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2020年9月27日(日)放送より

辺境の旅人、高野秀行(たかの ひでゆき)さんが、西アフリカの納豆を粘り強く調査した探訪記『幻のアフリカ納豆を追え! そして現れた<サピエンス納豆>』。納豆はいかに“辺境食”か、人類はいかにおいしいものを求めるか、お話を伺います。


謎があって未知だらけ。納豆は“辺境食”

――高野さんはこれまで、「誰も行かないところへ行き、誰もやらないことをやり、それをおもしろおかしく書く」をコンセプトとして、世界を舞台にさまざまな辺境の地を旅してきましたが、現在の渡航しにくい状況をどのように受け止めていますか。

高野さん: 初めは困ったなと思っていたんですけれども、よく考えてみるとこの状況って、「なじみがあるな」って思ったんですね。

――なじみがある?

高野さん: 僕、世界の辺境地に行くじゃないですか。そうすると、よく分からなくて戸惑う状況ばっかりなんですね。大雨が降って道路が寸断されてそこから先に行けなくなるとか、飛行機が飛ばなくなってるとか。今後どうなるか分からない状況が頻発するので、ある意味、今、“世界が辺境になっている”っていうか。それはちょっと新鮮です。

――高野さんのプロフィールを紹介します。ノンフィクション作家の高野秀行さんは1966年、東京都生まれです。早稲田大学在学中は探検部に所属。1989年、探検部における活動を記した『幻獣ムベンベを追え』で作家デビュー。2013年『謎の独立国家ソマリランド』で講談社ノンフィクション賞、2014年、同作で梅棹忠夫・山と探検文学賞を受賞。そのほかの著書に『西南シルクロードは密林に消える』『イスラム飲酒紀行』『辺境メシ』などがあります。

高野さんは、ここ数年のご自身のテーマを「納豆」とお書きになっています。納豆のどんな部分にひかれているのでしょうか。

高野さん: 納豆は、“辺境食”なんですよね。僕が好んで行くのが、「辺境」じゃないですか。なんで辺境が好きか、おもしろいかというと、僕らが思っている常識をひっくり返すような謎があったり、未知があると思っているからです。納豆も、僕が行くような辺境の民族が食べているとか、辺境とはとても相性がいい。しかも、そこに謎がたくさんあるのがすごくおもしろいと思います。

ナイジェリアの「ダワダワ」

――高野さんはアフリカに、納豆らしきもの=「未確認納豆」があるという情報を入手し、まずナイジェリアに向かいました。アフリカでGDP1位を誇る国で食べられている発酵食品は、その名も「ダワダワ」。現地で原料、製造方法、味を検証した結論は、「ダワダワは納豆である」でした。ダワダワの納豆らしさを解説していただけますでしょうか。

高野さん: 最初に行ったときは、それが本当に納豆であるかは分からなかったんです。
まず納豆は日本でよく言われている定義として、「大豆を納豆菌で発酵させた食品」となっているんですね。ところがダワダワの場合、大豆じゃない。パルキアという木の豆ですが、作り方はほぼ日本の納豆と同じで、豆を煮て発酵させるんです。においを嗅いでみるとまさに納豆で、食べてみても納豆。ネバネバしていて、ごはんにかけてしょうゆをたらして食べられそう(笑)。
持って帰って納豆菌がいることも確認しましたけれども、納豆民族の自分としても、その場で「ああ、これは納豆以外の何ものでもないな」と、確信してしまいましたね。

セネガルの「ネテトウ」

――続いて、未確認納豆を求めてセネガルに向かいました。当地のアフリカ納豆は「ネテトウ」です。ネテトウは、美食大国であるセネガル料理に不可欠な調味料だそうで、ダカールの一般家庭で、ネテトウ料理をふるまわれました。ここで高野さんは、ネテトウ料理に圧倒された、と書いていますが、どんな味だったんでしょうか。

高野さん: セネガルは美食大国で、グルメがすごいんですね。料理を作るにも、いろんな材料を入れて、味にもものすごくこだわるんです。料理を作る手順がきちんとしていて、丁寧です。とても洗練されていますね。
例えば、生の魚、干し魚、くん製魚の3種類の魚と、ネテトウ2種類を使って作るスープ・カンジャは、日本の濃厚豚骨ラーメンみたいな、ものすごい濃い味のダシが出るんです。それがトマトソースでまとめられていまして、めちゃくちゃうまみがある、濃いトマト風味のハヤシライスみたいな感じです。

――ごはんが進みそうな……。

高野さん: そうですね、脳がしびれるかと思いました(笑)。

――ハハハハ。

ブルキナファソの「スンバラ」「ビカラガ」

――そして、アフリカ納豆の中心地であるブルキナファソ。ここで「スンバラ」と「ビカラガ」という2種類の未確認納豆と出会い、ハイビスカスの種を発酵させて作るビカラガの、納豆らしさを検証しました。現地で、ビカラガ入りとビカラガ抜きの同じ料理を作ってもらい、食べ比べをした高野さんは、ビカラガの味もさることながら、現地の人々の考え方に胸を打たれたようですね。

高野さん: ハイビスカスの種というのは、日本のアサガオの種に似たようなものなんです。小さくて黒くて硬いわけです。そこから納豆を作るなんて想像もできないわけです。それもすごく手が込んでいまして、何回も煮たり、きねでついたり加熱したりして発酵させるんですよね。
しかも、ナイジェリアのダワダワは日本の納豆と同じようにそのまま食べますから、貴重なタンパク源として役に立っているわけですけれども、ビカラガの場合は食べないんです。ダシ専門なんですよ。日本では煮干しとか昆布はダシをとって捨てることがありますよね。あれと同じで、だからタンパク源になってないわけです。つまり、「おいしく食べたい」ということだけなんですね。
ハイビスカス納豆を食べている村っていうのは、決して豊かではない。かなり生活が厳しいところだと思うんですけれども、この人たちは、ただ生きていくのではなく、少しでも楽しく、おいしいものを食べて幸せに生きたいという思いがあってビカラガを作っているんだなと、つくづく思いました。人間っていうのは、貧しければ食べ物はなんでもいいんだなんて、絶対思わないんだと。人類の本質として、おいしいものをなんとかして食べたいと思うものなんだと痛感しました。

幻の「バオバブ納豆」を再現

――旅の最後で、アフリカでもう作られなくなっている幻の「バオバブ納豆」にたどりつき、ブルキナファソの方々の協力のもと、バオバブ納豆を再現してもらい、味の実験をしました。パルキアで作ったスンバラ入りスープと、バオバブ納豆入りスープを食べ比べたところ、現地の人々も含めて、バオバブ納豆入りのほうが「おいしい」となったそうです。どんな点で、バオバブ納豆の勝利だったといえるでしょうか。

高野さん: バオバブ納豆のスープというのは、味がまろやかで深いんですね。パルキアで作ったスープは、それに比べると味がとがっていると感じたんですが、現地の人も全く同じことを言うのがおもしろくて。バオバブ納豆のほうが、まろやかで深い。普通のパルキアで作ったスンバラ入りスープのほうは、とがっておいしくないって言うんです。感じ方も同じで、味覚がそっくりなんですよね。
放っておくと、村の人がどんどんバオバブ納豆入りのスープを食べちゃうんですよね。つい止まらなくなって食べちゃって、バオバブ納豆のスープはあっという間に空になって、餅みたいなだんごにつけて食べているんですが、それで鍋を全部こすってピカピカになっちゃうくらい食べていました。

世界最大の納豆地帯

――高野さんは納豆の長い旅を終えて、今回旅したアフリカの国々を含む西アフリカを、「世界最大の納豆地帯」と結論付けました。西アフリカは、納豆人口、1人当たりの納豆の消費量などで、日本を含むアジア、朝鮮半島に勝っているそうです。ということは、日本人は納豆に対しての意識を変えたほうがよさそう、ということになるでしょうか。

高野さん: 納豆は日本独自の伝統食品というのは全然間違い。なにしろ世界何十か国で納豆を食べているわけです。しかも、全然違った、もっと発展した食べ方をしているんですよね。

――世界のいろんな地域の“納豆国”どうしで交流してみると、結構おもしろい料理が生まれたりするかもしれないですね。

高野さん: 納豆はチーズと同じで、人類の普遍的な食品の1つだと思うんです。だからそれをもっともっと展開して進化させていったら、すごくおもしろいと思います。

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2020年9月27日(日)放送より