国家公務員の志願者減少 “危機的状況”をどう改革するか?

23/06/20まで

けさの“聞きたい”

放送日:2023/06/13

#インタビュー

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人事院によると、ことしの国家公務員「総合職」いわゆるキャリア官僚の採用試験の申込者は、前の年度より6.2%減少して、今の試験体系になってから2番目に少なくなりました。また、5月に発表された「一般職」の申込者は過去最少となりました。
なぜ若い人たちが国家公務員を目指さなくなっているのか? 課題と改革案を、国家公務員の人事制度の責任者である人事院総裁の河本裕子さんに聞きました。(聞き手・野村正育キャスター)

【出演者】
川本:川本裕子さん(人事院総裁)

国家公務員志願者が減る背景

――国家公務員「総合職」いわゆるキャリア官僚の申込者は10年前と比べておよそ3分の2になっています。また、一般職の申込者は過去最少になりました。この状況をどう見ていますか?

川本:
まさに“危機的状況”と言えます。公務というのは日本の国を運営し、国民・市民の皆様に行政サービスをお届けするという仕事ですけれども、この仕事に興味関心が向かない、なり手が少なくなるということは、国力の維持や、水準の高い行政サービスの維持が難しくなることにつながっていってしまう。そういう点からも行政に携わる人材の確保は国家的な課題だと思います。

民間企業や地方公共団体との人材獲得競争がますます熾烈(しれつ)になっている中、企業などではさまざまな取り組みをされてきた一方で、国家公務員の人材の確保の対応が遅れたことは確かだと思うんですね。競合する組織に負けないように、やりがいを持って働いてもらえるような魅力ある職場環境の実現に向けていっそう取り組んでいきたいと思っています。

――若い人たちはどうして国家公務員を受験しないのか? 最近の優秀な学生は官僚よりも外資系のコンサルティング会社などを志望するという話を聞きます。川本さんご自身、かつて外資系の企業で働いて、人事院総裁になる前は早稲田大学で教鞭(きょうべん)をとられていました。
学生の就職に対する考え方の変化を、身近に感じているのではないでしょうか?

川本:
そうですね。社会全体で、たとえば共働きの世帯が当たり前になるなど個々人の生活のあり方は変化し、多様化している。それで若い人たちの中ではやっぱり仕事だけではなくて、仕事以外の活動、たとえば地域への貢献とか学び直しなど、プライベートな面も重視する傾向があると思っています。仕事も仕事以外もいかに充実させることができるのかがポイントで、そのためにもやっぱり長時間労働の是正や働き方のフレキシビリティー(柔軟性)というのはすごく重要だと思っています。

一方で、学生の皆さんは仕事に対してやりがいや社会的な意義を重視している傾向があるので、その意味で国家公務員はとても魅力的な選択肢であると思っていますが、やっぱり公務の仕事のやりがいがうまく伝えられなかったというふうに思いますので、より積極的に丁寧に説明していく必要があると思っています。

人材マネジメント是正が急務

――これから官僚になろうという人たちだけではなくて、若手官僚の中で霞が関を去って民間企業へ転職する人も増えていますよね。2020年度の調べでは、キャリア官僚の中で10年未満で離職した人は109人。こうした動向も学生の進路決定に影響を及ぼしていると思うんですが、その原因や背景は何でしょうか?

川本:
さまざまな要因が考えられますが、1つは、特に霞が関で働く国家公務員に長時間労働が見られることは事実です。また、若い方々を中心に仕事のやりがい、自分自身の成長を実感できないということも、国家公務員を辞める背景になっています。これまで公務においては人事の運営上、職員1人1人に対するきめ細かい人材マネジメントを実現できなかったことは事実で、やはり個々の職員のキャリア形成に関すること、職員の育成とか仕事に対するフィードバックをきちんと行うことに時間がかけられていなかったということなので、ここを是正していくことが急務だと思っています。

どんな仕事でも楽な仕事というのはないわけで、どこかの場面で困難に直面することはあるものだと思うんですね。で、特に昨今は、国家公務員の働き方のマイナスの側面がやや強調され過ぎていることがある。他方で国家公務員以外の業界の華々しさが目立っているようなところもありますので、やっぱりプラス・マイナス双方の側面を見ていただきたいなあと思っています。

そのために私たちも「働き方」とか「働きぶり」とか「やりがい」とか、そういうものを皆さんに分かるように発信していく必要があります。最近は、たとえば企業はミッション(使命)とかビジョンとかパーパス(目的)を明確にされていて、それをもとにご自身でも仕事の意義を感じたり就職活動している方々がミッションとかビジョンに共感して、その企業に入りたいと思ったりすることが見られるわけですね。ですので、公務組織もミッションやビジョンをしっかり言葉で示していくことが必要かなと思っています。

人事院が打ち出す改革案

――最近では「なり手不足」と言われる国家公務員ですが、志望してもらうために人事院としてもさまざまな改革案を打ち出しています。どう変えていくのでしょうか?

川本:
はい。多様な人材、有為な人材を継続的に確保して計画的な育成を行うとともに、職員1人1人がやりがいを持って職務を遂行できる、能力を発揮できる職場環境を整える必要があるということが大前提だと思います。

まず、新卒採用については、より多くの学生の方たちに受験していただけるように採用試験改革を進めています。具体的には競合する民間企業の就職活動時期なども考慮して実施時期の見直しを行ったり、毎年秋に行われる法律や経済などの専門試験を課さない「総合職」試験の区分の受験可能年齢を引き下げて、大学2年生から受けられたりするようにしました。
それから、来年2024年度の試験からは、「総合職」試験に文学や哲学といった人文系の人文科学専攻者が受験しやすい試験の区分を新たに設ける。あるいは試験の問題数を削減することも予定しています。
あと、試験に合格したときの有効期限を5年~6年半ぐらいまで延ばす。今は3年なんですけれども、これを延ばすことも考えております。

――先週(6月8日)に合格者が発表された「総合職」では女性が3分の1になったり、デジタル関係の人材が2000人超に増えたりするなど、変化の兆しも見えますね?

川本:
そうですね。採用試験の申込者は減少しているんですけども、女性の申込者の割合は増加傾向にあります。試験を経て実際に今年春に採用された職員全体で女性の割合は38.7%となり、過去最高なんですね。
組織におけるダイバーシティーの観点でも、これはいい傾向だと思っています。それと同時に、公務と民間との間の人材の流動性を高めて民間の知見を積極的に取り入れていくことは重要ですので、経験者採用についてもより増やしていく工夫をすべきと思っています。これまでも高度な専門性を有するデジタル人材の採用を円滑化したりしてきましたが、中途採用はこれまであまり多くはなかった。より民間の方たちに来ていただきやすくなるように柔軟な給与決定を支援するとか、各府省において民間との人材交流が円滑に行われるようにするとか、人事院として支援をしています。

「週休3日」の選択肢も

――働き方改革を進められていますが、「週休3日」といった表現もありました。これはどうなんでしょうか?

川本:
週休3日については「毎週1週間のうち、3日お休みになります」というものではありません。勤務時間そのものを減らすのではなくて、勤務時間の総量は維持し、その上でフレックスタイム制を活用することによって日によって1日の勤務時間数を調整する。たとえば「火曜日は遅くまで仕事をするけれども、その分、水曜日は短くする」というイメージです。その結果、「平日にもう1日仕事をしない日を設定できる」というもので、このようなフレックスタイム制をかなり柔軟に使えるようにする検討を行っています。
これまでも育児とか介護を行っている職員はこのような柔軟なフレックスタイム制を選択できていたんですが、今後は育児や介護を行っている職員以外にも対象者を拡大しようということなんですね。職員それぞれの事情やライフスタイルに応じて勤務時間やお休みを設定するニーズは高まっていると思っていまして、このような柔軟なフレックスタイム制が選択できるようになれば、公務職場の魅力を高めるのではないかなと思っています。

そのほか、働き方改革という点ではテレワークをさらに推進していったり、勤務間のインターバル、つまり仕事が終わった時点から次の仕事のスタートまでの時間をしっかり確保したりすることについても検討しています。

――若い人たちが職場を離れないよう、きめ細かい人材マネジメントをしていく必要性がありますが、どういう対応をお考えですか?

川本:
若い方たちの価値観や就業意識の変化・多様化に応じたきめ細かい人材マネジメントが必要で、そうした人材マネジメントを担う体制を強くしていく必要があるんですが、リソースには限界もあります。したがって個々の職員への配慮と効率性を両立させた人材マネジメントを行うために、人事管理におけるデータやデジタルの活用も有効と考えていて、先週(6月9日)に公表した『公務員白書』でもお示ししています。今後取り上げられるものから挑戦していきたいというふうに思っています。

社会全体への相乗効果を期待

――そうした働き方改革は、国家公務員だけでなく、地方公務員や民間企業などにも影響しそうですね?

川本:
そうですね。公務においても民間企業においても人材獲得競争が激しくなる中で、働きやすい環境の整備がとても重要です。それは公務だけが特殊なのではなく、どの業界でも働き方改革や業務改善は共通の課題だと思います。また、先ほどのお話にあったとおり、労働市場の人材の流動性はこれからますます上昇していくと思いますし、それが日本の成長につながっていくことかなというふうに思われます。こうやって公務・民間企業がともに改善方策に取り組んでいくことによって、働く社会全体にシナジー効果が生まれるといいなと思っています。

――最後に今後の課題は何でしょうか?

川本:
はい、申し上げてきた採用試験改革とか勤務環境に関する改革も含めて、これをやれば解決するという決定打があるわけではありません。すぐに結果が出るものではありませんが、処遇を含めたさまざまな改革を進めることで公務のパフォーマンスや魅力の向上につなげ、そうすることによって有為な人材を公務に引き付ける好循環を生むことができるのかなと思っています。

世界最高水準の行政サービスを国民の皆様にお届けするためにも、行政を支える公務組織が活力ある組織であり続けるよう、引き続き取り組みを進めていきたいと思っています。


【放送】
2023/06/13 「マイあさ!」

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