午後2時台を聴く
23/08/02まで
世界文化遺産に登録されて10年。多くの人が、富士山頂からの御来光を目当てに、富士登山に挑戦しています。しかし、富士山は眺めるだけでも十分に楽しめます。長年、空と富士山を観察し続けてきた “空の探検家” 武田康男さんに、不思議でおもしろい空と富士山についてうかがいました。(聞き手:武内陶子パーソナリティー)
【出演者】
武田康男さん(空の探検家)
<プロフィール>
1960年、東京都出身。大学卒業後、千葉県立高校の理科の教諭に。2008年から、第50次南極地域観測隊の越冬隊員をおよそ1年間務め、2011年に独立。現在、大学の非常勤講師として地学を教えながら“空の探検家”として、小中高校や市民講座などで講演を行なっている。
――空の探検家とは?
武田:
空で起こることを、現場に行って記録して伝える人のことです。私は、虹や雲、蜃気楼やオーロラ、星空など、空で見られる自然現象の美しさを写真や動画に記録して、本などで伝えています。
――空に興味を持ったきっかけは?
武田:
幼稚園の時、母親との買い物帰りに、はっきり定義できないのですが、火球を見たんです。火球とは流れ星の中でも、特に明るいもののことをいうのですが、そのとき見たのは、月と同じくらいの明るさでした。当時は誰に聞いても分からず、小学生になって百科事典などでさがしたけど、空関係の資料はほとんどなかったんです。文章を読んでも、書いた人は本物を見ていないんじゃないかと思う説明ばかりでした。それなら、自分で写真を撮って図鑑を作るしかないと思うようになったんです。
――今では、たくさんの本を発表されるようになって、子どもの頃に思い描いた夢を実現されていますね。富士山には、どうして興味をもたれたんですか?
武田:
富士山は、美しい円すい形の日本一高い山です。近くには海があり、偏西風など、さまざまな風や日射により、バラエティーに富んだ雲ができます。季節や時刻の変化だけでなく、年によって、雪の様子や天候が異なり、二度と見られないような珍しい現象にも出会いました。何度も登って、たくさんの写真を撮りました。
――いつもはどのように撮影されているのですか?
武田:
山中湖近くに借りた部屋に、30秒ごとにシャッターが切れるようにカメラを設定しています。毎日、おもしろいものが撮れ、ひとつとして同じものはありません。
空と富士山との絶景コラボ
【チャンス到来! 巨大笠雲とつるし雲】
武田:
富士山が笠をかぶっているように見える雲が「笠雲」です。富士山に現れる雲の代表格といっていいでしょう。山にくっついたり、離れたり、二重になったり、さまざまな形で一年中楽しませてくれます。一方「つるし雲」は、富士山の横にできる雲です。富士山を乗り越えた湿り気のある風と、山の両側をまわり込んできた風が、ぶつかって上昇する場所にできます。
――笠雲やつるし雲は、どういった時に出会えるのですか?
武田:
富士山の笠雲は、日本海側に低気圧や前線があって、南の海の方から強い風が吹く時によくできます。発達した低気圧や台風によって湿った風がたくさん吹くと、巨大な笠雲になるんです。また、つるし雲は、笠雲の時よりも湿った風が入った時にできやすく、笠雲と一緒に見られることもあります。どちらも低気圧や台風の接近時に見られ、特に、巨大なつるし雲は、梅雨明けや、台風の通過直後に現れる場合が多いです。
――何時ごろに現れますか?
武田:
どちらも出やすい時刻はありませんが、朝日や夕日に染まる姿はとても美しく、雲の一部が虹のように色鮮やかに輝いて見える彩雲(さいうん)にも出会えるかもしれません。富士山の雲を代表する笠雲と、富士山ならではのつるし雲、そして彩雲にも出会ってほしいですね。
【パール富士を目撃せよ!】
――ダイヤモンド富士は聞いたことがありますけど、パール富士ってなんですか?
武田:
ダイヤモンド富士は山頂に太陽が重なることですが、パール富士は月が山頂に重なるシーンのことです。特に満月の頃は美しい光景となり、太陽のようにまぶしくないので、肉眼で観察しやすいですよ。ただし、満月は月にほぼ1回なので、その前後を含めてもチャンスが少なく、出る時刻も位置もバラバラです。事前に見られる場所や時刻を念入りに調べてください。天気の判断が重要で、笠雲などがあると見ることができません。私も何度か挑戦してやっと撮影に成功しました。
――夏休み中に見られるチャンスはありますか?
武田:
今年の8月は2日、31日と満月が2回めぐってくるんです。そのうち31日は、地球からもっとも近い位置で満月(スーパームーン)になるため、大きく明るく見える予定です。8月2日の満月の位置も、地球にかなり近いので、両日とも、絶好のパール富士鑑賞のタイミングだと思いますよ。時刻と場所を適切に選んで、天気さえ味方すれば、より美しいパール富士が期待できるでしょう。
【幸せになる? グリーンフラッシュ!】
武田:
グリーンフラッシュとは、太陽が地平線から出入りする瞬間、一瞬だけ見える緑色の光のことです。この写真は、太陽が富士山頂付近に消える瞬間、緑や青の色に輝いているのを、120km離れた千葉県の自宅から撮りました。「グリーンフラッシュを見た人は幸せになる」とも言われていますが、日本ではよほど条件がよくないと見ることはできません。
富士5合目から見る雲海
武田:
富士5合目から見る雲海がオススメです。山頂からだと低い位置に雲海があるため、遠くに見えますが、5合目ならすぐ近くに見えて迫力を味わえます。雲海がもっとも厚く成長しやすいのは、夏から秋にかけて、夜間に気温が下がったあとの早朝です。夜明け前に雲海が広がると、街明かりをシャットアウトするので、星空もキレイに見えますよ。
- ※ 夏の間は、5合目までマイカー規制がかかることもあるので事前に確認を。
――とてもステキなお話でした。これからも空の探検を続けてください。ありがとうございました。
【放送】
2023/07/26 「ごごカフェ」
午後2時台を聴く
23/08/02まで