毎週土日の夕方に、“世界の今”を現地で暮らす人ならではの目線でお伝えしている双方向番組「ちきゅうラジオ」。世界中の人々の今を伝える「ちきゅうメイト」のコーナーでは、国際緊急援助隊の活動についてインタビュー。
国際緊急援助隊救助チームの業務調整員として、トルコのカフラマンマラシュに派遣された河野さんに伺いました。
【出演者】
河野:河野由紀子さん(JICA関西センター)
ローズ:當間ローズさん(土曜担当MC)
中村:中村慶子アナウンサー
中村:
今日はトルコのことや国際緊急援助隊のことをいろいろ伺いたいのですが、まずは河野さんが担当された「業務調整員」というのは、どんなお仕事なんでしょうか?
河野:
聞きなれない言葉ですよね、いわゆる裏方の仕事をする人たちのことです。
私たち業務調整員は、レスキュー隊員が円滑に救助活動を行えるように食事や休憩用のテントを用意したり、通訳や、車、ドライバーの管理をしたりと、バックサポートに当たります。さらに、被災国や他国のチームとの調整をする役割も担っています。
中村:
つまり、レスキュー隊員が救助活動に専念できるように、あらゆるサポートや調整をするお仕事なんですね。今回、河野さんが業務調整員として向かったトルコのカフラマンマラシュ、現地の様子はいかがでしたか?
河野:
現地に着いてみると、いわゆるパンケーキクラッシュという、5階建てとか6階建ての建物が上から押し潰されたように倒壊している建物をたくさん見ました。ひどいところだと、見えている景色の7割ぐらいの建物が崩れているような地域もありましたね。
「家族がまだ埋まっている」と涙ながらに訴えてくる方もいました。私は何も言えなくなってしまって…。ただ「私たちは精いっぱい頑張ります」と答えるしかなかったです。
ローズ:
河野さんは現地でどんな業務を担当したんでしょうか?
河野:
私が担当したのは、通訳とトラックなどの車両とドライバーさんの管理です。少しでも多くの人たちをがれきの中から救えるように、ベースキャンプも含めて最大5か所で活動してました。それぞれにどの場所にはどの車両を使って、ドライバーは誰で、通訳は誰で、その間誰は休ませてなど細かく分担やシフトの調整をしました。
もともとの道が狭いところもあるんですが、さらにがれきの状況で1日ごとに通れる道の状態が変わることもあって、きのうは大型バスが通れたのに、きょうは通れないから小型の車に変更したりとフレキシブルな対応が求められました。
ローズ:
パズルのようなお仕事ですね。でも、それが滞ったら命に関わる場合もあるってことですよね?
河野:
責任重大ですね。残念ながら今回、生存者を救い出すことはできなかったのですが、日本チームは多くの倒壊現場で活動し、がれきに埋まっている人たちを中から出すことができました。チームにはお医者さんや看護師さん、建物の倒壊ぐあいを見る建築士さんが同行しているのですが、他国チームが助け出した女の子の健康状態を日本チームのお医者さんが確認したり、現場にいる人たちが一丸となって救助活動にあたっていました。
でもそういう活動も、現場まで連れていってくれる車両とドライバーさん、地元の人たちとの仲介役をしてくれる通訳さんがいないとできません。救助活動を遅らせるようなことがあってはいけないと思って、常に緊張して、役割を果たそうとがんばりました。
中村:
トルコでの1週間の活動、いかがでしたか?
河野:
現地についてから1日3時間くらいしか寝られなかったんですが、緊張感と使命感でなんとか最後まで自分の役割を果たせたかなと思います。「人間、こんなに寝なくても立っていられるもんなんだな」と思いましたね。帰りの飛行機は爆睡でした。
中村:
救助活動の中で、印象的だったことは?
河野:
たくさんありますが、一番うれしかったのは、やっぱり空港や被災地や行く先々で、ユニフォームを着た私たちを見つけて、多くの人々が応援してくれたことですね。拍手を送ってくれたり、声をかけてくれたり、差し入れをくれたり。涙目で「遠い国から来てくれてありがとう」と言ってくれた人もいました。トルコ語で話しかけられて何を言っているか分からない時もありましたが、ジェスチャーや雰囲気から「ありがとう」って言ってくれているのかなとか。背中に「JAPAN」の文字を背負っている自分を、国際緊急援助隊を、とても誇らしく感じる瞬間でした。
トルコ語で「ありがとう」をたくさんもらったので、みんな、今でもこのトルコ語は覚えていますね。
ローズ:
なんて言うんですか?
河野:
「テシュキュレ」というみたいなんですが・・・。
最初なかなか覚えられなくて、それを見た通訳さんの1人が「ティッシュくれって覚えたらいいよ」って教えてくれて、以来、隊員同士でもなにかと「ティッシュくれ」って言い合ってました。
ローズ:
「ありがとう」という言葉を覚えて帰るっていいですね。
中村:
ここまで活動の様子を伺いましたが、業務調整員の皆さんは、緊急時以外はどんなことをしているんですか?
河野:
JICA本部にある国際緊急援助隊事務局に所属している人と、私のように事務局以外の部署に所属する局外業務調整員もいます。
局外業務調整員は派遣が決まったら即座にその業務につきますが、普段はJICAの他の事業に関する仕事をしています。派遣以外にも、訓練に参加したり、運営を手伝うこともあります。兵庫県にある消防学校と日本赤十字の施設をお借りして、毎年救助チームの大規模な訓練を行っています。
ローズ:
救助チームの訓練ってどんな様子ですか?
河野:
兵庫県で行っている訓練は、年に1度、実際の派遣を想定して行う総合訓練で、成田空港と想定した建物に集合するところから、空港での結団式、検疫所の通過、被災地でのキャンプ設営、そして、救助活動の模擬訓練を本番さながらに丸3日間通して行います。
訓練には仕掛け人がいて、空港で荷物を盗んだり、余震を起こしたり、実際にはこれは「余震だ!」と叫ぶだけですが。さまざまな、実際に被災地で起こりうる出来事のシミュレーションをします。
私が仕掛け人として訓練に参加した時は、時に空港スタッフになり、時に被災国の人になり、時に大使館職員になったりしました。3日間、ほとんど休むことができないきつい訓練ですが、実際の派遣で役立つ、とても大切な訓練です。
中村:
そういった過酷な訓練を普段からされているから、今回のように急な任務でも皆さんスムーズに活動ができるんですね…。トルコ・シリア大地震からまもなく4か月、私たちが現地にできることってどんなことでしょうか?
河野:
私も自問自答していますが、まずはやっぱり忘れないことかなと思います。
私は生まれも関西で、小学生の時に阪神淡路大震災を経験しました。ですが、時が流れると震災を知っている人も少なくなります。神戸では毎年メモリアルイベントが開かれますが、参加人数が少しずつ減ってきているようです。つらい経験やそこから得た教訓が引き継がれていかなくなるのでは、と心配しています。
トルコ・シリア大地震への支援も、すぐに何か行動を起こせなかったとしても、頭の片隅に忘れずに残しておいて、何かチャンスがあった時にトルコのために行動しようと、モチベーションになってほしいと思います。
中村:
河野さん、ありがとうございました!
河野:
ありがとうございました。
【放送】
2023/06/03 「ちきゅうラジオ」