“のど元が熱いうち”に考えておきたいこと コロナの中・長期的課題

21/01/21まで

大越健介の現場主義

放送日:2021/01/14

#インタビュー#学び

ざっくりいうと

  • 保健所を守り抜き、管轄の壁を越えた保険師派遣を可能にしていた和歌山県の取り組み
  • 国と地方が対等の立場でそれぞれの役割を果たすという、本来の地方分権を進める契機に
  • 2021/01/14 「三宅民夫のマイあさ!」 三宅民夫の真剣勝負! 大越健介の現場主義

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21/01/21まで

「のど元過ぎれば熱さを忘れる」にならないように――。新型コロナウイルス感染拡大が続く今だからこそ分かる、中・長期的課題があるのではないか。大越健介キャスターと考えます。

【出演者】
田中キャスター:田中孝宜キャスター
大越キャスター:大越健介キャスター

丸1年。事態は別のフェーズに

田中キャスター: 新型コロナウイルスの感染、深刻な事態となっていますけれども、この現状をどう受け止めていますか。
大越キャスター: ひと言で言うと、怖さのレベルが違ってきたなと感じます。政府の緊急事態宣言の対象が、11都府県に拡大される事態となってしまいました。今回の感染拡大のいわゆる第3波は、第1波・第2波のときとは、その規模そして深刻さという点で比べものにならないなという感じを正直覚えます。

振り返りますと、日本で新型コロナウイルスの感染が初めて確認されたのは去年の1月16日ですので、ほぼ丸1年が経過したということになります。この間、本当に多くの人たちが感染には十分注意をしながら生活をしてこられたと思います。それなのにやってきたこの第3波。「さんざん注意をして我慢もしてきたのに、通用しないのか……」と、私などはちょっと切ない気持ちにもなったりします。
田中キャスター: 陽性者の行動履歴の調査・クラスター追跡で追いきれない、市中感染の広がりが心配ですよね。
大越キャスター: 社会活動を営んでいる以上は、買い物に出るといった行動1つとっても誰でも多かれ少なかれリスクを負うことになるんですよね。問題はリスクの程度です。十分な注意を払うことによってゼロに近づけることができるというのが、経済も同時に回していく上では大事だと思うのですが、事態はもう別のフェーズに入っているというのが、おおかたの受け止めだと思います。

著名人の感染もニュースに目を凝らして見ていますと珍しいことではなくなっていますよね。最近では、この初場所を感染によって休場せざるをえなかった横綱白鵬関のケースなどが当たると思います。日々発表される感染者の数の多さに加えて、「あの人が!」というニュースに触れる機会が多いのも、これまでとは違うレベルの不安を抱かせる理由の1つになっていると思うんです。

のど元が熱い今だから分かること

大越キャスター: この感覚は決して私だけではないようで、NHKがこの週末に行った世論調査の結果にも表れています。「自分や家族が新型コロナウイルスに感染する不安」を、「大いに感じる」と「ある程度感じる」を合わせた割合は、87%に上っているんです。
田中キャスター: NHKの世論調査では、政府の対応にも不満が出ているようですね。
大越キャスター: 内閣支持率が下落していますよね。菅内閣の支持率は40%にとどまりました。感染者数が急カーブで増え始めた前々回(11月の調査)から見ると、16ポイント下落しています。今回の調査では、「政府の新型コロナウイルスへの対応を評価しない」という人も増えていまして、冬に入って感染が急激に広がるのと歩調を合わせるようにして、菅総理が率いる政府への風当たりも強まっていると言っていいと思います。

実際、政策決定が小出しになっている。そして後手に回っているという印象は否めないと思うんです。緊急事態宣言というのは切り札ですけれども、全体的に見ますと、都府県知事の切実な声に押される結果というタイミングになってしまっている。そうしたことによって、切り札としての切れ味は損なわれてしまっているように見えます。

そしてやはり、メッセージの発信のしかたも考えるべきだと思うんです。先日、政界のある長老と話をする機会があったんですが、「新型ウイルスについては分からないことが実際とても多い。そして政府自身も大いに悩みながらいろいろな判断をしているということで、そういうことを一切合切含めて、もっと率直に語りかけるべきではないか」「隙であるとか弱みというのを見せてはならないと、守りに入って手堅い発言を繰り返すのも分かるけれども、やはり人間というのは情の生きものですよね」というふうに話をしていました。できるだけ目線を低くして、率直に国民と対話のキャッチボールをすることなんだろうなというふうに、私は理解をしました。
田中キャスター: 政府を批判したくなるのも分かりますけれども、私たち一人一人も、自分の問題として考えなければいけないわけですねえ。
大越キャスター: おっしゃるとおりだと思います。感染防止対策、これまで以上に徹底することはもちろんですし、まずは自分の責任において、感染をしない。感染を広げる側に回らない。しかしもし万が一感染する人がいたら、その人を誹謗中傷するようなことはあってはならない。そういうことは基本としてもちろん大事だと思います。

それと同時に、今だからこそ考えるべき中・長期の社会の課題も多いと思うんです。「今はそれどころじゃない。目の前の感染を抑えることに専念しなきゃいけない」という意見も当然あると思うんですけれども、今まさに痛い思いをしているからこそ、感じることができるというのも多いと思うんです。のど元過ぎれば熱さを忘れることのないように、今まさに“のど元が熱いうち”に、考えておくのも必要だと思います。

「いいものはいい」。保健所の存在

田中キャスター: “のど元が熱いうち”に中・長期的なことを考えたいということですが、どういうことでしょう。
大越キャスター: 私、今、<NHKスペシャル>でパンデミックを通じて浮かび上がった課題に注目するシリーズを担当しているのですが、最近の取材で非常に印象的な取り組みがありました。新しいものではなくて、今までにある古いものかもしれないけども、やっぱり、いいものはいいんだ、という1つの事例なんです。

NHKスペシャル
「新型コロナウイルス 格闘の証言」

詳しくはこちら

田中キャスター: 古いものでもいいものはいい? 具体的にどういうことですが。
大越キャスター: 保健所の存在です。
感染拡大の局面になってきますと、保健所に相談の電話をしてもつながらないとか、保健所に入院の調整をしてもらっているのになかなか入れないという、不満の声がよく聞こえてきますよね。保健所がボトルネックになって、何か目詰まりの象徴のように語られることも少なくありません。
ただこれは裏を返せば、保健所は人々の健康を守るという点で、公衆衛生の政策、そして医療の現場をつなぐ非常に大事な役割を担っているということがいえると思うんです。そのことを、去年の暮れに和歌山県の取り組みを取材して痛感をしました。
田中キャスター: 今、和歌山の感染状況はどうなんでしょうか。
大越キャスター: 非常に少なく抑え込むことができているんです。和歌山県は大阪という大都市圏に隣接をしていますが、この第3波になっても、多くの一日当たりの感染者は十数人にとどまっています。全体の人口がそう多くないからじゃないかという反論もあるかもしれませんが、人口当たりの感染者数の少なさを見ても、和歌山県は全国でも際立った数字なんです。

行動履歴が追いきれない市中感染者が増えていますけれども、和歌山県は今でも陽性と判定された人の徹底した行動履歴の調査を行って、それこそアリ1匹逃さないという方針でクラスターをつぶすことに全力を挙げている、そうした数少ない県の1つです。
その主役を担っているのが、まさに県内各地の保健所であって、それを統括する県庁の職員たちなんですね。「保険医療行政がよいかたちでフル回転している現場」といっていいと思うんです。
田中キャスター: なぜ和歌山でそれができているのですか。
大越キャスター: ひと言で言ってしまうと「県のふんばり」ということなんですが、これまで保健所の数は国の方針もあって全国的に統廃合が進められた結果、減ってきています。平成元年には全国で848あった保健所の数が、令和2年には469と、ほぼ30年で半減に近いですよね。

ところが和歌山県は、保健所の統廃合に断固反対をして保健所を守り抜いた経緯があるんです。そのシンボル的な存在が野尻孝子さんという和歌山県の幹部職員です。技監というポジションですが、医師でもあり保健所長を務めたこともある野尻さんに聞きますと、「保健所を守り抜いてよかったです。新型コロナに間に合いました」というふうに話をしていました。

和歌山県の場合、単に保健所の数を減らさずに残しただけではなく、野尻さんを司令塔にして保健所のあいだの連携強化もしています。公の組織というのはどうしても縦割りの壁というものがあるんですね。ですから県が管轄する保健所と市などが管轄する保健所のあいだにも壁があったりするんですけれども、保健師の資格を持つ職員の派遣をその壁を乗り越えて柔軟にできるように、県と市町村が協定を結んだりしているんです。
これによって、クラスターが発生した地域にほかの地域から保健師を派遣することがスムーズにできるようになりました。1か所の保健所に負担がかかって業務が破綻をしてしまうようなことを防ぐことに成功しているんですね。
田中キャスター: 地域の実情に合わせて、きめ細かな対応ができているということですね。
大越キャスター: それに尽きますよね、今度の新型コロナ感染症というのは。地域に根ざした保健所の重要性を、取材を通じて本当に実感をしました。
全国の保健所の統廃合が進んだのは、厳しい財政事情といったそれなりの理由があったわけですし、今すぐに保健所の数を前のように戻せというのは無理があると思います。しかし、管轄の壁を乗り越えて保健師の派遣を柔軟に融通し合う仕組みなどは、ほかの自治体にも参考になるんじゃないかなと思いました。

地方分権を進める契機に

大越キャスター: 和歌山県の保健所行政を取材しながら、国と地方の関係についても気付いたことがあります。このパンデミック、地方分権を進める契機になるのではないかということなんです。
田中キャスター: 地方分権はずっと叫ばれていますが、なかなか実感が湧かないですものね。
大越キャスター: 実際、地方に権限をできるだけ移すことによって、自治体が自立をする、そしてより住民の側に立った行政ができるようにするという法整備が進んできています。平成11年に成立した地方分権一括法がその背骨になっているのですが、それでも長い慣習の中で、国は国で権限をできるだけ持ち続けたい、地方自治体も相変わらず国の指示待ちというところは少なくないと指摘をされていました。
今回のパンデミックは、なかなか抜け出せなかった国と地方の上下関係を、対等の立場に変えてそれぞれの役割を果たすという、地方分権本来の姿を実現する転換点と捉えることができるのではないかと考えました。

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