映画、ドラマ、ドキュメントの音楽を創作している千住明さんの案内で、サウンドトラックの奥深い世界を教えていただきました。(聞き手:武内陶子パーソナリティー)
【出演者】
千住明さん(作曲家)
<プロフィール>
1960年、東京都出身。慶応義塾大学工学部中退、東京藝術大学作曲科卒業。同大学院を首席で修了。ポップスから純音楽まで多岐にわたって、作曲家・編曲家・音楽プロデューサーとして活躍中。
――映画、ドラマ、ドキュメントを担当されていますが、これだけの数をいつ作っているのですか?
千住:
30代の売り出し中のころに比べると楽になりましたよ。考える時間もたっぷりありますしね。若い頃は未熟だったから徹夜ばかりでしたが、今は職人とアーティスト半々のいいバランスなんです。
――サウンドトラックといっても、いろいろありますよね?
千住:
映画、テレビドラマ、ドキュメンタリー、最近ではゲーム音楽もあります。それぞれ制作の仕方も変わってきます。ラジオドラマ、舞台もありますね。
――映画とドラマはどんなところが違うのですか?
千住:
映画は台本がある、もしくは決定稿に近いものがある状態で音楽を制作できますが、テレビドラマは台本が未完成のままで、ストーリーと同時進行で音楽も制作していきます。山田洋次監督は、音楽を一緒に考えて作っていくというタイプですね。
――現在公開中の山田洋次監督の『こんにちは、母さん』では、妹の千住真理子さんがバイオリンを演奏されているんですね。
千住:
山田監督と私を最初に結びつけてくれたのが真理子でした。50年前に山田監督の『うかれバイオリン』という音楽劇に13歳の真理子がソリストで出演していたんです。10代の僕は遠くから山田監督を見ていたんです。
――それが今回つながったんですね!
千住:
山田監督との仕事は初めてでしたが、山田監督の「母三部作」の1作目の『母べえ』は、僕が大変お世話になった冨田勲さん。2作目の『母と暮せば』は、僕をこの世界に入れてくれた坂本龍一さん。そして3作目が僕ということで、縁を感じました。妹を起用することは必然だったのかもしれません。
――テーマ曲の決定は吉永小百合さんのひとことだったそうですね。
千住:
吉永さんがスタジオで来られて「踊れそうねぇ」とおっしゃったら、山田監督が「おぉ、そうか!」でテーマ曲に決まったんです。僕はNGになると思っていたんです(笑)。
――話題の謎の多いテレビドラマの音楽も担当されていましたね。
千住:
そもそも物語ができ上がっていなかったんです。作曲、レコーディングする時点でも、準備稿という段階でした。でも、誰が聴いても「あのドラマだ!」という曲を書いてくださいと言われたんです。テーマ音楽を書くって本当に大変なことなんです。巨匠のエンニオ・モリコーネもすごく悩んでいたそうです。僕自身、大河ドラマの『風林火山』のときも大変でした。産みの苦しみというのか、もう七転八倒なんです。大変なパワーが必要なんです。
――NHKスペシャルの音楽も担当されていますよね。
千住:
『新ドキュメント太平洋戦争』の音楽を担当しました。時代が流れていってしまったことを無駄に終わらせないために、どんな音楽をつけていくか、何回も会議を重ねました。実際にいた市井の人々の感情を綴(つづ)っていくスタイルのドキュメンタリーなので、感情移入することなく。非常に俯瞰(ふかん)でクールに、神の目線で作曲しました。
――私は流れとか渦とか、この曲から大きな力を感じました。
千住:
いままで40年近くやってきて、「何かを残したい」と思うのが僕の本能にあるんです。特にサウンドトラックは映像や物語といっしょに聴いていただけるので、説得力と影響力があるんです。だからこそテーマ曲を書くときの意気込みは継承してほしいですね。
――これからも私たちの心を揺さぶる音楽をお願いします。
千住:
どうかサウンドトラックに注目しながら映画を見てください。最近の若い監督さんの音楽の付け方はおもしろいですよ。
――ありがとうございました。
- ※ 千住明さんが選んだサウンドトラックは、『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ』より「デボラのテーマ」(エンニオ・モリコーネ)と、『シンドラーのリスト』(ジョン・ウィリアムズ)でした。楽曲の魅力は「聴き逃し」で。
【放送】
2023/09/27 「ごごカフェ」