9時台を聴く
23/09/27まで

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うえだなつきさん(小学5年生・兵庫県)からの質問に、「天文・宇宙」の本間希樹先生が答えます。(司会・中條誠子アナウンサー)

【出演者】
本間先生:本間希樹先生(国立天文台教授 水沢VLBI観測所 所長)
なつきさん:質問者


――お名前を教えてください。

なつきさん:
なつきです。

――どんな質問ですか?

なつきさん:
地球外生命体を探すために、酸素や水があるような地球みたいな星を探していると図鑑などに載っているんだけど、私は硫酸や高温や氷点下みたいな過酷な環境でも生きられる生き物がいてもおかしくないなと思うのですが、そういう星を探さないのはなぜですか?

――なるほど。これは質問というか、提案ですね。

なつきさん:
はい。

――本間先生に聞いてみましょう。お願いします。

本間先生:
はい。なつきさん、こんにちは。

なつきさん:
こんにちは。

本間先生:
ずいぶんいろいろなことを勉強しているみたいですね。地球外生命体を地球とは違うようなところで探したいという、そういう気持ちを持って質問してくれたんだよね。

なつきさん:
はい。

本間先生:
これは本当にすばらしい質問で、たぶん、なつきさんはいろいろなことを知っていると思うので、ちょっと難しい話というか重要な話を、せっかくなのでしたいと思います。要するに、これは研究だよね、地球外に生命がいるかどうかを探したいという。

なつきさん:
はい。

本間先生:
研究というのは、ちょっと難しい言葉になっちゃうんだけど、仮説と検証で成り立っています。「仮説」というのは、こうなんじゃないかなという考えを、まず立てること。今のなつきさんの例で言うと、硫酸の中でも住める生命がいるんじゃないかとか、氷の中でも生きていける生命がいるんじゃないかとか、これが仮説ですよね。

なつきさん:
はい。

本間先生:
仮説を出しただけではダメで、検証する必要があります。「検証」というのは、本当かどうかを確かめることだよね。例えば私たちのような観測天文学者だったら、宇宙を望遠鏡で見て、実際にどうなっているのかを確認する。あるいは惑星探査の人だったら、人工衛星を飛ばしてその惑星に行ってみて、その仮説が正しいかを検証する。これで科学が成り立っているんです。ここまで、ついてきてくれたかな?

なつきさん:
はい。

本間先生:
今、普通に生命体を探すときに酸素や水がある惑星を探すのも、実はある種の仮説なんです。地球には、もちろん生命体がいるよね。植物もあって動物もいて。地球と同じように酸素や水がある惑星があったときに、そこには宇宙人……宇宙人と言ったら言い過ぎだね。生命体がいるだろうという、これも仮説で、まだ確認されていないので、これから調べていくんだよね。

なつきさん:
はい。

本間先生:
それに対して、なつきさんが提案した、硫酸の世界の中にも生命がいるんじゃないか、あるいは氷の中、氷点下の氷の世界でも生命がいるんじゃないか、これも仮説なんです。さっきのとこの2つの仮説を比べると、どちらが大胆だと思います?

なつきさん:
私のほうが大胆だと思います。

本間先生:
そうですね、そうなんです。大胆な仮説を立てることは、科学にとってすごく大事なの。だから、なつきさんがこういうことを言ってくれるのは大事です。
だけど、大胆な仮説は、検証するのも大変だよね。

なつきさん:
はい。

本間先生:
例えば、地球には酸素と水があって、その上で生命が暮らしているということを僕らはもう知っているので、酸素と水があれば、ある条件が整うと生命が誕生することは証明済みなわけだよね。実証済み、検証されている。でも硫酸とか氷の世界になると、生命が本当に誕生するかどうかはまだはっきりわからないので、可能性はもちろん否定できないけれど、これはより大胆な仮説になる。大胆な仮説だからといって間違っているかどうかはもちろん今はわからないんだけど、でもそれが本当に当たる可能性も、もしかしたら低いかもしれないよね。

なつきさん:
はい。

本間先生:
ここは難しいんだけど、科学者としては、どちらかといえば大胆ではない仮説をまずしっかり検証して、それがダメだったら、次により大胆なもの、今までと考え方を変えたものを検証していきましょうと、そういうふうになりやすいんです。

なつきさん:
はい。

本間先生:
特になつきさんが興味を持った、生命を探す作業というのは、ものすごく大変なんです。例えば太陽系以外の惑星を詳しく観測しましょうというと、巨大な望遠鏡がいりますよね。それから、人工衛星に乗ってどこか太陽系の他の惑星とか衛星に生命を探しに行きましょうということで人工衛星を打ち上げると、ものすごい予算がかかります。例えば人工衛星は、1発上げると100億円とか数百億円、場合によっては1,000億円かかっちゃいます。1回で2台も3台も上げられないし、どうしても予算や研究者の数にも限りがあるので、1台しか上げられないんだったら、まずあまり大胆ではない仮説、どちらかというとリスクが低い、と言ったらいいかな。外れる可能性がたぶん低いんじゃないか、当たる可能性が高いんじゃないかなというほうに、まず行くんです。

なつきさん:
はい。

本間先生:
だから今の地球外生命体の探査というのは、まずはやっぱり地球に似た環境のものを探して、そこに生命がいるかを明らかにしたいというような流れでやっているわけです。でもそうして地球に似たものばかり探しても、見つからないかもしれないよね。そのときに別の可能性として、なつきさんが提案したような全然違う環境を探してみる。こういうことが、実際に起こると思います。だから、「どうして地球に似た環境ばかり探すんですか?」という質問の答えとしては、「まず、地球に似た環境を探している」、それが答えなんじゃないかな。一方で、なつきさんのようにより大胆な仮説を提唱することがすごく大事で、それももちろん、例えば次のステップ、あるいは次の次のステップとして検証していく。そういう流れになるんじゃないかと僕は思います。

なつきさん:
はい。

――なつきさんも、生命体を探してみたいんですか。

なつきさん:
はい。

――そうですか! なつきさんが研究者になるころには、先生、何か新しい動きが?

本間先生:
この分野は、本当にこれからおもしろいです。なつきさんはすごく目のつけどころがいいなと思ったんですけど、地球外生命はたぶんどこかにいるだろうと思われていて、でもどういう環境なのかは、さっき言ったようにまずは地球に近いところから探査が始まるんです。そこで見つかれば、もちろん大発見でいろんな進展がありますし、見つからなかったらまた別のところへという、本当にこれから楽しみな分野ですね。

――先生のお話を聞いて、なつきさんはどうしたいと思いましたか。

なつきさん:
地球みたいな星にも地球みたいじゃない星にも生命がいる可能性はあって、だから星空を見るときに、どこかにいるんだろうな、って。

本間先生:
あぁ、すばらしいですねぇ、それはね。

――お金がかかったり巨大な望遠鏡が必要だったり、いろいろ困難はあるかもしれないけれど、空に思いをはせ続ければ、誰かと力を合わせて新しいことができるかもしれないですもんね。

本間先生:
そうですね。なつきさん、大胆な仮説を立てるということは、時として科学を非常に大きく進展させるので、外れることも多々ありますけれども、そういう気持ちはぜひ大事にしてほしいなと思います。

なつきさん:
はい。

――なつきさん、おもしろい質問、提案、どうもありがとうございました。わかりましたか?

なつきさん:
はい。

――また何か質問があったら送ってください。ありがとうございました。さようなら。

なつきさん:
はい。さよなら~。

本間先生:
さよなら~。


【放送】
2023/08/02 「子ども科学電話相談」

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