辛酸なめ子さん/こんな時代を無心に生きる

22/10/19まで
ごごカフェ
放送日:2022/10/12
#インタビュー#コロナウイルス#ライフスタイル#ココロのハナシ
14時台を聴く
22/10/19まで
コロナ禍で日常が変化し、思い悩んでいた辛酸なめ子さん。コロナの不安を消すために “無心になること”と“旅への思い”を追求されたそうです。無心になるためのチャレンジとは? 旅の脳内キャンペーンとは?(聞き手:武内陶子パーソナリティー)
【出演者】
辛酸なめ子さん(漫画家・コラムニスト)
<プロフィール>
1974年、東京都生まれ、埼玉県育ち。武蔵野美術大学短期大学卒業。在学中からイラストレーター、ライターとして活動。1994年、漫画家デビュー。インターネットに開設したWebサイトが話題となりコラムニストとしても活動。著書多数。
――新型コロナウイルス発生当初は、かなり試行錯誤されたそうですね。
辛酸: |
世界中が経済的にも健康的にも脅かされる事態に遭遇してしまい、「なんでこんな時代に巡りあってしまったんだろう」としばらく思い悩みました。 |
――コロナの不安を消すために何をされましたか?
辛酸: |
アマビエの絵を飾ったり、神社に参拝して大吉のおみくじを引き当てて少々安堵(あんど)したり、恐怖を恐怖で打ち消すために、エレベーターがガラス張りになっていて、展望台のフェンスも透明の高さ230m近くもある渋谷の展望台に行ったりしました。また、別の日には日本一長いつり橋に行きました。どちらも最高の景色でした。そして、コロナの恐怖を別の恐怖で上書きするということは難しいとわかりました。 |
「無心」になるために
――そうした試行錯誤の末に「無心」にたどり着いたそうですが、そもそも「無心」とはどういうことですか?
辛酸: |
「無心」とは心を整えることと私は解釈しています。11年前から生活の中にめい想を取り入れています。雑念がリセットされて集中力が高まり、忙しい時も慌てず落ち着けることを実感していました。パンデミックが発生して、もっと「無心」になることを心がけないとやっていけないと思うようになりました。 |
――「無心」になるために、スイーツ離れや星空ヒーリングなどいろいろされているそうですね。アロマテラピー1級の検定にも合格されたんですって。
辛酸: |
嗅覚を鍛えて心を整え、自然に則した生き方ができるようになればと、アロマセラピーを学びました。香りはダイレクトに脳に作用し、記憶や感情に働きかけたり、ホルモンや自律神経を調整したり、体や肌、心にポジティブな作用を及ぼすといわれています。アロマテラピー検定のためにアロマまみれになりました。 |
――「無心」になるために盆踊りもされたそうですね。
辛酸: |
盆踊りは脳波がシータ波になると聞いたことがありました。シータ波は睡眠に入る状態や、浅い睡眠の時などの脳波で、めい想状態でも出るといわれているんです。ならばと思い、東京の神宮外苑で岐阜県の伝統的な盆踊り「郡上おどり」が行われたので、ひとりで参加しました。 |
――ひとりで参加して踊れましたか?
辛酸: |
盆踊りに参加するには最初の勢いが肝心なんです。見ている側にまわってしまうと参加しづらくなるため、最初から積極的に輪の中へ入りました。踊っている間は「無心」に近く、日常の悩みを忘れられる感じでした。自分が霊になったようで、心が無に近づいたのかもしれません。 |
――デジタルデトックスもされたそうですね。
辛酸: |
ある展覧会で空海が持ち帰った平安時代の重要な書を見たんです。これは嵐に遭遇し、命の危険にさらされながら遣唐使として海を渡った空海が、経典などを写して持ち帰ったものです。恐らく後世の日本人を救うという崇高な使命感にかられたからと想像しました。それに引き換え、安全で気軽に旅行できるようになった私たち現代人は、旅行へ行くと、自分の優越感や承認欲求を満たすために写真を撮影してSNSにアップ。もちろん有益な情報を届けたいとポジティブな気持ちでアップしている人もいますが、私の場合、最初は知り合いに楽しんでもらえればという思いではじめていたが、いつの頃からか、「いいね」がついているか頻繁にチェックし、友人のAさんはBさんにはいつも「いいね」を押しているのに、私はスルーされるなど、細かいことが気になるようになってしまいました。空海の苦労や心がけに比べると意識が低すぎると思いSNSと距離を置くことにしたんです。 |
――距離を置いて変化は起こりましたか?
辛酸: |
人の投稿はたまにチェックしていましたが、自身がSNSにアップしなくなっただけでも心が楽になりました。投稿して誰かに認められたいことにエネルギーを使わなくなったからでしょうね。時間の節約にもなるし、SNSと距離を置くことは、「無心」への一歩としておすすめです。 |
辛酸なめ子の「脳内キャンペーン」
辛酸: |
コロナ禍になり心を整えて「無心」になろうと取り組んだのが「went to」「would go」という「脳内キャンペーン」です。 |
――どのようなキャンペーンなの?
辛酸: |
「went to」は、過去の旅行の思い出、写真や文章を眺めて追体験するというもので、「would go」は、いつか行きたい旅先のことを調べたり、計画を立てたり、誰かの旅行体験記を読んで想像を膨らませるというものです。誰かの「went to」は、違う誰かの「would go」になることに気づきました。 |
――辛酸さんにとって旅とは?
辛酸: |
急に頭の中に地名が浮かんだり、誰かに旅行に誘われたり、出張で行くことになったり、こうしたことは、自分のエネルギーをその土地が求めているのか、自分がその土地のエネルギーを必要としているのかどちらかだと思っています。 |
――「脳内キャンペーン」をされて、実際に旅もされたそうですね。
辛酸: |
2020年から自由に旅行できない日々が続き、自分が鎖国状態になってしまったことを憂い、開国と言えばペリーなので、ペリーゆかりの地を巡るために静岡県の下田へ行きました。ペリーが黒船で来航した際、開国についての会議が行われたという了仙寺(りょうせんじ)に参拝し、「せっかく開国を迫ってくれましたが、今は出入国が厳しくなってしまいました」とペリーに報告しました。 |
――コロナ禍になり、どんなことを感じましたか?
辛酸: |
コロナ禍で、地球に生かされていることや、自然と共生していることを体感できました。一方で、環境問題のことを考えると「人間の生活がこんな地球にしてしまってごめんなさい」と思うようになりました。こうした感覚を忘れなければ、人類は危機を乗り越えていけると信じています。これからは、身近な共感や小さな幸せを探したいと思います。 |
【放送】
2022/10/12 「ごごカフェ」
14時台を聴く
22/10/19まで