【国語辞典サーフィン】細かいところに妥協せず執着すること

23/06/10まで

国語辞典サーフィン

放送日:2023/06/03

#学び#勉強#お笑い

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突然ですが、あなたは今どんな靴を履いていますか? デートの日だからハイヒール? 山登りに行くので登山靴? 休日はやっぱりスニーカー? ライフスタイルや用途によって選ぶ靴は変わってきますよね。では、国語辞典はどうでしょう? 同じ辞書をずっと使っていませんか? 国語辞典なんてどれも同じ! とは思っていないでしょうか?

実は国語辞典には、それぞれ編者のこだわり、編集方針があって、一つ一つ違うんです。また、言葉の意味以外にもたくさんの情報が詰め込まれていて、さまざまな楽しみ方があるのです。さあ、国語辞典を開いて、広くて深~い言葉の海、言葉の波を乗りこなしましょう!

【出演者】
タツオ:サンキュータツオさん
柘植:柘植恵水アナウンサー


タツオ:
ごきげんよう、サンキュータツオです。

柘植:
ごきげんよう、アナウンサーの柘植恵水です。

タツオ:
きょうも15分間、マニアックな国語辞典トークにおつきあいいただきます。

柘植:
芸人で日本語学者、国語辞典コレクターのサンキュータツオさんに、さまざまな角度から国語辞典の楽しみ方を教えていただきます。

タツオ:
きょうも恒例の街頭インタビューからお届けしましょう。街行く人たちにこんな質問を投げかけてみました。もしもあなたが国語辞典なら、この言葉、何と説明しますか? 皆さんどの言葉について説明しているのか、想像しながらお聴きください。

  • 1つのことを突き詰める。
  • 細かいところに妥協せず執着すること。
  • 自分の思いが強く出ること。
  • 他の人よりも熱意を持ち、細かいところまで気にする。
  • 自分の考えに絶対的に基づいて物事を遂行すること。
  • 頭が固い人。
  • 融通が利かない。

タツオ:
「頭が固い」、「融通が利かない」というのがありましたね。

柘植:
「熱意を持って」とか言われると「熱中」かな? とか思ったんですけど。

タツオ:
プラスの意味もマイナスの意味も両方ありましたね。

柘植:
「妥協せずに」というのもありましたね。

タツオ:
「妥協せずに執着する」というのも、いいのか悪いのか?という感じですね。ヒントは動詞です。ラーメン屋さんに行くとたまに聞くやつです。

柘植:
あれか!

タツオ:
正解は「こだわる」です。

柘植:
“店主こだわりの”って言いますね。

タツオ:
アナウンサーとして「こだわる」っていう動詞、何か教育受けたりしてます?

柘植:
個人的に悪い意味だと思っていなかったのですが、目上の出演者の方が、台本に「〇〇さんのこだわりは?」って書いてあったら、「こだわりという言葉は使わないでくれ」と言われて、あまりいいニュアンスじゃないんだと思ったことはありますね。

タツオ:
特にお年を召した方の中には抵抗があるというか、一昔前はあまりいい意味では使われていなかったので、どうして細かい仕事をしているのに「こだわる」なんて言葉使うんだ!って言う人もいらっしゃるかもしれません。

さあ、国語辞典はどう説明しているのか、ちょっと見てみましょう。まず『集英社国語辞典 第三版』では「小さなことに心がとらわれる。拘泥する。」と書いてありますね。『明鏡国語辞典 第三版』の①の意味で「つまらないことに心がとらわれて、そのことに必要以上に気をつかう。拘泥する。」と書いてあります。つまり小さなこと、つまらないこと、そういうことをネチネチ考えているのが「こだわる」なんですね。

柘植:
なるほど~。

タツオ:
『岩波国語辞典 第八版』の①の意味で「ちょっとしたことにとらわれる」、やはりちょっとしたことなんですね。で、「元来は良い意味でない」と説明書きが添えられています。

柘植:
やっぱり良い意味ではなく、小さいこと、つまらないこと、ちょっとしたことに執着しているんですね。

タツオ:
ただ、最新版では最近の用法もしっかり入れてあります。「元来は良い意味でない」と書いていた『岩波国語辞典』も、②の意味では「特別の思い入れがある」。用例で「味と質にこだわる」を紹介しています。『三省堂国語辞典 第八版』の②の意味でも「つきつめて よく考える」、例として「この点にもう少しこだわってみたい」。③の意味では「自分の好みを深く追い求める」。用例では「ビールは銘柄にこだわる」と紹介しています。

柘植:
若い方はこちらの意味で捉えてる方が多い気がしますね。

タツオ:
むしろこちら側しかない感じですよね。いつごろからこの用法が広まったのかと申しますと、『三省堂国語辞典 第八版』に1980年代からの用法と書いてありました。

柘植:
新しい「いい意味」の用法ですね。

タツオ:
40年以上ということでいうと「まあそうか」ってなりますよね。でも、50代以上の人が「え? こだわるって昔はこんなんじゃなかったんだけどな」っていう違和感をお持ちだということですね。ちなみに、アナウンサーにやさしい用法ありました。『新選国語辞典 第十版』の「こだわる」には、「それほど重要とは思われない、ひとつのことに心がとらわれる」という説明のあとに用例で「アナウンサーの言い間違いにこだわる」。だから『新選国語辞典』的にはアナウンサーの言い間違いはそれほど重要ではないよと。

柘植:
やさしい!

タツオ:
「アクセントがちょっと違った!」「言い間違えた!」とかネチネチ言っている人に対して「うるさいな!」って言ってくれているんです。

柘植:
それほど重要じゃありませんから(笑)。

タツオ:
アナウンサー本人が言わないように(笑)。どうです「こだわる」は?

柘植:
若い人は使い方に気をつけたほうがよいかもしれないですね。目上の方に「〇〇さん、こだわっていますね~」と言って、カチンとされるかもしれないですね。

タツオ:
そうなんですよ。だから褒めているつもりで言っていたことが、相手を傷つけてしまう可能性もあって、こういった動詞のたぐいでも、時代によって意味がだいぶ変わってくることはあるんですよ。最近だと「忖度(そんたく)する」。昔はよい意味で使われていたのが、最近ではちょっと悪い意味で使われていますし。

柘植:
よい意味から悪い意味への逆バージョンですね。

タツオ:
よい意味から悪い意味になることもあるので、辞書は常に最新版を確認しておかないといけない。時代とともに言葉の使われ方、語彙(ごい)も変わっているというお話でございました。

柘植:
勉強になりました。

おたよりコーナー

サッカーの王様として知られ、昨年亡くなった元ブラジル代表選手の「ペレ」。その、ペレ選手の名前が「並外れた人物」という意味を持つポルトガル語としてブラジルの辞書に載ったそうです。ようするに「ペレ」イコール「別格の」「無比の」という意味になるんだそうです。このように人名が形容詞になった日本語はありますか? ご存じだったら教えてください。
(埼玉県・ディクショ・ナリ雄さん 50代)

タツオ:
ペレって形容詞なの? 「この料理ペレい!」とか言うの?(笑)
(そういう意味合いで)人名が辞書に載っているのは、日本だと「弁慶」ですかね。だいぶ古いですけど(笑)。
でも、ペレが亡くなったのは昨年の12月ですか? だいぶたつような気もするけど。

柘植:
このあいだですね。それでも辞書に載るんですね。

タツオ:
早い! このブラジルのノリ!

例えば、辞典に載る人名というのは基本的に亡くなってからなんです。で、亡くなってからその人物を項目に入れるかどうか精査して、じゃあどうやって記述するのか考えるんですけど、亡くなった瞬間に即入れたということですよね。このフレキシブルさというか速さっていうのは、やはりブラジルだなって感じます。

柘植:
あと、ペレだからというのもありますよね。

タツオ:
ポルトガル(語)って国語辞典と非常に密接なつながりがあって、日本の昔の言葉の発音とかがいま分かっているのはポルトガル人のおかげなんですよ。ポルトガル人の宣教師が日本で布教するために辞書をつくったんです。日本・ポルトガル対応の『日葡(にっぽ)辞書』っていうんです。その『日葡辞書』を自分の国に持ち帰り、別の宣教師に渡して「今度、日本で布教するときにこれを使いな」って徐々につくられたものなんです。この資料が見つかったことによって、江戸時代の言葉はどう発音していたのかローマ字で表記してあるので、(「日本」の発音が)「Nippon」なんだと分かったんですよね。そういった当時の日本語の発音とかアクセントとか意味などを調べるために『日葡辞書』って超一級資料なんです。まさにポルトガル人宣教師のおかげです。国語辞典の歴史の中でもとても大事な1冊なんです。

柘植:
ペレからいろんなことが広がってきましたね。

タツオ:
だから『日葡辞書』もペレです。ペレい辞典です! 別格の辞典です!

柘植:
タツオさんも辞書界のペレを目指してください。

タツオ:
それは無理! ふつうにサポーターでいいです(笑)。

柘植:
でも、人名を調べてみるのもおもしろいですね。

タツオ:
僕も『広辞苑』で赤塚不二夫先生の項目を書きました。

柘植:
えっ! そうなんですか?

タツオ:
亡くなったあとに赤塚先生の記述をつけ足したり、『のらくろ』を描いた田河水泡先生は落語作家でもあったので「落語作家としても有名・・・」みたいな項目を書いたりしました。百科事典には人名が載るので、亡くなったあとにチェックしてみてください。

柘植:
メッセージありがとうございました。
番組では国語辞典にまつわるエピソード、タツオさんへの質問、お遊び企画の「お悩み相談」もお待ちしております。

タツオ:
お遊び企画っていうところ大事ですよ。ガチな悩みを相談されても、答えるのは国語辞典ですからね。

柘植:
メッセージは、R1・ラジオ第1の「国語辞典サーフィン」のホームページからお願いします。また、SNSでは #国語辞典サーフィン をつけて投稿してください。

タツオ:
皆さん、アナウンサーの言い間違いにこだわらないように(笑)。

柘植:
おおらかにひとつよろしくお願いします。

タツオ:
感想を見るのが楽しみなので、皆さんもツイートなどお願いいたします。
「国語辞典サーフィン」、そろそろお別れの時間です。

柘植:
世代や時代によって意味が変わるということ、勉強になりました。それから「拘泥する」っていう言葉ですね。

タツオ:
拘泥は近現代の作家の小説によく出てきます。特に夏目漱石からはじまる内面描写とかで、自分は何に拘泥しているのか? とか、昔の作家を読むとけっこう出てくる言葉です。

柘植:
ちょっと日常生活で使ってみたくなりますね。

タツオ:
使ったら超かっこいいですよね。

柘植:
「ちょっと拘泥してみたいんだ!」

タツオ:
「あれ? きょうの料理どうした?」「みそに拘泥した!」みたいな(笑)。

柘植:
「ちょっとみそ汁に拘泥したんだけど、どうかな?」(笑)。

タツオ:
そこは「こだわって」でいいじゃん(笑)。

柘植:
皆さんも使って楽しんでください。

タツオ:
国語辞典を開いて、言葉の波を一緒に楽しんでいきましょう。

柘植:
ではまた次回お会いしましょう。お相手は柘植恵水と、

タツオ:
サンキュータツオでした。ごきげんよう。

国語辞典サーフィン

ラジオ第1 毎週土曜 午後0時45分

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【放送】
2023/06/03 「国語辞典サーフィン」

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