歴史上の人物の病気を診る (2)源頼朝

22/06/07まで

健康ライフ

放送日:2022/05/10

#医療・健康#カラダのハナシ#ココロのハナシ#歴史#大河ドラマ

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【出演者】
早川:早川智さん(日本大学医学部 教授)  (聞き手:田中孝宜 キャスター)

源頼朝と歯周病

――今回のテーマは源頼朝です。源頼朝といえば鎌倉幕府を作った人として名高い人物ですよね。

早川: 大河ドラマでも大泉さんが大変いい味を出しておられます。源頼朝は平治の乱で平家に敗れてから、伊豆の蛭ヶ小島という所に送られまして、流人生活をおくっていたんですけれども、平家の政治に不満を持った皇族に挙兵を促されまして、平氏打倒の旗を挙げました。彼が33歳のころのことなんです。ちょうどそのころに清盛が病死したことで、平家は求心力を失いまして連戦連敗していきます。ついに1185年壇ノ浦で平家は滅亡してしまいます。全国を制覇した頼朝は1192年46歳の時に征夷大将軍に任ぜられまして、そして鎌倉に幕府を開きまして、史上初の武家政権を確立いたしました。しかしその7年後、突然53歳で亡くなってしまいます。

――頼朝が亡くなった原因の病気、早川さんの診断は?

早川: 歯周病による脳卒中です。

――歯周病による脳卒中、どういうことですか。

早川: 当時の書物である「武家俗説弁」(ぶけぞくせつべん)には「忽(たちま)ち卒中風さし起こり、病痾(しゅくあ)日を追て重く」なったと記されています。医学史家の富士川游博士は死因を脳卒中と推定しておられます。脳卒中の中でも血の塊が詰まる脳梗塞だと思います。ほかに慢性硬膜下血腫説、破傷風説などがありますが、私はやはり通説通り脳卒中。ただし一過性脳虚血発作、TIAと申しますけれども、これを起こしたのではないかと考えております。さらにそれを引き起こすきっかけになったのが歯周病ではないかと推察しております。

――一過性脳虚血発作とは何ですか。

早川: 一過性脳虚血発作と申しますのは、一時的に脳の血流が低下することで、しびれやめまい、運動機能障害そして言語障害などを起こすものでございます。大きな脳梗塞を起こす前兆とされております。彼は亡くなる2週間ほど前に、相模川で催された橋供養からの帰り道、落馬して体調を崩しました。その時一過性脳虚血発作を起こしたんじゃないかと考えております。一過性脳虚血発作は1時間以内に症状が消えることがほとんどですが、この発作を起こすと発症後90日以内に脳梗塞を起こすリスクが高いと言っております。単なる落馬と思ってやり過ごしたのかもしれませんけれども、その落馬が脳梗塞の前ぶれ発作によるもので、その後いよいよ重い脳梗塞を発症したんじゃないかと考えます。

――先ほど脳梗塞を引き起こすきっかけになったのが歯周病だ、とおっしゃったんですけれども、歯周病とどういう関係があるんですか。

早川: 「吾妻鏡」という鎌倉時代の歴史書があるんですけれども、源頼朝が亡くなる4年ほど前から歯の病気に苦しんでいた、ということが何度も書かれております。京都から有名な歯医者さんを呼んで治療したとは書いてあるんですけれども、当時のことですから何をしてもらったのかわからないんですが、その記述から頼朝は歯周病にかかっていたのではないかと推測しました。歯周病は口の中の局所の炎症だけでなくて全身のアテローム性動脈硬化、脳梗塞、糖尿病、こういった病気のリスク因子になっております。また頼朝の場合、亡くなる前に水を飲んで急に重症になったという記載もございます。歯周病がありますと口の中には雑菌がたくさんいますので、肺炎のリスクが高まります。歯周病から誤嚥(ごえん)性肺炎を発症したんじゃないかと考えております。

――つまり頼朝の死因の一番の原因なんですけれども、歯周病かもしれないということですね?

早川: 私はそのように想像しております。歯周病菌が動脈硬化や脳梗塞の原因になったり、糖尿病との関連性があるということは、最近になって分かってきたんですけれども、当時はまさか歯の痛みと、そういった命に関わる病気が関わるとは、誰も考えていなかったと思います。

――そのような病状から考えて、もし早川さんが頼朝の治療を行うとすればどんな治療を行いますか?

早川: まず一過性脳虚血発作を起こした場合には、一刻も早い治療が大切ですので、落馬したときに救急車を呼んで、呼べるとしたら呼んであげて、脳の血管のつまりをなくすために血液をサラサラにする薬を使います。梗塞ができていればカテーテルを入れて血栓を溶かす治療も有効です。しびれやめまい、ろれつが回らない、突然片方の目が見えなくなった、片方の手が上がらない、こういった症状がございましたら、ためらわず救急車を呼んでいただきたいと思います。一過性脳虚血発作の時点で適切な治療ができれば、その後の脳梗塞の予防につながります。あと大切なことは歯周病の治療です。血管がつまらないように薬で予防しましても、ほかのリスクをひとつひとつ取り除かないといけません。歯医者さんに歯周病の治療をしっかりしていただくようにお願いしたいと思います。

――落馬したときに早く見つけて治療ができていれば、脳梗塞を発症しなくて済んだかもしれないということですね。

早川: はい、そう思います。

――もし頼朝に適切な治療ができていたら、その後歴史はどうなっていたと思われますか。

早川: そうですね、将軍をリタイアしたあとも、まだ頼りない息子二人をしっかり後見し、北条氏や三浦氏、比企氏といった有力な御家人たちの権力闘争をコントロールし、源氏による鎌倉幕府がその後も続いたのではないかと思います。

鎌倉殿の13人

日曜日 総合 午後8時/BSP BS4K 午後6時

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【放送】
2022/05/10 マイあさ! 健康ライフ「歴史上の人物の病気を診る ②」 早川智さん(日本大学医学部 教授)

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