芥川賞受賞! 宇佐見りん著『推し、燃ゆ』 推してしのぐ、ままならない“重さ”

21/03/15まで

著者からの手紙

放送日:2021/02/14

#文学#著者インタビュー#芥川賞

ざっくりいうと

  • 恋人・家族・友人にも劣らぬ熱量と存在感の「推し」が炎上
  • 推す行為でしのいでいた、主人公のままならない日常の重さ
  • 2021/02/14 マイあさ! 著者からの手紙『推し、燃ゆ』宇佐見りんさん(小説家)

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第164回芥川賞を受賞した宇佐見(うさみ)りんさんの『推し、燃ゆ』は、生きづらさを抱えながら、アイドルの追っかけに心血をそそぐ女子高校生を描いた物語です。デビュー作に続き、2作目も文学賞を受賞した宇佐見さんにお話を伺います。

恋人・家族・友人・「推し」

――宇佐見さん、芥川賞受賞おめでとうございます。

宇佐見さん: ありがとうございます。

――『推し、燃ゆ』は、デビューから2作目の作品です。1作目に続き栄誉ある文学賞受賞となりましたが、こういった小説家としてのスタートをご自身ではどう捉えていますか。

宇佐見さん: すごく幸運に恵まれたなと思います。まさかこんなふうにいろいろな賞を頂けるとは思っていなかったので、ただただ驚いています。芥川賞もすごく憧れの賞なので、いつか頂けたらうれしいなとは思っていたんですけど、まさかこんなに早いとは思わなかったです。いろいろな感情で、てんてこまいでした。

――宇佐見さんのプロフィールを紹介します。
小説家の宇佐見りんさんは1999年、静岡県生まれの神奈川県育ち。現在、大学2年生です。2019年『かか』で文藝賞を受賞し、作家デビュー。2020年、同作で三島由紀夫賞を史上最年少で受賞、そして本作『推し、燃ゆ』で第164回芥川賞を受賞しました。

タイトル『推し、燃ゆ』の「推し」は、誰かを推薦する「推し」ですが、この「推し」という言葉には、なみなみならぬ宇佐見さんの思索が透けて見えます。宇佐見さんが「推し」という言葉で提起したかったことはどんなことでしょうか。

宇佐見さん: アイドルですとか歌手、ユーチューバーもなんですけど、応援される立場、推される側の人たちを「推し」と呼ぶ。私が考え出したことではなくて、そういう言葉が今あるわけです。恋人とか家族とか友人とか、そういう関係性が世の中にはいっぱいあるわけなんですけど、私は推しという存在が、それにも劣らぬ熱量、存在感で人生に影響しているという人もいると思っていて、それをテーマの中心に持っていこうかなと思ったんですね。

推し、炎上。推す行為が生きがい

――この作品は、主人公、女子高校生のあかりがアイドルの追っかけをする日々を描きながら、あかりの懊悩(おうのう)がつづられる物語です。あかりが推しているのは男女混合グループ「まざま座」のメンバー、上野真幸(うえの まさき)です。物語はその真幸がファンを殴った件についての波紋から始まりますが、「アイドルがファンを殴る」というのは、どんな着想から生まれたんでしょうか。

宇佐見さん: アイドルというのは、普通はファンを殴ったりはしないものですよね。推しが“燃えた”という、炎上したところから始まろうとは思っていたんですが、ファンを殴るなんてあまりないことだから、「あれ?」っていう混乱を衝撃的な事件として、誰も彼もがその真相を分からないというような、着想といいますか、そういうものを事件の中心に置きたいなと思って考えました。

――この物語は、あかりの推しを推すあり方、「アイドル推し論」が細かく描写されています。あかりは上野真幸の、ラジオ・テレビ・記事などに出たあらゆる発言をチェックしファイルにまとめ、ブログで公開しています。あかりのブログには更新を待つファンもいて人気を誇っていますが、あかりはアイドル本人もさることながら、推す行為に生きがいを感じていると思いましたがいかがでしょうか。

宇佐見さん: それは本当にそうですね。あかりという主人公は、現実は苦しいというか、周りの人間関係にも淡白だったりして、なかなか熱量を注ぎ込めるところがないんですが、推している瞬間とか、推しを解釈する、彼のことを分かりたいと思う行為そのものに熱を注ぎ込んで、彼を応援することに生きていることの意味を見いだすんですね。だから推す行為に生きがいを感じているっていうのは、おっしゃったとおりだと思います。
推すことによって、そのときだけ100%で熱を注ぎ込めて、ままならない現実もなんとかやっていくことができるっていう、そういうものを書きたいなと思いました。

推してしのぐ、ままならない“重さ”

――この作品は「アイドル小説」とされる一方で、「家族小説」とも評されています。確かに物語は、あかりがアイドルの追っかけをする日々と並行して、母や姉といった家族とのやり取りも頻繁に描かれています。宇佐見さんは家族小説という評価について、どうお考えですか。

宇佐見さん: 私はそういうふうに読んでもらえるのもすごくうれしくて。というのも、家族っていうのはいろいろな価値観を持った人の集合体ですよね、すごく近くにいて。あかりの推しを推す行為そのものや、推しを推している行為をしている以外の日常の難しさであるとか、そういうものを含めて、あかりのことを家族は考えているけれども、彼女の苦しさをちょっと遠巻きにしている、というか。

あかり自身も母親や姉や病院に対して反発心を抱いたり、そういう人間どうしの理解の及ばない感じとか苦しさっていうのは、関係性が近いからこそ複雑に絡み合うところがあると思っていて、それは近いからこそのしんどさだったりしますよね。そういうものが、大変になっているんじゃないかなというふうに思っています。
ですから家族小説という見方も、この話のメインテーマではないかもしれないけれどもちゃんと書きたかったことではあるので、うれしいですね。

――作品の後半には、高校を辞めたあかりに家族が就職について問うシーンがあります。ここであかりは「働け、働けって。できないんだよ。病院で言われたの知らないの。あたし普通じゃないんだよ」と告白します。具体的には描かれていませんが、何かあかりには発達障害を思わせる描写が時折出てきます。このあたり、宇佐見さんはどんなことを意図したんでしょうか。

宇佐見さん: 彼女の持つままならなさみたいなものは、もともと書こうと思っていたんです。推しを推すということもテーマとしてある一方、もう一つ、今おっしゃった、難しさや困難さのようなものを書きたいなというふうにもともと考えていたんです。

私はこの小説で、その難しさを“肉体の重さ”というように表現していて、バイト一つとっても思うように自分の体が動かなくてミスを連発してパニックになってしまうとか、いろいろなことを「やってね、やってね」って言われても自分の体が重くてこなすことが難しいという、その重さを、なんとか推しを推しているときだけしのいでいくというような、そういう生き方をしている人がいるんじゃないかなというふうに思って、それをそのまま書きたいなと思いました。

推し、失う。ここからは這いつくばって

――この作品のラストシーンは、上野真幸がある発表をし、推しを失ったあかりが、やりきれない気持ちで綿棒のケースを床に投げつけ、散らばった綿棒を拾う場面で幕を閉じます。ここでは「這(は)いつくばりながら、これがあたしの生きる姿勢だと思う」という一節が読者に重くのしかかってきますが、宇佐見さんがここで表現したかったのはどんなことだったんでしょうか。

宇佐見さん: あかりは、先生とか家族とかいろんな人に、「普通に日常を送りなさい」というようなことを社会からも圧迫されてきたんですけど、そこから一つ自分の中で「こうしていくんだ」と、いったんそれを取り払って生きていくんだというような姿勢のようなもの。這いつくばって、普通に二足歩行はできないかもしれないけど……、というようなラストにしました。

――成長とはまた違うことですよね。

宇佐見さん: 成長という言葉ではないかもしれないですね。でも、ジリジリと進んでいくような感じですよね。

――ある書評家が、『推し、燃ゆ』を読んで「思わずのけぞった」と書いていました。今、宇佐見さんは、『かか』『推し、燃ゆ』に続く3作目を執筆中ですが、次回作では読者を「のけぞらせる」だけでなく、どうしてやろう、とお考えですか。

宇佐見さん: どうしてやろう……(笑)。自分としては、読者を泣かせようとか、びっくりさせようとか、笑わせようとか、そういう意図はなくて、結果としてそういうふうになることはあると思うんですよね。驚いたり、のけぞったり、涙が出てきたり、そういうことはあると思うんですが、自分から意図して書くことはないです。

1作目と2作目でかなり文体を変えたんですが、3作目でもまたすごく変わるんじゃないかなと思っています。一人称視点から今まで書いていたんですが、次は三人称に挑戦してみようかなと思っています。

――次回作も楽しみにしています。

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21/03/15まで

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