国語辞典サーフィン第三版

22/11/30まで

国語辞典サーフィン

放送日:2022/11/23

#学び#勉強

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ごきげんよう、サンキュータツオです。
突然ですが、もしもあなたが車を買うならば、どんな基準で選びますか?
家族と乗るならファミリーカー。アウトドアが好きなら4WD、街中を運転することが多いなら小回りのいい軽自動車。人によって選ぶ車は変わってきますよね。
では国語辞典はどうでしょう?
同じ辞書をずっと使っていませんか?
国語辞典なんてどれも同じ! と思ってはいないでしょうか?
実は国語辞典にはそれぞれ編者のこだわり、編集方針があって一つ一つ違うんです。
また、言葉の意味以外にもたくさんの情報が詰め込まれていて、さまざまな楽しみ方があるのです。さあ、国語辞典を開いて、広くて深い言葉の海、言葉の波を乗りこなしましょう。


【出演者】
タツオ:サンキュータツオさん
江崎:江崎史恵アナウンサー


タツオ: 改めまして、サンキュータツオです。漫才コンビ「米粒写経」としても活動している芸人なんですけれども、日本語の専門家、そして、国語辞典コレクターでもあるということで、この国語辞典サーフィンという番組やっているわけなんですけれども、これ特番でしてね。この国語辞典サーフィン、7月18日「海の日」の単発放送の特番だったので、うっかり夏に浮かれてサーフィンという番組名にしちゃったんですけれども、なんとビックリしたことに好評いただいて、11月3日「文化の日」に第二版を放送したわけです。そして今夜(11月23日)は、第三版の放送です。季節外れのサーフィンなんですけれども、国語辞典サーフィンは1年中できますから、番組タイトルはこのままでいきます。

第三版というのは、国語辞典の改訂版の言い方にならっていますが、国語辞典でこのスピードで改訂版を出していたら大変です。さて、これまで2回の放送で私といっしょに国語辞典サーフィンをしてきた柘植アナウンサーに代わり、今回はこの方がご一緒してくれます!
江崎: よろしくお願いいたします。アナウンサーの江崎史恵です。アナウンサー歴20年になります。タツオさん、私の長女がもうすぐ小学1年生になるので、ちょうど国語辞典を買わなければいけないと思っていたんです。
タツオ: 小学校の1年生ということで学習国語辞典ですね。いろんな有名な出版社から出ていますけど、基本的には教科書に載っている言葉を全部入れてくれているので、そんなに大差はないんですけど、コラム(読み物)が出版社によって全然違うんですよ。言葉の説明以外のところに書いてある、ちょっと言葉に興味持ってもらえるコラムが、出版社によって大分違うんです。例えば、「カタツムリとでんでんむしはどうして言い方が違うの?」「ゴミとクズって何が違うと思いますか?」などですね。
江崎: 考えるいい機会になりますね。でも、我が家には国語辞典が1冊しかありません。
タツオ: 1冊ですか、それは何色ですか?
江崎: 白です。
タツオ: 岩波国語辞典ですね。
江崎: しかも、中学1年生の時に買ってもらったものです。言い訳をすると、最近はオンラインに頼ってしまうので、きょうは紙の辞典の魅力をうかがいたくて・・・。
タツオ: オンラインでは何の辞書使っているんですか?
江崎: あの・・・確かにそこが・・・まぁ、いろいろ複数見るんですけれども、そこがちょっとズキンとくるところでございまして・・・。
タツオ: 先ほど言ったんですけど、コンビニに行くのに、ファミリーカー乗ってる人ってむだじゃないですか? つっかけで行くような距離に、ものすごい大きな車で乗りつけている。別に広辞苑とか大辞林が悪いわけじゃないんですけど、ちょっとした意味を知りたい人が、いきなりそんな大きな辞書を引くのって無理じゃないですか。でも、オンラインだと、いま自分が使っている辞書がどんな種類なのか分からないんですよ。オンラインでもアプリでもいいんですけど、なんという辞典で、どのような特徴があるのかは知っておいた方がいいと思います。

アパートとマンション

タツオ: 街行く人たちに、今回はこんな質問を投げかけてみました。

アパートとマンションの違いについて説明してください

タツオ: 江崎さんなら、アパートとマンションの違いをどう説明しますか?
江崎: アパートは、比較的古い建物でエントランスのようなところがない。マンションは、新しい建物でエントランスのようなところがある。
タツオ: じゃあ、マンションも築40年とかなるとアパートになっていくの?
江崎: だからエントランスが関係してくるんですよ。
タツオ: みんなが入るエントランスがあるかどうかなんですね。
江崎: 私の記憶だと、アパートはエントランスがなかったような気がするんです・・・。
タツオ: では、街の人はどう思ってるのかちょっと聞いてみましょう。

「アパートが普通の賃貸で、マンションは豪邸みたいな感じ」
「アパートは2階建てで、階段で上っていく感じ。マンションは背が高くて壁がぶ厚い感じ」
「アパートは木造。マンションは鉄筋コンクリート」
「マンションは大きい部屋があって、アパートは小っちゃい部屋の集まりです」

タツオ: なるほど~! これは味わい深いな。みなさん考えましたね。
江崎: みなさん同じイメージを持っている感じですね。
タツオ: じゃあ国語辞典くんに聞いてみましょう。

【岩波国語辞典 第八版】
アパート・・・内部が独立の住居に分かれ、その一つ一つに一家族ずつ住めるようにした建物。共同住宅。

マンション・・・中高層集合住宅。現在の日本で「アパート」との呼び分けは、木造か簡易鉄骨建築かのアパートに対し、鉄筋コンクリート建築でいっそう丈夫なものを言う。

タツオ: だからアパートは、簡易鉄骨建築まで含む。で、鉄筋コンクリート建築で丈夫なやつがマンション。日本は地震大国ですから、丈夫か丈夫じゃないかとか、鉄筋か木造かって結構大きいところなんですよ。

【三省堂国語辞典 第八版】
アパート・・・一つの建物を、借家式に分けて設備をした住宅。木造や軽量鉄骨のものをさす。

マンション・・・設備のいい中高層の(集合/分譲)住宅。

タツオ: つまり買うことができるということも入ってるわけですね。

【新明解国語辞典】
アパート・・・(共通の出入口がある)現代風の(二階以上ある)棟割長屋。

マンション・・・高級性を志向した高層アパート型の集合住宅。〔賃貸と分譲方式のものとがある〕

タツオ: 玄関が1個で1つの建物。中に何部屋かある。それを何人かに貸すのがアパート。だから棟割長屋。入口に注目したのは新明解でした。タワーマンションという言葉、明鏡国語辞典 第三版を引くと、20階建て以上のものって書いてあります。
江崎: 確かに20階以上が多そうですね。
タツオ: 街の人の声でも「2階建てがアパート、背が高いのがマンション」と言っていた人もいましたが、あながち間違いじゃないですね。日々、感覚的に分かっているものでも、説明するのは本当に難しいですね。

新しい言葉を採用するには

江崎: そろそろ新語・流行語大賞が発表される時期ですね。
タツオ: 江崎さんが注目されてる言葉はありますか?
江崎: 私は・・・Z世代ですね。
タツオ: それって去年の新語・流行語大賞ですよ(笑)。1年遅れじゃん!
江崎: そういえば「ラブラブ」という言葉が市民権を得て、2007年に広辞苑に載った時には衝撃を受けました。
タツオ: 広辞苑は一番遅いですからね。“死語認定”されないと入らないですからね。広辞苑は意図的に一番遅くしています。
江崎: わざとなんですね。
タツオ: 定着してみんなが使っている言葉か、「この言葉使わなくなったね」「この時期に使われていました」みたいな言葉を入れるんです。なので広辞苑には新語は入っていないんです。
江崎: 逆に早く載せる辞典はどこなんですか?
タツオ: 三省堂国語辞典です。改訂の度に何千語という新しい言葉入れて、何千語という古い言葉を落としていく、回転が非常に早い辞典です。街で拾った用例もいっぱいあるんです。江崎さん、アクリルスタンドは知らないでしょ? 「アクスタ」って言うんですよ。
江崎: アクリル板は知っていますが、アクリルスタンドは分かりません。
タツオ: キャラクターとかアイドルなどをアクリル板にプリントしたものをアクリルスタンドといいます。例えば、入場チケットに “アクスタ付き” というのもあります。このアクリルスタンドをテーブルの上に置くと、仕事しながらすぐ隣にその子がいるような感じになれるんです。フィギュアよりお手軽で安く、ずっとそばにいられる感じが人気なんです。グッズの最先端なんですよ。
江崎: アクスタは言葉として定着しますか?
タツオ: 僕は定着しているんじゃないかと思いますね。あとはこの言葉を辞書に入れる勇気があるかどうかですね。

付録1

【用例を楽しもう】

タツオ: 例えば「カレー」という言葉、三省堂国語辞典だと「カレーをかける」とか「カレーうどん」とか載っています。“江崎辞典”だとカレーはどう載っていますか?
江崎: カレーライス・・・難しいですね。
タツオ: いっぱいありますよ。北海道行って食べる「スープカレー」もあるでしょ。あとは「カレーまん」とかね。三省堂は「じゃがいものカレー煮」なんていう用例もあるんですよ。
江崎: じゃがいものカレー煮、なんかありそうですね。
タツオ: あるから入れているんですよ(笑)。新明解国語辞典は「欧風カレー」。ヨーロッパ風のカレーですね。
江崎: ちょっと品がありますね。
タツオ: あとは「ドライカレー」など、用例で分かるようになっています。岩波国語辞典は保守的だけど用例の最初に「グリーンカレー」をぶっ込んできたんです(笑)。

「お茶」も結構用例があって、明鏡とかだと「茶をいれる」「茶をたてる」と動詞、用例で載っているんです。用例とは説明の手間を省くために“こういうモノとくっつきます”という情報なんです。三省堂だと「来客にお茶を出す」とか「お茶にする」。休憩してお茶を飲むことですね。新明解は「茶柱」「粗茶」。岩波国語辞典には、ちょっと古風な使い方として「お茶を挽(ひ)く」があります。
江崎: お茶を挽くとは?
タツオ: 昔の芸妓さんとかですね、お客さんが来ないので、手が空いている人にお茶を挽かせていたので「きょうはお茶を挽いている」と言うと、きょうはお客さんがついていないとかさみしいということなんです。あと「茶にする」は、ばかにするの意味。「お茶をにごす」は、その場をとりつくろうとか、ごまかすという意味です。“こうやって使えばいいんだ!”と教えてくれるのが用例なんです。

国語辞典はステーキが好き?

タツオ: 「ステーキ」という言葉は、いろいろな言葉の用例に入ってるんです。例えば三省堂国語辞典の「結着」の用例は、「細かい肉を結着してサイコロステーキを作る」です(笑)。ステーキってありがたいんだなと思いますね。また、「ジューシー」で調べると「ジューシーなステーキ」です。「食べる」のちょっと丁寧な言い方「食する」の用例は、「ステーキを塩で食する」。なんか高い肉を食った感じですね。他にも「焼ける」という動詞の用例にも「瀬戸物が焼ける」「ステーキが焼ける」「パンが焼ける」と、どーうしてもステーキを入れてくるんです。ステーキへの憧れが詰まっているんです。
江崎: おもしろいですね(笑)。
タツオ: この辞典がステーキのことをどう思っているのか知ることができるので、用例もチェックしてみてください。

付録2

【デザインを楽しもう】

タツオ: 最初に国語辞典を買う中高生にとって、辞書のデザインはメチャクチャ大事です。
江崎: カバーというかケースも大事ですよね。
タツオ: 国語辞典の項目は、日本語とか国語学の専門家の方が書いていますが、編集者の一番大きい仕事はケースなどのデザインです。最初に手に取ってもらえるかどうかなんですもん。
江崎: それぞれ努力されているんですね。
タツオ: スタジオにいくつか辞書を並べていますが、それぞれ色が違いますよね。出版社でイメージカラーがあるわけです。アイドルみたいに赤、黄色、青、白、オレンジとか。ピンクがないくらいで戦隊ヒーローみたいな感じですね。
江崎: そのうちピンクも出てきそうですね。
タツオ: 一時期、集英社国語辞典が緑を出していました。なるべく手に取ってもらいやすい明るめの色、おしゃれな色っていうのを選んでるわけなんです。みなさんご存じの広辞苑は、黒の表紙(カバー)に白の箱ですね。でも、いろんな色の広辞苑を出しています。岩波国語辞典はクリーム色みたいな箱ですね。そして、ベネッセ表現読解国語辞典は黄色地に青の文字です。
江崎: おしゃれですね。
タツオ: 三省堂はオレンジ。新明解は赤。明鏡はきれいな水色という形になっています。
江崎: 幅広い世代の人が手に取ってくれそうですね。
タツオ: 若者に媚(こ)びてないけど、デザイン性も確かに感じられますね。そっけなくもないが、サービスし過ぎていないんですね。また、明鏡国語辞典の「つめ」と呼ばれる本のページを縦にした時に見える・・・
江崎: 側面の「あ・か・さ・た・な」の部分ですね。
タツオ: あかさたな・・・ってそれぞれ赤い印が付いていますけど、よく見てください。
江崎: 赤の印と黒い印があります。
タツオ: これは5つあるんです。つまり「あ」の2番目の黒は「い」。「か」の2番目の黒は「き」なんですよ。なので、50音が1発で引けるようになっているんです。
江崎: 作り手の思いがひしひしと伝わってきますね。
タツオ: いま岩波国語辞典 第八版がありますけど、やはり国語辞典は確実に3月に売れる本なんですよ。
江崎: 4月の入学前に合わせて売れますね。
タツオ: だから岩波は一瞬“キャラ変”した時期があったんですよ。まじめな委員長が、ちょっとはやりの服を着てお化粧した感じの瞬間があったんです。それが第七版の新版です。まず箱の色が革命的に変わってピンクなんです。しかも岩波国語辞典の文字も輝いているんですよ。で、箱から取り出してみると、ベロア素材のような紫で「岩波“キャラ変”したね!」「えっモテたいの?」みたいな感じでしょ?
江崎: でもいまのスタイルに戻ったんですか?
タツオ: 戻っちゃいました。やっぱり怒られたんじゃないですかね。「岩波がお化粧とかしちゃいけません!」とママや広辞苑兄さんに怒られたかもしれませんね。僕はこの第七版の新版が好きで何冊も持っているんです。書店に置いてあったプロモーション用の国語辞典も、岩波の国語辞典編集部まで行ってわざわざもらってきたんですよ。でこの編集者に「どうしてこんなデザインにしたんですか?」って聞いたんですよ。そしたら「女子高生に手に取ってもらいたかった」んですって。
江崎: これからも思いもよらぬ新しい辞典がポッと出てくるかもしれませんね。
タツオ: いきなり“キャラ変”するかもしれませんからね。国語辞典のデザインは、編集者のものすごい情熱が詰まっているので注目していただきたいと思います。
江崎: 国語辞典の“ジャケ買い”もいいかもしれませんね。
タツオ: 紙のにおい、紙の質、紙の色の違いも味わってください。
江崎: 余裕を持って国語辞典を相棒にしていきたいです。

国語辞典サーフィン第三版いかがでしたでしょうか。今回も気持ちよく波に乗れましたでしょうか。次の第四版、第五版と祝日放送がもしあるのであれば、みなさんの声ひとつにかかっております。ぜひ番組の感想など国語辞典サーフィンのホームページにお寄せください。

冗談だと思ってるでしょ? でも1回目に声があったから、こうやって第二版、第三版と続けられたわけなんです。NHKはみなさんの声が届く放送局だと思ってください。なので、また第四版でお会いできること楽しみにしております。

それではまたお会いしましょう。
米粒写経のサンキュータツオでした。


【放送】
2022/11/23 「国語辞典サーフィン第三版」 サンキュータツオさん

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