【国語辞典サーフィン】幸せな気分になれる、自分の感覚に合うもの

23/07/08まで

国語辞典サーフィン

放送日:2023/07/01

#学び#勉強#お笑い

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突然ですが、あなたは今どんな靴を履いていますか? デートの日だからハイヒール? 山登りに行くので登山靴? 休日はやっぱりスニーカー? ライフスタイルや用途によって選ぶ靴は変わってきますよね。では、国語辞典はどうでしょう? 同じ辞書をずっと使っていませんか? 国語辞典なんてどれも同じ! とは思っていないでしょうか?

実は国語辞典には、それぞれ編者のこだわり、編集方針があって、一つ一つ違うんです。また、言葉の意味以外にもたくさんの情報が詰め込まれていて、さまざまな楽しみ方があるのです。さあ、国語辞典を開いて、広くて深~い言葉の海、言葉の波を乗りこなしましょう!

【出演者】
タツオ:サンキュータツオさん
柘植:柘植恵水アナウンサー


タツオ:
ごきげんよう、サンキュータツオです。

柘植:
NHKアナウンサーの柘植恵水です。

タツオ:
きょうも国語辞典を開いて言葉の波を楽しみましょう。15分間、マニアックな国語辞典トークにおつきあいくださいませ。本日も恒例の街頭インタビューからスタートします。街行く人たちにこんな質問を投げかけてみました。
もしもあなたが国語辞典なら、この言葉、何と説明しますか?
皆さんがどんな言葉について説明しているのか、想像しながらお聴きください。

  • 見た目に心地よさを感じるもの。
  • 形が整っている。
  • 透明感がある。
  • 見た目がきれい。
  • 心に鳥肌を立てるほど衝撃を受けること。
  • 自分がきれいだと感じたものや景色。
  • 幸せな気分になれる、自分の感覚に合うもの。

皆さん苦労している! 心地よいとか、見た目のきれいさとか、整っている感じとか・・・

柘植:
幸せな気分になれるとか。

タツオ:
正解は「美しい」です。

柘植:
「美しい」を言語化するのって難しいですよね。

タツオ:
「きれい」を説明した場合、「美しい」と「きれい」って何が違うんだ? 「整っている状態」と「美しい」って何が違うのか? そういうことも考えなきゃいけないですよね。

柘植:
「きれいな景色」とか「きれい」って使っていらっしゃる方もいましたね。

タツオ:
じゃあ、この「美しい」を国語辞典ではどう説明しているでしょうか。『岩波国語辞典 第八版』では「目・耳・心に、うっとりさせる感じで訴えて来る」
うっとりさせる感じでっていう、これがたぶん岩波的には「きれい」との違いなのかなって感じますね。

柘植:
そうですね。

タツオ:
『新明解国語辞典 第八版』の①の意味では「いつまでも見て(聞いて)いたいと思うほどその色・形や声・音などが、接する人に快く感じられる様子だ」。一瞬ではなく、ずっと見ていられるという、時間の感覚まで書かれているわけですね。苦労のあとがにじむなあ!
『三省堂国語辞典 第八版』①の意味では「心が引きつけられるほど、形や色、音などがいい。きれいだ」。心が引きつけられると書いてありますね。

柘植:
シンプルですね。

タツオ:
「きれい」と「美しい」というのは心が引きつけられるかどうかということかな? と思うのですが、柘植さんどうですか?

柘植:
「きれい」のほうが少しカジュアルというか使いやすい。「きょう、きれいな服ですね」とかわりと使いやすいですよね。

タツオ:
「きょう、美しい服ですね」と言うと、ちょっと重い感じがしますね。

柘植:
人に対しても「きれいな人だよね」って言えるけど、「美しい人だよね」っていうと、吉永小百合さんクラスの人じゃないと(笑)。

タツオ:
「美しい」っていうと、服だけじゃなく、姿勢とか生き方とかに使われるから、ちょっと重く感じますよね。

柘植:
トータル100点みたいな。

タツオ:
そこに目をつけた『明鏡国語辞典 第三版』は、使い方という項目で「美しい」は文章語的で重く、「きれい」は日常語的で軽いって書いてあるんです。美しいは重く、きれいは軽い。カジュアルというのはまさにそうですね。

柘植:
しかも美しいは、文章語的っていう表現。

タツオ:
『角川必携国語辞典』には「うつくしい」は、心にしみ入ってくるような美をいう。「きれい」は、表面的な美をいう。つまり、「きれいな服」っていうのは表面的なことであって、その人の生き方とか内面とかではないわけです。この場合、見た目の美しさの場合は「きれい」と言ったほうが的確かもしれないということを意味しているんです。「美しい」と「きれい」の違いを意識しながら「美しい」を説明しようと、国語辞典は必死なんです。『集英社国語辞典 第三版』の「きれい」③の意味で「汚れていなくて清潔なさま。手をきれいに洗う」。

柘植:
なるほど。

タツオ:
手をきれいに洗うのは、汚れていなくて清潔ということで、街頭インタビューでも「整っている」とか答えている人がいましたけれども、ちょっとそれに近いのかな。「美しく手を洗う」って言いませんもんね。

柘植:
「きれいに手を洗う」とか「部屋をきれいにする」とかかなり日常的ですね。

タツオ:
この表面的な感じとか清潔な様の「きれい」の場合は、例えば「ごはんをきれいに食べる」とかも言いますよね。それは「全部食べる」っていう意味にもなるから、乗せている器を清潔にするとか、表面的に何もなくすということで、全部の意味にもなるんですよ。そういった意味では「きれい」というのは、表面的というとちょっと悪いように聞こえるかもしれませんが、部分的に使われている「美」のことかもしれませんよね。

柘植:
似ている言葉だけど、私たちは自然と使い分けているんですかね。

タツオ:
アナウンサーが「きれいな発音ですね」って言われるのと、「美しい発音ですね」って言われるのどっちがいいですか?

柘植:
どっちも言われたことがないから(笑)。
どっちもうれしい! 言われてみたい!

タツオ:
「きれいな発音ですね」だと、整っているというか正しいという感じですが、「美しい発音ですね」だと、

柘植:
声質を含めトータルな感じですよね。

タツオ:
どっちか言われましょうよ(笑)。

柘植:
よーし、めざせ! 美しい日本語!

タツオ:
言葉の意味以外にも、言葉に関するいろいろ情報が辞典に載っていますので、こういったニュアンスの違いも楽しんでいただければと思います。国語辞典の苦労のあとをぜひ感じてください。

おたよりコーナー

最近、週末は図書館に行き、国語辞典を開いたりしています。国語辞典サーファーになるため、国語辞典を買いたいのですが、なかなか決められません。番組を聴いていても、ある日は、やっぱり『新明解』はおもしろいと思ったり、違うときは、最初のころよりだんだん『岩波』のことが好きになり始めてると気づいたりします。図書館で『明鏡』を手に取った時は、文字が見やすくていいなと思う浮気な自分がいます。どうやって決めるのが一番後悔しないでしょうか? 心変わりしていくのは、しかたないことでしょうか? 女性に対してはけっこう一途なのにな。(宮城県 パンダ豆さん 男性)

タツオ:
パンダ豆さんは、もう立派な国語辞典サーファーです。だっていろんな辞典をサーフィンしているじゃないですか。異性は1人にしぼったほうがいいですけど、国語辞典は何冊持っていても自由です。国語辞典はパートナー1人とかありえないですから、複数とつきあってください。いま出た『新明解』『明鏡』『岩波』、もう『三省堂』も入れちゃいましょう! 共同生活してください。生涯1人のパートナーだと、そのパートナーにうまくコントロールされてしまう人もいるわけですよ。柘植さんコントロールしてる側ですか?

柘植:
いいな~、国語辞典は(笑)。

タツオ:
やはり相談相手は複数いたほうがいいということで、あなたは立派な国語辞典サーファー認定でございます。

柘植:
もう1通紹介します。

おととしまで高校の国語教師をしていました。あるとき、授業で夏目漱石の『夢十夜』を読んでいたら「火箸(ひばし)」という言葉が出てきて、生徒に「火箸って何?」と聞かれました。金属製の長い箸のようなもので、それで火のついた炭を動かしたりするのだと説明したら、「トング」のようなものかと勝手に納得していました。「火鉢(ひばち)」も「火箸」も私は子どもの頃に使ったことがありますが、全く縁のない生徒には実像がわからないようでした。見たことも聞いたこともないものを言葉で説明するのは難しいと思った次第です。火にまつわるものとしては「火吹き竹」はアウトドアで使われているし、「かまど」はアウトドアだけでなく、キャラクター名として知られているので命脈を保ちそうですね。私は「蚊帳(かや)」を使ったことがありますが、これも説明するのは難しそうです。(茨城県 鉄塔男さん)

タツオ:
国語辞典って現代語の要素もありながら、ちょっと古めかしい言葉、それこそ今は使わなくなってしまっている「へっつい」とか、柘植さんも見たことないんじゃないかな? でも落語とかには出てくるし、昔の台所とかにあった窯(かま)とかも併設しているようなものですけれども、あれも説明するのが難しいですから。そういうときに調べて、ちゃんと載ってるのが国語辞典の役割でもあるんです。国語辞典は、現代語辞典の要素もあり、古語辞典の要素もあり、そして外来語辞典の要素もあり、いろいろな要素が入っているんですよ。

柘植:
今だけじゃないのね。

タツオ:
『岩波国語辞典』みたいに100年前に出版された古い言葉もわかるようにしてある辞典もあれば、それは前の版の仕事として、いまは現代語で分からない言葉をいっぱい載せている『三省堂国語辞典』みたいな辞典もあって、設計方針が全然違うんですね。もちろん『三省堂国語辞典』にも「へっつい」は載っていますけど、現代語に強い辞典と古語に強い辞典、両方あるといいかなと思いますね。


タツオ:
そろそろお別れの時間です。「美しいですね」と「きれいですね」、どっちを言われたらいいですか?

柘植:
1日考えていいですか(笑)

タツオ:
1日考えていいですか?(爆笑)
名言来ましたね、これ!

柘植:
ほめてもらえれば何だっていいですよ。「元気ですね」でもうれしいくらいです。

タツオ:
確かに、「月が美しいですね」より「月がきれいですね」のほうが、白さのイメージが引き立つじゃないですか。やはり表面的というのは、そこだけその内面とかにかかわらず、まず表面的な部分をすごく強調してるっていう意味でも、「きれい」があるとやはり便利なんですよ。

柘植:
伝わりやすいですよね。

タツオ:
日本で生まれて、日本語をしゃべってるうちに、知らない間に使い分けてるんですよね。国語辞典を読むと、そういうことをもっと自覚できるので、ぜひやってみてください。
皆さんからのメッセージやSNSで番組に参加することもお待ちしております。お悩み相談も待っています。また国語辞典を開いて、言葉の波をいっしょに楽しんでいきましょう!

柘植:
お相手はアナウンサーの柘植恵水と、

タツオ:
サンキュータツオでした。ごきげんよう。

国語辞典サーフィン

ラジオ第1 毎週土曜 午後0時45分

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【放送】
2023/07/01 「国語辞典サーフィン」

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