「認知症とともに生きる」③ ~思い通りにならないことが増えたら~

24/06/12まで

健康ライフ

放送日:2024/05/15

#医療・健康#カラダのハナシ

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24/06/12まで

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【出演者】
新里:新里(にいざと)和弘さん(東京都立松沢病院 精神科 医長)
聞き手:田中孝宜 キャスター

進行は基本的にとてもゆっくり

――東京都立松沢病院精神科医長で、認知症の診療がご専門の新里和弘さんにうかがいます。
認知症が進行して、だんだん思うようにならないことが増えるのは、発症からどのくらいの時期なんでしょうか。

新里:
認知症は、基本的にはとてもゆっくり進行します。
前回お話ししたように、多くの認知症は、脳に不溶性のたんぱく質がたまる病気です。脳内に異常物がたまり始めて、その影響がMRIでも脳の形態変化としてキャッチできるようになるまでには、10年以上の期間があることが分かっています。
一般的にはこの段階になって初めて、いろいろな生活の障害が出てきます。始まりの症状として有名なのが物忘れや“迷子”などですが、始まりの症状が徐々に重くなり、一人でいることが心配になるほど生活に大きな援助が必要となるのは、人によっても異なりますけれども平均7~8年ぐらいではないでしょうか。

進行の時期により出やすい症状

――認知症の人が怒りっぽくなるとか、物を盗(と)られた、と言われた、なども聞きますよね。これも認知症が進行すると現れる症状なんでしょうか。

新里:
認知症の時期によって、出やすい症状というものがあると思います。
例えば、アルツハイマー型の場合は自分で物をしまい忘れたり、置き忘れたりしたのを人が盗っていったと曲解してしまう「物盗られ妄想」、これは比較的、認知症の早期に出やすい症状です。
また、もともとの人柄が極端化すること、“人格の先鋭化”など呼んでおりますけれども、例えばやきもちやきの人が、配偶者が浮気をしたと責める「嫉妬妄想」などは、比較的早期に出やすい症状です。
「徘徊」は、認知症の進み具合はあまり関係しない症状です。頻度はさほど高くはなく、また、私の経験では全患者さんの1割弱ですが、この症状が起こると目が離せなくなるので、注意を要する症状です。
認知症が進行すると、排便・排尿を失敗するなど、脳の中枢神経が関係する症状が増えていきます。

患者と接するときの心構え・ポイント

――患者さんと接するときの心構えや、ポイントはありますか。

新里:
私はぜひ、自分に興味・関心を持ってもらえていると患者さん自身が感じられるように、周りの方には接してほしいと思っています。
人は自分の扱われ方に敏感なものです。これは認知症になっても変わりません。その人自身に興味・関心を持っているよ、とサインを送り続けてもらいたいと思います。
例えば、あえてその人のプライバシーにかかわる質問〝ご出身はどちらですか〟などを聞いて、その答えにいくつか返事を返す。相づちを打って、目を合わせて、笑顔を返す。「あなたそのものに自分は興味・関心を持っているんだ、という姿勢を示す」ということです。
また、安心感も大事です。ある程度認知症が進行したら、その一瞬一瞬が安心できる対応が重要になります。正しいことを言うだけが重要ではなく、演技といいますか、「上手なうそをつくことも大事」だと思います。

――例えばどういう対応ですか。

新里:
私の80代の患者さん、結構重い認知症の男性の方なんですけれども、奥さんと一緒に外来にいらっしゃる方です。その患者さんが奥さんに<岡山のおふくろのところを見に行こうか>と何度も言うと。お母さんはもうすでに亡くなられているんですけれども、その記憶はなくなっているんですね。
それで、奥さんと相談して、<お母さん、体が丈夫だから心配ないわよ、大丈夫よ。でも、あなたがそう言うんだったら、今度一緒に岡山に帰りましょうか>という答えをしてもらうことにしたところ、その質問がぴたりとやんだんです。
つまり、母親が亡くなったという「事実のほうはすぐに忘れてしまう」けれど、母親に会えなくなって寂しい、とか、もっと親孝行したかったのに悔しい、とかそういう「感情の方は残って、その感情に押されて、同じ質問が何度も何度も繰り返されていた」ということなんです。
大丈夫よ、という言葉を聞いて、感情のほうがおさまったんですね。
一瞬一瞬を大切にする対応が、その人に真実を伝えるということよりも重要になってくる。この、対応の切り替えもとても大切だと思います。

――お母さんが亡くなってるんだけれども、生きてるよ、っていう演技をすることも大事だ、つまりキーワードは「安心感」ということですね。
ほかにも気をつけることはありますか。

新里:
いつも外来で患者さん方、ご家族に伝えていることが、「けがをしない」ということと「感染症を予防する」ということです。
体を動かせないことが長く続きますと、急に認知症が進行してしまいます。軽い運動や人との交流、社会生活を維持できるように意識することが大切ではないかと思います。

――今まさに不安と向き合っているご本人ができること、っていうのはあるんでしょうか。

新里:
あまり焦らずに、一呼吸おくことではないかと思います。
認知症がまだ始まったばかりで、認知機能も維持されている状態で、不安を感じている方であれば、「メモや電子機器、スマホなどをうまく使って」、自信喪失につながるような大きな失敗をなくすことが大切だ、と思います。
ある程度認知症が進行して、病気のまさに渦中で、不安と闘っている方に対しては、周りの方が<焦らない、焦らないで>、<みんなここにいますよ>と短い言葉をかけて、ご本人に<ゆっくりでいいんだ>、<これで大丈夫なんだ>というメッセージを発し続け、少しでもそう思ってくれるように「待つ」ということが大事ではないかと思います。

――では、最後にきょうのポイントをお願いします。

新里:
認知症には、人としての尊厳や自信が保たれる対応が大切です。


【放送】
2024/05/15 「マイあさ!」

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24/06/12まで

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