毎週土日の夕方に、“世界の今”を現地で暮らす人ならではの目線でお伝えしている双方向番組「ちきゅうラジオ」。世界中の人々と電話をつなぐ「ちきゅうメイト」のコーナーでは、南北アメリカ大陸をバイク旅している西村雄志郎さんにお話をうかがいました。西村さんは、ちきゅうメイト募集の知らせを聞いて、番組に応募してくださった方です。さあ、どんな旅なのでしょうか?
【出演者】
西村:西村雄志郎さん(旅人)
ローズ:當間ローズさん(土曜担当MC)
中村:中村慶子アナウンサー
ローズ:
ご応募いただきありがとうございます! どの国のどのあたりにいて、いま何時なのか教えてください。
西村:
3日前にたどり着いた アメリカのニュージャージー州のプラッケミンと言う街にいます。
日本との時差はマイナス13時間なので、今、朝の5時30分です。
もう日が出ていて、犬の散歩をしている人などを見かけます。
中村:
朝早くからありがとうございます。西村さんは、アメリカ大陸をバイクで旅している、とのことですが、北米大陸、南米大陸、両方を旅するということでしょうか?
西村:
はい。まずは、南米大陸をぐるりと1周してきまして、今は北米大陸をぐるりと1周することを目標にしています。大体9か月くらいかけて到達できたらと思っています。
ローズ:
僕もバイク旅って憧れちゃうんですけど、免許はどうしてるんですか?
西村:
日本で国際免許を申請すれば、アメリカ大陸はどこでも移動できるんです。
中村:
メールには、去年の年末から旅をスタートしたとありましたが、これまでの大まかなルートを教えてください。
西村:
はい。去年の11月に南米チリのサンティアゴを出発、およそ半年間かけて南米大陸を反時計回りに1周して、5月にサンティアゴに帰ってきました。
その後、北米大陸を旅するために、空路で1度、カナダのバンクーバーへ。
バンクーバーからアメリカの西海岸をそのまま南下してメキシコの手前のサンディエゴまで行きました。これが6月初旬ぐらいです。今はそこから東に移動し、ニューヨーク付近に到着して数日過ごしているところです。
ローズ:
ワクワクするような旅路ですね。どうしてバイクで世界を回ろうとしたんですか?
西村:
ずっとバイクで世界を旅するのが夢でした。最初のきっかけは2007年ごろ、高校2年生の時だったと思います。俳優のユアン・マクレガーさん、スターウォーズのオビ=ワン・ケノービ役などで知られる方ですが、この方がバイクでユーラシア大陸を横断したというドキュメンタリーを見て、心をつかまれました。
そこから、私の中では「バイク=世界を走るもの」という印象がつきました。
中村:
今回旅立ちを決意したのはなぜ?
西村:
一言で表すと「呪いを解くため」です。
ローズ:
え! 呪いですか??
西村:
行きたいと言う気持ちがだんだんと重くのしかかってきて、「呪い」のようになってしまっていたんですね。
いま私は32歳ですが、元々は大学を卒業したらまずは実家の家業を継いで、仕事が回るようになってから40歳までには行きたい、などと漠然と思っていました。
しかし、親父が病気で引退して家業を畳むことになり、また計画が変わりました。大学卒業後は一般企業に就職し、「いつかは」と思いながら準備を続けていました。
中村:
いろいろな変化がありながらも、持ち続けた夢だったんですね。
西村:
そうですね。で、その後はコロナや円安、そもそものスタート地点であるバイクの輸送のフェリーが廃止されたりと、さまざまなことがあり、計画は何度も白紙になったんです。
「旅に行かない」と言う選択肢も頭にはよぎったんですが、それでも、海外をバイクで旅するという野望はとてもまぶしいもので、この呪いを解かないと「これから先、前に進むことはできない」って思ったんです。
変化する世界情勢などはあるのですが、自分にとっては今しかない、と言うことで出発を決めました。
中村:
そこまでまぶしい夢があるのは、なんだか羨ましいですね!
では旅のいろいろなエピソードを聞かせてください。まずは「最もうれしかった瞬間は?」
西村:
やっぱりバイクを手に入れた瞬間です。と言うのも実は、この旅の最初の難関はバイクを手に入れることだったんです。
バイク旅人がよく利用していた有名な船便があるんですが、そのフェリーが廃止されてしまいました。ですので、日本で乗っていた、自分の愛車で旅することは難しくなりました。
ローズ:
バイク好きにとってはショックな出来事でしょうね。
西村:
そうなんですよ。結局現地で購入したんですが、チリではバイクも不調が多く、手続きも非常に複雑でした。1か月もかかってようやく、ちゃんと走るバイクを手に入れました。
でも、ようやく手に入れたバイクだからこそ、今はピカピカのコイツとこれからボロボロになりながら南米を周り、またこの街に帰ってくる。それを想像して最高に胸が高まったのを覚えています。
中村:
バイク旅だからこそ、よかったことは?
西村:
大陸を旅しているという感覚を全身で味わえることです。
"むき身"で走るため、気温や湿度の変化、風や日光の強さ、土や緑の匂いも、移動しながら敏感に感じられて大陸を東西南北に走っていることを実感できます。
例えば、いま走っているアメリカも、西はカラッとした乾いた暑さですが、東に行くにつれてうだるような暑さに変わってきています。昆虫や草木の植生も変化していくのが手に取るようにわかります。
ローズ:
自然を感じられるということですね。
西村:
そうですね。バイクなので通常は車や人が行けない絶景ポイントにて野営することができるのも、バイク旅のだいご味ですね。
中村:
ここはよかったなぁという場所は?
西村:
たくさんありすぎますが、「ウユニ塩湖での野営」ですね。
雨季が明けて乾季に入ったばかりの4月上旬、ウユニ塩湖に行きました。
当初は写真撮って数時間で立ち去る予定だったのですが、ボリビアのウユニの街の食堂でおなかを壊してしまって(笑)。予定が変わって、ウユニ塩湖の付近で急きょキャンプすることにしました。
中村:
ウユニ塩湖といえば世界的な観光地で、青空や人物がまるで鏡張りのように反射した写真がおなじみですね。
西村:
私はどちらかというと「偶然の出会い!」と言うものを大切にしていて、あまり有名観光スポットには立ち寄っていません。
もちろん定番のウユニ塩湖の写真はよくみていたのですが、野営するとなると、全く予想していなかった風景が見られました。
当時の日記があるので読んでみますね。
中村:
おー! お願いします!
西村:
「西の落日で一瞬紅く燃え上がったのも束の間、東から昇る煌々(こうこう)とした秋月が塩湖を青白く冷たく照らし、良夜に細い月影をどこまでも伸ばした。」
一番印象的なのはこの場面でした。日記の通り、青と白の世界で自分の周りが覆われて、それから夜明けまで一瞬たりとも目を離せないような幻想的な世界が目の前にありました。
中村:
この画像ですか! おっしゃる通り、青く白い夜空と月がきれいですね。
ローズ:
そしてそれにしても西村さんの日記、結構ポエミィで、いい雰囲気ですね!
西村:
日記は書くのが好きで、毎日欠かさず書いています。
すばらしい出来事に出会うと、自然とこうなっていることがありますね。
ローズ:
さて、この先はどこに向かいますか?
西村:
7月5日ごろニューヨーク付近につきましたので、10日ごろからはカナダを北西に進みます。
8月のお盆の時期ごろにアラスカのデッドホースに着いてゴールの予定です。
中村:
ゴールはアラスカなんですね?
西村:
旅のきっかけでユアン・マクレガーさんの名前を出しましたが、影響を受けたものは他にも多くあって、その中の1つが日本の写真家の星野道夫さんです。
中村:
実は「ちきゅうラジオ」準レギュラーのアラスカ写真家 松本紀生さんも、星野道夫さんの写真を見てアラスカ写真家になったんですよね。
西村:
え! 松本紀生さんのTwitterはフォローしてますよ!
中村:
そうでしたか!
それにしても、お話を聞いていると、まるで一緒に旅をしているようでした!
西村さん、アラスカまで旅の無事をお祈りしています。そしてまた旅の様子を番組でも教えてください、今日はありがとうございました!
西村:
よろしくお願いします! ありがとうございました。
【放送】
2023/07/08 「ちきゅうラジオ」