いぬいはるかさん(小学4年生・大阪府)からの質問に、「昆虫」の小松貴先生が答えます。(司会・柘植恵水アナウンサー)
【出演者】
小松先生:小松貴先生(昆虫学者)
はるかさん:質問者
――お名前を教えてください。
はるかさん:
はるかです。
――どんな質問ですか?
はるかさん:
去年からカイコを飼っています。去年の夏に産んだ卵が、数日後に半分くらいふ化しました。もう半分はことしの5月はじめにふ化しました。同じタイミングで産んだのに、すぐに生まれる卵と次の年に生まれるものがあるのはなぜですか?
――はるかさん、カイコ、飼ってるんですか!
はるかさん:
はい。
――初めてですか? それとも前からされているの?
はるかさん:
去年、イベントでもらいました。
――イベントがあって、そこでもらったんですねぇ。小松先生、お願いします。
小松先生:
いぬいさん、こんにちは。
はるかさん:
こんにちは。
小松先生:
かえるタイミングが違う卵っていうのは、同じ1匹のメスが産んだ卵なのかな?
はるかさん:
はい。
小松先生:
実はですね、カイコに限らず、こういう昆虫は結構いるんです。「こういう」っていうのはすなわち、1匹のメスが同じタイミングでいくつも卵を産んで、その中に、ふ化する、幼虫が出てくるタイミングがバラバラな卵が、混ざっている、混ぜるということをやる昆虫が、いろいろおりまして。
はるかさん:
へぇー。
小松先生:
例えば、キリギリスっているじゃないですか、鳴く虫の。
はるかさん:
はい。
小松先生:
あれは一般的には、メスの成虫が夏の終わりから秋口にかけて、土の中にいくつも卵を産むんです。その卵は、冬を越して次の年の春に、大半は幼虫がかえるんですよ。ところがいくつかの卵は、そのタイミングでかえらないでずっと眠っているんです。これを「休眠卵」というんですけれども、休眠し続けてその次の年の春、場合によってはまたさらに次の年の春にかえったりします。キリギリスの場合、地面に産みつけられてから最長で4年たって、やっとかえるという卵もあるそうです。
はるかさん:
えーっ。
小松先生:
なんでかえるタイミングがバラバラなものが混ざっているのかということなんですけれども、これは昆虫が生き残っていくうえで、すごく大事な作戦の1つなんですよ。例えば、ある1匹のメスの昆虫が、秋に100個卵を産んだとします。次の年の春に、100個の卵全部から100匹の幼虫が生まれたとします。
はるかさん:
はい。
小松先生:
もしその年に異常気象が起きて、ものすごく気温が高い、逆にものすごく気温が低いなど、昆虫の幼虫が生きていくうえでものすごく不都合な気候になってしまった場合、生まれてしまった100匹の幼虫は全部死んじゃうんですよ。1匹も生き残れないんです。でも、もしその年に100個のうち70個がかえって、残り30個は眠ったままでいれば、70匹のかえった幼虫は死んじゃうかもしれませんけれども、次の年になれば、異常気象がおさまって昆虫の幼虫が成長していくうえで最適な気候になるかもしれないわけです。なので、その年にふ化すれば、30匹の幼虫は生き残れる可能性があるわけです。
はるかさん:
はい。
小松先生:
昆虫に限らず生き物にとって大事なことは、自分の子ども、子孫が次に残るということなんですよね。昆虫にとって、せっかく産んだ卵、すなわち子どもが全部死ぬという状況は絶対に避けないといけないんですよ。なので、卵からかえるタイミングがバラバラなものをわざと混ぜて産むという性質は、生き残っていく自分の子孫、つまり自分の遺伝子を持った子どもを次に残していくうえで、彼らにとってすごく大事なんですね。カイコっていう生き物はですね、野生の状態にいない生き物なんですよ。雑木林とか野原で、カイコって見たことあります?
はるかさん:
いいえ。
小松先生:
たぶん、ないはずなんですよね。カイコって、もともと野生で生活していたクワゴっていう、見た目は普通の茶色いガがいて、このクワゴというガを、人間が絹糸をとるために飼いならして家畜化した昆虫なんですよね。より糸を出して人間の役に立つように、そしてより人間が管理するうえで飼育しやすいように、品種改良していった昆虫なんですよ。カイコって、刺したりかんだりしないですよね。
はるかさん:
はい。
小松先生:
身を守る武器みたいなものを、なんにも持ってないんですよ。しかもカイコって飛びませんよね。
はるかさん:
はい。
小松先生:
人間が飼育、管理するうえで飛んで逃げられたら困るので、逃げないように、より羽の発達が悪いガだけを集めて、それどうしで子どもを作らせ続けた結果、羽はあるけど全然飛ばないガができあがっていったわけです。
はるかさん:
なるほど……。
小松先生:
それがカイコなんですよね。要するに人間が自分たちの都合に合わせて、もともと野生の普通のガだったものを、徹底的に作り替えてしまったんですよ。ほぼ野生をそぎ落とされてしまった昆虫ですけれども、それでも、もともとクワゴっていう先祖だったときに持っていた、休眠卵を産む、全滅を避ける、気候が変動したときに全滅しないようにという性質は、いまだにカイコは持ってるんですよね。この性質自体は、人間がカイコを管理するうえでもすごく大事なものなんです。カイコって、卵からかえって幼虫になると、餌をたくさん食べるじゃないですか。
はるかさん:
はい。
小松先生:
幼虫になっちゃうと餌を用意しないといけないので、扱いが結構大変なわけです。餌を用意しないとすぐに餓死しちゃいますので。でも卵の状態で休眠してくれていれば、餌をやらなくていいので管理が楽なわけです。保管しておけるわけですよね。なので、これは人間にとって都合がいい性質だから、たぶんその部分だけは、いじらないで残しておいたんだと思うんですけれども。
はるかさん:
えーっ……。
小松先生:
逆にこれこそが、人間の都合で野生を全部奪い取られてしまったカイコが持っている、最後の野生の部分とも言えるわけで……
はるかさん:
えっ……。
小松先生:
なんかすごくけなげな感じがするなって、私は個人的に思ったりします。そんな感じですね。
はるかさん:
はい。
――はるかさん、去年からずっと育てているんですものね。これからも頑張って育ててくださいね。
はるかさん:
はい。
――質問くれてありがとうございました。
はるかさん:
ありがとうございました。
――さようなら。
はるかさん:
さよなら〜。
小松先生:
さよなら〜。
【放送】
2023/06/04 「子ども科学電話相談」