10時台を聴く
23/09/27まで

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すぎもととわくん(小学2年生・東京都)からの質問に、「心と体」の大日向雅美先生が答えます。(司会・中條誠子アナウンサー)

【出演者】
大日向先生:大日向雅美先生(恵泉女学園大学学長)
とわくん:質問者


――お名前を教えてください。

とわくん:
とわです。

――どんな質問ですか?

とわくん:
どうして心は傷つくの? なんで意地悪を言われると、意地悪をしちゃうんですか?

――どうして心が傷つくのかな。嫌なことを言われると、なんで自分も意地悪なことを言っちゃうのかな、ということですね。

とわくん:
うん。

――とわくんは、そんな自分を振り返っているんですね。大日向先生に詳しく聞いてみましょう。お願いします。

大日向先生:
はい。とわさん、こんにちは。

とわくん:
こんにちは。

大日向先生:
心が傷つく――とわさん、小学校2年生ね。とっても難しい言葉を知っていますね。感心しました。「心が傷つく」って、どんな気持ちになったことを言うのかな?

とわくん:
うーん……ちょっとわかんないかもしれない。

大日向先生:
そう、わからないのよ。私たち大人も、「心が傷ついた」とか言うんですけど、よくわからない。どうしてかというと、心って、見えにくいでしょう? 同じ傷でも、体の傷はわかりやすい。だから心の傷を考えるときに、体の傷を例えに考えてみましょうか。

とわくん:
うん。

大日向先生:
とわさん、体の傷、例えば転んだこと、ありますか?

とわくん:
あります。

大日向先生:
転んだらどうなった?

とわくん:
すごく痛かった。

大日向先生:
痛いわよねぇ。皮膚がむけちゃったりしました?

とわくん:
うん。

大日向先生:
血も出たりした?

とわくん:
うん。

大日向先生:
そう。「すごく痛かった」って、おっしゃったわね。「手とか足が痛い/心が痛い」と、同じように言うでしょう? それから、ひどく転ぶと骨折してしまうこともあるけれど、骨折まではしていないわね?

とわくん:
したことはある、左手を。

大日向先生:
えっ、したことあるの? あぁ、痛かったでしょう。「骨が折れる/心が折れる」という言い方もするの、知っていますか? 「心が傷つく」とか「心が折れる」って。

とわくん:
なんか聞いたことある。

大日向先生:
はい。痛みの程度も、軽く痛かったとか、ちょっと血が出ちゃったというのから、骨折したり、ひどい痛みまで、いろいろな段階があります。これは体の傷ね。もうちょっと、体の傷を考えてみましょうか。とわさん、どんなときに転んじゃった?

とわくん:
鬼ごっこしているとき。

大日向先生:
鬼ごっこしていて、お友達に押されたりしたの?

とわくん:
そのまま自分で滑って転んだ。

大日向先生:
自分で転んじゃったのね。私も時々あります。よそ見して歩いて何かにつまずいちゃったり。とわさんは、鬼ごっこね。あるいは全力で駆けて、「バスが行っちゃう!」とか言って転んじゃうこともある。こういうのは大体、自分が原因ですね。

とわくん:
うん。

大日向先生:
もう少し違う転び方もあるの。例えば、ものすごい人混みに出かけて押されちゃったとか、それからこれは本当に嫌なことだけど、ケンカして相手に突き倒されたり。そんなことは、まだないかな?

とわくん:
ある。

大日向先生:
あっ、あるの? こちらのほうは主に他の人が原因ね。ここまでは、体の傷を考えてきました。大丈夫?

とわくん:
はい。

大日向先生:
いままでご一緒に考えてきた体の傷を、今度は心の傷に移して考えてみましょうね。とわさんは、自分が原因で転んじゃったことがあるということでしたね。同じことが、心の傷にもあるんじゃないかなと思うの。例えば、「もっとうまくやれたのに努力が足りなかった」とか、「情けなかった」とか、思い当たる?

とわくん:
うーん……。

大日向先生:
「自分がもうちょっとこうすればよかったのに」と思う、心の傷もあるの。「寂しい」とか「がっかり」とかね。これは、何とか乗り越えること、したいわね。一方、お友達とか他の人が原因で、心が痛むこともあるの。例えば、うっかりしてとか、予想外で転ぶことがあるって、さっきお話ししましたね。心の傷も同じで、仲よしの友達に予想もしなかったことを言われて、「びっくり!」ということがあるの。いつもはそんなことを言う人じゃないのに、そう言われてショック、ということ、あるかな?

とわくん:
ある。

大日向先生:
ねぇ。いつもケンカしている相手だと、ひどいこと言われたら、それはそれでいい思いはしないけど心の準備ができているわけ。「あの子はいつも、ひどいこと言うんだもん」と心の準備ができているけど、仲よしの友達に思いがけず言われたら、傷つくわね。だから、うっかり転んで傷つくのと似たようなことがあるんです。こうして心の傷を考えたときに、一番つらい心の傷は、なんだろうか?

とわくん:
……。

大日向先生:
ねぇ。これも体の傷に例えて考えてみたいと思うんだけど、例えばケガをしているところをさらにぶたれたら、とっても痛いでしょう? スポーツなんかで相手の選手がケガをしているところを狙ったら、いけないわよね。「フェアじゃない」って、言うでしょう?

とわくん:
うん。

大日向先生:
心もそれと同じなの。自分が気にしているところ、それだけは言われたくないと思うところ、誰でも欠点はあるわね。そこをわざわざ言われたら、本当に嫌だと思わない? そんな経験はまだないかな?

とわくん:
うーん、ない。

大日向先生:
それはよかった……。これから大人になっていくと、自分でわかっていて気にしているのに、意地悪な人が言ってくる。「傷口に塩をすり込む」なんて大人は言うんだけど、傷口に塩をすり込まれたら、もう、痛いじゃない? 自信があれば、何を言われてもある程度は気にしないでいられるけれど、もちろん、よい気持ちはしませんよ。だけど、本当に自分も嫌だと思っていることが、これから増えてくるかもしれない。そのときにズバッと刺すように言われたら、心は痛くなります。折れます。

そうするとね、先ほどの2つ目の質問で、「意地悪されたら、なぜひどいことを言い返しちゃうんですか?」というのがありましたね。それは、それだけ心が傷ついている、ということだと思っていいの。悔しくて、言い返さずにはいられないということ。一番嫌だなと思ったことを言われて悔しくなるのは、自然じゃない?

とわくん:
うん。

大日向先生:
無理に我慢しなくていいと、私は思います。お友達を許せなくても、しかたがないと思います。ただね、だからといって、とわさんが相手のお友達に同じようなひどいことを言い返したら、自分を傷つけた人と同じ“嫌な人”になってしまうことも、あるわね。

とわくん:
うん。

大日向先生:
この質問をしてくださったのは、とわさん、ひどいことを言ってしまったあとの自分を、嫌いになっていたのかもしれないの。その辺の感性はすごく鋭くて、そして優しさが込められていると思うのね。自分を傷つけた人と同じことをする必要はないんだって、思っていいの。では具体的にどうしたらいいかを、最後に考えていきましょうね。例えば、体をすりむいたら、どうなる?

とわくん:
痛い。

大日向先生:
痛いね。そのあと、どうなる? お薬を塗ったり、ばんそうこうを貼ったりするかもしれないけれど、それほどひどいケガでなかったら、自然に治る力があると言われているのは知ってる?

とわくん:
うん。

大日向先生:
そうね。心も同じなの。焦らないで、すぐに言い返そうとしなくていい。「傷ついちゃったよ。僕の心、かわいそうだよ」と言いながら、少し待っててあげて。そしてできれば、できればでいいの。相手がどうしてそんなひどいことを言ったのかなって、ちょっと考えてみたらいいと思うのね。そうすると、そのお友達は悪気があって言ったんじゃないかもしれないじゃない? そうしたら、自分ももしかしたら同じことをしちゃうかもしれないなって思って、許してあげられる。

とわくん:
うん。

大日向先生:
だけど、「本当にあの子が言ったことは意地悪で許せない」と思ったら……ここからが大事なの。そんな人、相手にしなくていいの。そんな人、友達だと思わなくてもいいの。大事な自分を守ることを、最初にするのよ。これはね、「心の手当て」といいます。体の傷も「手当てする」というでしょう? ケガしたら、どうする?

とわくん:
薬塗ったり、ばんそうこうを貼ったり。

大日向先生:
そう。傷の手当てと同じでとっても大事なことだから、これだけは覚えてね。それは一人でしなくていいの。体の傷は、例えば、おうちの方とか保健室の先生が手当てをしてくださるんじゃない? 心も同じ。心が傷ついて痛いと思ったら、手当てをしてもらうの。自分一人で耐えなくていいのよ。おうちの方とか先生とか、信頼できるお友達がいたら相談していいの。我慢なんかしなくていいのよ。ひどいこと言われて心が傷つくのは当たり前。だからといって言い返さないで頑張っていたなら、それだけで偉いんだと、自分で思ってね。「悲しいよ。傷ついちゃったよ。どうしたらいいだろう?」って、周りの方に打ち明けて、いろいろ相談にのってもらう。手当てはみんなにしていただくということだけ、どうか覚えていてね。一人で頑張らないのよ。

とわくん:
うん。

大日向先生:
いいですか。ここまで長くお話ししたけど、わかっていただけたかな?

とわくん:
はい。

――とわくんは、そうやって周りの人に言えますか?

とわくん:
はい。

大日向先生:
よかった!

――とわくん、また何か心や体のことで気になることがあったら、どうぞ送ってくださいね。

とわくん:
はい。

大日向先生:
質問してくださって、ありがとう。

とわくん:
ありがとうございました。

――ありがとうございました。さようなら。

とわくん:
さよなら~。

大日向先生:
さよなら~。


【放送】
2023/08/02 「子ども科学電話相談」

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