聴いて楽しい! 国歌の魅力

23/09/19まで
ごごカフェ
放送日:2023/09/12
#インタビュー#ワールド
午後2時台を聴く
23/09/19まで
オリンピックや世界大会などで流れる国歌。さまざまな言語やメロディーの国歌には、興味深い背景があるといわれています。国歌研究家の浅見良太さんに、特徴ある国歌を紹介していただきました。(聞き手:武内陶子パーソナリティー)
【出演者】
浅見良太さん(国歌研究家)
<プロフィール>
1985年、埼玉県出身。2007年から、インド・ネパール、ヨーロッパ、北アフリカ・中東など30か国を回り、その道中で国歌に関心を持つ。2010年、テレビ番組の制作会社に入社。2015年に退社し、国歌を通じた国際交流の普及を目的に活動。
――国歌のどのようなところに興味を持ったのですか?
浅見:
国歌を知ることは、その国の歴史や文化、ときにはその国が抱える事情も感じることができるんです。国歌は最高のコミュニケーションツールだと思っています。
――国歌を知っていると、その国の人に喜ばれますか?
浅見:
めちゃくちゃ喜ばれます! 僕は旅行先でその国の国歌を歌うことを勧めています。国歌はコミュニケーションのきっかけにもなるし、相手の国へのリスペクトを端的に表現できます。メロディーを鼻歌で歌うだけでも良いと思っています。ワンフレーズだけ、国の名前が入っているところが歌えるだけでも大丈夫ですよ。エチオピアでは「国歌を歌える日本人がいる」ということで国営放送のラジオで歌ったこともあるんですよ。
――浅見さんは、どのような活動をしているのですか?
浅見:
国歌に関するイベントを行っています。また、いろいろな国の政府機関や大使館などから国歌の正しい情報をもらってホームページなどに掲載しています。
――間違った情報があるのですか?
浅見:
インターネットや書籍などでも、曲のタイトルや作曲者の名前が間違っていることがあるんです。
曲が特徴的な国歌
浅見:
私が最初にハマった国歌は、イタリアの国歌『イタリア人の歌』です。作詞者のゴッフレード・マメーリにちなみ『マメーリの讃歌』と呼ばれています。前奏があり、間奏があり、リズミカルで、途中で変調もします。
===イタリア国歌「マメーリの賛歌」===
――続いての国歌は?
浅見:
ネパールの国歌です。通称『何百もの花束』というタイトルで、こちらの呼び名が一般的です。素朴でどこか懐かしいメロディーで、歌詞も「一つ一つの花(国民のこと)が一つにまとまって大輪をつくる」といった内容なんです。国歌は国威高揚の意味合いを持つものが多いので、こういった曲は珍しいですね。
===ネパール国歌===
――ほかにも、特徴的な国歌はありますか?
浅見:
ニュージーランドの国歌、『神よ ニュージーランドを護(まも)り賜(たま)え』です。ニュージーランドは、「英語」と「マオリ語」と「手話」が公用語なんです。手話は2006年に公用語に加わったので、国歌にも手話が入っているんです。
===ニュージーランド国歌「神よ ニュージーランドを護り賜え」===
――新しく手話が加わったように、国歌も時代に合わせて変わることがあるのですか?
浅見:
オーストラリアの国歌は2回歌詞が変更されています。1984年にはジェンダー平等の観点から、「Sons(息子たち)」が「all(みんな)」に変更されました。2021年には、先住民に配慮して、「若くて自由だ」という歌詞が「ひとつで自由だ」になりました。この「若くて」というのは、イギリスが入植してからのことを指しているので「ひとつで」という表現になったんです。
長い国歌、短い国歌
浅見:
世界一メロディーが長い国歌は、ギリシャといわれているのですが、実は間違いです。ギリシャ国歌で使われている詩の原文は長いのですが、実際に歌詞に使われているのはその一部なんです。だから一番長い国歌とはいえないんです。
――ではどこが一番長いのですか?
浅見:
南米、ウルグアイの国歌です。11番まであって、さすがに私もフルで聴いたことはないのですが、単純計算で考えても40~50分くらいになるでしょう。
===ウルグアイ国歌===
――国際大会などで歌うときはどうしているの?
浅見:
長い国歌はだいたい短いバージョンも用意しています。サッカーのFIFAの大会では、国歌が90秒と決まっていて、どれだけ長くても90秒でプツッと切れてしまいます。
――反対に一番短い国歌は?
浅見:
一番短いのは、日本の『君が代』です。国際試合でも、歌い出しを合わせやすいように、前奏が10秒ほど追加されていますが、それでも1分弱なので、かなり短いです。
歌詞が・・・な国歌
浅見:
国歌に歌詞がないのは、スペイン、コソボ、ボスニア・ヘルツェゴビナ、サンマリノの4か国です。
――どうして歌詞がないのですか?
浅見:
サンマリノだけは、大使館に理由を問い合わせてもわからなかったのですが、ほかの国は、それぞれの国の中に、自分たちは独立した文化を大事にしているという地域があるため、そこで、統一した歌詞をつけると角が立つので歌詞がないそうなんです。旅先でスペインの人に国歌を歌ってと頼んだら、鼻歌で歌われて、歌詞がないという話で盛り上がりました。
===スペイン国歌「スペイン王室行進曲」===
――歌詞が特徴的な国歌は?
浅見:
歌詞が特徴的なのは、南アフリカ共和国の「南アフリカ国歌」だと思います。この国歌は、2つの曲を一つにしたもので、しかも5つの言語が使われています。前半は、アパルトヘイトを廃止した黒人たちの讃美歌『神よ、アフリカに祝福を』が、コサ語・ズールー語・ソト語で歌われています。そして、後半は、アパルトヘイト政策をしていた白人たちの時代の国歌『南アフリカの呼び声』が、アフリカーンス語、英語で歌われているんです。曲をつなげたのは、ノーベル平和賞受賞者のネルソン・マンデラです。いろいろな民族が共存できる国を目指し、白人を排除するのではなく、共生の意味をこめて、アパルトヘイト前後の二つの国歌をつなげたとても感動的な国歌なんです。
――背景を知ると涙が出てきますね。
===南アフリカ共和国国歌「南アフリカ国歌」===
浅見:
現在、ラグビーのワールドカップが開催されています。来年にはパリ・オリンピックもあるし、2025年には大阪で万博も行われます。国歌に触れる機会も多いと思うので、この機会に国歌を知ってもらいたいですね。日本には200弱の国籍の人がいて、大使館も150くらいあります。でも、あまり知らない国もたくさんあります。そんな国を知るきっかけに国歌がなったらいいなと思っています。
――きょうは新しい世界を見させていただきました。ありがとうございました。
番組で紹介した国歌
- 1)イタリア人の歌
- 2)ネパール国歌
- 3)神よ ニュージーランドを護り賜え
- 4)ウルグアイの国歌
- 5)スペイン王室行進曲
- 6)南アフリカ国歌
以上 山田和樹[指揮] 東京混声合唱団
【放送】
2023/09/12 「ごごカフェ」
午後2時台を聴く
23/09/19まで