「海鳥の楽園、南硫黄島」 “絶海の孤島”は“奇跡の島”

いきもの☆いろいろ

放送日:2023/09/02

#いきもの

「マイあさ!」で毎週土曜日の午前5時台にお送りしている「いきもの☆いろいろ」。自然の美しさ、驚きに満ちた発見、また自然が発するメッセージを、各ジャンルの専門家がお伝えしています。
9月最初の放送では「海鳥の楽園、南硫黄島(みなみいおうとう)」と題して、「子ども科学電話相談」でおなじみ、鳥類学者の川上和人さんに伺いました。(聞き手:畠山智之キャスター、渡辺ひとみキャスター)

【出演者】
川上:川上和人さん(鳥類学者)

原生の生態系が残されている“奇跡の島”

――きょうご紹介いただく「南硫黄島」ですが、どんな場所なのか、から教えてもらえますか。

川上:
南硫黄島というところは、本州から大体南に1,200㎞ほどの所にある島です。小笠原諸島の中の「火山列島」というグループの中にあるすごく小さな島なんですけども、いわば“絶海の孤島”と呼んでいいところです。半径がおよそ1㎞、そして標高もおよそ1㎞で、おにぎりみたいな形をした島です。
過去に人間が住んだことがなく、生態系に大きな影響を与えるような外来の哺乳類が生息していません。このため、原生の生態系というのがきちんと残されていて、我々、生物学の研究をしている者にとっても、まさに“奇跡の島”と言ってもいいような所です。ただ、あまりにも貴重な所なので、調査であっても立ち入りが厳しく制限されていて、標高は正確には916mあるんですけれども、その山頂まで含めた調査っていうのは過去に4回しかされたことがないんですね。
このうち、私は2007年と2017年の2回の調査に参加しました。きょうは、この体験をもとに南硫黄島のお話をできればと思っています。

調査は“冒険”

――絶海の孤島に奇跡の島、冒険ものに出てくる言葉ばかりですが、実際の調査も“冒険”でしたか?

川上:
そうですね。この島は人が住んだことがないんですけれども、理由の1つとしては船を着ける場所がないということがあります。湾のような所がなくて、島にたどりつくには泳いでいかなきゃいけない、そんな島なんですね。

――鳥類学者は泳ぎも達者でないといけないと。しかも結構厳しい海ですよね。

川上:
四方八方から波が打ちつけてくるような所なので、時には「離岸流」といって、海のほうに引っ張られるような、そういう流れが発生することもあります。上陸しても島の周りは崖だらけで、まずは垂直な崖を登って、さらにロープを使って急しゅんな斜面を登っていく、というようなことをしながら調査をしています。

――実際の冒険はもう本当に映画のように、それ以上にタフなんですね。

川上:
そうですね。本当にもう、実際にやってみると、来るんじゃなかった! とか思うようなこともあるぐらいですね。でも、なかなか体験できるものではないので、そういう意味では研究者としてすごく充実していました。

おそらく数十万羽が繁殖している“海鳥の島”

――今回の調査について、川上さんが先日出版された『無人島、研究と冒険、半分半分。』という本に記されているんですが、その中でこういう表現がありました。
「クロウミツバメは、山頂周辺だけで数万つがいが繁殖している。それが雨あられと降り注いでくるのだ。」
このほかにも、この島で生活する海鳥たちの姿が克明に記されているんですけども、この南硫黄島というのは海鳥にとっては楽園のような場所ですよね。

川上:
まさにそのとおりです。で、この島は標高の低い海岸から山頂部まで海鳥まみれで、海鳥がそこらじゅうで繁殖している島なんですね。まさに“海鳥の島”といってもいいような島です。山頂だけでも数万羽いるので、島全体としてはおそらく数十万羽の海鳥が繁殖していると考えています。

――膨大な数の海鳥が集まるという、そのことは島全体の環境を考えたときに問題にはならないんでしょうか。

川上:
実は、それだけ多くの海鳥がいると環境が大きく変わってしまいます。例えば、海鳥がたくさんいて地面を歩くために、森林の中はもう植物が生えなくて地面がむき出しになっている、というようなことになっています。それは一見すると、まるで地面が荒れていてよくないように見えるかもしれないんですけれども、その姿こそが実は、この島ではオリジナルなんですね。原生の自然の姿だ、といえます。
海鳥っていうのは、いろいろな役割を生態系の中で果たしています。例えば、海鳥は海で魚とかプランクトンなどを食べるんですね。そして陸上で巣を作ることによって、陸上で排せつをします。それによって、植物にとっての栄養になる窒素とかリンなどの栄養分を海から陸に持ってきてくれるんですね。それだけではなくて、例えばヒナに持ってきた魚を落としてしまったりとか、場合によっては鳥自体が死んだりすることによって、どんどんどんどん栄養分が陸地に持ち込まれていくんですね。一羽一羽の海鳥だとやっぱりそれほど大きな影響ではないんですけれども、それが数十万羽いると非常に大きな力になります。
また、栄養分だけではなくて、海鳥っていうのは1日に数百㎞ぐらい飛ぶことができるので、他の島から植物の種をくっつけて飛んできて「種子散布」をする、というような機能もあるんですね。なので、海鳥がいることによって、この島の生態系が出来上がっていくんだというふうに考えることができると思います。

島は変化の途中にある

――川上さんは過去に2007年と2017年の2回、調査に行かれたということだったんですが、その10年で島に変化はありましたか。

川上:
私としては、10年ぐらいでは人間のいない所では変化はあまりないだろうと思っていたんですけれども、実際に行ってみると、山が急斜面なので、崩落して森林そのものがなくなったりとか、逆に、何も生えていなかった場所がやぶになっていたりとか、とても大きな変化があるっていうことがわかりました。で、この島自体は出来てからまだ数万年しかたっていない、言ってみれば島としてはとても若い島なんですね。そのことでまだ全然安定していなくて変化の途中にある、そういう島なんだなというのを実感しています。

――となりますと、今後も定期的に調査が必要ということになりますよね。

川上:
そうですね。恐らく、もうこの10年、20年で簡単に変化してしまうような所だと思うので、どういう姿になっていくのか見ていきたいなと思っています。
この南硫黄島という島は、小笠原(諸島)だけではなくてハワイ(諸島)やガラパゴス(諸島)なども含めた、海の真ん中にある孤立した島ですね。そういう島の本来の生態系をとどめている場所として、とても参考になると思っています。それは例えば、保全をしていく上での目標像にもなると思うんですね。なので、実際そういう人手の入っていない島で、どんな状況で何が起こっていくのか、ということを定期的にモニタリングしていくということが必要なんではないかなと考えています。
この島では10年に1回調査をしようということになっているので、次は2027年に実施したいなと考えているんですね。そこでもまた新たな変化とか、今まで見つかっていないものっていうのを見つけて、またこういう場で報告できればいいなあと思っています。


【放送】
2023/09/02 「マイあさ!」

この記事をシェアする

※別ウィンドウで開きます