「国葬」どう考える? (1)国葬研究の視点から

22/09/08まで

けさの“聞きたい”

放送日:2022/09/01

#インタビュー#政治

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22/09/08 7:40まで

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9月27日に東京の日本武道館で行われる安倍元総理大臣の国葬。葬儀を国葬で行うことに対し、世論は賛否が分かれています。国葬の問題のポイントは何か? これまで政府が関わってきた葬儀に詳しい、歴史学者の宮間純一さんに聞きました。

【出演者】
宮間:宮間純一さん(中央大学文学部教授)

国葬はどう決められてきたか

――これまでの歴史を見ると、「国葬」とはどのように決められて行われてきたものなんでしょうか?

宮間: 国が国費で営む葬儀のことを国葬と言いますが、最初の例は太政官制で右大臣を務め1883年に死去した岩倉具視にさかのぼります。そして1885年に内閣制が創設されますが、その後は閣議で対象者が決められて、天皇が最終決定をしていました。その後、法的には1926年に公布された勅令「国葬令」によって位置づけられています。基本的に神式で営まれ、昭和以降の国葬は東郷平八郎、西園寺公望、山本五十六らが対象となってきました。

私は、国葬は過去の遺物で役割を終えたものだと思っていたので、今回の「国葬儀」が国葬となってとても驚いています。
国葬は戦前・戦中には天皇から賜る形で行われていましたが、国や天皇に功績があったとされる人が選ばれて、‟天皇と国民が功臣の死に対する悲しみを共有する場”でした。結果、国葬は大日本帝国下では国民統合のために機能してきています。
この国葬令は戦後1947年末に失効しました。それ以降、戦後にも議論されたことはありますが、今日まで法制化には至っていません。吉田茂の国葬も法律に基づいたものではなくて、そうした中で今回、閣議決定で安倍元総理の葬儀を国葬で行うということになっています。

今から55年前の吉田茂の国葬

今から55年前の昭和42年(1967)、日本武道館で行われた吉田茂元首相の国葬

――総理大臣経験者では戦後、国葬が行われたのは吉田茂氏だけだったんですね。このときはどんな様子だったんでしょう?

宮間: 吉田元総理のときは、国内外から約6000人の賓客が招かれて参列しています。当時の新聞記事によると、九段下には8500人くらいの群衆が押しかけたほか、都内の道路には武道館までの沿道に約7万人の人だかりができたということで、それなりに大がかりに行われたのは事実だと思います。ただその一方で反対派もいて、また、あまり関心を持たない層も多く存在していたようです。
その後、1975年に佐藤栄作元総理が亡くなった際にも「国葬にしよう」という議論もあったんですが、吉田茂氏の国葬の賛否を巡る議論を経て反対派の意向を無視できなくなり、「国葬」には至らず「国民葬」という形になりました。

葬儀をめぐる過去の議論

――戦後の総理大臣経験者の葬儀をどうするか、過去にどのような議論が行われできたのでしょうか?

宮間: 現在と似たような形で戦後は国葬の対象者の基準や法律がないことなどが問題になっています。法制化に向けては基準をつくろうとすれば政治問題化することも懸念されて慎重になっていたようです。
加えて佐藤栄作の「国民葬」では、「国民の同意を必ずしも得ているわけではないのに『国民』と名乗るのはいかがなものか?」という意見もあったようです。

総理経験者の公葬は3通り

――戦後の総理大臣経験者の葬儀のあり方として、まず「国葬」があったと。そして「国民葬」というのもあるんですね。さらには「内閣・自民党合同葬」もありました。それぞれ何が違うのでしょうか?

宮間: 誰が主催して費用を負担するのかといった〈国の関与の度合い〉が異なります。
戦後の総理大臣経験者の公葬は大きく3つに分けられます。
  •  ▼ まず「国葬」は吉田茂元総理の1例のみです。これは政府が主催し、費用は全額国費になります。今回の安倍元総理の国葬の経費も岸田文雄総理は「国の全額負担になる」と表明し、閣議決定されています。
  •  ▼ 「国民葬」は佐藤栄作元総理の1例で、政府と自民党のほかに国民有志が主催する形で行われて、費用の多くを国費で負担しています。
  •  ▼ そして「内閣と自民党の合同葬」は1980年の大平正芳さんの葬儀以降、近年の主流となっていて、政府と自民党など政党が共催する形で、費用の一部を国費で負担する形になっています。

〈賛成〉〈反対〉のお便り

――ここで、国葬の実施について、この番組宛てに頂いたお便りの中からご意見をご紹介します。

〈賛成〉 熊本県【さかってぃ】さんのメール
「国葬に私は賛成です。安倍元総理の功罪が取りざたされていますが、政治家に限らず、人間、良い面、悪い面があるものだと思います。私としては、国を挙げて葬儀をする価値のある政治家だったと思っています。地方に住んでいる私ですが、献花しに行きました。」

〈反対〉 静岡県【怒れるおばちゃん】さんのメール
「国葬には断固反対します。政治家としての安倍元首相には、モリ・カケ・桜、国会軽視、旧統一教会問題などあまりに疑問点が多く、国全体の葬儀に値すると思えません。法的根拠がないのに閣議決定されたことも民主主義軽視にほかなりません。」

NHKの世論調査は

――NHKが先月上旬、全国の18歳以上を対象にRDDという方法で行った世論調査の結果によると、安倍元総理大臣の国葬を行うことへの評価は、「評価する」が36%、「評価しない」は50%でした。この結果についてはいかがでしょうか?

宮間: 各社の世論調査で国葬の実施に対して賛否が分かれているようですが、総じて「反対」という人の方が多い印象です。これは旧統一教会の問題や内閣改造、新型コロナ対策などが政権への不信感となって国葬実施の評価にもつながっているのではないかなと思います。
また、「国葬儀」であれ「国葬」であれ、「国葬」というふうに名乗るのであれば主体は国民でなければならないと思います。本来国会で審議すべき案件なのに、岸田総理が国葬を表明しても簡単な説明だけで、それで国民は納得していないのではないかなと思います。

宮間さんが着目する3点

――宮間さんは、今回の安倍元総理大臣の国葬のどんな点に着目されていますか?

宮間: 3点あります。国民に弔意を強制しているという誤解を生じるのを避けたいということで、弔旗の掲揚や黙とうなど各府省に求める閣議了解を見送るという異例の判断をしていましたが、きのう(8/31)、岸田総理は、葬儀委員長を務める自らの決定に基づいて各府省で弔旗の掲揚や黙とうによる弔意の表明を行うと明らかにされました。
吉田茂氏の国葬では、官庁のほか、民間にも弔意の表明について協力を求めましたが、今回どうして国葬なのに民間には弔意を求めないのか。これは国葬ということとの整合性はとれていないように思います。

次に吉田茂氏の国葬のときには、当時の皇太子ご夫妻、いまの上皇ご夫妻ら皇族も参列されています。
今回の国葬に皇室がどう関わるのか。既に「皇族の参列が決まった」という報道もありますが、皇室の権威が政治家の死に花を添えるということにならないか?  政治利用につながらないか? 注視しなければならないと思っています。

もう1つ、今回の国葬が公文書にどう記録されているのかが気になっています。私は8月3日付で内閣府に国葬をどのように決めたのかを示す文書の開示請求を行っていますが、「ほかに処理すべき行政事務が多くて期限内に開示決定を行うことが事務処理上、困難である」いう延長決定の通知が来ています。10月3日の期限までにどのような回答が来るのか。これも注目して見ていきたいと思っています。

私たちが考えておくこと

――賛否がある中で、国葬について私たちが考えておかなくてはならないこととしてはどんなことが?

宮間: 日本人はふだん身近な人と政治思想を話したり表明したりしない、そういう国民性だと思うんですが、実際に国葬を行うということになったら、それが目に見えて現れうるのかなと思っています。異なる意見の人たちを否定したり、対立や分断が起きることがないように、一人一人はよく考えて臨まなければならないと思います。
たとえ政府が要請を出さなくても、自治体や民間企業などで組織のトップが黙とうなどを求めれば、事実上、「黙とうをするか? しないか?」という判断をそれぞれが迫られることになるのではないかと考えています。

議論と説明、国葬の再定義を

――宮間さん、国葬の歴史を研究してきた立場から、政府に求めたいことは、どういうことでしょうか?

宮間: 吉田茂氏のときも今回の安倍元総理のときも国葬実施の根拠が曖昧にされてきましたが、民主主義に則って国会の場できちんと議論し、国葬が必要だということであれば、戦後日本にふさわしい国葬の‟再定義”をしてほしいとそう思います。そうでなければ、今回のことがまた前例となって、今後もモヤモヤした形で国葬が行われる可能性があります。
政府は国葬実施に向けて、国民に丁寧に説明し、議論をしていく必要があると考えています。

【放送】
2022/09/01 マイあさ! けさの“聞きたい”「賛否が分かれる国葬を考える」(1)宮間純一さん(中央大学文学部教授)

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