複数の幼稚園、小学校にヒアリングしたところ、水道水やミネラルウォーターなどの味のない水が飲めない、冷たくない水が飲めないという子どもたちは増加傾向ということでした。先生方は、熱中症予防だけではなくて、万が一、地震や豪雨などの災害時にも「味のない水」や「冷えていない水」を飲まなくてはならないので、何らかの対策が必要と考えています。

スポーツドリンクを常飲

――「味のない水」を飲み慣れていないというのは、どういう状況でしょうか?

橋本:
水を飲めない子どもたちのなかには、常にジュースやスポーツドリンクを飲んでいる、という子もいました。大阪市のある幼稚園の先生は、保護者から『うちの子は水が飲めないのでこれを飲ませてほしい』と、スポーツドリンクを渡されたと話してくれました。
学校側がスポーツドリンクを容認するケースもあります。背景として、文部科学省と環境省が2021年5月に「学校における熱中症対策ガイドライン作成の手引き」というものを出して、水分補給には『経口補水液やスポーツドリンクを利用するとよい』などと記しています。実際に兵庫県加古川市の中学校では、生徒の熱中症予防を目的にスポーツドリンクとかお茶などの自動販売機が設置されていて、運用が始まっているケースもあります。

――確かに、運動する子どもたちの熱中症対策としては、スポーツドリンクは効果があるという考え方はわかりますね。

橋本:
ただ賛否が分かれているケースもあります。埼玉県新座市の小中学校は、児童・生徒に水筒を持参させているんですけれど、そのうちの小学校8校と中学校6校は「水かお茶かスポーツドリンクを持参してよい」というルールで、残る小学校9校は「水かお茶というルールで、スポーツドリンクは禁止」にしています。ジュースやスポーツドリンクを楽しむのは悪いことではありませんが、禁止の理由として、飲み過ぎると糖分の取りすぎになるからと先生が話してくれました。
糖分は、容器に書かれた成分表示に「炭水化物」として記されていますが、100㎖当たり炭水化物が6gというスポーツドリンクを300㎖飲んだ場合、18gの糖分を摂取することになります。これはWHOが肥満防止のために定めた子どもの場合の1日の糖分摂取量の16gを超えています。

水分補給の大切さ

――それにしても、うまく水分が補給できないと、場合によっては命にかかわる危険を招きかねないですよね?

橋本:
そうです。人の体というのは6割が水分です。仮に体重50㎏の人がいた場合、およそ30㎏分、30ℓの水が体の中にあるということになります。
水は体を出入りします。普通に生活していても、尿や汗などで1日におよそ2.5ℓの水が出ていきますから、その分を補う必要があります。ご飯やみそ汁、野菜や肉などの食事のなかに含まれている水が1ℓ。「代謝水」といって、体のなかで栄養がエネルギーに変わるときにできる水がおよそ0.3ℓで、これで合計1.3ℓ。出ていく水がおよそ2.5ℓですから、あと1.2ℓ程度必要なので、こまめな水分補給をして、結果として1.2ℓの水を確保していくことになるわけです。
5%の水を失っただけで脱水症状とか熱中症が起こります。さきほどの体重50㎏の人の場合、体のなかに30ℓの水があるということになりますから、5%というのは、1.5ℓの水が失われると脱水症状や熱中症が起こることになります。

多様化する飲み水への意識

――水分補給に対する考え方が変化してきたというのは、子どもだけに限った問題ではありませんよね?

橋本:
飲み水についての意識や感覚は人によってかなり違いますし、近年ますます多様化してきています。
水道の普及率を考えてみますと、1950年ごろはおよそ26%です。そして、飲み水は、井戸水から水道水へ変わって、さらに90年代以降はペットボトルの水とか宅配水といったものが普及して、この70年間でずいぶんと変化しています。
また、災害による断水を経験した地域などでは、水を大切にしようという感覚が強い傾向があります。生きてきた時代とか場所によって、価値観がずいぶんと違っているんですね。
たとえば、私が教えている大学で学生たちに聞いてみると、「水道水を飲んだことがない」という人がいます。それは生まれた時からペットボトル水があって、“ペットボトルネイティブ”とでも言うんでしょうか、「水道水はまずい」と思い込んでいるというようなことなんです。一方で、環境への配慮から水筒に水道水を入れている学生も多数いるので、世代というだけではくくれないということだと思います。

――いまは家庭用の浄水器も普及していますからね。番組のスタッフの家でも、親世代は普通に水道の水を飲んでいるのに、子どもは必ず浄水器を通した水を飲んでいるという話もありました。
一方で近年は、自治体でも水道水がおいしくなっていますよ、とアピールしているところもありますよね?

橋本:
はい、実際にペットボトルに詰めて普及用に配っているケースもあります。日本の河川は、70年代、80年代には工業排水とか生活排水などの影響で汚れていました。下水道も普及していなかったので、水道水がくさいと言われていた時期だったんです。しかし、下水道が普及してくると水質が向上し、90年代以降は味が回復してきています。
ただ、依然として水道水に対して不信感を持っている方がいたり、持ち運びに便利だということで、ペットボトルの水の需要は増加傾向にあったりします。ミネラルウォーターの生産・輸入量はここ40年間でおよそ50倍になっているんです。「ミツカン水の文化センター」が3年前に行った調査を見ると、日常的に水道水を飲む人と日常的にペットボトル水を飲んでいる人は約半数ずついます。そして、ペットボトル水を飲んでいる人は、「今後、ペットボトル水を飲む人は増えていくだろう」と予想している。一方で、水道水を飲んでいる人は、「ペットボトル水の利用は増えない」と言っていて、水道水を飲む習慣を持つ人、ペットボトル水を飲む習慣を持つ人は二極化していると感じています。
また、水飲み場が減ったのもペットボトルの普及が一因だと思います。駅などには足で踏んで水が噴き上がるタイプの冷水機がありましたよね。コロナ禍では、感染防止を理由に利用停止となった冷水機もありました。
逆に、いま増えているのは、水筒に注ぐタイプの給水機です。公共施設のほか、企業やコンビニ、飲食店などが「給水スポット」というものを開設していて、アプリでその場所を検索することもできます。

水を飲む習慣を見つめ直そう

――給水機は私たちの職場にもありまして、私も先ほどペットボトルに水を追加してきたんですけど、結構、混んでいる時は数人の行列になったりするんですよね。
時代とともに、水分補給の仕方の選択肢が増えてきたんですね。

橋本:
近年は、気候変動の影響で夏場の熱中症が懸念されて、経口補水液やスポーツドリンクの利用も増えています。こうして見ると、インフラの普及、商品の登場、新型コロナ、気候変動などによっても、人の飲み水に関する価値観は変わってきているのだと思います。
ただ、ここでは何を飲むのがよいかというのを議論したいわけではなくて、災害など、いざというときに、一番身近にある水道水が飲めないと命に関わるということです。
水を飲めるようになるのは、家庭での生活習慣が大切です。子供は家庭内で親の行動をよく見ていて、家族が一緒に水を飲むということが大切です。保育園とか小学校のなかには、宿泊行事などで水を飲めるように練習をしているところもありまして、日頃からスポーツドリンクしか飲んでいない子がいて、その親たちは水が飲めるかなと心配していたんですけれど、みんなで水を飲んでみると、帰るころにはその子も水を飲めるようになっていた、と先生が話してくれました。「水を飲む習慣は変えることができる」ということなんです。
健康にとって水はとても大事ですから、あらためて水を飲むことについて考えていただければと思います。


【放送】
2023/10/16 「マイあさ!」

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