日本史アップデート・大奥編!

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放送日:2023/09/22

#歴史#映画・ドラマ

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10月3日(火)からドラマ『大奥Season2』が放送されます。ドラマの登場人物や出来事について、最近の研究でわかった新しい日本史を、歴史作家の河合敦(かわい・あつし)さんと、お笑いコンビ・ブロードキャスト!!の房野史典(ぼうの・ふみのり)さんに教えていただきました。(聞き手:吾妻謙パーソナリティー)

【出演者】
河合敦さん(歴史作家)
1965年、東京都出身。高等学校の教員を経て、歴史作家として数多くの著作を発表。NHKでは『歴史探偵』の顧問として出演。時代劇の時代考証なども数多く手がける。『大奥Season1』では古文書考証、『Season2』では時代考証を務める。

房野史典さん(お笑いコンビ・ブロードキャスト!!)
1980年、岡山県出身。お笑いコンビ・ブロードキャスト!! のツッコミ担当。日本史に詳しく、歴史に関する著書多数。


――大奥というと男子禁制の場所ですが、ドラマの原作となった、よしながふみさんのマンガでは男女が逆転します。3代将軍家光の時代に、若い男性だけがかかってしまう架空の疫病「赤面疱瘡(あかづらほうそう)」が流行し男性の人口が激減。家光も病にかかって亡くなってしまい、将軍の職は女性へと引き継がれます。そして「大奥」は、希少な男子を囲う場所となって、男女が逆転することになりました。

河合:
脚本をわくわくしながら読ませていただきました。大奥を舞台に、どんどん主人公が変遷していくところに、飽きさせない工夫があると思いました。

房野:
僕は、漫画は全巻読んでいるしドラマも全部見ています。「もし男女の役割が入れ替わっていたら」という強烈なファンタジーであるにも関わらず、江戸時代や徳川幕府で実際に起こった出来事を元に、見事なまでに再構築されていると思います。まず、8代将軍・吉宗に冨永愛さんの起用を考えられた方にスタンディングオベーションですね(笑)

――吉宗は徳川将軍の中でもかなり有名な存在ですよね。

河合:
でも、今の小学校の教科書には徳川吉宗の名前は載っていないんですよ。これまでの教科書に載っていたはずの、幕府の三代改革(享保・寛政・天保)をおこなった、徳川吉宗、松平定信、水野忠邦は削除されているんです。今の小学校の教科書では、江戸時代の文化や対外政策は多いのですが、政治史は極めて少なくなっています。

間違って覚えていた江戸時代

房野:
みなさんは「士農工商」について学びましたよね?

――江戸時代の身分制度ですよね?

房野:
一番上の「士」は武士のことで、2番目の「農」は農民、「工」は職人、「商」は商人。この順番で厳しい上下関係があったと習ったと思います。しかし、江戸時代にはこんな身分制度は存在していなかったんです。正しくは、支配者の「武士」と被支配者の「農民・町人」という二つの身分だけなんです。現在の教科書にも「武士・百姓・職人・商人は士農工商(四民)といわれ、江戸時代では社会を構成する中心的な身分と考えられていた。士は苗字・帯刀や切捨御免などの特権をもち、農工商に優越する身分であったが、農工商の順は必ずしも身分序列ではなかった」と記載されているんです。

――じゃあ「士農工商」というのは何だったんですか?

河合:
士農工商という概念は古代中国のもので、四つの身分というより「あらゆる人々」という意味なんです。なのに江戸時代に儒学者が強引に日本の社会にあてはめて、それが誤った形で明治以降に伝わってしまたんです。正確には、農民と町人については、村に住むのが農民、主に城下町に住むのが町人というように、居住区や職業を分けるものにすぎなかったんです。しかもお金さえあれば、農民が武士になったり、農民が町人になったり、身分間での移動もできたんです。

――その他に間違って覚えていた江戸時代のことってありますか?

房野:
参勤交代の「各国の大名の経済力を落とすのが目的だった」という解釈は間違いなんです。本来は主従関係の確認が目的で、むしろ幕府は武家諸法度の中で、参勤交代のときの派手な大名行列はやめるように促していたんです。

――大名たちはなぜ派手な大名行列をしたんですか?

河合:
参勤交代における大名行列は各国の威信がかかっていたので、できるだけ派手にしたかったんです。その結果、参勤交代にばく大なお金がかかるようになり、各国の割合はまちまちですが、年間支出額の20~40%程度を占めていたといわれているんです。経済力低下が目的ではなかったのですが、結果、大名のお金がなくなっていったというのが本当のところなんです。

ドラマの登場人物、ホントはこんな人!

――松下奈緒さん演じる田沼意次について最新の研究で分かった意外な事実を教えてください。

房野:
「田沼といえば賄賂、賄賂といえば田沼」というような、汚職政治家というイメージが強いと思いますが、現在では革新的な財政改革を行なった優秀な政治家という見方もされているんです。

――田沼意次は賄賂を受け取っていなかったということですか?

房野:
優秀、汚職、半々という感じですね。それもこれも意次が行った財政改革にあるんです。

――どのような財政改革だったのですか?

房野:
田沼意次の少し前の時代。8代吉宗は幕府の財政難を救うため、いわゆる「享保の改革」を行って、年貢量も直轄領も過去最高を叩き出しましたが、年貢をたくさん取り立て(増税)、農民は大きな負担を強いられていました。そこで田沼は、年貢から徴収する税に限界を感じて、稼ぎの良い産業・商業に目を付けたんです。そして、発展した商業から税を取るべく「株仲間」という制度を利用したんです。株仲間というのは、市場の独占権を与えられた商工業者の同業組合で、株仲間自体は、江戸時代の初期には禁止されていたのですが、享保の改革で公認されていました。この株仲間に独占権を与える代わりに、お礼のお金(冥加金・運上金)をきっちりいただくというルールを作ったんです。

――贈収賄のニオイがしますね。

河合:
江戸時代には、偉い人に付け届け(賄賂)をして、利益に預かろうというのは一般的に行われていました。田沼意次は幕府の最高権力者なので、彼のもとに賄賂が殺到するのは当然だと思いますね。しかし、「田沼=賄賂」という印象は、ライバルの松平定信のフェイクニュースではないか、という説もあるんですよ。

――ドラマでは安達祐実さんが松平定信を演じていますね。

河合:
賄賂伝説の出所を探ってみると、田沼意次が失脚した後、松平定信と親密な人々が発信していることが多いんです。もちろん、前の権力者を貶(おとし)めることは歴史上よくあることですが、ここまで田沼意次の悪評が広まったのは、松平定信に明確な復讐の意図があったからだと思いますね。実際、田沼の失脚後に財産を没収して城も打ち壊しましたからね。

――鈴木杏さん演じる平賀源内はどうですか?

河合:
平賀源内はエレキテルを発明したといわれていますが、実は発明したわけではなく修理しただけなんです。静電気の原理を理解できず、通訳を介して原理を勉強して、7年かけて修理したそうです。

――発明家ではなかったということですか?

河合:
もちろん、発明家という側面もあって、水平を調べる「平線儀」や「寒暖計(温度計)」などの新しい製品を世に出しています。商売も上手で、特にヒットしたのは「金唐革紙(きんからかわし)」です。金唐革とは、なめし革に金箔や銀箔などを張り付けて、さまざまな模様をプレスした色彩をほどこしたもので、主にヨーロッパから輸入されて、煙草入れなどの素材として飛ぶように売れたといわれています。

――発明家というより実業家っぽいですね?

房野:
田沼意次が鉱山開発に力を注いだときに、力を貸したのも平賀源内でした。源内は、中国の薬物学やヨーロッパの蘭学の知識も持っていたので、そういった新しい技術や知識を使って、鉱山の開発を支えました。田沼意次は源内のパトロンだったともいわれているんです。

幕府がなくなれば大奥もなくなる

――ドラマ『大奥Season2』は、幕末まで、大奥の終わりまで描かれるそうですね。

房野:
将軍のための大奥なので、幕府がなくなれば大奥もなくなるのは当然のことですよね。

――幕末の出来事で、意外な新事実というのはありますか?

房野:
江戸城を無血開城に導いたといわれている「勝海舟と西郷隆盛の会談」はいかがでしょうか? 大政奉還の後、新政府軍と旧幕府軍の間で起きた内戦、戊辰戦争のときに、幕府側の代表・勝海舟と、新政府側の代表・西郷隆盛が会談して、江戸城を無抵抗で開城する代わりに、徳川慶喜の命を助けて、江戸への総攻撃をやめてほしいと勝が懇願。それを西郷が独断で了承したという会談。勝の捨て身の訴えと、西郷の度量が、江戸を戦火から守ったというめちゃめちゃかっこいい逸話ですよね。

――逸話? まさか、この会談がなかったんですか?

房野:
会談自体はありましたが、このときに会談したのは二人だけではなかったといわれているし、江戸城の無血開城もこの会談で全てが決定したわけではないんです。

河合:
実はこの会見前に、勝海舟は徳川慶喜の了承を得て、山岡鉄舟という人物を西郷のもとへ派遣して、慶喜の助命と江戸総攻撃の中止について西郷は了承していたんです。なので、すでに答えは決まっていて、その内容を具体的に取り決めたのがこの会談なんです。しかも、勝は会見に先立って、戦争の準備も整えていたし、イギリス公使を通して新政府に対して江戸総攻撃の中止を申し入れさせるなど、圧力をかけていたんです。

――なぜ二人で会談したという話になったのですか?

河合:
結城素明(ゆうき・そめい)の「江戸開城談判」という絵を見たことありませんか? 勝と西郷が向かい合って座っている絵のインパクトが強いので、二人で行われたものだと勘違いされて、そこから話が広がったと思います。

――今回、時代考証をされる際に、こだわったところはありますか?

河合:
原作はフィクションですが、なるべく史実に沿いたいという意向が制作サイドからあったので、誤った史実はすべて指摘しました。また、江戸時代に使われていない言葉は、すべて江戸時代に使われていて、現在も意味が通じるものに変えました。ただ、最終的にどうするかは制作サイドの判断に委ねているので、そこがドラマでどうなっているのか楽しみですね。

房野:
とにかくエンタメとして楽しんでほしいですね。

――今回も驚きの連続でした。

大奥

総合 毎週火曜 よる10時ほか
Season2 10月3日(火)スタート

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【放送】
2023/09/22 「ごごカフェ」

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