関東大震災から100年。首都直下地震が起きたらどうなるのか? いま改めて防災への備えが課題となっていますが、身近な地域の防災を担う消防団員は年々減り続けていて歯止めがかかりません。その背景や団員確保の取り組みを、災害対策のコンサルティング会社などで自治体の防災計画づくりにも携わり、現在は東京都の荒川消防団第1分団長を務めている杉本洋平さんに聞きました。(聞き手・野村正育キャスター)
【出演者】
杉本:杉本洋平さん(東京都荒川消防団 第1分団長)
関東大震災から100年。首都直下地震が起きたらどうなるのか? いま改めて防災への備えが課題となっていますが、身近な地域の防災を担う消防団員は年々減り続けていて歯止めがかかりません。その背景や団員確保の取り組みを、災害対策のコンサルティング会社などで自治体の防災計画づくりにも携わり、現在は東京都の荒川消防団第1分団長を務めている杉本洋平さんに聞きました。(聞き手・野村正育キャスター)
【出演者】
杉本:杉本洋平さん(東京都荒川消防団 第1分団長)
――まず「消防」という名前がつくものには、いわゆる「消防職員(消防士)」と「消防団員」があります。両者の違いを改めて教えてください。
杉本洋平さん
杉本:
「消防職員」は、市町村の職員と同じ常勤の一般職地方公務員で、消防や救急、救助などを専業とする自治体職員です。各消防本部の実施する職員採用試験に合格して採用された後、各消防学校で一定の教育訓練を受けて消防本部や消防署などに配属され、交代制の勤務に従事しています。
一方、「消防団員」は会社員や自営業、主婦、学生といった仕事や学業を持ちながら、火災や災害が起きると自宅や職場から現場に駆けつけて、消火活動や救助、交通整理や避難誘導などの活動に従事しています。非常勤の特別職地方公務員で、報酬や手当を一定程度支給されますか、活動は非常にボランティア的です。
――消防団は、火災や水害、行方不明者の捜索など、いざという時に地域の人々を守ってくれる身近な存在ですが、総務省消防庁によると、かつて200万人を超えていた団員数が、去年4月時点で78万人余りに減っていて、課題の消防団離れに歯止めがかかりません。その原因や背景は何ですか?
杉本:
まず大きな背景の1つが、日本の人口減少です。戦後、地方から都市部への人口集中と少子高齢化が進んだ結果、地方に行くほど10代や20代の若手が少ない状況です。
また、職業人口に占めるサラリーマン人口の増大も大きな理由です。消防団員の中で自営業者の割合が減って、現在はサラリーマンの団員が全体の7割を占めています。消防団活動の継続には勤務先のご理解が不可欠な状況となっています。
地域社会を取り巻く環境の変化もあります。核家族化の進展や転勤族の増加によって、町会や自治会、消防団など、地域社会に対する帰属意識・参加意識というものが希薄化しています。
これまで年間1万人ペースで減っていった消防団員の減少スピードは、近年さらに加速し、ついに全国の団員数が80万人を下回る状況になりました。その結果、消防団員の担い手は全国で中高年に偏り、若手が少なくなる“逆ピラミッド型”の年齢構成になっています。
それで団員確保に悩む消防団の中には、しかたなく定年を延長したり、定年制そのものを見直す動きも出てきたりしています。
私は20歳だった大学生の時に消防団に入り、43歳で分団長に就任しました。分団長という立場では若手の部類に入りますけれども、隊員の皆さんとともに地域の慣習を守りながら、時代の変化に合わせた運営や活動を心がけていきたいと考えています。
――消防団員を務めている皆さんは、使命感ややりがいを持ちつつも、いろんなご苦労もあるそうですね?
杉本:
毎年開催されるポンプ操法大会というものがその代表例の1つです。
消防操法大会
いわゆる団体戦で消防技術の競技を行う行事で、1日2時間程度の訓練を1か月から2か月、あるいはそれ以上行うのが一般的とされています。こうした状況に対し、私たちの消防分団では出場選手が自ら練習日程を組んでおり、急な欠席には代理の要員をたてたり、練習自体をキャンセルしたりするなど柔軟に対応して、仕事や生活と両立しやすい環境づくりに努めているところです。
実際に火災や水害があると出動要請がかかってくるため、それも苦労といえば苦労といえるかもしれません。仕事中や通勤通学時はどうしても出られない場面もあり、そのような時には出られる人間が出動することで対応しています。また、大規模災害に際してもまずは団員自身の身の安全を図り、家族や自宅の安全を確認してから参集することが基本になっています。
それから、ポンプ操法大会に向けて一般道路を使用する訓練などでは住民の方々にお騒がせする部分もあるかもしれません。道路使用許可の取得はもちろんですが、ご迷惑にならない時間帯を選んで訓練したり、事前に付近の方々にご挨拶やご説明をしたりして、ご理解を得てから行っております。
それでも最近は消防団の存在をご存じない方も一定数いらっしゃいます。現在、消防団をテーマにした小説やドラマが民放で放送されておりますけれども、それらを追い風にしながら今後も消防団活動の理解促進を図っていきたいと考えています。
――必要な消防団員がなかなか確保できない中で、たとえば国や自治体などではどのように対応しているのでしょう? どんな取り組みがあるんですか?
杉本:
10年前(2013年)になりますが、消防団を中核とした地域防災力の充実強化に関する法律が制定されました。文字どおり消防団を地域防災力の中核として位置づけるとともに、充実強化していくことが法的に明記されたわけです。
同じ年には「機能別消防団員制度」というものが創設されました。これは特定のスキルや専門性を持つ人々が自分の特技を生かして消防団活動の一部に参加できる制度です。通常の消防団活動に参加できない方についても、部分的に参加してもらう道が開かれたものといえます。
このほか、企業の自衛消防隊などが消防団の事業所分団として位置づけることも可能になりました。人口減少時代のいま、人材のシェアリングの観点からも有効といえます。
――いわばパートタイム的な参加の仕方かと思いますが、具体的にはどんな例がありますか?
杉本:
愛媛県の松山市消防団では、郵便局員の方を郵政消防団員として任命し、災害時に配達作業のノウハウを生かして災害情報の収集や避難誘導などに従事する活動を展開されています。全国的にも同様の例が増えています。
また、大学生が大学内でつくる学生分団では、語学力を生かして災害時に外国人をサポートする取り組みが行われています。秋田県大館市にある秋田看護福祉大学は、学生分団の皆さんが応急手当や避難誘導、応急救護所の開設に協力するなどの取り組みも広がっています。
9年前(2014年)には「学生消防団活動認証制度」というものが創設されました。これは大学生や専門学校生など、学生の皆さんが在学中、消防団に入団し一定の活動に従事することで、就職活動の推薦状にあたる「認証状」を受けることが可能になります。
このほかにも6年前(2017年)には「消防団協力事業所表示制度」が創設されています。これは消防団の消防団員を採用する企業を、一定の要件に基づき消防団協力事業所として認定するというものです。企業として災害対応力を持った人材を採用したり消防団に協力したりすることで、企業の社会的責任をPRすることができます。さらに、自治体によっては消防団協力事業所に税制優遇する例も見られます。
応急救護訓練
舟艇訓練
――確かに必要な消防団員を確保できないと、いざというときに人手が足りずに初動対応にも時間がかかってしまいますよね。こうしたさまざまな施策で消防団員の不足は解消に向かうのでしょうか?
杉本:
その点については現在、消防団員の減少に反比例するように消防職員の採用数が伸びています。
しかし、そもそも消防行政は通常の火災・救急に対応するのが役割なので、大規模な災害に対応するためにはどうしても消防職員の力だけでは足りないという状況があります。また、消防行政にのみ依存することは財政負担の面からも限界があります。やはり地域に精通し、奉仕の精神で活動する消防団の存在が不可欠とは言えます。
――消防団の皆さん、地元に根ざしていて、あの家には1人暮らしのおばあちゃんがいるとか、そういうことがわかって細やかな活動ができますものね?
杉本:
それが消防団の長所ですが、消防団員の減少は長年の課題であり、そう簡単に状況は変わりません。昔から役場職員の消防団入団などは推進されておりますが、今後さらに機能別消防団員制度を活かして消防団と企業の消防隊で人材のシェアリングをしたり、郵政消防団員や学生消防団員など、部分的に参加する選択肢を広げたりする工夫もますます必要になります。そのためにも消防団の連携先となる地域の団体や企業の理解が団員獲得の鍵になるといえます。
現在、総務省消防庁や日本消防協会のホームページには全国の消防団の活動事例を紹介するサイトがあります。消防団も市町村により制度や抱えている事情が異なりますが、自分たちの消防団に合う事例があれば、ぜひ参考にしていただければと思います。また、日本消防協会のホームページには、自分たちの消防団をPRページに登録できるコーナーもありますので、登録して広報活動に利用して、自分たちの創意工夫を他の消防団にご紹介いただければと思います。
消防団が独自に作成した「防災紙芝居」を子どもたちに
――消防団活動について、若い人たちや今後の社会に期待するのはどんなことでしょうか?
杉本:
近年は社会全体で働き方改革や地域創生の取り組みも進んでいます。リモートワークの定着や地方移住の動きも広がっており、こうした社会の変化をチャンスとして捉えていく必要があると思います。住民の皆さんも、消防団の存在が自分の町や家族の安全に直結するという視点から、入団をご検討いただいたり、応援したりしていただければありがたいと思っています。
――杉本さんが消防団員をやってよかったなと思えるのはどういう時ですか?
杉本:
はい。地域のお祭りなどで警戒にあたることがあります。そのとき町内会の方や参加者の方から「ありがとう、助かったよ」と一言いただくと、とてもやりがいを感じることができ、やはり地域に密着しているからこそ味わえるだいご味なのではないかなと考えています。
――SNSでさまざまな声をいただきました。一部ご紹介します。
【名無しの権兵衛】さん
「職場の人間付き合いでもまれているところ、また消防団の目的外の付き合いを要求されるのは、今の若い人にも負担でしょう。必要以外の付き合いを消防団が要求しない、配慮が必要です。」
杉本:
ああー、厳しいご意見ですね。どうしても集団行動になりますので、協調性とか、あるいはお互い身の安全を預け合うような信頼関係を作る上で必要とされてきた部分もあるんじゃないかなとは思います。
ただ、私も率直に言って苦手でして、得意ではないんですが、やはりそこは時代の変化あるいは人の変化で徐々に変わっていくということに向き合ったり考えたりしていくことも、それぞれの地域で課題が異なりますので、地域ごとに考えていくことが大切じゃないかなあと思っています。
――消防団に新しく入った人から「こうしませんか?」っていう提案もあるかもしれませんね?
杉本:
そうですね。私たちはそういったところは柔軟に対応していきたいなと思っておりますけれども。
【三河みどり】さん
「消防団の存在、活躍は大きいです。町内で防災訓練があった時に、消防団の活動は大きかったです。ダイビングができる私は、水難救助の手助けができればと思っています。」
杉本:
そういった特殊技能のある方は、ぜひ「機能別消防団員制度」がお近くの消防団にあれば、活用いただければと思っています。
【放送】
2023/08/22 「マイあさ!」
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