【飛ぶ教室】「きょうのセンセイ~詩人 伊藤比呂美さん~」

23/09/29まで
高橋源一郎の飛ぶ教室
放送日:2023/09/22
#文学#読書
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23/09/29まで
「きょうのセンセイ」は、詩人の伊藤比呂美さん。1コマ目の「ヒミツの本棚」で紹介したのは、金子光晴著『詩人/人間の悲劇 金子光晴自伝的作品集』でした。金子光晴の波乱万丈の人生をたどりつつ、その魅力を語った源一郎さん。比呂美センセイは「フルスピードで走っていったね」と話しながら、スタジオに入っていきました。源一郎さんと比呂美センセイが金子光晴の魅力を語り合うところから始まっていった2コマ目。月イチ恒例、「比呂美庵」もオープン! 読書感想文についてのお悩みに、二人が声を揃えて語ったのは…
【出演者】
高橋:高橋源一郎さん(作家)
礒野:礒野佑子アナウンサー
伊藤:伊藤比呂美さん(詩人)
礒野:
源一郎さん、2コマ目です。
高橋:
はい。今日のセンセイは、この日のためですね(笑)。
詩人の、この方です!
伊藤:
あはは(笑)。伊藤比呂美です。詩人です。
高橋:
詩人です。わ~い(拍手)。よろしくお願いします。
礒野:
よろしくお願いしま~す。
高橋:
詩人です!
1コマ目の続き 地の果てまで遊んだ詩人・金子光晴
伊藤:
すごかったですね。なんか走ってたもんね!
高橋:
え? 何が?
伊藤:
金子光晴の人生が。
高橋:
あ~、走ってたね~。
僕も大好きな本で、もともと僕は金子光晴が大好きってのもあるんだけど、詩人っていうと本当に、パッと最初に浮かぶのは、谷川俊太郎と金子光晴が思い浮かんじゃうよね。
伊藤:
私はノーマークでした。
高橋:
あっ、そうなの!?
読んでなかったの?
伊藤:
こんなすさまじいとは!
高橋:
すごいでしょ!?
伊藤:
うん。すごい、すごい。
高橋:
で、最初にも言ったけど、なんかね…。もちろん詩人て、いろんなタイプがいて、萩原朔太郎がいれば、中原中也もいるし、宮沢賢治だって詩人だしね。みんな違うんだけど、やっぱり、金子光晴っていうのは、たぶん、長生きしたせいもあるよね。
伊藤:
そうね~。
高橋:
要するに日露戦争ぐらいから、第一次世界大戦まで、日本の近代の戦争をほぼ全部…、
伊藤:
知ってるわけね。
高橋:
知ってる。
伊藤:
年齢としては宮沢賢治と同じぐらいなんですよ。
高橋:
あぁ~、賢治は早く死んじゃったからね。
伊藤:
で、しかも近代詩人たちって、生きてた人って、戦争中にいろいろとあったじゃない?
高橋:
そうそう。みんな…、
伊藤:
何をしたの?
高橋:
恥ずかしいことをしたの。
伊藤:
ね! つまり当局の、こう、何だろう…
高橋:
まぁ、“言いなり”になったと。
伊藤:
協力をして、そういう詩を書いちゃったんですよね。で、金子光晴だけしなかった。
高橋:
しなかった。
礒野:
う~ん…。
伊藤:
それはね、書き始めのみーちゃんだったときも、金子光晴だけはしなかったっていうのは、知ってた。
高橋:
でも、「それがなぜか?」っていうことなんだよね。
伊藤:
それが、よくわかってきた。ホッとしたからよね。
高橋:
そうそうそう! 普通はまぁ、左翼だったりとかね。でも左翼は全部やられて転向してるじゃない?
この人は、そう、いま伊藤さんが言ったように、本当になんだか…、地の果てまで遊んで。
もう、遊びぬいたので、すごいクリアになった、ってことだよね。
伊藤:
そうね。
高橋:
頭が。
伊藤:
好きなことを、地の果てまで追いかけていくでしょう。
高橋:
そうそうそうそう。
伊藤:
今、だってさ「シュウカツ」ってね…。
高橋:
あはっ(笑)。
伊藤:
すいません、いきなり現実的な話を(笑)。なんか「オタクが強い」っていう話は、よく学生の間でしてて。
高橋:
うん。
伊藤:
なにかに、1つのことに…。
高橋:
あぁ、僕「シュウカツ」って、「終活」だと思ってた。あははは(笑)。
伊藤:
違う違う違う(笑)。
礒野:
就職活動の! 違う「シュウカツ」でした!
高橋:
「終わり」のほうだと思った(笑)。いや~、ごめん、ごめん(笑)。
伊藤:
あはは(笑)。で、なんかね、やっぱり自分の好きなことに、のめり込んでいくと、すごくちゃんと伝わるっていうのね。
高橋:
あの~、僕、特にこの自伝は好きでね。解説も書かせてもらってるんですけども。
伊藤:
あっ、そうでした? (あわてて読むふりをする伊藤さん)
高橋:
読まなくていいよ(微笑)。
伊藤:
はい!
高橋:
僕たぶん、5~6回、読んでるんですよ、これ。
伊藤:
わ~お!
高橋:
で、それは読む度に発見があるんですけど。
やっぱり、なんて言ったらいいのかね…、あの~、え~っと、文化遺産ね。
伊藤:
うん。
高橋:
あの、だから、江戸文化、古典。
伊藤:
そうだね。
高橋:
ものすごく…。
伊藤:
あるわよね。
高橋:
それから、フランス語の(教育で知られる学校である)暁星へ行って、フランスのものをまた大量に読む。で、死ぬほど遊ぶ!
だけど別に、「文化遺産があって、死ぬほど遊んだら金子光晴ができる」わけではない!
伊藤:
できるかも!?
高橋:
あっ、できる? あはは(笑)。
伊藤:
みんなやらないだけで!
高橋:
いや、いや(笑)。
礒野:
なかなかやれませんよ(笑)。
高橋:
やれません…。いや~だから、そういう「必要条件」みたいなものね。
伊藤:
うん。
高橋:
本当はそれで潰れちゃう人も多いかもしれないけど。
伊藤:
あぁ、確かに。
高橋:
そこを生き延びて、詩に出会ったでしょ? だからね、そういうものっていうのは、僕はすごいな~と思って。だからいつも詩人て言うと、金子光晴を思い出す。
詩と小説の違い
高橋:
で、今日ちょっと、本当はもう少しやりたかったんだけど、最初のところでさ、「詩と小説の違い」みたいなのがあって。
伊藤:
はい。殊勝な声をして「はい」って、ね(笑)。
高橋・礒野:
あははは(笑)。
伊藤:
私なんて、ほら、泣いて帰ってきたクチだから、小説から。
高橋:
あははっ(笑)。Uターンしてきましたね(笑)。
それでね、どこが違うのかっていうのは伊藤さんに聞こうと思って。
1回1回の詩が、生き方だよね。なんか。
伊藤:
そうね~。
高橋:
小説家は1コマ目で言ったように、レンガを作ってるだけだからさ~。
礒野:
そう!
さっきはっきりと「小説を書く作業は楽しくないです」って、おっしゃっていましたけど、いいんですか?
高橋:
そうそう、そのことはね。そのものは。作業自体は。
礒野:
う~ん。
伊藤:
私なんて今さぁ、ほとんど、いわゆる「らしい」詩って、書いてないでしょ。
高橋:
そうだっけ?
伊藤:
ずっと「散文」を書いてるんですよね。
高橋:
うん。
伊藤:
でも私、毎日が楽しいの!
高橋:
あぁ~、じゃあ、詩だよ!
伊藤:
そう!
高橋:
あははははっ(笑)。
伊藤:
毎日書いていって、どんどんどんどん自分の詩を知って、言葉を削って削って、ってね…、やっていくのが、やっぱり「詩」としか呼べないんですよ、それは。
高橋:
それでね、やっぱり伊藤さんの詩を読んでるとさ、伊藤さんがいるんだよね。
礒野:
あぁ~。お顔が浮かぶのはわかります。
高橋:
そう、そう。
伊藤:
でもそれって、ちょっと待てよ…。そしたらそれって、なんかほとんど「私小説」みたいな?
高橋:
あっそれがね、だから小説の中でも「私小説」っていう分野は、珍しくそういう部分がある!
伊藤:
あ~、なるほど!
高橋:
だからそれは小説の中で、特異な存在なのね。
伊藤:
うん。
高橋:
ほかの小説家の場合は、できるだけ顔を隠そうとするからね。
伊藤:
詩はね、やっぱりね、「自分」っていうのが、なんかX軸とY軸の基本?、なんとかっていうのになって、対象があって、そこに対する距離を計っていくんですよ。だからどうしても、自分ていうのがあるの。
礒野:
ええ、ええ、ええ。
高橋:
しかもその自分は動いてるから、生き方なんだよね。
伊藤:
そうね~。「どれだけ面白くなるか」「どれだけ面白い人間になるか」っていうのは、最終的には技術とか、そんなんじゃない。
礒野:
あっ、へぇ~!
伊藤:
やっぱり、それが詩の根本のような気がする。
礒野:
どう、面白い人間になっていくか…。
高橋:
そう。
伊藤:
っていうか、どれだけひどい人間でもいいんですけど(笑)。
高橋・礒野:
あはははっ(笑)。
高橋:
金子光晴みたいにね(笑)。
伊藤:
そう。普通じゃなくても、逸脱していくかっていう。
高橋:
それは別に悪いことをするとかじゃなくてね。
伊藤:
悪いことしてもいいんですよ。
高橋:
あっ、してもいいけどね(苦笑)。やっぱり詩を読みながら、その人を読んでいる。
伊藤:
そうね~。
高橋:
その人のことばでしょ!
伊藤:
なんかすごいね、それはね、納得するのは嫌なんですけど。
高橋:
あっははははっ(笑)。
伊藤:
我々だって文学だから、そんなふうに…。
高橋:
文学じゃないとは言ってないよ!
伊藤:
すっごい嫌なんだけど、やっぱりそうだと思う。
高橋:
金子さんにそう言われるとね、やっぱり…。
伊藤:
そうね~。
高橋:
「いかによい生きかたができるか」っていう、これは別に“聖人君子”みたいなことをするのではなくて。
「よい」っていうのは「徹底して」ってことだよね。
伊藤:
うん、うん。
高橋:
「徹底して生きた」ということを、詩で確認してるからだよね?
伊藤:
そうかもしれない。
高橋:
だからあの~これ、あとのほうのさ、『人間の悲劇』という詩集が…。これ実は、自伝を書いた上に、この本って、『人間の悲劇』っていう詩集が載ってるんですけど、これは自分の生涯を振り返りながら、生涯のことをちょっと書きながら、そのときについての詩なんだよね。
伊藤:
うん。
高橋:
だから、そこには当然、全部自分が出てきて。それも、さっき言ったように「普通じゃない」人だから。
礒野:
色濃いですよね~!
高橋:
色濃いね~!
伊藤:
それをさ、読者は読んで、どう思うんだろう?
高橋:
だから、読み方はいろいろだと思うね。
伊藤:
こんなにすごい人がいる?
高橋:
っていう…。
伊藤:
自分はこうはなれない?
高橋:
いや、「自分はこうはなれない」っていうふうに、思わせないと思うんだよね。
伊藤:
なるほど~。
高橋:
「すごい」っていうとこで…。
伊藤:
もしかしたら自分もそうかもしれない?
高橋:
そうそうそう!
だから今はね、普通の生活をしてるけど、どっかで自分もこうなったかもしれない、あの瞬間に、この瞬間に、っていうふうにね。なので、ちょっとその中から読んでみたい詩が、あるんじゃないですか? 伊藤さん。
伊藤:
ありますよ! 私ね、うんこの詩。
高橋:
はい。有名なね、有名なやつです…。
(伊藤さん、「もう一篇の詩」を原文のまま朗読)
高橋:
すごくないですか? これ恋愛詩なんですけどね。
伊藤:
すっばらしいですね~!
高橋:
もうだから、食べられちゃった、ってことだよね。
伊藤:
うん。
高橋:
消化されちゃった、と。でも、それでも満足してる。もうそれで喜びだっていう。
伊藤:
汚いのが、すごい崇高な気持ちでしょ。
礒野:
使っている言葉はちょっと汚いですけども…。
伊藤:
使っている言葉は全然汚くないですよ。
礒野:
そうですか(微笑)。失礼しました。
伊藤:
「うんこ」だけだもんね。
高橋:
「うんこ」だけだもんね。
礒野:
うふふふ(笑)。
高橋:
「糞壺」とかね…。
伊藤:
もう1つの名詩が「おしっこ」だもんね。
高橋:
これもだから、そういう詩を書くと、さっき言った、対象というか、言葉としては、まぁ汚いものと…。
伊藤:
センセイ、わかりました!(※手を挙げながら)
高橋:
おぉおぉおぉ、なにがわかった(笑)。
伊藤:
とうとう、わかりました!
高橋:
なにがわかったの(笑)。
伊藤:
放蕩(ほうとう)が、ここまで金子光晴を作ったっていうことはね、自分の表現のギリギリのところまで、人が駄目っていうところまで、汚いと思うところまで…、
高橋:
行けたんだね。
伊藤:
行けた! それを逸脱というか、超えた、っていうことなんですよ。
だからそれでも、自分はどんな表現でもできるようになった、ということなんです。
高橋:
それは、さっき放蕩って言ったでしょ。そんなに詳しく書いてないけど、たぶん、人がやる限界までやったんだよね。彼は。
そこから戻ってきたので、どんなものを見ても驚かない。
伊藤:
そう。そうそう。
高橋:
だから普通、こういう変な話だけどさ、「恋人のうんこ」みたいなのはさ、「書いてやったぜ!」みたいに…
礒野:
あっ! 「奇をてらって、書いてやったぜ~」って。
高橋:
そうそう! なってないの。それは、彼はすでに「果て」を見てるんで、この程度で驚かないよ、っていう。
伊藤:
そう、そう、そう、そう。
礒野:
「果て」っていうのは「遊び」ですか? それともなんかこう…
高橋:
いや…。
伊藤:
あらゆることですよ。
礒野:
あらゆる知識?
高橋:
命、命!
伊藤:
そう。
高橋:
ギリギリのところ。
伊藤:
とにかくね、考えて、嫌なこと、汚いこと、悪いことを、全部やってるんですよ。
高橋:
そう。それで、そっから戻ってきた。
だからまぁ、戦争から戻ってきたのと似てるところがあるんだよね。
伊藤:
あ~、そうかもしれない。見る…。
(※手を挙げて)はい、はい、はい、はい!
高橋:
手を挙げなくていいから(笑)。
伊藤:
あははっ~(笑)。
高橋:
しゃべりなよ(笑)。
伊藤:
ほら、平家物語の中で1人いたじゃない!? 「見るべきほどのことは見つ」って言って、飛び込んで死んだ人。 あんな感じですよね。
礒野:
あらゆる…。
高橋:
そう! あらゆるものを…。
伊藤:
見た!
高橋:
13歳から17歳までで、見たから。
伊藤:
だからもう何でも書けるの。
高橋:
あとは詩を書くだけ、っていう。
伊藤:
あとはもう、面白い人間になるだけ。でも面白い人間になるのが人生の目的じゃなくって。
高橋:
うん。
伊藤:
結果としてそうだったから、私たちもそれを享受してる、ってことでしょう?
高橋:
ね~、すごいよね~。
伊藤:
う~ん。
高橋:
じゃあ、すいません。僕も読んでいいですか。時間あるかな…。
伊藤:
はい!
礒野:
どこでしょう。
高橋:
え~っとですね、あれ、どこだっけ…。え~、よいしょ…。
伊藤:
私が読んだ詩の、2つ3つあとじゃなかった?
礒野:
ものすごく、たくさん気になる詩があって、源一郎さんは付箋をたくさん貼って(笑)。
高橋:
付箋を貼りすぎて、わかんなくなっちゃった(笑)。
礒野:
付箋を貼りすぎて、逆に、わかんなくなって…(笑)。
高橋:
275? あっ、これですね! 280ページ。これも名作ですね。
(「女たちへのいたみうた」を源一郎さんが朗読)
伊藤:
あら、いいわね~、これね~!
高橋:
かわいいよね~。これはもう晩年になって、今まで付きあってくれた、全ての恋人たちへの別れの挨拶。
伊藤:
これは晩年に書いたんですか?
高橋:
まぁ実際には60…。
伊藤:
若いじゃん!
高橋:
ここからまだ生きてるんだけどね。でも気持ちとしては、そういうふうになったんだって。
伊藤:
今までをこう、一応…。
礒野:
愛した女性たちを…。へぇ~!
高橋:
はい、いうことで、これだけで終わっちゃいそうなので…。
礒野:
あっ、そうでした! 比呂美庵が!
高橋:
比呂美庵も(笑)。
人生相談「比呂美庵」のコーナー!
礒野:
では、源一郎さん、比呂美さん、そろそろ、恒例のコーナーにまいりましょう!
高橋:
比呂美さん、ここは?
伊藤:
ようこそ「比呂美庵」へ!
礒野:
今日も時間の限り、お便りを紹介していきま~す。ちなみに、比呂美さん、先週9月13日が、お誕生日だったんですよね!
高橋:
お誕生日! おめでとうございま~す(拍手)。
礒野:
おめでとうございま~す!
高橋:
で、12日が礒野さん!?
礒野:
実は私、比呂美さんの誕生日の前日が誕生日なんです。
伊藤:
あら、おめでとうございま~す(拍手)。
高橋:
おめでとうございま~す(拍手)。
礒野:
乙女座ですよね!
伊藤:
その次の日、うちの犬の誕生日!
高橋・礒野:
あっはっはははははっ(大笑)。
礒野:
なんだか、すみません、内輪ですけど。あははは(笑)。
高橋:
3連チャンなんだ。12、13、14。そうだったのか~(笑)。
礒野:
また1つ年を重ねられた比呂美さんの「比呂美庵」でございます~。
高橋:
はい。
礒野:
1通目は、ラジオネーム「ペリドット」さんです。埼玉県にお住まいの40代の方です。
中学校の図書室で、学校図書館司書をしているものです。夏休みの終わりから2学期の初めにかけて、毎年、読書感想文に苦しむ生徒を多く見ます。半数以上の生徒が嫌なようですが、なんとかこなして提出しています。しかし、どうしてもできない、やりたくない生徒が10人に1人ぐらいはいます。
私は読書で嫌な体験をしてほしくないので、読書感想文はいらないと思っているのですが、やっぱり必要でしょうか? うまくこなす方法、逃れる方法などアイディアがありましたら教えてほしいです。
高橋:
はい、いらないですね。
伊藤:
大嫌いだった。
高橋:
僕も大嫌い(笑)。
礒野:
あははは(笑)。え? そうなんですか? お2人も?
伊藤:
ホントに嫌いだった。
礒野:
物を書くご職業なのに?
高橋:
あのね、作家になった人は、ほぼ全員が嫌いだと思いますね。
礒野:
え~っ!?
高橋:
アレがあるんで、国語がイヤだったね。
伊藤:
う~ん。ホントに嫌だった。
高橋:
読書感想文を書かせられると、吐きそうになったもん。
礒野:
いや、作家になる方とかって…。
伊藤:
いや、私もそう。
高橋:
ね! 吐きそうになるよね~。
伊藤:
作文だったらまだいいのに~。
高橋:
そう、そう!
高橋:
読書感想文って、嫌だね~。
伊藤:
ここに始まりがあって、何かね、やんなくちゃいけないことを押しつけられてる感じがするんですよ。
礒野:
あぁ~。
伊藤:
テンプレートみたいなのがあって、感動を表現することを無理やり押しつけられてるっていうか。
高橋:
そう。これはダメだとか言えないよね、おそらく。しかも、本を読むのにいちばん大事なのは「選ぶこと」なんだよね、まず。見つけてくる!
伊藤:
自分で、でしょ。うん、そうね!
高橋:
そもそも、自分の主体性が発揮できない。
礒野:
読書感想文は、課題図書とか推薦図書っていうのが決まってたりしますよね。
高橋:
ね~。なので、え~と…、どうしたらいいの?
伊藤:
書かせなきゃいい…。あのね~、私が今ね、詩のときにちょっと言ったでしょ。私「ここの、ここが好き」って。私はあれでいいと思うんですよね。「好きポイント」。
高橋:
好きポイントね!
礒野:
書くとしたら?
伊藤:
で、引用して、「ここが好き」って。なんで好きなのかっていう理由が、あれば言うし、なんとなく好きですって。
高橋:
そしたらたぶんね、先生に文句言われるんじゃない?
伊藤:
言われる~(笑)。
高橋:
あはははっ(笑)。
伊藤:
いいじゃん!
高橋:
いいじゃんね~。だから、どうなの、これ…、読書感想文て、成績に入るんだっけ?
伊藤:
入るかもね。
礒野:
絶対っていうところもあれば、任意というところも、たぶんあると思うんですけどね~。
高橋:
とにかくね、すいません、読書感想文やめてください。
礒野:
あっはは(苦笑)。
伊藤:
ここで大きな声で、小説家と詩人が、「読書感想文ほど害になるものはありません!」
高橋:
「ないです!」
礒野:
あははは…(苦笑)。
そうですか。ここでは、このような結論ということで…。
伊藤:
いや、いや。
高橋:
いや、いや。
礒野:
国語科が変えるべきよね。
高橋:
ね! そう思いますよ。で、たぶんね、先生もそう思ってると思いますよ。
礒野:
このメールをくださった方もね、
高橋:
あっ、司書の方もね
礒野:
どうしたらいいか悩んでいらっしゃる…。
高橋:
「なんでか?」って言うと、根本的なことでね、読書が楽しくなくなるから!
伊藤:
そうね。
礒野:
あ~、読みなさいって言われたものだと?
高橋:
ダメなんですよ。
伊藤:
あと、誰かから何かもらって、お父さんから「お礼状を書け」って言われるのが、大っ嫌いだったのよね~(笑)。
高橋:
あぁ! あっははははっ(笑)。
伊藤:
喜びがなくなっちゃうじゃない!
高橋:
なくなっちゃう。そう、そう、そう、そう。
礒野:
あ~。
伊藤:
だからそれと同じよね。「楽しい~!」って、自分の心に留めておけばいいのよね。
高橋:
そうですね。はい。
礒野:
ということです。では、続いてです。つい先ほど届いたお便りですね。
ラジオネーム「たんたん」さん。神奈川県にお住まいの40代、女性です。
数年前から更年期障害が始まったかなと思って、辛い体調でした。ついに生理が止まったと、婦人科を受診すると、まさかの妊娠でした。10年ぶりの妊娠。家には2人の愛する子供がいます。私は40代の半ばで、子どもたちがやっとしっかりしてきて、コロナで止まっていた自分の仕事のオファーも増えてきた矢先でした。赤ちゃんなんて産めないとすぐ思いました。しかし、産婦人科医や夫の勧めで産むことに決め、頑張ろうと思った矢先、赤ちゃんが死んでしまい、流産の手術をしました。喪失感がすごいです。
仲よしだった夫と、どう接してよいかわかりません。そして、妊娠、流産、更年期と、ホルモンに左右される自分を、どうしたらよいかアドバイスお願いします。
高橋:
これは伊藤さんですね。
伊藤:
私だけ?
高橋:
い~やっ、僕も。
伊藤:
あのね、夫のせいじゃないし、自分のせいでもないと。まずこれは大切なことなんですね。
で、とにかくその悲しい喪失感っていうのを、今は抱えて、抱えて、赤ちゃんを亡くした悲しい悲しいっていうのは、毎日毎日自分でね、悲しがっていればいいような気がするんですよ。それがその赤ちゃんのためにもなるだろし、自分のためにもなるっていうか。この喪失感を否定することは絶対ないと思うの。どう思う?
高橋:
全くそうだと思います。「向かい合うっていうのは、受け入れる」っていうことなんだよね。で、その「悲しめる」っていうのは、すごいことで。
伊藤:
ですね。
高橋:
本当にひどくなってくると、悲しむ能力もなくなってきちゃう…。
伊藤:
そう! 悲しみがどこにあるか、わからないんですよ。
高橋:
わからない。
伊藤:
それと向かい合う、っていうね。
高橋:
うん。流産したのは残念なことだけど、そのことを記憶にとどめて、それをやっぱり大切な記憶にしていくことだと思うんですね。
伊藤:
と、思いますね。
高橋:
で、さっきも言ったように、忘れる必要はないです。悲しみは、深ければ深いほど、ちょっとさっき、金子光晴の話も出ましたけどね。やっぱり人は、なんかね、大きい感情の動きっていうものによって、逆に育てられているところもあるので。
伊藤:
うん、うん。
高橋:
僕は、それは大切にしたほうがいいと思います。
礒野:
たんたんさん、お辛いときに…、お悩みでしたけども、お便りありがとうございました。
「比呂美庵」、そろそろ閉庵のお時間です。比呂美さん、次は10月27日金曜日にご出演の予定です。
ありがとうございました。
伊藤:
うちの父の誕生日です。
高橋:
うはっ(笑)。
礒野:
うぁっははははははっ(大笑)。
高橋:
なんで今日は、誕生日? 誕生日ばっかり(笑)。
【放送】
2023/09/22 「高橋源一郎の飛ぶ教室」
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23/09/29まで