歴史上の人物の病気を診る (1)平清盛

22/06/06まで

健康ライフ

放送日:2022/05/09

#医療・健康#カラダのハナシ#ココロのハナシ#感染症#歴史

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【出演者】
早川:早川智さん(日本大学医学部 教授)  (聞き手:田中孝宜 キャスター)

平清盛とマラリア

――早川さんは産婦人科の医師であり、微生物感染症学がご専門でもあるんですが、一方で、歴史上の人物と病気の関係についても研究してらっしゃるんですね。

早川: はい、私の実家は江戸時代から続く医者の家系だったんですが、蔵にあった当時の史料にさまざまな病気の記載がありました。そこで興味を持ちまして、古文書の原本や歴史書を調べるようになり、史実に基づいた歴史上の人物の病気について研究をしております。

――今回は、日本史において時代の転換期に活躍した人々を取り上げたいと思っています。今回取り上げるのは平清盛です。平清盛、平安時代末期の権力者ですよね。

早川: 平清盛は平家物語でも有名な、平安時代末期に台頭した平家のリーダーです。彼は50歳の時に武士で初めて太政大臣になった人物として有名です。太政大臣は当時の政権においては最高位の役職でして、まあ彼がなったというのは異例の大出世だと思います。太政大臣になった清盛は、日本と宋、今の中国ですけれども、その貿易を大変発展させまして、財を蓄えました。そして日本の西半分ぐらいを治めるほどの権力を持つようになりました。ついには自分の孫を天皇に即位させることに成功し、政治の実権を掌握しました。絶大な武力と経済力に加え、政権も掌握しました。相当なやり手の人だったと思うんですけれども、64歳のときに残念ながら病気で亡くなられました。

――すごい経歴ですよね。では清盛がかかった病気について、早川さんはどんな診断をしますでしょうか。

早川: マラリアです。

――マラリアですか。でもマラリアって熱帯の地域で起こる感染症ですよね。

早川: マラリアはハマダラカという蚊を介して、マラリア原虫に感染することで起きる感染症です。おっしゃるように現代では、アフリカ中南部や東南アジア、南米など熱帯、亜熱帯地域で流行する病気ですけれども、ハマダラカはかつて地中海やアジアにも広く湿地帯に分布しておりました。ちょうど12世紀当時というのは温暖期でして、日本も瀬戸内海あたりまでハマダラカが生息しておりました。もっと古く10世紀の記録があるんですけれども、ここに「衣夜美(えやみ)」「和良波夜美(わらはやみ)」という名前で記載されています。源氏物語にも出てきまして、光源氏や紫の上も苦しんだといわれています。そのころ京都で流行していたんですね。第二次大戦後は公衆衛生がよくなりまして、日本でマラリアの報告はありません。ただ地球温暖化が今後さらに進んでいきますと、また日本でも広がっていく可能性はあると思います。

――なぜ清盛がマラリアで亡くなったとお考えになるのか、その根拠を教えてください。

早川: 平家物語の第6巻では、清盛は病気になった日から水ものどを通らず、かなりの高熱で、高熱をいやすために水風呂に入れたらお湯になってしまったと書かれています。これ自体フィクションですので脚色されていると思うんですけれども、同じ時代の右大臣九条兼実というお公家さんがいるんですが、その方の「玉葉(ぎょくよう)」という日記、それから歌人の藤原定家の「明月記」にも、やはり清盛が亡くなる前に高熱に苦しんだっていう記載がございます。清盛の高熱の原因としましては、肺炎、脳出血、それも視床下部の出血、こういったことで起きたんじゃないかという説もございます。ただ私が一番可能性が高いと思うものはマラリアです。なぜかと申しますと、肺炎ですとせきや呼吸困難、こういった症状があるはずですし、脳出血ですと意識障害やまひといった神経症状が出てまいります。彼の場合、そういった記載がございませんので、そうするとやはりマラリアではないかと考えます。

――そもそもマラリアってどういう病気ですか。

早川: マラリアは蚊が媒介する寄生虫感染症で、40度ぐらいの高熱が出まして、治療が遅れると命を失う可能性がございます。発症しますと悪寒や震えを伴った発作期の後に高熱が4、5時間続きます。このときに頭痛や吐き気を伴い、重症例では意識混濁も起きてまいります。マラリアは高い熱が出るときと、それが下がる時期を繰り返すのが特徴です。

――清盛の命を奪った病気がマラリアだったとしたらですね、早川さんがもし診るとすればどんな治療をしますか。

早川: マラリアの治療で大切なのは、早く見つけて適切な治療することになります。顕微鏡で血液を見ればすぐ診断できますし、PCRでも分かりますので、抗マラリア薬という薬の内服をしていただきます。薬がのめない重症の場合は注射を行いますので、清盛の場合は注射で治療したと思います。あとは予防なんですけれども、ワクチンが最近できてきました。マラリアは非常に頻繁に構造が変わるもんですから有効なワクチンってなかなかできなかったんですけれども、去年の10月にやっとマラリアに対するワクチンができました。現在も世界中で年間10万人以上亡くなっている病気ですので、私は大変に期待しております。当時もしこのワクチンのような有効な予防法があれば清盛は命を落とすことはなかったと思います。

――もしワクチンがあって清盛がマラリアにかからずに済んでいたら、歴史はどう変わっていたと想像されますか。

早川: 彼は流通、特に大陸との貿易を基本にした重商主義でしたので、大陸や朝鮮半島、さらに東南アジアとの国際的な経済圏が成立したと思います。栄華を極めた清盛ですけれども晩年は強権政治で、朝廷や公家だけではなく、平家以外の武士から大変反感が強くなってまいりました。それで源平の合戦に突入することになるかと思います。

【放送】
2022/05/09 マイあさ! 健康ライフ「歴史上の人物の病気を診る ①」 早川智さん(日本大学医学部 教授)

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