東京・狛江市「分かりやすい政見動画」が問いかけること

21/07/13まで

深よみ。

放送日:2021/07/06

#政治#東京都

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21/07/13 7:40まで

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7月4日に行なわれた東京都議会議員選挙。狛江市では、選挙のバリアフリーを目指そうという試みが行われていました。知的障害がある人にとって優しい選挙。それは、この国の選挙のあり方を問い直すきっかけを与えてくれます。(聞き手・三宅民夫キャスター)

【出演者】
堀川:堀川諭さん(京都産業大学 メディアコミュニケーション専攻 准教授)

選挙のバリアフリー化

――まず「三宅民夫のマイあさ!」に届いたメールをご紹介します。

三木市のりんパパさん(兵庫県)
<近く行われる県知事選挙の候補者さんが決まったので、19歳の、重度の知的障害を伴った自閉症の息子に、どの候補者さんに投票したいのかを決めてもらい、その名前を、みずから鉛筆で記入できるように練習します。
せっかくいただいた、県民としての息子の権利を、無理だと親みずからが勝手に解釈して無駄にせず、可能なかぎり有効的に生かしてやりたいと思っています>


――重度の障害のある息子さんのもとに投票用紙が届いた、その時に思われたことをつづってくださったんだと思います。実は先日行われた東京都議会議員選挙でも、そういう思いを生かそうという1つの挑戦が、狛江市で行われていました。きょうは、「選挙もバリアフリーを目指そう」という取り組みについてお伝えします。

深読みをしてくださるのは、分かりやすい選挙とは何かについて研究をしている、京都産業大学の堀川諭准教授です。堀川諭さん、おはようございます。

堀川: おはようございます。

――堀川さんは、元・時事通信の記者でいらっしゃるんですね。

堀川: そうなんです。

――どうして選挙のバリアフリーに注目をされたんですか。

堀川: 近年、日本ではいわゆる格差の問題がいろんな領域で問題になっていますが、私は昔からこの格差というテーマが気になっていて、特に、情報の格差というものですね。世の中には、大事な情報を得られる人と得られない人がいる。中でも知的障害のある人たちが、非常に大きな情報格差に直面していることを知るに至りまして、特に今さまざまな場面の中でも、市民としての大事な権利行使の場である選挙、また投票の際の情報の格差に関心を持つようになったんです。

私は通信社の記者をしていた時にドイツに駐在していたんですけれども、そこで知的障害者に対して非常に積極的な投票支援をしている事例に触れる機会がありました。それで日本の状況はどうなっているんだろうと気になって調べましたところ、狛江市の取り組みと出会うことになったんです。狛江の皆さんはかなり踏み込んだ取り組みにあいついで取り組んでいまして、結果的に、私は研究者として関わっていくことになりました。

――きょうはその狛江市の選挙のバリアフリーの取り組みについて、一体どのような取り組みがされているのか。そして、なぜ狛江でそのような取り組みが始まったのか。さらに、その取り組みは私たちにどのようなことを問いかけているのか。堀川さんに伺っていこうと思います。

早速ですけど、狛江でどんな取り組みが行われているのか。そして、それにはどういう意味があるのか。教えてくださいますか。

堀川: 今回、東京都議会選挙がありましたけれども、この選挙の際に狛江では「政見動画」というものを収録して、知的障害のある方々に見てもらうという取り組みが行われました。

――政見動画?

堀川: 一般的には「政見放送」というものがなじみがあると思います。国政選挙ですとか都道府県の知事選挙の際に収録されて放送されていますよね。

狛江の政見動画は、一般的な政見放送の、知的障害者向けの分かりやすい版だと思っていただいていいかなと思います。いわゆる政見放送は、立候補者が伝えたいことを基本的には自由に話していますけれども、狛江の分かりやすい政見動画は、立候補予定者の方々に事前にいろいろとお願いをするんです。例えば、「話す際にできるだけ1つの文章を短くしてください」とか、「難しい言葉を易しく言い換えてください」。また「抽象的な言葉を避けてできるだけ具体的に説明してください」。さらには「背景知識を前提にしないでください」などの表現上の注意を立候補予定者の方々に事前にお伝えして、分かりやすい動画になるように配慮を求めています。

また動画の撮影に際しましては、話してもらう内容もすべての立候補予定者に統一してもらいました。1つは「今の東京のことをどう思いますか」。もう1つは「当選したら特に何がしたいですか」という、2つのテーマです。テーマがそろうことで、聞いている側はそれぞれの立候補予定者の考えを比較しやすくなるといえると思います。

――公職選挙法とかがあるから、そこには触れないようにしないといけないですよね。

堀川: そうですね。ですからこの動画は、いわゆる告示の前に撮って、そして、告示の前までに見てもらう、という工夫がされました。

――なるほど。反応はどうですか。

堀川: この動画については、関係者の方から、重度の知的障害のある人でも、本当に動画を食い入るように見て、喜んで投票に行ったという話も聞いていますので、大変有意義な取り組みだったといえると思います。かつては、知的障害者は保護される対象というふうな見方もあったかと思うんですけれども、その権利を行使する主体になるということの大切さが、狛江の関係者の間に共有されてきていると思います。

分かりやすい選挙に挑むわけ

――どうしてそのような取り組みが、狛江で行われることになったんですか。

堀川: まず、そもそもですけど、ご指摘のありましたように公職選挙法というのは、やってはいけないことがたくさん書いてありますので、選挙に関する取り組みというのは非常に手を出しづらいんですね。公職選挙法に違反してしまうかもしれない、あるいは、各候補者に対して公平性が保てるかどうかを判断するのはとても難しいわけです。ですから、普通は投票支援必要だよねと思っても、ちょっとやっぱり危ないから選挙には触れたくないという気持ちが勝ってしまうんですね。

そんな中で、狛江市では投票支援の取り組みはもう8年ぐらい続いていると思うんですけれども、幸い狛江には人材が非常にそろっていたといえます。まずは市役所の幹部職員さんの中に、かつての自治省、今の総務省に出向して選挙関連の仕事に携わっていた方がいました。この方は、公職選挙法の内容をおさえた上で、やっていいこと、だめなことを整理して、投票支援の取り組みを力強く後ろからサポートしてきたということがあります。

もう1つは、狛江の知的障害者の親の会を中心的に担っておられる方が、子どもたちの投票を支援していくことに対して非常に大きな情熱を持っておられたんですね。また狛江は人口8万人余りの小さな自治体ですので、社会福祉協議会や福祉施設の方々が、顔の見える関係で緊密に連携して投票支援で協力してきた経緯がありました。その結果、やっぱり子どもたちも1人の市民だと、市民の権利を使わせてあげたいという声は多くの方から聞かれるようになっています。

――なんとかその投票ができるようになるといいなという思いを、みんな持ってらっしゃったわけですね。

堀川: そうですね。

選挙、政治の原点とは?

――狛江市の取り組みは、この国の選挙に大事なことを教えてくれてるんだそうですね。どういうことでしょうか。

堀川: まずはやっぱり投票する権利というものに対する考え方を、今1度、みんなで考えてみませんかということがあると思います。私は、これまで障害者の保護者ですとか、関係者の方々とおつきあいをさせていただく中で、障害者の権利が侵害されているとか、障害者の権利を守らなければいけないという声をよく聞きました。その後、狛江の投票支援を間近で見せていただく中で、すでに持っている投票する権利、これ、大事だよねと、これをどうすれば有効に使えるだろうかという問題意識に、議論が少しずつ変化していることに気付きました。

まずは知的障害のある人たちも投票所に足を運ぶことで、1人の市民であることを象徴的に示すことができるわけです。そして、市民としての権利を持っていることを自覚することで、今、自分の町では何が起きているんだろう。自分の町をこれからどうしていくべきだろうかというようなことを考えていこうという思いになっていくんですね。いわば、政治意識の芽生えといえるかもしれません。

これは本当は知的障害のある人たちだけの話ではないですよね。私はドイツで記者をやっていた時に、ドイツでは選挙がある時には町の広場に政党のブースが設置されて、政党のスタッフが、その政党の公約について説明してくれたり、議論にこたえてくれたりする様子を目にしました。これは民主主義の1つの理想の形だなと感じたんですね。

今の日本は、選挙の時に候補者の考えや政党の公約などの情報はたくさんあるんですけれど、それらが整理されていない。その結果、自分がどうしてこの候補者に投票したのかを自信を持って説明できないような状況になっていると思うんです。その中で狛江の取り組みは、市民として投票することをもう1度考えてみましょうよというふうに訴えているように私には思えます。

――選挙の大事な原点があるということですね。課題を1つ挙げるとすると、何だと思いますか。

堀川: 政治家の側の覚悟も、分かりやすさという意味では求められるということだと思っています。つまり、あれもやります、これもやりますというふうな総花的な公約では、全く分かりやすくないんですよね。以前、知的障害のある方から「政治家には政策にぜひ優先順位をつけて語ってほしい」という声を聞いたことがあります。全くそのとおりだと思うんです。政治家や政党が、自分たちはこのテーマを一番大事にします、最優先に取り組みますと言ってくれれば、分かりやすいですよね。そうなることを願っています。

――大事な原点を教えられる感じがしました。ありがとうございました。

リスナーからの反響も

――皆さんからの声が届いています。

小隊長さん
<バリアフリー。ハードの部分に目が行きがちですが、目に見えないソフト部分のバリアフリーで盲点でした。道路と歩道の段差などのバリアフリーだけでない、制度のバリアフリー化も必要ですね。狛江市の取り組み、すばらしい>

時雨さん
<候補者間で比較しやすくなるよう共通の質問を設定するのは、通常の政見放送でも導入してほしいです>


――障害のある方が少しでも選挙に参加しやすくなるようにという取り組みですけれども、それは、分かりやすい公約とか、分かりやすい演説会とか、分かりやすい政見のアピールのしかたとか、選挙にとってみんなに大事なことを考えさせてくれる機会であることも、分かりましたね。


【放送】
2021/07/06 三宅民夫のマイあさ! 深よみ。「東京・狛江市“分かりやすい政見動画”が問いかけること」堀川諭さん(京都産業大学 メディアコミュニケーション専攻 准教授)

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