オランウータンを尊敬する黒鳥さんは、バブルス君にも会っている

23/07/19まで
ごごカフェ
放送日:2023/07/12
#どうぶつ
午後2時台を聴く
23/07/19まで
上野動物園や多摩動物園で、長年、ゴリラやオランウータンなどの大型類人猿を担当してきた黒鳥英俊(くろとり・ひでとし)さんに類人猿についての興味深いエピソードをうかがいました。(聞き手:武内陶子パーソナリティー)
【出演者】
黒鳥英俊さん
<プロフィール>
1952年、北海道出身。茨城大学農学部畜産学科卒業。千葉大学大学院修士課程修了。京都大学大学院理学研究科後期博士課程単位取得退学。1978 年より、上野動物園や多摩動物公園に勤務し、主に大型類人猿の飼育を担当。2015年退職。現在、日本オランウータン・リサーチセンター代表。著書多数。
――黒鳥さんが類人猿に興味を持ったきっかけは?
黒鳥:
高校2年のときに家でカニクイザルを飼っていたんです。
――えっ、おサルさんを飼ってたの?
黒鳥:
仕事でボルネオ島に行っていた父から「オランウータンとカニクイザルのどちらがいい?」という手紙が届いたんです。当時はワシントン条約より前だったので、野生の動物を連れてきてもよかったんです。それで、カニクイザルのほうがいいと答えた私に、父がカニクイザルを連れて帰ってきてくれたんです。
類人猿とは
黒鳥:
およそ250種類いる霊長類の中で、テナガザル、オランウータン、ゴリラ、チンパンジー、ボノボの5種類が「類人猿」と呼ばれます。そのうち、テナガザルを除いた4種類が「大型類人猿」です。
――類人猿の特徴とは?
黒鳥:
他のサルと違って、類人猿は尻尾がなく、前の腕が長く、頭がいいんです。地球上の生き物の中で、私たちに最も近いといっていいでしょう。長年彼らを見てきた私の感覚では、彼らは「サル」というより「ヒト」のような存在で、人間と共通することが多く、心を通わせることもできるんですよ。
ゴリラ
黒鳥:
ゴリラは飼育員のことも仲間と思っていて、新入りの飼育員の序列は一番下なんです。私も初めてあいさつに行ったとき、ガラス越しに体当たりして脅かされました。ミルクをあげても飲んでもらえず、飲んだと思ったら吹き出して顔にかけられました。ひどい時には、おしっこやフンをかけられました。名前を呼んでも来ないし、とにかく言うコトを聞いてくれないんです。
――どうやって仲良くなっていったのですか?
黒鳥:
近くを通るときに名前を呼んだりしているうちに、おしっこもかけられなくなり、だんだん認めてもらえるようになりました。人の方が偉いわけではないのだから、「世話をしてやってる」というのではなく「お仕えしている」というスタンスが大事なんです。
――特に思い出に残っているエピソードはありますか。
黒鳥:
ブルブルというオスのゴリラがいたのですが、ある日、木の葉をプレゼントしてくれました。ゴリラは繊細でやさしいところがあって、手のひらでダンゴ虫を遊ばせたりもします。すごい握力があるけど握りつぶしたりしないでそっと扱うんです。
チンパンジー
黒鳥:
チンパンジーは群れの中で、いつも周りを気にして生きています。関係性が複雑なので、まるで人間の社会を見ているようです。
――チンパンジーの群れっていつも騒がしいですよね?
黒鳥:
誰かの手が顔に当たったら、大げさに痛がったり、エサの順番で揉めたり、オスは力を誇示しあい、メス同士もよくケンカしています。序列の順位をめぐって、熾烈な駆け引きも繰り広げられています。
――チンパンジーのご縁で、マイケル・ジャクソンさんに会ったことあるんですって?
黒鳥:
マイケルが来日したときに、彼が泊っているホテルに、チンパンジーのバブルスに会いに行ったんです。その時に、私の目の前で、バブルスがトイレに行って、レバーで水を流して、戻ってきたのでビックリしました。
――その後、アメリカまでバブルスに会いに行ったそうですね。
黒鳥:
コロナの前に、フロリダまで会いに行ってきました。すごく優雅に暮らしていましたよ。
オランウータン
黒鳥:
チンパンジーやゴリラに比べるとオランウータンは穏やかです。野生だと単独で行動することが多く、ボーっとしているように見えるけど、実は、しっかり周りの状況を見ていて、よく理解しているんですよ。
――印象的だったオランウータンは?
黒鳥:
多摩動物園公園にいて、2017年に62歳で亡くなったメスのジプシーです。僕は心の底から尊敬していたんです。
――尊敬しちゃうほど?
黒鳥:
好奇心が強く、こちらの状況をすぐに理解して、私を助けてくれることが、度々ありました。あるとき、飼育舎の建て替えのため、仮の住まいに移動させることになったんです。動物は慣れた場所を離れるのを嫌がります。暴れ出す子もいるだろうと、麻酔も用意して準備していたのですが、ジプシーが率先して輸送箱に入って、(大丈夫だよ!)と他のオランウータンに伝えてくれたんです。おかげで、あっさり引越しが完了してすごく助かりました。
――オランウータンってハーモニカを演奏するんですって?
黒鳥:
ボルネオというオスが上手でしたね。絵を描くオラウータンもいて、新宿で個展もやったんですよ。
変わる動物園
黒鳥:
ワシントン条約に日本が同意した頃から、動物本来の暮らしや幸せを考えるように変わってきたんです。希少な野生の生き物を動物商から購入することができなくなり、種の保存や繁殖、研究、教育、福祉などを考えるようになりました。多くの動物は絶滅の危機です。動物園は動物を増やすという役割も担ってきています。ブリーディングローン(共同繁殖)といって、動物を貸し借りすることも盛んに行われています。
――オランウータンの飼育の経験も、野生の保護に役立っているそうですね。
黒鳥:
数年前、オランウータンが生息するマレーシアに調査に行きました。彼らが住む熱帯雨林は伐採され、アブラヤシの農園になり、熱帯雨林は川沿いに点々と残るのみでした。そこで点在する森と森をつなぐ「スカイウォーク」を作ることにしたんです。このプロジェクトは組織化され、保護活動に役立っています。
――黒鳥さんのお話を聞いていたら、彼らに会いたくなりました。
黒鳥:
同じ類人猿でも、種類によって違うし、オスとメスの違いもあるので、体の特徴も観察してみてください。また、個体ごとにキャラクターの違いもありますし、人との違いや共通点なども意識してみると楽しいですよ。
――夏休みの自由研究のテーマにもなりそうですね。
黒鳥:
ぜひ、動物園に行って、彼らの魅力を感じてください。そして、彼らのふるさとの森についても考えてみてください。
【放送】
2023/07/12 「ごごカフェ」
午後2時台を聴く
23/07/19まで