しながわはるたくん(5歳・栃木県)からの質問に、「動物」の小菅正夫先生が答えます。(司会・柘植恵水アナウンサー)
【出演者】
小菅先生:小菅正夫先生(札幌市円山動物園参与)
川上先生:川上和人先生(森林総合研究所 野生動物研究領域 鳥獣生態研究室長)
はるたくん:質問者
――お名前を教えてください。
はるたくん:
はるたです。
――はるたくん、どんなことが聞きたいですか?
はるたくん:
ライオンはどうしてしゃべれないの? しゃべれなくても群れで狩りができるのはどうしてですか?
――はるたくん、ライオンを見たことはありますか? 何かで見たこと、ある?
はるたくん:
うん。番組と動物園です。
――テレビの番組と動物園で見たんですね。
はるたくん:
そうです。
――では小菅先生に教えていただきましょうね。お願いします。
小菅先生:
はるたくん、おはよう。
はるたくん:
おはよー。
小菅先生:
ライオン、好き?
はるたくん:
うん、好きー。
小菅先生:
かっこいいもんね。ライオンは、しゃべっていないと思う?
はるたくん:
うん。
小菅先生:
そうか。人間のように、僕とはるたくんが話すようにはしゃべっていないけど、でも、ライオンは群れで暮らしているでしょう? みんな近くにいて、すぐそこに群れがいるの。ばらばらに暮らしていないんだよ。だから「おーい」とか「あのね」とか、そういう声はかけなくていいんだけど、あいさつはしっかりしているんだよ。「コミュニケーション」って、知ってる?
はるたくん:
知らない。
小菅先生:
そうだよね、ゴメン……。あいさつは、きちんとしている。どうやってするかというと、みんな近いから、とにかくお互いにほっぺたとか体全体を相手にすりつけたりして、あいさつをしているんだよ。これは動物園でも見られます。そのときに、言葉とは違うんだけど、「グフン、グフン」って声を出してるよ。あまり大きな声じゃないけど、動物園でも聞こえると思うな。はるたくん、ライオンはどんな鳴き声をしてる?
はるたくん:
ガオ~。
小菅先生:
そうだよね。「ガオ~」って、ときどき動物園でも聞くなぁ。あれは、同じライオンにばかりじゃないかもしれないけど、遠いところにいるみんなに、「俺はここにいるぞ」っていう声なんだ。すごく太い、大きな声だよね。
はるたくん:
うん。
小菅先生:
その他にも、あまり聞いたことないと思うけど、「ウワォ~ン」っていう声を出すこともあるんだよ。
はるたくん:
へぇ~。
小菅先生:
これはたぶん、「私、今、ゆったりしているよ」という意味じゃないかなと、おじさん、思うんだけどね。だから声には結構種類があって、自分の気持ちをそれでちゃんと伝えているから、それが言葉といえば言葉かもしれないよね。
はるたくん:
……うん。
小菅先生:
でもそういうのばかりじゃなくて、ライオンどうしは近くにいるから、すごい顔をしてることがあるじゃない。鼻にしわ寄せて目に力を入れてにらみつけたりして、結構、表情があるの。そういう声とか表情とか体をすりつけるとかして、自分の気持ちをちゃんと伝えているんだよ。それはまたそのぐらいしか、必要がないんだろうね。
はるたくん:
ふうん。
小菅先生:
でも、はるたくんが疑問に思ったとおり、言葉もないのにどうして群れで狩りができるんだろうね。
はるたくん:
うん。
小菅先生:
人間だったら地図かなんか出してきて、「私はここでシマウマを追いかけるから、あなたはここに隠れて、ここで出て。万が一、うまくいかなかったら、あなたはここに隠れて……」とか、一生懸命打ち合わせをしてから狩りに行く感じだよね。でもライオンはさすがにそれはしないんだ。そういうことをするための言葉は、しゃべれないんだ。
はるたくん:
うん。
小菅先生:
ライオンは獲物をとって食べて生きているわけだから、とれなかったら死んじゃうからね。「きょうは狩りをしましょう」というのは、群れ全体の雰囲気でわかる。シマウマも、1頭ずつでいるんじゃなくて何頭かでいるじゃない。ところがライオンは、あるシマウマを追いかけ始めたら絶対に脇き目を振らないの。近くに他のシマウマがいても関係ない。1回狙ったシマウマだけを追いかけていくわけ。
周りにいるライオンはその状況を見て、自分はどこにどう行ったらいいかそれぞれ自分で判断して、自分と獲物と仲間との位置関係を見ながら一番よく獲物がとれそうな方法を、みんなそれぞれ個別に判断してうまく狩りをしているんだよ。細かな打ち合わせはしないけど、仲間内の暗黙の了解というか、そんなものでやっているんだよね。人間も結構、計画的にやるほどうまくいかなかったりするよ。
はるたくん:
ふうん。
小菅先生:
テレビでだと、ライオンがうまく狩りに成功したところをよく見るじゃない。でも実はなかなか成功しないんだよ。おじさん、アフリカに行ってライオンを探してみてもさ、狩りをしているところは見たことがないもん。ライオンに殺されたシマウマは見たことがあるけどね。現地の研究者が、何回襲って何回とれたかっていう成功率を計算したら、25%ぐらいという人もいれば30%ぐらいという人もいた。だから結構、失敗するほうが多いの。
――10回狩りをしても、2~3回しか獲物をとることができないんですねぇ。
小菅先生:
おじさん、失敗しているところは何回も見たよ。あるときウシの仲間がいて、ライオンがそっと近づいてきたんだけど、すぐには逃げないんだよ。なんで逃げないのかなと思うんだけど、じっと見ていて、ある程度近くなってきたら必死になって逃げるんだよ。もっと先に逃げときゃいいのにと思うんだけど、たぶん自信があるんだと思う。ここまでだったら私のほうが速いよという、自信があるんだと思うの。そういうこともあるから、ライオンはそれをいかに突破するかとかいろいろなことをやっているんだけど、残念ながら言葉で打ち合わせをすることができないので、10回、狩りをやっても、2~3回しかとれないということなんだよね。
だけどさ、はるたくん。よく考えたら、毎回成功してたら大変だよね。逃げるほうだって、毎回つかまっちゃったら大変。うまく逃げきれるというところで、ライオンとか仲間のバランスが非常にうまくとれているんじゃないかなと、おじさん、思ってるんだよね。全部うまくいったらライオンばっかり増えて、シマウマとかヌーとかが減ってしまうような気がして、だから打ち合わせができないこのぐらいがちょうどいいんじゃないかなと、おじさん、思ってるんだけど。
はるたくん:
うん。
――しゃべらなくても、気配とか表情、鳴き声などで、会話ができているんでしょうね。
小菅先生:
あいさつとか、必要な会話はできているんです。細かな打ち合わせができない。
――そこが人間と違うところですよね。「鳥」の川上先生、鳥はコミュニケーション(やりとり)をしているんでしょうか。
川上先生:
鳥は声を使ってコミュニケーションをとるので、お互いに危険を知らせ合ったりします。森で一緒に狩りをすることもありますね。そういうときはお互いに連携することもあるんですけれども、群れになってお互いを利用し合うことも結構あります。例えば食べ物を探すときに、どこにあるかわからないやつは、ほかの鳥が行くのを追いかけてついていくんです。一見、そのみんなが一つの群れに見えるけれども、実は最初に飛んでいるやつらは自分たちで餌があるところを知っていて、後ろの連中はそれを追いかけているだけなのに、全体としては群れに見えている、みたいなこともあるんじゃないかと言われています。
――はるたくん、かくれんぼ、したことある?
はるたくん:
うん。
――「あそこに隠れてるんじゃないかな?」って誰かが見つけたりとか、みんなそうやって「あっちじゃない? こっちじゃない?」って、動物たちも、しゃべらなくてもいろいろやってるんだって。おもしろいね。
はるたくん:
うん。
小菅先生:
狩るほうも狩られるほうも、いいバランスができているなという気がしますね。
――はるたくん、はるたくんの質問で、おもしろいことがいろいろわかりました。ありがとうございました。
はるたくん:
ありがとう!
――また「どうかな?」と思うことがあったら質問してくださいね。さようなら。
はるたくん:
さよなら~。
小菅先生:
さよなら~。
川上先生:
さよなら~。
【放送】
2023/07/31 「子ども科学電話相談」