売っても買っても幸せに 藤木哲也著『空き家幸福論』

21/02/22まで

著者からの手紙

放送日:2021/01/24

#文学#著者インタビュー#経済

ざっくりいうと

  • お荷物になっている人より使いたい人が持てばお互いハッピー。幸福度を軸にした空き家問題の解決策
  • 経済のロジックが通用しない売買の現実。ストック活用、これぞ一つの「新しい経済」
  • 2021/01/24 マイあさ! 著者からの手紙『空き家幸福論』藤木哲也さん(一級建築士、宅地建物取引士)

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不動産畑を歩んできた著者の藤木哲也(ふじき てつや)さんが、空き家の売買によって生まれる幸せをつづった社会論『空き家幸福論 問題解決のカギは「心」と「新しい経済」にあった』。これを一つの足がかりに、社会は幸せな方向に向かっていくのか、伺います。

空き家のマッチングでハッピーに

――日本の空き家が846万戸、空き家率13.6%というと、空き家を社会問題として考えてしまいますが、そうではない、というのがこの本のメッセージですね。

藤木さん: 基本的に、空き家はボロボロで傾いていて、場合によっては床や天井に穴が空いているという状況なんですけれども、見る人が見るとそう見えない、ということですね。例えば「私はDIYがやりたい。趣味で自分流に作り変えるのが好き」という人からすると、床に穴が空いていたほうがいいらしいんですね。だから空き家はお荷物になっている一方で、それをうまく使ってみたい人がたくさんいらっしゃる。それだったら、お荷物になっている人よりも使いたい人が持っているだけでお互いがハッピーになれるんじゃないかということで、いわゆる幸福度を軸にした空き家問題の解決というのを本の中で提唱しています。

――藤木さんのプロフィールを紹介いたします。
一級建築士、宅地建物取引士の藤木哲也さんは1969年、福岡県生まれ。横浜国立大学建築学科卒業後、建設会社で現場監督、建築設計事務所で設計、不動産会社でデベロッパー、不動産ファンド会社で不動産の資産運用を担当しました。業務をこなしながらオーストラリア・ボンド大学のMBAを取得。2011年に不動産活用コンサルティング会社を起業し、2019年、空き家のマッチングサイト「家いちば」を運営する「家いちば株式会社」を創業。現在、代表をお務めです。

空き家は“すてき”である必要はない

――藤木さんは「売れそうもないぼろぼろの家を売ります・買います」という空き家のマッチングサイトを運営されていますが、改めてこの事業を始めた理由について教えていただけますか。

藤木さん: 「空き家」というのは言葉をかえると「中古住宅」ですね。中古住宅が流通していないという現象が日本独特なんです。海外と比べると圧倒的に中古住宅の流通が少なくて、家を買う人のほとんどが新築から入るんです。要するに、古い家はどんどん壊して建て替えるということが起きている。これがちょっともったいないんじゃないかとあちこちで言われていて、それでも相変わらず中古住宅は流通してなくて、空き家が余ってどんどん増えているわけです。
このままずっといって日本人が幸せに豊かになれるのかって考えたときにちょっと疑問があったので、ここの問題から解決していくべきじゃないかというところが大きな動機です。

――この本の中には空き家売買の実例がさまざま紹介されています。例えば、愛知県の郵便局は「郵便局なので頑丈です」、沖縄県の学校は「保養施設にどうですか?」、埼玉県の木造平屋では「羊とヤギもお譲りします」、鳥取県の自動車工場は「無料です」。また「廃墟となっていたガソリンスタンドがバイクの整備拠点になった」などユニークですが、使い方しだいで空き家はなんとでもなると感じました。

藤木さん: 「給湯器がなくてお湯が出ない」みたいなことが普通にあるんですけど、ある人からすると「給湯器なんかいらない。ガスの基本料金がもったいないからガスの契約すらしない。別にお湯が出なくていい」と。あるいは「雨漏りしててもいい。1部屋くらい雨漏りしてても構わない。その部屋だけ使わなきゃいい」と。
だから空き家は“すてき”である必要がなくて、あるがままでいいわけです。ボロボロのままでもいい。「本当にこれ、買う人いるの?」という空き家に、問い合わせが殺到している現実があります。

空き家が住み手のストーリーを受け継ぐ

――藤木さんは空き家売買の現場に日々、出向いていらっしゃるそうですが、その中で空き家売買を「家がもう一度幸せな場所になること」と感じたそうです。「買い手は相手が誰でもいいわけではない。家につまった思いを受け継いでくれる人。売り手も、高く売れればいいというわけではない」というふうにお書きになっていますが、売り主と買い主の幸せな出会いに何度も立ち会われていますね。

藤木さん: 私自身も全国に行って、売り主さんや買い主さんとお会いして状況をお聞きしていますけど、毎回幸福感に満たされているのをずっと見てきたんです。「これまでどういうふうに使ってこられたんですか。なんで売ることになったんですか」とか、逆に「どうしてこれを欲しいと思ったんですか。こんなボロ物件を何に使うんですか」というやり取りを直接売り主と買い主がするなかで、「この人に売りたい」とか「この人から買いたい」という思いが自然に芽生えてくるんです。
例えば釣り仲間が毎日のように遊びに来ていた思い出があって、買い手さんも同じように釣りが好きな人だったら昔話に共感する。釣り道具が置いてあったりして、それを「そのまま使わせてください」みたいなやり取りをしたり。それで本当に売り主さんも喜んで、「この人に売りたいんです」という状況になっている。

住んでいた人の思い出みたいなものは従来の不動産情報では無視されていたと思うんですけれども、それがむしろ、買い手の利用するイメージをインスパイアするような場面もあったり、売るほうも、自分のストーリーを受け継いで買ってくれる人がいたらなおうれしいみたいなものがあって、それがお金をもらって名義を変える行為にプラスして本当によかったなって気持ちになられている、そういう光景です。

経済のロジックが通用しない空き家売買

――藤木さんは空き家の売買に立ち会うなかで、売り主が価格で買い手を選んでいない状況にふれ、「今までの不動産事業者側の思い込みが空き家売買の邪魔をしていた」と感じたそうです。「空き家売買には経済のロジックが通用しない」ともお書きになっていますが、空き家売買は、一貫して不動産畑を歩いてきた藤木さんの概念を覆したわけですね。

藤木さん: 不動産の売却依頼をされる不動産会社の役割は、早く高く売ることが大前提だったんです。けれども空き家は、売り主さんと買い主さんの直接交渉のなかで、最終的に売り主が「この人に売りたい」と決めたら値引きどころか半分の価格になったりもする。ほかに高く買う人がいるのに安いほうに売ったりすることも普通にあって、これはかなりびっくりしました。価格で選んでいないという光景がまずあって、なおかつ、不動産にはいわゆる路線価といわれる価格の決め方、鑑定評価みたいなルールがあるんですけれども、それも全く関係ないんですね。

――経済のロジックとは違うところで空き家のビジネスは動いてるなという感じがしますね。

藤木さん: あるいは、これまでの経済がお金で決められすぎていたというか、それに対して「新しい経済」という言い方をしますけど、幸福度とかによって経済が動くという考え方もすでにあります。先ほどご紹介いただいたようにMBAの勉強もしましたけれども、「新しい経済」という講義が実際にあって知ったわけですけれども、学問の世界ではなくて現実ですでに起きている。しかも空き家で起きているのを見て、それもびっくりしたところなんです。

空き家流通はつまり「ストック活用」

――本の後半で「東京での一億円は家一軒にしかならないが、能登なら一つの集落の未来に関われる、という顧客の言葉にわくわくする。空き家売買は資本主義の課題を解決する」ともお書きになっています。空き家売買は日本社会を幸せにしてくれる、ということでよろしいでしょうか。

藤木さん: 一つは先ほどもお話ししたように、売った人、買った人が非常に幸せになっているという状況があるんですけれども、これは当事者ふたりだけの問題ではなく、周辺の地域、近隣の人々という存在があって、一つ一つの空き家が流通することによって、社会問題とされている空き家問題が解決する。そういうふうにして、いろいろな人が幸せになってスッキリする状況があって、使える建物が壊されずにすむことが当たり前になってほしいと思うわけなんです。
今は当たり前になってないんですよね。古くなって使えなくなったら壊せばいい、と。それに対して、古いものを大事にしていく。「もったいない」という言葉があるように、もったいない精神は日本人は当たり前に持っているけれども、なぜか建物に関してはもったいないことが日々行われているわけです。

空き家の流通の話をしましたけれども、これは言葉を変えると「ストック活用」なんですよね。あるものを使ったほうが得なわけです。
国内の住宅ストックの総面積を人口で割ると1人当たり45平米くらいです。これは、新築から古民家から全部足し合わせた住宅面積を1人当たりで割ると45平米あるということです。3人家族だと130平米くらいになるんですけど、今そんな暮らしをしている人はごくわずかですよね。ワンルームだったら15平米くらいになっちゃいます。でもストックを活用すれば、1人当たり45平米の空間が得られるんです。広ければいいのかという話はありますし、あるいは地方と都心で違うよねというのはあるけれども、活用していないというのはこういうことです。

これまでは経済成長があって、スクラップアンドビルドがごまかせた。それに対して、経済成長をしない前提でそれでも豊かさを求めたいとすれば、ストックを活用するしかないんです。残すのは当たり前という時代に、まずしていくべきなんですよね。その第一歩が、空き家の流通ということです。これで社会全体が幸せな方向に向かっていくという、私は最近そういうふうに考えるようになったというところです。

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