2017年にアコーディオンの聖地、イタリアの町カステルフィダルドから名誉市民を授与されたcobaさん。イタリア共和国建国記念日の6月2日に、イタリアへの思いやアコーディオンへの愛、生演奏も披露していただきました。(聞き手:吾妻謙パーソナリティー)
【出演者】
cobaさん(アコーディオニスト・作曲家)
<プロフィール>
3歳から音楽に接し、小学4年生でアコーディオンに出会う。18歳でイタリアに留学。その後、数々のコンクールで優勝。1980年代には、アイスランドの歌姫 ビョークのワールドツアーにも参加。日本を代表するアコーディオン奏者の一人。
coba:
かつて、僕にとってアコーディオンという楽器は、のど自慢の伴奏というか、小道具のようなイメージだったんですよ。そのイメージを変えたいという気持ちが、僕のアコーディオンのスタートだったんです。そのイメージを変えるには、根本を知らなくちゃだめだと思って、アコーディオンが育まれたイタリアに留学したんです。ヴェネツィアのルチアーノ・ファンチェルリ音楽院です。
――世界中からアコーディオン奏者が学びにきていたんですか?
coba:
もうレベルが高くて、8歳くらいの子どもたちがバッハとか、とんでもなく難解な曲をいとも簡単に弾いているんですよ。僕は18歳ですからね。これは真剣にやらなくちゃと思いましたね。
――日本で、練習を重ねて乗り込んだんですよね?
coba:
バキバキに練習して乗り込みましたよ。そして入学試験で演奏したら、30秒くらい弾いたら校長先生が「やめなさい! あなたがこのままの状態で演奏を続けたら、世の中のためになりません」って言われたんです。そして、そこから個人レッスンが始まったんです。楽器の持ち方、いすの座り方、指のポジション、、、。これは落ちるなと思ったら、あちらは広き門なんですね。「これからがんばれよ!」って入学できたんです。アコーディオン科だけで同級生が1000人もいたんです。4年間でどのくらい上に行けるか、とにかく頑張って練習しました。
――だって卒業時は首席ですよね。
coba:
一生懸命という言葉はあの時代に使い果たしました!というくらい頑張りました。1日12時間くらいは練習しました。4年間、真剣にアコーディオンと向き合いましたね。音楽のみならず、イタリアでの出来事は、人との付き合い方、生きる喜び、食文化まで、あらゆることが僕の体に染み込みました。少年cobaは、18歳で人生が180度変わったといってもいいでしょう。
――きょうは、アコーディオンを持ってきていただいています。
coba:
では、イタリア映画『アマルコルド』の一節を演奏しましょう。この曲は、フェデリコ・フェリーニ監督の作品で、作曲はニーノ・ロータです。
- ※ cobaさんの演奏は「聴き逃し」で1週間お楽しみいただけます。
――アコーディオン奏者として、デビュー前に3つのことを封印したそうですね。
coba:
便利なひとりオーケストラ と思われたくないから、①ソロ演奏はしない。オリジナルジャンルを確立するため ②人の曲のカバーをしない。伴奏のための楽器と言われないため ③人の伴奏は絶対にしない。です。でも、長年やってきて、これは「若気の至り」だったなと思いますね。音楽ってもっとすばらしく深いものなんですよ。これってワインと同じなんですよ。ワイナリーでもコンサートしたりしていますが、ワイン醸造家の方たちは、皆アーティストです。僕の音楽を聴いた瞬間に心が通じて、ワインと音楽のマリアージュの話で、飲み明かすこともありました。
――「アコーディオンを持ったのは天命だった!」と感じた出来事があったそうですね。
coba:
アコーディオン奏者になるべくしてなったと感じたのは、東日本大震災の直後です。アコーディオンでみんなを元気にしたくて車を運転して被災地を訪問しました。避難所で「大漁節」を演奏してほしいとリクエストされたんです。でも、これはおめでたい歌だからできないと言ったら、ご婦人に「今だからこそやらなきゃだめよ! 私が歌うから」って叱られて、伴奏を解禁したんです。そうしたら避難所で大合唱になったんです。この触れ合いや感覚こそが音楽であり、この瞬間のためにアコーディオンをやったんだと思いました。今思い出しても涙が出ますね。
――途切れることのないアコーディオンへの愛、音楽への探求心はどこから?
coba:
アコーディオンを醜いアヒルの子から美しい白鳥にしたい! と夢見た子供時代。その後、イタリア留学、CDデビュー、海外進出を経て、絶えず『この楽器の運命を変えるための新しい音楽』 を探し続けてきました。やがてそれは僕の中で大きく成長し、いつの間にか僕のライフワークになってしまいました。CDデビュー以来、一貫してアコーディオン音楽に革命を起こそうと努力しました。その結果、今では他のジャンルのアーティストや番組、オーケストラからも曲の依頼や、アイデアの提供を求められるようになりました。
――今後のご予定は?
coba:
9月に、食、音楽、ダンス、芝居などを1つに溶かし込んだ『運命のレシピ』というイベントを立ち上げます。究極のおもてなしエンターテインメントです。その他、クラシックの楽器とのシンフォニックユニットや、フラメンコギタリストの沖仁くんと新ユニットも立ち上げました。来年にはアルバムリリースと全国ツアーを企画中です。これからも日本国内はもとよりヨーロッパなどでも活動したいと考えています。
――新たな目標や挑戦は?
coba:
今までの経験に頼ってしまうと新しいものが生まれなくなるんです。なので、いつでも優れたモノ、すばらしいアートに対し、謙虚で、平気でひざまずける感性を保ち続けたいと思っています。好奇心を持つのは大切だと思いますね。そして健康ですね。
【放送】
2023/06/02 「ごごカフェ」