児童文学ワンダーランドドンド

23/07/05まで

ごごカフェ

放送日:2023/06/28

#文学#読書

午後2時台を聴く
23/07/05まで

午後2時台を聴く
23/07/05まで

小説家 中島京子さんの原点は、幼い頃に親しんだ児童文学にワクワクした体験にあるといいます。『くまのプーさん』や『秘密の花園』に込められた、大切なメッセージを大人になった今、改めて中島さんと一緒に考えました。(聞き手:武内陶子パーソナリティー)

【出演者】
中島京子さん(小説家)


<プロフィール>
1964年東京都出身。東京女子大学卒業後、出版社勤務を経て渡米。2003年、『FUTON』で小説家デビュー。2010年『小さいおうち』で直木賞受賞、以来、数々の作品を発表。2021年に発表された『やさしい猫』はドラマ化され、現在NHKで放送中。


――子どものころから小説を書いていたのですか?

中島:
最初の小説は中学生のときに書きました。萩尾望都さんから影響をうけたヨーロッパが舞台の物語でした。私の小説を読んだ父には、こんな小説を書いて!と怒られました。それ以来、父に見つからないようこっそり書いていました。これを中島家の言論弾圧事件といっています(笑)。

――それでも執筆活動は続けたんですよね。

中島:
こっそりと高校生のころまで書き続けていました。今度は姉に見つかったんですが、姉は笑って読んでくれたんです。それを見て「小説を書いてもいいんだ」と思い、今につながっています。今回は私の作家としての原点でもある児童文学の世界をご案内しますね。

中島さんの児童文学案内

――最初に紹介していだくのは、A.A.ミルンの『クマのプーさん』ですね。

中島:
初めて出会ってから50年近くたっていますが、いまでもプーさんたちの愉快な言葉が私を楽しませてくれます。プーさんは天性の詩人なんですよ。

――それではプーさんがつくった詩をご紹介しましょう。

  • 詩の朗読は「聴き逃し」で。

中島:
「春がほんとに きたんだだんだ」というフレーズがありましたが、これは翻訳の妙もあるんです。原文でスペルを間違えて表現してあるのですが、それを翻訳の石井桃子さんが、うまく日本語に表現したんです。だから「きたんだだんだ」になっているんですよ。これってすごいですよね。プーさんには、そんな言い間違いのような言葉がたくさん入っているんです。

――いまでもプーさんに出てくるフレーズは言えますか?

中島:
「見らりょと咲けば」「ゴロッポと鳴いて」「春がほんとに きたんだだんだ」この3つのフレーズはいまだにしっかり残っています。それから、インテリのフクロが「おたじゃうひ、おやわい、およわい」と言うのですが、このフレーズは今でも姉と誕生日お祝いに送り合っているんですよ。私にとってプーさんは、言葉の楽しさを味わった初めての文学体験だった思います。

――次に紹介していただく『秘密の花園』、私は読んだことがなかったんですよ。

中島:
バーネットの『秘密の花園』は、小学生から中学生のときに何度も読み返した、私にとって特別な本です。病気になるとこの本を読んでいた気がします。病気がちな主人公が自然に癒やされて健康になっていく話なんですが、主人公がとても地味で物語の冒頭から嫌なことを言いまくる扱いづらい少女なんです。でも彼女のすごいところは、自分がきれいじゃないことを知っていて、全然気にしていないところなんです。「おめえもわしも不細工だし、器量に負けず愛想も悪い。気立ても悪い。おたがいにな」と言われても怒らないし動じないんです。彼女は、人よりも動物・植物とのコミュニケーションのほうが得意で、特別な能力があるわけじゃないけど、花園と触れていくことで花園はどんどん美しくなり、主人公も変わっていくんです。

――少女文学の主人公のパターンから外れているということですか?

中島:
作者のバーネットは『小公子』『小公女』も書いていますが、この2作品の主人公はかしこくてかわいいんです。でも『秘密の花園』の主人公は、スター性に欠けているから幼い私の心に残ったんだと思います。

――続いてはミヒャエル・エンデの『モモ』ですね。

中島:
灰色の男たちという存在が人々から時間を奪い、主人公のモモという女の子が時間をとり返しにいくという物語です。主人公のモモは、みんなを楽しませるのが得意な不思議な女の子。みんなモモを慕って、彼女のために住むところを与えたり、食事をあげたりしていました。しかし、灰色の男たちという時間泥棒の出現で変わってしまうんです。灰色の男たちは「時間を節約して、貯蓄しておきなさい」とささやきかけ、無駄な時間を作らずに効率よく仕事をして成功するようにと説くんです。「効率」こそが、優先で、ゆったりした幸せな時間はムダだと言うんです。でも、コロナ禍で『モモ』を読んだときに、幸せな時間こそ「人間らしい時間」なんだと考えさせられました。

――中島さんの『やさしい猫』は『モモ』に通じる考えがあるんですって。

中島:
コロナ禍でステイホームが推奨されたのに、かえってホームレスが増えてしまったことを知りました。『モモ』を読んでいたので、もっとコミュニティーで支え合う社会が必要なんだと思って書いた作品です。

――これからはどんな作品を書かれる予定ですか?

中島:
それは公言しないようにしているんですよ。くまのプーさんが「大きなことを考えていても、人に話すとつまんないことを言っちゃった気がする」って言ってるんです。私はプーさんの影響を受けて育っているので、言わないようにしています(笑)。でもがんばります!

――私もプーさんを読んでみます。

やさしい猫

総合 毎週土曜 よる10時~10時49分ほか

詳しくはこちら


【放送】
2023/06/28 「ごごカフェ」

午後2時台を聴く
23/07/05まで

午後2時台を聴く
23/07/05まで

この記事をシェアする

※別ウィンドウで開きます