10時台を聴く
23/09/26まで

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ひらかわゆうとくん(小学1年生・東京都)からの質問に、「水中の生物」の林公義先生が答えます。(司会・柘植恵水アナウンサー)

【出演者】
林先生:林公義先生(北里大学海洋生命科学部講師)
篠原先生:篠原菊紀先生(公立諏訪東京理科大学教授)
ゆうとくん:質問者


――お名前を教えてください。

ゆうとくん:
ゆうとです。

――どんな質問ですか?

ゆうとくん:
僕はおうちで金魚を飼っています。でも、餌をやるときだけうれしそうにして食べて、餌が終わっちゃうとつまんなそうに(笑)、しています。どうしたら楽しく暮らせるようになりますか? お風呂に一緒に入ってあげたらいいんですか?

――ゆうとくんは、いつぐらいからその金魚を飼っているんですか?

ゆうとくん:
4月ぐらい。

――何匹飼っているんですか?

ゆうとくん:
1匹。

――名前は付けているの?

ゆうとくん:
きんちゃん。

――きんちゃんっていうんだ! では先生に教えていただきましょう。林先生、お願いします。

林先生:
はい。ゆうとくん、こんにちは。

ゆうとくん:
こんにちは。

林先生:
きんちゃん、餌を食べ終わっちゃうと、つまらなそうにしてる?

ゆうとくん:
うん。

林先生:
きんちゃんがどういう状態のときに、つまらなそうだなって思う?

ゆうとくん:
いつも餌が終わっちゃうとボーッとしてるから、そういうときに思っちゃう。

林先生:
なるほどねぇ。1匹で飼ってると言ってたね。水槽はどんな大きさ? かなり大きい?

ゆうとくん:
30cm。

林先生:
きんちゃんは今、体の大きさはどのくらいになっていますか? 頭から尾っぽの先ぐらいまで。

ゆうとくん:
5cm。

林先生:
30cmの水槽に1匹か……うん、ちょっと寂しいかもね。きょうは「心と体」の篠原先生もいらっしゃるので、あとで先生にも聞いてみようと思っているんですけど、僕ね、実は高校生のときに、生物部というクラブ活動に入っていて、金魚を使って実験したことがあるんです。それをまずちょっとお話ししますね。いいですか?

ゆうとくん:
はい。

林先生:
どういう実験かというと、金魚を見ていると、餌を食べるのがすごくうれしそうじゃない? それで、ゆうとくんが飼っている水槽と同じ30cmぐらいの水槽の中に、金魚を1匹だけ入れて実験したんです。水草も石もなんにも入れないで、使うのは湯飲みだけ。「湯飲み」って、知ってる? それでお茶なんかを飲むんだけど、ひっくり返すと、「高台(こうだい)」っていう、下に置いたときに倒れないようにする小さなお盆みたいな部分があるんです。そこに餌をのせて食べさせるという実験をやったんです。水槽は、四角い格好をしているよね、長方形の。

ゆうとくん:
はい。

林先生:
まずその長方形の真ん中に湯飲みを沈めて、高台という小さなお盆みたいなところに、沈む餌をポンと入れるの。金魚は最初、その周りをぐるぐる回りながら餌を食べて、何個か食べさせたら終わりにして、それを1週間ぐらい続けたの。真ん中だと自分の体がガラスに映らないから、安心して餌を食べるだけなんです。次に、今度はガラスの隅っこ、4か所あるでしょう?

ゆうとくん:
うん。

林先生:
隅っこのほうに湯飲みを置いて餌をやるの。今まで真ん中で食べていた金魚は、同じ餌でも急に場所が変わるとすぐには行かないんです。餌の周りに行ってキュッとターンしてみたり、欲しそうにして行っても、「どうしようかな、食べようかな。でも、いつもの場所と違うな……」という感じが、外から観察しているとわかるんです。でも最終的には、おなかが空くからパクッと食べるの。「ここで食べても大丈夫だ」というような感じになるんです。

それを1週間続けたら、例えば左にあったやつを右のコーナーに、というふうに、今度は違うコーナーに置くの。するとまた前と同じように、「さぁ、どうしようかな。ここにあるのは餌なのかな?」ということをやる。そして今度はガラスの側面、ガラスのある面に置くと、自分の姿が映るから、真ん中や角に置いたときよりも餌を取って食べるのに時間がかかったの。近づくんだけど、ガラスが鏡になって自分の姿が映るんだよね。そうすると、「あれっ、こいつ誰だ?」って。きっと金魚は、自分の顔を見たことがないからね。

ゆうとくん:
はい。

林先生:
ガラスに映っているのは自分の顔なんだけど、「敵だ!」とか思うの。その敵の顔が、自分が餌を食べようかなと思っていると近づいてくるんだけど、餌を食べても何もしてこないから、「このお友達は大丈夫なんだ」と思う……そんな実験をしてみたんです。これは例えば頭の中で「大丈夫だ」と思うことだとかを学習する能力が魚にもあるということが1つと、大丈夫だと学習して餌を食べるということは、つまり餌を食べればうれしいんだよね。ゆうとくんも、自分の金魚が一生懸命餌を食べたあとにつまらなそうにしていると、言ってたよね。要するに、魚にも感情みたいなものがあるんじゃないかなということが、僕はそのときの自分の実験でわかったんです。それと同じような状態をいろんな人が観察した例があるので、2つ紹介しますね。

まず、3匹で飼っていた金魚のうち、2匹を別の水槽に移して1匹だけにしちゃったの。そうしたら1匹になった金魚が泳ぐのやめて、具合が悪そうになって病気になる直前までになっちゃった。それで、もともといた2匹を同じ水槽に戻したら、すぐ元気になって一緒に泳ぎ始めた。だから、今まで3匹だったのが1匹になっちゃって、どちらかというと寂しいという感情がひょっとしたらあるのかもしれないって、その人の観察記録にはあるんだよね。

ゆうとくん:
はい。

林先生:
それからもう1つ。これはね、すごいんだ。種類の違う金魚が同じ水槽に2匹いたんだけど、1匹が泳ぎにくくなっちゃった。金魚はおなかにガスがたまると、背中とおなかが逆転しちゃって泳ぎにくくなるんです。でもいきなり逆転するんじゃなくて、最初は横に泳いだりして餌が食べにくくなるんだよね。飼っている人は、浮いている餌をやれば一生懸命来て食べるんじゃないかと思っていたんだけど、何でもないほうの金魚が餌を食べ終わっても、食べられないほうの金魚は餌の周りをグルグル回るだけで、体がどうしても元に戻らないんだって。そしたらね、食べ終わった金魚が、餌を食べられないでいる金魚を、食べられるところまですうっと持ち上げたんだって。すごいことだと思わない?

ゆうとくん:
はい。

林先生:
こういうことをするのは、仲間の金魚が餌を食べられなくてかわいそうだなと思うからじゃないのかなって、僕は解釈するんです。だからそういう、なんて言うかな……感情を持っているんじゃないかなと僕は思うから、結果的に言うと、ゆうとくんの1匹の金魚にも、お友達を入れてあげたほうがいいかもしれない。ちょっと篠原先生に、その結果について聞いてみましょうか。篠原先生、お願いします。

篠原先生:
はい。ゆうとくん、こんにちは。

ゆうとくん:
こんにちは。

篠原先生:
難しいことを振られたんですけど(笑)。これはおじさんの考えで、他の人もみんな同じように考えるかどうかはわからないけど、移動する、動く生き物は、だいたい気持ちの根っこみたいなものがあると考えるのが正しいと思っています。というのは、「そこへ移動するといいことが起きる」とか、「そこに行っちゃうと危ないよ」とか、そういうことを判断するわけだから、それはたぶん気持ちの大本になる話だと思うので、移動する生き物にはだいたい気持ちの根っこみたいなものがあるんじゃないかと思います。今、ここで大事なのは、共感に近いようなことが魚にもたくさん起きているらしいという話で、そういうのもいろいろな動物で観察され始めているので、結構あるのかなという気はしています。

ゆうとくんの質問の、「金魚が心地よく過ごすには……」という話に戻ると、人間の場合でも、何かいいことに対して「近づこう」という気持ちと、ちょっと嫌なことが起きそうだから「遠ざかろう」という気持ちがあるんですけど、その中間の気持ちというのもあるんですね。近づくでもなく遠ざかるでもなく、ただうすらぼんやりしているみたいなのが、実は結構心地よかったりするのもよく知られているんです。だからその金魚ちゃんも、なんだか寂しそうにしているようなときも、実は結構癒やされているというか幸せである可能性もあるので、なんでもかんでも「ワ~イ」って近づいていくことだけが楽しいということには、ならないかもしれないな、とは思いました。

林先生:
篠原先生、ありがとうございました。ゆうとくん、おもしろい話を聞けましたね。

ゆうとくん:
はい。

――ゆうとくんのところは1匹だから、仲間を増やしたほうがいいかもしれないということですね。

林先生:
そうですね。ゆうとくん、実はおもしろい話がもう1つあるんだけど、スイスという国、知ってる?

ゆうとくん:
はい。

林先生:
スイスではね、金魚だけじゃなくて例えばインコやモルモットでも、自分の家で飼育するときは必ずペアで、2匹で飼ってくださいという法律があるんですって。僕もこれは知らなかったので調べてみたら、つまりこれは1匹だと寂しいということにもなるし、繁殖のためにはオスとメスの2匹でということで、もし2匹のうちの1匹が死んでしまったりすると、ペット屋さんが同じくらいの年齢とか大きさの金魚なりそういうものを、貸してくれるんだって。

まあ、この法律とは関係ないけれど、金魚はもともと、フナから作った品種なんだよね。フナというのは、川とか池とかでわりと小さな群れを作って一緒に生活している魚なんです。1匹が危険を感じると同時にわあっと逃げたり、1匹が餌を探すとそこでみんなで一緒に食べたり、そういう基本的な行動を持っているから、1匹だけより2匹で飼うのがいいかもしれない。金魚は品種だから、多く飼うとまた問題が出てくるかもしれないから、同じ和金を2匹飼ってみたらどうでしょう。それから、お風呂に一緒に入るというのは、絶対やめてくださいね。金魚の赤いのは、ゆだっているわけではありません。色素が赤いんですね。プールみたいなところはいいかもしれないけど(笑)。

――きんちゃんの仲間を入れてあげる。お風呂はやめてね、ということですね。

林先生:
まあでも、水槽からは出さないほうがいいでしょうね。

ゆうとくん:
はい。

――ゆうとくん、質問してくれてありがとうございました。

ゆうとくん:
はい。ありがとうございました。

――さようなら。

ゆうとくん:
さよなら~。

林先生:
さよなら~。


【放送】
2023/08/01 「子ども科学電話相談」

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