感染症の日本史 ②/元寇ロックダウン!? ~ペスト~

21/11/16まで

健康ライフ

放送日:2021/07/20

#医療・健康#カラダのハナシ#感染症

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【出演者】
早川:早川智さん(日本大学医学部 教授)

――早川さん、「元寇」は、鎌倉時代にモンゴル帝国が日本を攻めてきた「蒙古襲来」のことですよね。

早川: 13世紀にチンギス・ハンが即位して、モンゴル帝国は大陸での勢力を拡大していました。さらに13世紀の中頃に、孫のフビライ・ハンが即位した後に元王朝が成立いたしました。元は海を越えて日本まで征服しようと、2度にわたって襲来しました。それがいわゆる元寇です。

――その元の襲来とペスト、どういう関係があるのですか。

早川: 日本の歴史上、大変おもしろい関係があります。
まずペストについて簡単にご説明いたします。ペストというのは世界の歴史の上で大変大きな影響を残した感染症です。ペストはペスト菌という細菌によって起こる感染症で、感染すると発熱や頭痛などの症状が起こりますが、皮膚が内出血を起こして紫色あるいは黒色になりますので、中世のヨーロッパでは「黒死病」という名前で大変恐れられておりました。

――ペストは世界史の授業で習って怖いと思った記憶が残っています。ペスト菌はそもそもどうやって感染するのですか。

早川: これはネズミがもともと持っている病気でして、ネズミには病気を起こしません。宿主であるネズミに寄生しているノミが人を刺して発病します。さらに、せきやたんといったことによって菌が排出されまして空気感染する。そして広がっていきます。非常に死亡率が高いのが特徴です。
ペストといいますとヨーロッパで流行した印象が強いんですけれど、何度か世界的に大流行を起こしております。第2のパンデミック、最大の流行が、14世紀の中央アジアから広がったものでした。
1331年に中国大陸で発生したペストによって中国の人口は半減し、その後ヨーロッパ・中東・北アフリカなどに拡大していきました。

――どういうことですか。

早川: 13世紀はモンゴル帝国が発展しまして、シルククロードが開通しまして東西の交流が大変活発化しております。初めて西から東へ、東から西へと人々の行き来が大変盛んになってまいりました。紙・火薬・めん類などはそのころの元からヨーロッパに行ったのではないかといわれています。一方、ヨーロッパからはマルコ・ポーロが来て、元のさまざまな情報を持ち帰ったといわれています。そういったことで、人と情報が行き来したんだと思います。
ただ、文明と同時にペストの波が東西に広がりました。14世紀の終わりには、ヨーロッパの人口が半減したといわれております。経済・人口ともに、回復するのに大体200~300年かかっております。

――回復に200~300年もかかったといわれているのですね。その流れで日本にもペストが入ってきたということなのですか。

早川: いいえ。不思議なことに、どの記録を見ましても、14世紀に日本ペストが流行したという記録はありません。

――日本にペストが入ってきたという記録がない。これはどうしてなのですか。

早川: 世界中でペストのパンデミックが起きておりました14世紀には、日本は元との交流をしておりませんでした。交流をしない理由が元寇にあったといわれています。要するに、元寇があったために、当時日本ではペストの流行が防げたということになります。つまり、期せずして「ロックダウン」を行ったということだと思います。

――なるほど。元の襲来を防いだだけでなくて、ペストが入ってくるのを防いだということなのですね。ちなみに、元寇前は大陸との交流はあったのですか。

早川: 元の前の宋の時代、日本では源平時代にあたりますけれど、そのころは宋と貿易をしておりました。特に平清盛が大変盛んに宋と貿易をしておりまして、それが彼の経済的な背景になったんではないかといわれています。
そのあと鎌倉期になりましてもある程度交流は続いていたんですけれど、ペストが大流行する直前に元寇がありました。それをきっかけに、大陸との交流は途絶えました。朝鮮半島とも当然行き来があったわけなんですけれど、そのころは高麗という国がありまして、高麗は元と同盟国ですので交流を絶つことになりました。

その後、大陸では元に代わって明となり、日本では室町時代になりますと、足利義満が勘合貿易を始めたわけですが、鎌倉時代から南北朝時代にかけてはほぼ鎖国に近い状態でした。この「ロックダウン」によって、日本にペストが持ち込まれることはなかったと考えております。
また、この時代に鎖国に近い状態だったことで、室町文化、現在の私たちの文化のもとになっている茶室、茶道、それから和風建築、能楽、こういったものが生まれたという点で特筆すべき時代だったと思います。

――なるほどね。侵略戦争になったことは大変だったでしょうけれど、一方でペストを持ち込まれずに済んで、日本特有の文化も築かれたというおもしろい時代だったのですね。

早川: グローバル化を避けることがいいわけではないんですけれど、感染の拡大を防ぐと同時に日本文化を築く上で意味があった、大変おもしろい時代だったと思います。

【放送】
2021/07/20 マイあさ! 健康ライフ「日本人が乗り越えてきた感染症から学ぶ ②」 早川智さん(日本大学医学部 教授)

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