感染症の日本史 ③/薬の登場 ~梅毒と抗菌薬~

21/11/17まで

健康ライフ

放送日:2021/07/21

#医療・健康#カラダのハナシ#感染症

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【出演者】
早川:早川智さん(日本大学医学部 教授)

――まず梅毒という病気についてお聞きしますが、日本で梅毒がはやったのはいつごろの話ですか。

早川: 日本では戦国時代に梅毒が流行しました。戦国時代というと、戦国大名が群雄割拠した15世紀末から16世紀末にかけての約100年間です。室町時代末期から安土桃山時代に入るまで戦乱が続きました。

――戦乱期にどうして梅毒が流行したのでしょうか。

早川: 戦国時代は、戦乱が続く一方で、ヨーロッパの人々が日本にやって来て西洋の文明を伝えた時代です。フランシスコ・ザビエルがキリスト教を持ってきましたし、鉄砲も伝来しました。また西洋医学も参りました。さまざまな西洋の文物が入ってきました。
グローバル化の時代というのはやはり感染症のリスクを持っておりまして、その時代に梅毒も入ってきたということになります。

――梅毒って性感染症ですよね。

早川: 梅毒は、梅毒トレポネーマと呼ばれる細菌に感染して起こる感染症です。性的な行為で皮膚や粘膜から感染する病気ですが、感染した女性が妊娠した場合に胎盤を介してお子さんに感染する母子感染も報告されております。

――梅毒にかかると、どんな症状が現れるのですか。

早川: 梅毒は、症状が現れては消えを繰り返して慢性に進行していきます。感染すると、感染した部位にしこりや潰瘍、それからそけい部のリンパ節の腫れなどの症状が起きてきます。その後、手のひら、足の裏、体全身に発疹が出まして、さらに3年以上たって症状が進んでいきます。
当時は特効薬がありませんでしたので、悪化して命を落とす人が少なくありませんでした。

――そもそも梅毒はどういう経緯で日本に入ってきたのですか。

早川: もともとは南米の地方病だったんですけれど、1492年、有名なコロンブスがアメリカに上陸したことでヨーロッパに入ってまいります。

――コロンブスの新大陸到達の陰で、そんな出来事があったのですね。

早川: コロンブスの船団の船乗りが旧大陸に持ち帰ったといわれています。乗組員が航海中に先住民の女性から梅毒に感染し、ヨーロッパに戻ってから感染源となったらしいんです。それ以前からあったという説もありますが、病原体の遺伝子を調べることで否定されています。
15世紀の末から16世紀の初めには、ヨーロッパ全土で大流行いたしました。

――ヨーロッパで広がって、その後日本にまで持ち込まれたということですか。

早川: 戦国時代、西洋でいうと大航海時代なんですけれど、この大航海の幕開けともに梅毒が世界中に、そして日本にやって来ました。
日本で最初の梅毒の記録は1512年、三条西実隆というお公家さんの記録に残っております。ヨーロッパ人が初めて鉄砲を伝えた30年以上前に、すでに梅毒は日本に到達していたことになります。
そうした記録から、西洋人が直接持ち込んだというよりも、梅毒に感染した中国人の商人が来日して国内の感染元になったんじゃないかと推測されています。そして戦国時代、非常に多くの人々が感染しました。

――梅毒が治療できるようになったのはいつごろですか。

早川: 江戸時代になりましても流行は収まらず、『解体新書』で有名な杉田玄白は外来の患者さんの半分が梅毒だったということを書いております。
梅毒はペニシリンという抗菌薬でほぼ完全に治りますが、日本では昭和19年に生産に成功し、昭和22年からようやく日本全国で使用できるようになりました。

――日本では昭和になるまで梅毒の特効薬はなかったということですね。

早川: そうなんです。第2次大戦後になりまして、ペニシリンのおかげで梅毒患者はほぼいなくなったんですが、実はこの10年ぐらい日本では毎年患者さんが増えておりますので注意していただきたいと思います。2019年には8000人に達しました。

――最近また増えているというのは、どうしてなのですか。

早川: いくつかの説があるんですけれど、この10年ほどで梅毒のトレポネーマの遺伝子が変異しまして、抗菌薬が効きにくくなっているのが原因の1つと考えられています。
梅毒は、先進国では男性どうしの性的接触での感染が多い病気なんですが、日本国内では異性間の感染が増えておりまして、特に20代の女性の増加が目立っております。感染女性は、性産業従事者に限らず、一般の主婦やOLにも拡大しています。近年は症状が口やのどに現れる人も多いです。
この治療には専門的な知識が必要ですので、ぜひ感染症の専門医を受診していただきたいと思います。

【放送】
2021/07/21 マイあさ! 健康ライフ「日本人が乗り越えてきた感染症から学ぶ ③」 早川智さん(日本大学医学部 教授)

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