突然ですが、あなたは今どんな靴を履いていますか? デートの日だからハイヒール? 山登りに行くので登山靴? 休日はやっぱりスニーカー? ライフスタイルや用途によって選ぶ靴は変わってきますよね。では、国語辞典はどうでしょう? 同じ辞書をずっと使っていませんか? 国語辞典なんてどれも同じ! とは思っていないでしょうか?
実は国語辞典には、それぞれ編者のこだわり、編集方針があって、一つ一つ違うんです。また、言葉の意味以外にもたくさんの情報が詰め込まれていて、さまざまな楽しみ方があるのです。さあ、国語辞典を開いて、広くて深~い言葉の海、言葉の波を乗りこなしましょう!
【出演者】
タツオ:サンキュータツオさん
柘植:柘植恵水アナウンサー
タツオ:
ごきげんよう、漫才師、米粒写経のサンキュータツオです。
柘植:
ごきげんよう、アナウンサーの柘植恵水です。タツオさん、オープニングのあいさつ変わりましたね。
タツオ:
気づきましたか? さすがです。ありがとうございます。
柘植:
ちなみにタツオさんは国語辞典を持ち運ぶんですか?
タツオ:
持ち運びますね。
柘植:
どんなバッグですか?
タツオ:
常にいろんなことを想定すると、バッグの中身が多く、荷物が重くなっちゃうんですよ。だから手に持ったり肩にかけたりしたいんですけど、重くなる場合は、背負えた方がいいじゃないですか。でも最初からリュックにしちゃうと取り出すのが難しくて面倒くさいので、肩からかけられると同時に、ちょっと重くなったらリュックにもなるというカバンを使っています。
柘植:
さすが!
タツオ:
オタクはいろんなことを想定して生きていますので、もし道であの人に会ったら「あれ勧めなきゃ!」みたいな無駄な責任感で動いていますからね。
柘植:
いろんなモノが入ったバッグなんですね。
タツオ:
きょうも国語辞典を開いて、言葉の波を楽しみましょう。15分間マニアックな国語辞典トークにおつきあいください。それでは恒例の街頭インタビューからスタートしましょう。街行く人たちにこんな質問を投げかけてみました。もしもあなたが国語辞典ならこの言葉、何と説明しますか? 皆さんがどの言葉について説明しているのか想像しながらお聴きください。
- ハキハキ、モノをはっきりしゃべる。
- きっちりしている感じのイメージ。
- 物事をはっきり言う感じ。
- てきぱきしているに近いニュアンス。
- 歯切れがいいとか、テンポがいい。
- 古くからその地域に溶け込んでいるとか。よく江戸の人が言うんじゃない?
タツオ:
わかります? 正解の前にもう1つ街頭インタビューを聴いてもらいたいんです。実は別の言葉についても答えてもらっているんですけれども、最初に聞いてもらった言葉と対になるというか、よく使われる表現なんですね。ちょっと聴いてみてください。
- しつこい感じ
- 生粋ということ。純度が高いとか濃度が高いこと。
- 固まったような、凝固したような感じ。
- 混じり気がなく、誰が見てもそうというか、純粋にそこで育って、そこで生きたから、混じり気なしのそのもの。
- 濃いというか、ベテランみたいな。
- べったり大阪という感じ。
柘植:
しつこい? 凝固している感じ? 濃い? でも大阪って出てきましたよね?
タツオ:
生粋とか、混じり気ないとか出てきましたが、最初に聴いていただいた方には、江戸みたいな言葉が出てきましたよね。正解は、1つ目がちゃきちゃき、2つ目がこてこてでございました。
柘植:
なるほど。
タツオ:
柘植さん、ちゃきちゃきといえば?
柘植:
江戸っ子!
タツオ:
こてこての?
柘植:
関西人!
タツオ:
この人、こてこての関西人だなと思うときは?
柘植:
やっぱり関西の方のお笑い(漫才など)を見てると…関西弁とかの言葉ですね。
タツオ:
では、ちゃきちゃきの江戸っ子は?
柘植:
浅草のお店にいるお母さんみたいな、ちょっと早口でイキのいい感じ?
タツオ:
これ難しくないですか? 国語辞典さんたちの意見も聞いてみましょう。三省堂国語辞典 第八版の「ちゃきちゃき」は、純粋なこと。ちゃきちゃきの江戸っ子〔親子三代、東京の下町に住んでいる、というような人〕ということで、純粋性なんですね。さっき「こてこて」の方も、生粋とか純粋って出てきましたけど、あれ「ちゃきちゃき」が純粋ってことなの?ってところじゃないですか。
柘植:
辞書では純粋なことと書いてあるんですね。
タツオ:
「こてこて」を三省堂国語辞典で引くと、〔味や色などが〕くどいほどこいようす。こってり。俗語として、〔芸が〕上方ふうでくどいようす。また、徹底して大阪ふうであるようす。べたべた。ここには純粋という言葉が入ってなくて、やっぱりくどさ、濃さが入っています。
柘植:
こってりとかね。
タツオ:
で、2つ目の意味で徹底しているようすと書いてあります。そのほか、新明解国語辞典では「ちゃきちゃき」はこう説明されています。生まれなどが純粋にその流れを受けていること。明鏡国語辞典でも、生まれが正統であること。生粋。と書いてあります。
柘植:
正統とか生粋が「ちゃきちゃき」のほうでは多いんですね。
タツオ:
これは語源なんですね。ちゃきちゃきって漢字で書くと、嫡男とか嫡子の嫡なんですよ。嫡々が変化して「ちゃきちゃき」になったんです。だから正統に受け継いでいる人なので、ちゃきちゃきの江戸っ子っていうと、親子3代前くらい、もっと前からその土地に根ざしているということなんです。この原理でいくと、ちゃきちゃきの大阪人もありなんですよ。柘植さんはちゃきちゃきしてますか?
柘植:
“私こてこてしてます!” って言う人います?(笑)
タツオ:
「こてこて」も、岩波国語辞典だと、いやけがさすほどしつこく濃厚なさま。「こてこての上方漫才」と書いてあります。
柘植:
嫌気がさすほどって(笑)。
タツオ:
おなかいっぱいってことですよ。新明解国語辞典だと、見る人を辟易させるほど、必要以上に手が加えられている様子。こてこてと塗りたくる、飾りたくなるとかね。明鏡国語辞典だと、分量が多いさま。「こてこての」の形で、濃厚なさま、その性質が非常に強く感じられるさまを表す。「こてこてのとんこつラーメン」。つまり、濃厚なとんこつラーメンですね。集英社国語辞典なんてすごいですよ。必要以上に濃く塗りたてるさま。やっぱり、濃厚、おなかいっぱい、それ以上! というニュアンスが入ってるんですよ。
だから、何代も前というより、こてこての場合は状態なんですね。純度の高い大阪を煮詰めて、より大阪にした“カラメル”って感じですね。そういう特徴をより先鋭化させているのが「こてこて」で、「ちゃきちゃき」というのは何代も前からというイメージがあるみたいですね。辞典たちの悪戦苦闘している様子が伝わってきます。
柘植:
本当ですね。