あきやまそうやくん(小学6年生・広島県)からの質問に、「岩石・鉱物」の西本昌司先生が答えます。(司会・柘植恵水アナウンサー)
【出演者】
西本先生:西本昌司先生(愛知大学教授)
藤田先生:藤田貢崇先生(法政大学教授)
そうやくん:質問者
――お名前を教えてください。
そうやくん:
そうやです。
――どんな質問ですか?
そうやくん:
「人工ダイヤモンドを細くしたら、素手で折れるのか」という質問です。
――そうやくん、どうしてこういう疑問がわいたんですか?
そうやくん:
えっ?
――岩石とかダイヤモンドとか、好きなんですか?
そうやくん:
はい。
――そうなんだ。先生に聞いてみましょう。西本先生、お願いします。
西本先生:
はい。そうやくん、こんにちは。
そうやくん:
こんにちは。
西本先生:
おもしろい質問、考えたねぇ。細長い人工ダイヤモンドの棒を作ったとしたら、手で折れるかということですよね。そうやくんはどう思う?
そうやくん:
折れるんじゃないかなと思います。
西本先生:
どうしてそう思うの?
そうやくん:
えーっと……なんとなく。
西本先生:
なんとなく、か、そうか。ダイヤモンドはとても硬いから、折れにくい気がする人も多いかなと思うんですけど、そうやくんは、折れるんじゃないかなと思ったんだね。
そうやくん:
はい。
西本先生:
答えを言うと、これは、あっさり折れると思います。
そうやくん:
おぉーっ。
西本先生:
おー(笑)、当たりだ! ただね、私も実際にやったことがあるわけじゃないから、絶対そうかと言われるとちょっと自信がなくて、もし、もし、だよ。バットぐらいのダイヤモンドができたら、それはさすがに手では折れないかもしれない。だから当然大きさにもよると思うし長さにもよると思うから、絶対とは言えないんだけれども、なぜそう思うかというと、ダイヤモンドには実は割れやすいという特徴があるからです。
そうやくん:
へぇ~。
西本先生:
その性質のことを「へき開」と言います。聞いたことない?
そうやくん:
ありません。
西本先生:
じゃあ、ちょっと言ってみて、「へき開」。
そうやくん:
へき開。
西本先生:
そう。漢字は難しいので、「へき」はひらがなでいいです。へき開というのは、それぞれの鉱物で「割れやすい方向がある」ということなんですね。
そうやくん:
あぁ。
西本先生:
だから、ある方向には割れやすいということなんです。ある方向に割れやすいというのは、その方向にたたいてやると、スパーンとまっすぐ割れるんです。
そうやくん:
おぉー。
西本先生:
へき開がない物質として代表的なのはガラスですが、ガラスはどんなふうに割れる?
そうやくん:
放射状に、くもの巣みたいになる。
西本先生:
そうそう。「貝殻状」と言うんだけど、貝殻の模様みたいに割れるのね。まっすぐに割れないんだよね。だけどダイヤモンドとか、他にもいろいろな鉱物があるんだけど、そういうのは、ある方向に力を入れるとまっすぐにあっさり割れるんです。私、実際に、ハンマーでダイヤモンドをたたいて割ったことがあります。
そうやくん:
へぇ~。
西本先生:
ちっちゃいやつをコツンとたたいただけでスパンと割れました。
そうやくん:
すごっ。
西本先生:
うん。これはおもしろいなと思って、一般の人にも割ってもらおうという教室を1回開いたことがあるんです。予算も限られているのでみんなに割ってもらうことはできないから、代表で1人にだけ割ってもらったんですけど、その人が力の加減とか当然わからなくて、パーンとたたいたら粉々になっちゃいました。
そうやくん:
ええっ(笑)。
西本先生:
それぐらい、実はダイヤモンドは割れやすいんです。そうやくんには知っておいてほしいんですが、「硬さ」と「もろさ」は違います。硬さというのは「硬度」とか「靭性(じんせい)」と言うこともあるんだけど、硬いから割れないんじゃなくて、硬くてももろいものがあります。逆に、やわらかくても割れにくいものがあって、それが金属。トンカチとかは逆に、ダイヤモンドをたたいてもダイヤモンドに傷はつけられるけれども、割れることはないですね。
そうやくん:
へぇ。
西本先生:
物質によって、それぞれ性質があるということですよね。おもしろいでしょ?
そうやくん:
はい。
西本先生:
そうやくんは、ダイヤモンドを人工で作ってみたらと思ったみたいだけど、人工ダイヤモンドでそんなに細い棒って、作れるんでしょうかね……。
――藤田先生、いかがでしょう。
藤田先生:
人工ダイヤモンドというのは……
そうやくん:
ジルコニウム。
西本先生:
おっ……。
藤田先生:
そうやくんは、どうやって人工ダイヤモンドを作るか、知っていますか?
そうやくん:
なんか、炭素とかジルコニウムとか、そういうものの組み方を立体的にしたりして。
藤田先生:
最終的には立体的になるけど、どんな状況にして作るか、知っていますか? ものすごく高い圧力をかけるのは知っていますか?
そうやくん:
はい。
藤田先生:
人工的にものすごく高い圧力に押し込めないといけないんですよね。押し込めるときに、細長くするのは技術的にかなり難しいような気がするんですけど、どうでしょうかねぇ……。球の形にして押し込めるというのが、圧力を一番かけやすいんですが、細長い形に圧力をかけると、一部は強くかかっても他の部分はあまりかからなくて、結局ダイヤモンドになれないような気がしますけど、どうなんでしょうねぇ。
西本先生:
そのあたり、私もよくわからないんですけど、なんとなく人工では作りにくいと思うんですが、実際に細長いダイヤモンドって、あるんですよね。
そうやくん:
へぇ。
西本先生:
天然で、もちろん手で持てるような大きさのものではなくて数ミリぐらいのものだったら、細長いダイヤモンドは見つかっているんですよ。
そうやくん:
おぉ~。
藤田先生:
自然界ではそういう条件が整うことがあるということですか。
西本先生:
そうなんでしょうね。だからどんな条件だと細長くなるかというのは、誰か調べているんでしょうか。ちょっと私もよくわからないんですが、もしかすると、そうやくんが将来、結晶の研究をしてもらうといいかもしれないです。いいテーマですよね。そうやくん、さっきジルコニウムとか口にしていたから、いろんなこと知ってそうだもんね。せっかくだからジルコニウムのことをちょっと言っておくと、もしかしたらキュービックジルコニアのことを思ってるんじゃないかなと思ったんだけど。
そうやくん:
あ、そうです。
西本先生:
やっぱりそう? キュービックジルコニアは、ダイヤモンドとは全然別の物質だからね。ダイヤモンドはどういう元素でできている?
そうやくん:
炭素です。
西本先生:
そうですよね。キュービックジルコニアは、ジルコニウムと酸素でできています。物質が違うので、あれはダイヤモンドではないです。ダイヤモンドそっくりなんだけど、別の物質だよっていうことは知っておいてください。
そうやくん:
はい。
――それにしてもおもしろい発想ですね。
西本先生:
こういうのを「思考実験」と言いますけど、実際にはやれないことを他の情報から頭の中で実験してみるのは、すごくいい科学の勉強法かなと思います。
藤田先生:
そうですね。
――ジルコニウムというのは?
西本先生:
元素の一種ですね。珍しい、すごくレアな元素で、酸化ジルコニウムというかたちになると、ダイヤモンドほどではないですけれども硬いです。ダイヤモンドのように光を屈折させて分散させるので、見た目にはダイヤモンドとそっくりです。ですからアクセサリーにすごくたくさん使われています。
そうやくん:
へぇ~。
――ジルコニウムとは別に、人工ダイヤモンドができることもあるんですか。
西本先生:
人工ダイヤモンドはいろいろな種類がありますね。同じように、物質としてはダイヤモンドとは違いますけれども。
――そうやくんの発想から、西本先生と藤田先生もいろいろ考えてくださいました。
西本先生:
おもしろいですよね、こういうのを考えるのは。(野球の)バットくらいのダイヤモンドが作れたら、本当におもしろいですよね。
――そうやくん、先生方が一生懸命考えてくださるような質問をしてくださって、ありがとうございました。
そうやくん:
ありがとうございました。
――さようなら。
そうやくん:
さよなら~。
西本先生:
さよなら~。
【放送】
2023/09/10 「子ども科学電話相談」