【出演者】
大矢:大矢幸弘さん(国立成育医療研究センター アレルギーセンター センター長)
聞き手:星川幸 キャスター
安全に食べられる量を検査で調べる
――今回のテーマは「きっちり調べて 少しずつ食べる」。食物アレルギーの検査と治療について教えていただきます。
アレルギーを起こす食べ物があったら、食べないように注意する、ということではないんでしょうか。
大矢:
以前は、食物アレルギーの対応は、除去が必須でした。今は研究が進み、「全く食べさせない“完全除去”を続け過ぎると、かえって治りにくくしてしまう可能性がある」ことが報告されています。アレルギー症状があっても、全く食べられない、ということは“まれ”です。
「食物経口負荷試験」という検査を行って、その食べ物が「どのぐらいの量までなら、安全に食べられるのか」を調べて、「食べられる量を食べて、慣らしていく」治療を行います。
――食物経口負荷試験、これはどんな検査なんでしょうか。
大矢:
例えば、牛乳にアレルギーがあるお子さんなら、0.1mlとか0.5mlなどのごく少量から試して、かゆみや発疹などのアレルギー症状が出ないかどうか慎重に見極めながら、1回の食事で食べても大丈夫な量を調べていきます。
症状の重いお子さんなら、もしも「アナフィラキシー」を起こしてもすぐに対応できる、設備の整った医療機関で検査することが望ましいでしょう。
――アナフィラキシーという言葉は時々聞くようになりましたけれども、どういうものなんですか。
大矢:
「アナフィラキシー」とは、例えばじんましんとせき、おう吐など、「2つ以上のアレルギー症状が、同時に出てくるような現象」のことを言います。2つ以上の症状が発現するということは、全身へのアレルギー反応が起こっている可能性が高いので、より危険だ、ということがいえます。
――アレルギーの検査というと、血液検査をするのかな、と思っていたんですが、血液検査は必要ないんでしょうか。また、血液検査を受けた場合に、結果はどう見ればいいんでしょうか。
大矢:
血液検査もしますが、食べる前に必ず調べなければいけない、というものではありません。
血液検査では「IgE抗体」という、「アレルギー反応を起こす抗体の量」を調べます。これが多くても、症状が出るとは限りません。多少数値が高いからといって完全に除去してしまうと、それまで食べられていたものが食べられなくなってしまうこともあります。
実際に「症状が出るか出ないか、というところを見極める」ことが大事です。
治療は医師と相談の上、定期的に続けよう
――検査で、食べても大丈夫な量が分かったら、どう治療していくんですか。
大矢:
「安全に食べられる量を、定期的に摂取し続ける治療」を行います。少しずつその食べ物を摂取することで、腸を介して作られる「アレルギーを起こさない仕組み」を徐々に強化していきます。
うまくいけば1年から数年で、ほかの子どもたちと変わらない量を、アレルギー症状を起こさずに食べられるようになるお子さんもいます。「定期的に続ける」ことがポイントです。
――子供に、定期的に続けていくっていうのは難しそうですけれども、具体的に、工夫の例はありますか。
大矢:
無理強いするのはだめです。おいしく、楽しく食べられる工夫をしてみてください。
例えば、牛乳をそのままでは飲めなくても、治療にちょうどよい量の「牛乳入りのパン」とか「牛乳入りのお菓子」などを使うと、成功しやすいです。
――治療を続けて、このくらいなら食べられそう、と家庭で量を変えていっても大丈夫なんでしょうか。
大矢:
「担当の先生と相談しながら、治療の量を守って進めていただきたい」です。アナフィラキシーを起こしてしまうと、命に関わる場合があるので、医師の指示で行ってください。
――少しずつ食べて慣らす治療でアレルギー症状を克服したら、これは一生大丈夫、ということになるんでしょうか。
大矢:
時に、疲れやストレス、体調によって変わることがあります。
また、「食物依存性運動誘発アナフィラキシー」という現象があります。食べられるようになった食物を摂取したあとに運動をすることで、よりたくさんのアレルゲンが体の中に吸収されてしまって、症状が出る場合もありますので、注意が必要です。
――今回は、食物アレルギーの検査と治療についてお伝えしました。こうした「慣らしていく治療」ですが、他のアレルギーにも有効なのでしょうか。
大矢:
花粉やダニのアレルギーがある場合には、慣らしていく治療もあります。また、その前にできる対策もあります。
――では次回、詳しくお聞きします。最後に、きょうのポイントをお願いします。
大矢:
食べ物に慣らす治療、必ず医師と相談を。
【放送】
2023/07/12 「マイあさ!」
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