アメリカ大陸をバイク旅している西村雄志郎(にしむら・ゆうしろう)さん。7月に電話をつないだ時は、毎日書いている日記が“ポエミィ”だと話題に。今回はゴールのアラスカにたどり着いた心境を、詩的な日記とともに語ってくださいました。
【出演者】
西村:西村雄志郎さん(旅人)
ローズ:當間ローズさん(土曜担当MC)
中村:中村慶子アナウンサー
ローズ:
今はどの国のどのあたりにいて、そちらは何時ですか?
西村:
今はカナダのホワイトホースにいます。日本との時差はマイナス16時間のため、こちらは現在深夜2時半です。自然豊かなところです。
中村:
ニューヨークを出発してからのコースを具体的に教えてください。
西村:
ニューヨークからナイアガラの滝へ向かい、カナダへ国境越えしました。その後、五大湖の南側を西に進み、カナダの西海岸バンクーバーへ。さらに北上してアラスカへ到着したのが8月11日でした。アラスカには11日間滞在し、現在は帰国のためバンクーバーへ戻る途中です。
ローズ:
実際に到着したアラスカはどうでしたか?
西村:
私はアラスカのデッドホースという、自家用車がいける最北端をゴールとしていて、そこを目指して走っていました。アラスカは途中まではカナダと同じような針葉樹の森が生い茂るような場所だったんですが、だんだん北上していくと様子が変わってきました。あるところまでいくと今までの景色と雰囲気が変わり、背の高い木はほとんどなくなり、原野というのがぴったりな、どこまでも見渡せる風景に変わっていったんです。まさに星野道夫さんの写真で憧れた風景がそこにあったんですね。
中村:
もちろん、その感動を日記に書き留めていらっしゃるんですよね! ご紹介をお願いしたいのですが!?
西村:
あの、じゃあ読ませてもらいます。
「永かった」と、自分でも意識しないまま言葉にして、気付いたら涙していた。アラスカの自然の美しさ、想像し憧れ続けたアラスカが、今、目の前にある事実に、泣いた。景色を見て涙するのは初めてのことだった。
俺の情熱は本物だった。
西村:
実はこの時はアラスカに行けば何かが起こると思って走っていて、自分の中に何も感じられなかったらどうしよう、というような不安もあったんですね。
ローズ:
だからこそ、自分の中の情熱が本物だったと感じたわけですね。他にもいろいろな景色がある中で、どうしてアラスカの風景が胸を打ったんでしょうか?
西村:
目に飛び込んできた風景が、これまで出会ってきた景色と違って、星野さんの本や写真から自分が作り出していたイメージそのものだったんです。「本当にあるんだ」と素直に感動できました。やっぱりこの景色を追い求める情熱はちゃんとあったんだ、と思ったんですね。
中村:
目的地に到着した時はどうでしたか?
西村:
実はそっちは意外なほどそっけなくて、最北端の場所ってだけでした。2時間ほど滞在してすぐに帰ってきてしまいました。ですが、その後アラスカは、私にもうひとつ、すてきな姿を見せてくれたんですね。
ローズ:
それはなんですか?
西村:
アラスカの動物といえば、私の中ではクジラ、カリブー、クマなどですが、やはりそう簡単に会えるものではありませんでした。周りの旅人も会えていないと言っていたし、潔く動物はまたの機会にしようと思っていた時です。アラスカの道を走っていると、茂みから一匹の大きい犬みたいな動物が歩いてきたんですね。
中村:
なんだろう、野犬?
西村:
オオカミだったんです。背中は黒と白が混じっていて尻尾はフワフワと太く膨らんでいて、ガッシリと伸びた脚の先には黒く鋭い爪が大地をしっかり捉えている。堂々たる姿の“一匹狼”でした。でも見つめ合うと舌をペロンと出してこっちに歩いてくる。写真をとって、ちょっと話しかけて、また去って行きました。わずか数分の出来事でしたが、自分と同じ一匹狼の力強い姿に感動しましたね。
中村:
確かに野犬とは違う鋭さがありますね! さあ、そのオオカミとの出会いを、西村さんは日記で、どう表現されたのか? お願いします!
西村:
では読ませてもらいます。
俺は、得た。
これから先の人生で、何度でもどんな時でも、この地に流れるもう一つの時間に、思いをはせることができる。
もはや本で知った世界ではない。俺がその地で呼吸をして知った世界だ。
主人公はクマでもムース(ヘラジカ)でもなく、あの一匹狼。あいつが今もこの瞬間、独り旅している。
この揺るぎない事実を想像すると、あまりにも美しすぎて涙しそうになる。
中村:
西村さんは、写真家・星野道夫さんが言っていた「アラスカに流れているもうひとつの時間」を感じるためにアラスカに行きたい! とおっしゃっていましたが、一匹のオオカミとの出会いによって、自分の中で「アラスカの時間を感じた」んですね。
ローズ:
西村さんは、南北アメリカ大陸のバイク旅を通して、どんなことを得ましたか?
西村:
旅をして思えたのは「決して1人では成し遂げられない」ということ。この旅も出会った多くの人たちに優しさと勇気、生きるすべを与えられてなんとかやり遂げられました。孤独な旅を通して、改めて人とのつながりのありがたさや大切さを感じたように思います。そしてアラスカも、来ただけではゴールではないと感じました。アラスカの自然や雄大さについて発信できるくらい、人生をかけてもっとアラスカに入り込んでいきたいと思いました。
ローズ:
西村さん、旅はこれで終わりということを7月には話してくださいましたが、また旅したいという気持ちが湧いてきたんじゃないですか?
西村:
そう、言わざるを得ないですね!
中村:
南北アメリカ大陸をバイク旅中の西村雄志郎さんにお話を伺いました。西村さん、どうぞ気をつけて帰ってきてくださいね!
【放送】
2023/09/16 「ちきゅうラジオ」