すずきいちかさん(小学2年生・東京都)からの質問に、「鳥」の川上和人先生が答えます。(司会・柘植恵水アナウンサー)
【出演者】
川上先生:川上和人先生(森林総合研究所 野生動物研究領域 鳥獣生態研究室長)
小林先生:小林快次先生(北海道大学総合博物館教授)
いちかさん:質問者
――お名前を教えてください。
いちかさん:
いちかです。
――どんなことが聞きたいですか?
いちかさん:
一番最後の恐竜と、一番最初の鳥を知りたいです。
――いちかさんは、どういうところからこの質問を思いついたんですか?
いちかさん:
鳥っぽい恐竜がたくさんいるけど、どこから鳥といわれるのか知りたいです。
――ではまず、「鳥」の川上先生、お願いします。
川上先生:
はい。どうもこんにちは、川上でーす。
いちかさん:
こんにちは。
川上先生:
いちかさんは、鳥と恐竜、どっちが好きですか?
いちかさん:
鳥、です。
川上先生:
あっ、それはうれしいなぁ、うん。鳥の研究をしている僕としては、すごくうれしいです。ありがとう。いろいろ考えていかなきゃいけないので、このあとの話、ちょっと難しくなるけれども、一緒に頑張って考えてもらえますか?
いちかさん:
はい。
川上先生:
実はこの質問ね、質問されたくなかった質問です……というのは、本当に難しいところなんですよ。いちかさんは、恐竜から鳥に進化してきたということは、わかっているわけですよね。
いちかさん:
はい。
川上先生:
その進化する段階で、途中までは確かに恐竜だったはずなんだけれども、あるときから鳥になったということだよね。その切り替わったところの鳥と恐竜が何なのか、ということですね。例えば、そうだな……自分の右手を見てほしいんだけれども、肩から肘があって、肘から先に手首があって指があるという、そんな感じになっていますよね。
いちかさん:
はい。
川上先生:
まっすぐ伸ばすと1本の線になっているから、例えば「手首よりも手前にあるのは肘だな」とか、「肘の手前にあるのは肩だな」というのがわかります。これは、まっすぐだからわかるんです。でもこれが途中で枝分かれしていると、わかりにくくなるんです。生物の進化はどんどん枝分かれをするというのは、聞いたこと、ありますか?
いちかさん:
はい。
川上先生:
あっ、いいねぇ、よし。じゃあ、ここからはちょっと難しくなってくるので、頭の中でいろいろ考えてほしいんですけれども、いちかさんは、きょうだいはいますか?
いちかさん:
います。
川上先生:
弟? それともお兄さん、お姉さん?
いちかさん:
弟です。
川上先生:
うん。じゃあ、自分がいて、弟がいて、親がいるよね。親、ちょっとここではお父さんのことをいったん忘れて、お母さんとしますね。お母さんがいて、自分と弟が生まれてきました。そのお母さんにも、お母さんがいたはずだよね。いちかさんにとっては、おばあちゃんです。それでお母さんには、きょうだい、いるかな?
いちかさん:
います。
川上先生:
お兄さんとかお姉さんとか、わかる?
いちかさん:
妹です。
川上先生:
妹がいるのね。ということは、いちかさんにとっては、おばさんに当たるわけだよね。そしておばあちゃんにも、お母さんがいます。さあ、こうなったときに、自分を「鳥だ」と思ってください。今、生きている鳥だと思ってください。スズメでいいです。そして弟を、「始祖鳥だ」と思ってください。始祖鳥って、聞いたことあります?
いちかさん:
アーケオプテリクス。
川上先生:
すばらしい! そうです。アルカエオプテリクスと言われたりもするけれども、始祖鳥という鳥がいます。昔々、1億5000万年前ぐらいの鳥です。「鳥の最初は何か」というのはもうわからないから、「こうしましょう」ということを決めたんです。それは、鳥と始祖鳥というのは別々の鳥だけれども、その2つの鳥には共通の祖先がいるはずだ。たどっていくと共通の祖先がいて、その一番あとに出てきた祖先のあとに出てきたものを「鳥」と呼びましょう、という話にしました。つまり、今、いちかさんが鳥で、弟が始祖鳥とすると、お母さんは、鳥と恐竜のどっちだと思う?
いちかさん:
恐竜?
川上先生:
いや、お母さんはギリギリ鳥なんです。お母さんが鳥で、そのお母さんよりもあとに生まれてきたのを鳥にしましょうという話になりました。というわけで、いちかさんは鳥、(弟の)始祖鳥も鳥、そしてお母さんも鳥、となります。そして、お母さんよりも前の世代を、「恐竜」といいます。つまり、おばあちゃんは恐竜なんですよ。
おばあちゃんから生まれてきたのが、お母さんと、お母さんの妹のおばさんだよね。でもおばさんは、お母さんとは違って生まれてきた別の枝、枝というか系統になるので、お母さんは鳥だけれども、おばさんは、恐竜であるおばあちゃんから生まれてきた恐竜だと思ってください。難しくなってきたけど、だいたいここまではわかる?
いちかさん:
はい。
川上先生:
うん、よしっ、頑張ってくれてありがとう! そうすると一番古い鳥というのは、このつなぎ合わせた線の中では、お母さんになります。そして一番古い鳥の祖先で恐竜ということになると、おばあちゃんにあたるところが、実は一番新しい恐竜というか、鳥になる直前の恐竜ということになります。
いちかさん:
はい。
川上先生:
じゃあ、このお母さんは何か、というのを知りたいんだけれども、実はこのお母さんにあたる鳥の化石は、まだ出てきていないんです。だからさっき「始祖鳥が弟」と言ったけれども、鳥の場合はそれ以外にもきょうだいがいっぱいいて、たくさん枝分かれをしています。その中に鳥がいっぱいいるんだけれども、今のところ、一番古くてお母さんに一番近いところにいる鳥は、始祖鳥だと考えられています。ただし、始祖鳥から鳥が生まれてきたわけではないんだよね。いちかさんは弟から生まれてきたわけじゃないもんね。だから本当はお母さんの名前を知りたいんだけれども、まだお母さんは見つかっていない、という事情になります。
いちかさん:
はい。
川上先生:
じゃあ、次。一番新しい、最後の恐竜、鳥になる直前の恐竜というのは、おばあちゃんになるんだけれども、ここがさらに難しくて、おばあちゃんそのものは見つかっていないんです。だから、おばさんにあたる、一番近いところにいる恐竜たちを、今度は知りたいよね。実はそこがまたいろいろ難しくて、僕はよくわからないんですよ。わからないから、恐竜の専門家の小林先生にバシッと教えてもらおうと思うので、聞いてみていいかな?
いちかさん:
はい。
川上先生:
小林先生、ビシッと教えていただけますか。
小林先生:
ちょっとプレッシャー与えられた(笑)。いちかさん、こんにちは。
いちかさん:
こんにちは。
小林先生:
最近、図鑑を見ていても、「鳥なのか恐竜なのか、区別がつかない」とさっき言っていたけれども、鳥っぽい恐竜がどんどんたくさん出ているよね。鳥っぽい恐竜って、どんなのを知ってる?
いちかさん:
アカゲラみたいなアンキオルニスとか。
小林先生:
あぁ、いいですねぇ。ミクロラプトルとか、知ってるよね。
いちかさん:
はい。
小林先生:
ドロマエオサウルス系の例えばミクロラプトルとか、トロオドン系のメイとかが、恐竜からかなり鳥に近づいたものです。アンキオルニスも鳥に似た恐竜だというんだけれども、これはすごくやっかいで、始祖鳥よりもおばあちゃん側というか「恐竜側だった」と言う研究者と、そうじゃなくて、いちかさんと同じ「鳥側だ」と言う研究者がいます。アンキオルニスは、本当に鳥の祖先の近いところで行ったり来たりしているややこしい恐竜で、最後の恐竜として何となくイメージ的に持ってもらいたいのは、ミクロラプトルとかメイとかアンキオルニスを考えてもらったらいいかなと思います。
いちかさん:
はい。
川上先生:
小林先生、ありがとうございました。というわけで、アンキオルニスの仲間というのが、鳥と恐竜のちょうど境目ぐらいにいるんです。恐竜から鳥というのは、いきなりコロッと変わるわけではなくて、長い時間で見るとあるときから変わったように見えるけれども、実はその境目のところに、いろんな恐竜とか鳥とかが過去にたくさんいたと思うんですね。だからその間で、「ちょっとこれは、あとなのかなぁ。前なのかなぁ」というのがわからない状態が、今も続いています。境目にいるのが、アンキオルニスの仲間なのかなというふうに思ってください。それより新しい、「これは鳥だ」というほうに始祖鳥がいて、「こっちは恐竜だ」というほうにミクロラプトルとかトロオドンとかがいるんだと考えてください。だからきょうは「これだ」という答えを出すことができなかったんですけれども、これから研究が進んでいくとわかるかもしれないので、もうちょっと待っていてください。
いちかさん:
はい。
川上先生:
だいたいわかりました?
いちかさん:
ありがとうございました。
――いちかさん、いろいろ詳しくてびっくりしました。恐竜のことも知っていて、しっかりお勉強しているんですね。質問をしてくれて、ありがとうございました。
いちかさん:
ありがとうございます。
――さようなら。
いちかさん:
さよなら〜。
川上先生:
さよなら〜。
小林先生:
さよなら〜。
【放送】
2023/07/16 「子ども科学電話相談」