4月9日と23日に投開票が行われた統一地方選挙。地方は多くの自治体が人口減少などさまざまな課題を抱えていますが、「投票率の低落傾向」に歯止めがかかりません。「議員のなり手不足」や「無投票当選」も目立ち、私たちの暮らしに直結する身近な政治は正念場を迎えています。地方自治の今後の課題を、田村 秀さんに聞きました。(聞き手・野村正育キャスター)
【出演者】
田村:田村 秀さん(長野県立大学教授)
4月9日と23日に投開票が行われた統一地方選挙。地方は多くの自治体が人口減少などさまざまな課題を抱えていますが、「投票率の低落傾向」に歯止めがかかりません。「議員のなり手不足」や「無投票当選」も目立ち、私たちの暮らしに直結する身近な政治は正念場を迎えています。地方自治の今後の課題を、田村 秀さんに聞きました。(聞き手・野村正育キャスター)
【出演者】
田村:田村 秀さん(長野県立大学教授)
――今回の統一地方選挙の投票率は、▽9つの道府県の知事選挙が46.78%、▽41の道府県の議会議員選挙は41.85%でともに過去最低でした。さらに▽88の市長選挙のうち、ほかに立候補者がなく無投票で当選者が決まった割合は3割近く。▽125の町村長選挙もおよそ6割が無投票で当選が決まりました。こうした結果をどうご覧になっていますか?
田村: | 日本の社会が成熟化する中で、必ずしも大きな争点がなかったり現職が強かったりすると、やっぱり立候補者は減ってくる。あるいは議員の選挙でも候補者が定数をわずかに上回るくらいだと、「選挙をしても結果は決まっているじゃないか」とか「投票しても地元の政治は変えられない」と感じて有権者の関心は下がってしまう。その結果、投票率が低くなったのではないかなと考えます。 また、地域経済が非常に縮んでいく中で、議会の活動がなかなか伝わっていないこともやはり関心の低下につながったのかなと思いますね。 かつて1960年代から70年代にかけては公害問題など地域に関係がある政策論争が非常に活発に行われました。そのころは地方の政治もダイナミックに動きましたが、現在はウクライナ情勢やそれに伴う物価高騰がある意味グローバルなテーマで、なかなか地方では扱えないし変えられないので、選挙の争点になりにくいんですね。コロナ禍などの影響もあったと思いますが、一段と低迷した投票率はそういう諦めムードがけっこうあったのかなというふうに感じますね。 |
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――「投票率の低さ」に加えて「議員のなり手不足」の問題も出てきています。このままいくと、地方議会はどうなっていくと考えますか?
田村: | このままいくと、住民の中で「本当に議会が必要なのか?」っていう声がますます大きくなってしまうのではないかと危惧しています。 自治体の議会の役割というのは、有権者の多様な声を届けて、知事とか市町村長と予算や議案などを議論する。まさに車の両輪となる存在ですが、政策をチェックするという重要な機能がどんどん低下するんじゃないかっていう危惧もありますね。 |
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――投票率が下がることによる懸念はありますか?
田村: | 議員のなり手の属性がけっこう偏ってしまい、結局、選挙に出やすい人が当選してしまう。そうなると民意の反映が弱くなって、一種の悪循環になっていく危険性というか、本当に民主主義というものが危うくなる懸念もある。「だったら、もう知事とか市町村長だけでいいんじゃないか?」という声が強くなってしまうかもしれませんね。 |
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――そうなると政策をチェックする重要な役割がうまく機能しなくなるおそれもあります。どうすればいいとお考えですか?
田村: | 特に議員の「なり手不足」の問題。これを解消できるかが大きなカギになるのかなと思います。 知事とか市町村長さんは非常に権限が大きいんですね。議員のほうはというとチェック機能は大事なんですが、権限は必ずしも大きくはありません。 他方では議会の会期ってけっこう長いですし、また議会が開催されている時以外にもさまざまな行事の参加とか公務もけっこう多いんですよね。それで議員さんがかなり疲弊しているのを私も身近で見ていますし、議員報酬に見合わぬ苦労も多い。あるいは一部の不祥事などで住民からの評価も低いとなると、なかなかやりがいが出てこないのかなっていうふうに思いますね。 |
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――議員になる人の属性や職業経験が偏ってしまうと投票率も下がるというご指摘でしたが、議員の役割そのものを考え直す必要が出てきていると?
田村: | はい。結果として議員のなり手が、自営業の方とか退職した人とか、そういう人に偏る傾向が出てきている。他方で社会は多様化しているわけですから、子育て中の人や若い世代、あるいは障害がある人など、いろんな人が議論できる場、議論しやすい場がなければいけない。 今回、道府県の議会議員選挙で当選した女性は過去最多となりましたが、まだまだという気がします。 |
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――具体的にどういう方策が必要になりますか?
田村: | 制度を変えることも含めて相当ハードルが高いと思うんですが、議会運営をもっといろいろ改善していく。すなわち「議会の働き方改革」みたいなことをもっと積極的にやる必要があるのではないかと思います。 まさに今、オンラインの世界が増えているわけですから、たとえば委員会なんかはもっとデジタル化を進めて、いろんな人がそれこそ家庭とか職場から参加できる、参加しやすくなるような議会へと改革を進めていくことが必要だと思いますね。 |
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――確かにいま、一般社会ではリモートで働く形が出てきていますが、議会でもそういう形をこれから考えるべきだということですね?
田村: | はい。多少やっているところも出てきましたが、それをむしろ当たり前に、いろんな人が出やすいようにする。特に委員会などはそういうことが必要ですし、これは国会もそうですが、本会議も含めて本気で議会のあり方っていうものをしっかり見直す必要があると思いますね。 |
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――NHKでは、統一地方選挙を前に全国の知事と市区町村長、すべての自治体トップ1788人の方を対象に、ことし1月から2月にかけて初めて大規模なアンケートを行い、その93%の首長から回答を得ました。
その中で、「あなたの自治体の住民は、行政にどの程度関心があると思いますか」と尋ねたところ、「大いに」と「ある程度」を合わせると、首長の9割近くが「自治体の住民は、行政に関心がある。」と答えました。
これを田村さんはどのようにご覧になりますか?
田村: | はい。このアンケートの結果を詳しく見ていくと、実は規模が小さい自治体の首長さんほど「住民は、行政に関心がある」って答えた割合が少しずつ低くなってくるんですよね。まあちょっと悲観的というか。これは町村のほうがやはり住民との距離が近く、よく見えているので、地域を冷静に見つめていると、実は「住民の関心すら減っている」ということなのかもしれませんね。 |
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――首長の9割近くが「自治体の住民は、行政に関心がある」と答えた一方、実際の投票率は低いですよね?
田村: | はい。特に若者世代に関して言うと、スマホとかネットの世界になじんでいて、政治とか選挙は一番古いやり方、もっとも遠い世界です。そうすると、やはりスマホ世代に投票所に行って紙に書かせるっていうことも今後はどうなるか。電子投票などの新たな仕組みをさまざま検討する余地がありますよね。 |
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――それから今回のアンケートでは、「あなたは、あなたの自治体の将来の財政について、どの程度危機感を持っていますか」とも尋ねましたが、「強く持っている」と「ある程度持っている」を合わせると98%もの自治体のトップが「危機感を持っている」と回答しました。この財政問題は自治体運営や今後の住民サービスに関わる大きなポイントですが、これだけ多くの自治体トップが危機感を抱いている。それだけひっ迫しているということでしょうか?
田村: | そうですね。やはりコロナ禍とかいろいろ厳しい状況があるわけです。各自治体の努力だけではどうにもならないところで基金を取り崩すとかいろんな工夫をしているんですけれども、国全体の財政状況も非常に不安視されていますし、そういう中で多くの首長さんの不安というものが広がっているんだと思います。 |
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――東京への一極集中などの影響も出てきているんでしょうか?
田村: | そうですね。この少子化は今までは地方の問題でしたが、だんだん都市部に、それこそ大都市部でも学校の統廃合などが顕在化してきている。また、「人」とか「ふるさと納税」とかがある意味取り合いになると、結局「よそがやっているんだったら、われわれもやらなければ負けてしまう」となる。右肩下がりの時代の自治体のマネジメントが非常に大変な中で、首長さんたちが本当に苦労しているところかと思いますね。 |
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――多くの地方が人口減少問題を抱えていて、自治体間の競争も激しくなっています。こういう課題に、地方議会それから住民はどう向き合って地方自治を考えていけばいいんでしょうか?
田村: | 地域を持続可能にしていくためにも、多様な声がある、また住民が多様になっている中で、議会がそういう声をしっかり受け止めて、それを反映させる取り組みが必要だと思うんですが、やはりその議会も活動内容をしっかり住民に届けるようにしなきゃいけないし、議会のデジタル化、あるいは議員の働き方というものを大きく変えていく必要があると思いますね。 |
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――新型コロナウイルス禍の中で、自治体の対応が非常に注目されましたよね?
田村: | はい。まさにコロナ禍の対応は自治体によってかなり差があり、実際に自治体の評価も変わってきました。その中で有権者もやはり「地域のこと、地方自治ってやっぱり大事だ」とおそらく気づいてはいると思うんです。 ただ、そこから住民同士の交流とか自治体間の連携などの形にしていくためには、われわれ住民の代表である議会の活動がもっと活発になっていかなきゃいけない。 ある意味では地方自治が正念場を迎えているところもある中で、もっともっと議会の活動内容を“見える化”して、議会を改革していく。私たちも選挙を自分のこととして考えていく。そうしなければ本当に地域社会の持続可能性が問われる、そういうことかと思います。 |
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【放送】
2023/04/24 「マイあさ!」 けさの“聞きたい”「統一地方選挙から今後の地方自治を考える」田村 秀さん(長野県立大学教授)
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