とよたあいさん(小学6年生・富山県)からの質問に、「鳥」の川上和人先生が答えます。(司会・柘植恵水アナウンサー)
【出演者】
川上先生:川上和人先生(森林総合研究所 野生動物研究領域 鳥獣生態研究室長)
小菅先生:小菅正夫先生(札幌市円山動物園参与)
あいさん:質問者
――お名前を教えてください。
あいさん:
あいです。
――あいさんは、どんな質問ですか?
あいさん:
「鳥はおよそ何kmまで飛び続けるの?」です。
――あいさんの予想はどれくらいですか?
あいさん:
100kmくらいかな。
――100kmぐらいと思っているんですね。川上先生、お願いします。
川上先生:
はい。どうもこんにちは、川上でーす。
あいさん:
こんにちはー。
川上先生:
あいさん、100kmって、結構遠いよね。
あいさん:
はい。
川上先生:
鳥ならそれくらいは行けちゃうんじゃないかなというご意見でした。じゃあ実際にどのぐらいかというと……一番遠くだとどこまで行けるのか、みたいな記録って、結構楽しいよね。鳥が飛ぶ長距離記録も、結構みんな楽しみにしているんです。実は去年、その記録が更新されたので、最新情報があります。それはオオソリハシシギという鳥なんだけれども、この鳥に、人工衛星で電波を捉えることができる小さい機械をつけました。実際にどのぐらいの距離を、どこからどこまでどのぐらいのスピードで飛んでいるかを追跡する装置です。それで調べた結果、100km、なんていうものではありませんでした。どれくらいだと思いますか? 100kmよりも長いです。どのぐらいまで行くと思いますか?
あいさん:
うーん、500kmぐらい?
川上先生:
もっと長いです。ちなみにこの記録を更新した鳥は、体重が300gぐらいだと思ってください。それが500km以上……もう、答えを言っちゃいますね。なんと1万3,500kmぐらい飛びました。
あいさん:
はっ!
川上先生:
すごいよね。1万3,500kmの間、地上に下りることなく飛び続けたんだって。
あいさん:
はっ!
川上先生:
富山県からそのぐらいの距離を飛んだら、どこまで行くと思います?
あいさん:
うーん……
川上先生:
想像できないよね。南極ぐらいまで着いちゃいます。
あいさん:
えっ!?
川上先生:
だから、あいさんが富山から頑張って南極まで行くぐらいの距離を、11日間かけて飛んだという記録があります。北アメリカの端、アラスカで生まれた鳥に発信機をつけて飛ばしたら、オーストラリアの南側にあるタスマニアまで飛んだんですって。それが、今のところ最長記録です。これは11日間なんだけれども、ちなみに距離じゃなくて、どのぐらいの時間、飛び続けられるかという記録もあります。これもちょっと想像してみてほしいんですが、鳥は1回飛び始めてから、地面に下りずにどのぐらい飛び続けることができると思いますか?
あいさん:
えーっと……
川上先生:
想像、想像。1か月ぐらいいけると思う? 長すぎるかな?
あいさん:
はい。
川上先生:
ちょっと長すぎると思うよね。ところが実は、10か月という記録があります。
あいさん:
えっ!?
川上先生:
とんでもないよね。これはヨーロッパアマツバメという鳥です。この鳥も渡り鳥で渡りをするんだけれども、繁殖が終わると巣から飛び立って、ヨーロッパから南のアフリカのほうに飛んでいきます。アフリカに行って冬を越すんだけれども、冬を越す間ずっと飛び続けて、空を飛びながら食べ物を食べて、飛びながら寝ちゃうんだって。そして飛びながらそのまま北に帰ってきてまたヨーロッパで繁殖をする。これは、スウェーデンの研究で確認されています。この鳥は10か月間地面に下りなかったことがわかった、という記録です。
あいさん:
へぇ~、すごい。
川上先生:
鳥ってすごいよね。鳥以外はどうなのかも気になるので、ここに哺乳類の研究をしている小菅先生がいるので、せっかくなのでちょっと聞いてみていいですか。
あいさん:
はい。
川上先生:
小菅先生、哺乳類だとどのぐらいの距離、飛ぶのは難しいかもしれませんけれど移動するんでしょう。
小菅先生:
あいちゃん、こんにちは。
あいさん:
こんにちは。
小菅先生:
小菅です。特に陸上にいる哺乳類は、距離といってもそんなに移動しないんだけど、鳥の話を聞いて、おじさん、びっくりしたもんね。
あいさん:
ふふっ。
小菅先生:
走っても、陸上にいる哺乳類はそんなには無理。だけどクジラは結構、泳いで遠くまで行ってるよ。小笠原って、知ってるよね。
あいさん:
はい。
小菅先生:
小笠原でザトウクジラが子育てをしているんだけど、子どもを連れて餌をたくさん食べに行く場所が、北のほうのアリューシャン列島というところなんだよ。そこでとにかく子どもがたくさん食べて大きくなる暮らしをするんだけど、大体その距離、6,000kmぐらい。ただ鳥は下手したら落ちるけど、鳥と違って海の水に浮かんでいるから、沈むことはあるかもしれないけど基本的にはプカプカ浮いているし、しかも絶対上陸しないからね。 それでもずっと移動し続けているという点では、クジラはわりと長いんじゃないかな。長距離を移動していると思うんですよね。
川上先生:
ありがとうございます。さっきの鳥の例は一番長いやつで、今のクジラも長いやつという感じだけれども、普通の鳥はどうかというのも、考えてみたいと思います。例えばスズメは、どれくらい飛ぶと思います? やっぱり100kmぐらいはいけると思いますか?
あいさん:
はい。
川上先生:
スズメだとね、恐らくもっとたくさん飛べます。南の沖縄のほうに大東島という島があります。1900年ごろ、そこにはスズメがいなかったと言われているんですけども、その20年ぐらい後に調査に行ったら、スズメが見つかったことがわかっています。 ということは、どこかから飛んできたんですよね。一番近い陸地、ほかの島まで、300kmぐらい距離があるんです。
あいさん:
へぇ~。
川上先生:
僕らが普通に見ているスズメでも、200~300kmぐらいを飛ぶ能力があることがわかるかなと思います。というわけで、「鳥はすごいんだ!」ということを、きょうは覚えといてくれるとうれしいです。
あいさん:
ふふっ。
川上先生:
だいたいわかった?
あいさん:
は~い。
――鳥は食べたり寝たりも、飛びながらできるんですね。
川上先生:
先ほどの、10か月、地上に下りなかった鳥はそうです。飛びながら昆虫をとったり、水を飲むときも、水面に下りてしまわないで飛びながら口を水につけて飲むんです。ただし、1万3,500kmを飛んだ鳥はシギの仲間なので、飛んでいる間は食べ物をとっていません。飛ぶ前に体重をたぶん1.5倍ぐらいに増やして、どんどんやせながら飛んでいると思います。こういう鳥の仲間は、そのときには心臓が大きくなって、胃や腸は使わなくなるから小さくなる。内臓の大きさを変えて飛びやすくしながら、飛んでいるんだと考えられています。
――あいさん、そうなんですって。そして、「鳥はすごいんだ」って。
あいさん:
はい(笑)。
川上先生:
「鳥はすごいんだ」ということを、心に刻んでいただければいいかなと思います。
あいさん:
はい。
――飛んでいる鳥を見たら、「君たち、すごいね」って思えそうですね。あいさん、おもしろい質問をしてくれてありがとうございました。
あいさん:
ありがとうございました。
――さようなら。
あいさん:
さよなら~。
川上先生:
さよなら~。
【放送】
2023/07/31 「子ども科学電話相談」