「ちきゅうメイト」のコーナー、まずはエジプトから! 数年前からオープンへの準備が行われている大エジプト博物館の遺物修復に、実は多くの日本人が参加・協力しています。貴重な遺物の修復や保存を行う西坂朗子(にしさか・あきこ)さんにお話をうかがいました!
【出演者】
西坂:西坂朗子さん(JICA専門家・考古学者)
ローズ:當間ローズさん(土曜担当MC)
中村:中村慶子アナウンサー
ローズ:
考古学者って、かっこいいですね! ずっとエジプトの研究をされているんですか?
西坂:
大学時代から日本の考古学者として知られる吉村作治先生に師事しまして、それから30年エジプトの研究をしています。貴重な遺跡を掘ったりするのはもちろん、遺物を保護・保全することにも力を入れていて、今はエジプトの人と協力して大エジプト博物館のオープンに向けて、みんなで頑張っているところです。
中村:
大エジプト博物館、この番組でも紹介したことがありますね! どんな魅力があるんでしょうか?
西坂:
大エジプト博物館は2012年から建設が始まったエジプトの国家プロジェクトで、10万点ものコレクションを収蔵する、世界中の人たちが注目する観光拠点として作られています。いろいろすごいところがあるんですが、私からみて魅力は大きく3つです。
ローズ:
おぉ! ではひとつずつ教えてください。
西坂:
まずは立地と建物です。49万平方メートル、東京ドームおよそ10個分の広大な敷地に巨大な博物館が建っています。中には大階段があり、それを登るとガラス張りになっていて、ギザの3大ピラミッドを一望することができます。ピラミッドをもはや見慣れている私も、ここは毎回「おーー!」と声を上げてしまいますね。
中村:
では、2つ目は?
西坂:
コレクションと見せ方がすばらしいです。よく知られるツタンカーメンコレクションの約5000点は、これまでエジプトの各地に散らばっていたものが、すべて集められました。ツタンカーメンの黄金のマスクはもちろん、これまで倉庫に眠っていて未公開だった遺物も含まれます。それらがストーリーを追って展示されています。
ローズ:
ストーリーというのは?
西坂:
ツタンカーメン王墓が1922年に発見された時の様子や、その後の研究で明らかになったツタンカーメンの出自やライフストーリーなども展示でよくわかるようになっています。もっと詳しく伝えたいのですが、展示内容で言っていいことはまだあまりないんです、このくらいですみません!
ローズ:
えーーー! ローズ気になるっ! では3つ目は?
西坂:
博物館という観光拠点だけではなく、複合施設になっているところです。普通、博物館は観光客向けの施設で見て終わりですが、ここは広大な敷地に図書館や会議場、広場、こども博物館、カフェなどがあって、地域住民も楽しめる場所になっています。
中村:
そんなすごい博物館で日本人が活躍しているんですか?
西坂:
実はそうなんです。大エジプト博物館の遺物の移送や保存修復作業には、これまでに40名以上の日本人専門家が参加しました。修復技術を伝えたり、一緒に作業したりしています。
中村:
なぜ日本人がそんなに参加しているんでしょうか?
西坂:
日本の技術や、日本人の手先が器用だというイメージで呼ばれたことも理由のひとつですが、大きな理由は大エジプト博物館建設をJICA(国際協力機構)が支援していて、それをきっかけに2008年から保存修復に関する人材育成のため、日本人の専門家たちが講師として派遣されたことです。8年間で、のべ2000人ものエジプト人が研修を受けました。ツタンカーメンの秘宝のような国宝級の文化財に触れながら外国人が修復することは非常に珍しく、日本人だったら触らせても良い、と信頼関係を築くことができたからこそ、今回の協力体制ができていると感じています。
中村:
そんなに信頼を得ているなんて、日本人として何だかうれしいですね? 西坂さん。
西坂:
エジプトの方の使う言葉に「ジャパンプラネット」という意味のことばがあって、これはとてもいい意味なんですけど。「日本は技術力が高く芸術的なことに理解が深く、まるでエジプトとは違う惑星のようだ」というような意味で使われます。こんな風に言ってもらえることを誇らしく思いますね。
中村:
“日本の技術”もすごいということでした。
西坂:
ポータブルのレントゲン撮影など最新技術もあるんですが、日本のチームワークがすごい! という声をよく聞きます。エジプトは縦割りの世界なので、いろんな分野の専門家が集まるプロジェクトで横のつながりで作業をしていくことがあまりなかったようですね。
ローズ:
それにしても修復作業っていうのは、そんなに大変なんですか?
西坂:
そうですね。例えば、博物館の目玉となるクフ王の2隻の船があります。ギザのクフ王のピラミッドの南側で見つけられた40メートル以上の大きな船で木造です。1隻目は保存状態もよく、人気の古代エジプトの遺物としてよく知られています。
ローズ:
2隻ということはもう1隻あるんですね?
西坂:
2隻目は、吉村作治先生のプロジェクトで、バラバラの状態で大ピラミッドの脇のピット・船抗(ふなこう)と言いますが、この中にパーツが収められていました。その修復作業が本当に大変でした。木材のパーツを一つずつ修復して、博物館展示準備室に運ぶだけで8年以上かかりました。息を吹きかけただけでボロボロっと崩れてしまいそうな木材もあり、緊張の連続でした。
中村:
そのパーツの写真が手元にあるのですが、え!? これがパーツですか? バーベキュー用の木炭が入っている箱にしか見えませんが・・・。これがクフ王の船の1隻目のような船になるんですね?
西坂:
8年前は展示なんてとても無理と思いましたが、修復作業を経て、復元展示されたときの姿がだんだんと思い描けるようになってきました。
中村:
その船も展示されるんですか?
西坂:
この船は大エジプト博物館の本館の脇に建設中の別棟に展示されます。ようやく移送が終わったところなのでこれから組み立てです。1700のパーツを壊れないようにそーっと組み立てるので、組み立て終わるのに5年はかかります。ここは組み立てが完成していく過程を見て楽しんでもらう展示になる予定です。
中村:
運ぶのに8年、組み立てに5年、途中で嫌になったりしないんですか?(笑)
西坂:
確かに気の遠くなる作業なのですが、はるか昔のものを修復するロマンと完成した時の船を想像していると時間はすぐに過ぎていきます。きっと5年もあっという間でしょう。
中村:
実は、去年春にも番組でエジプト特集をしていまして、その時には去年の11月にオープン予定とのことでしたが、その後、オープン時期はいつになったんでしょうか?
西坂:
あれから延期されていて、まだオープンの時期は未定です。展示はまだ完成していないところもあり、一度に見せたいというエジプト側の意向があって、まだオープン出来ていないんです。でも本当に“そろそろなのでは”と期待が膨らんでいます。
ローズ:
西坂さんも開館が楽しみですよね?
西坂:
この博物館は本当にいろんな面で日本が協力していて、その証拠のひとつに、ツタンカーメンの展示室の解説文はアラビア語、英語、そして日本語で書かれています。日本人の方にとっても魅力的な博物館になっていますので、早く開館して、多くの人に見ていただけたらと思います。
中村:
それは日本人としてとても誇らしいですね! この時間はJICA専門家として大エジプト博物館で遺物修復と運営支援に携わる西坂朗子さんにお話を伺いました。西坂さん、ありがとうございました!
西坂:
ありがとうございました。
【放送】
2023/09/16 「ちきゅうラジオ」