【飛ぶ教室】「きょうのセンセイ~作家・アイドル評論家 中森明夫さん~」

23/09/08まで

高橋源一郎の飛ぶ教室

放送日:2023/09/01

#文学#読書

放送を聴く
23/09/08まで

放送を聴く
23/09/08まで

「きょうのセンセイ」は、作家・アイドル評論家の中森明夫さん。5月の「アナーキーな2時間スペシャル」以来の出演でしたが、今回は、80年代サブカルチャーの息づかいもたっぷりと感じられるお話に! 1コマ目の「ヒミツの本棚」では、坂本龍一著『ぼくはあと何回、満月を見るだろう』を取り上げましたが、実は、坂本さんと中森さんは80年代からのご縁があったそうで…

【出演者】
高橋:高橋源一郎さん(作家)
礒野:礒野佑子アナウンサー
中森:中森明夫さん(作家・アイドル評論家)


礒野:
2コマ目にまいりましょう!

高橋:
はい。今日のセンセイは、作家でアイドル評論家の、この方です。

中森:
中森明夫です。よろしくお願いします。

高橋:
よろしくお願いします(拍手)。

礒野:
こんばんは。よろしくお願いしま~す。

高橋:
前回、5月の「アナーキーな2時間スペシャル」は、みんなおしゃべりなんで(笑)。

中森:
う~ん。ワ~ッと、終わっちゃいましたね。

高橋:
ワ~ッと、しゃべっているうちに、終わっちゃったんで、中森くんの話はほとんど出来なかったんですが、まずは、じゃあ…。

礒野:
簡単にプロフィールから、ご紹介させていただきます。
1960年、三重県生まれ。1980年代から作家・アイドル評論家として、さまざまなメディアで活躍されています。「おたく」という言葉を初めて使ったと言われているのが中森さんです。2010年に発表した小説『アナーキー・イン・ザ・JP』は三島由紀夫賞候補になりました。今年2月には「“元祖マルチクリエイター”寺山修司が、令和のいま生きていたら?」という、エンタメ長編小説『TRY48』を発表されています。

1コマ目の続き「坂本さんと中森くん」

高橋:
僕、実は中森さんが来るときに、坂本龍一さんの本をやろうって、とりあえず何となく決めたんですけど。
意外と関係が?

中森:
うれしいですね。若いころからよくしていただいて、ご一緒にラジオの番組をやったりとかしてましたね。

礒野:
へぇ~!

中森:
本当に、亡くなってね。さっきのお話も本当に感慨深く聞きました。
僕、最初に坂本さんにお会いしたのは25歳のときで、1985年。「新人類」とか言われたころなんですけど。
その2年ぐらい前に、高橋源一郎さんとも、出版社でバイトしていて…

高橋:
会ってるよね。

中森:
ええ。吉本隆明さんと高橋さんの名対談について行って…

高橋:
あのね~、もう無いけど『Sage』(サージュ)っていう雑誌ね。

中森:
そう! それです。

高橋:
誰だよ? この…変な、変な…坊っちゃん(笑)。

中森:
でも吉本さん、今でも読むとね、こちらは中森くん、ミニコミ雑誌を作って…

高橋:
って説明してくれて…。

中森:
それで23、4歳の時に、高橋源一郎さん。25歳の時に坂本さんにお会いしたでしょ。
お2人はたぶん、50年代生まれだと思うんですけど、年齢が1コ、2コ違いの。

高橋:
51年(高橋)と52年(坂本)ですね。

中森:
それでちょっと思ったんですけど、僕、若いころ、高橋さんと坂本さんに会って、似てると思うんですね。高橋さんと坂本さんが。

礒野:
あっ!

高橋:
あぁ! そう?

中森:
2人が似てる。目の前に高橋さんがいるからヨイショするわけではなくて。

高橋:
あははは(笑)。

中森:
最初っから、圧倒的に優しかった、若い人に。何者でもない若い人に。坂本さんもそう。

礒野:
10コぐらい下ですもんね、中森さんは。

中森:
ただそれがね、高橋さんや坂本さんのちょっと上、1940年代後半に、「団塊の世代」という人たちがいます。「全共闘世代」と言われている人たち。そういう人たちは…

高橋:
優しくない(笑)。

中森:
優しくなかった。

礒野:
あははははははっ(笑)。

中森:
むちゃくちゃ、今でいうパワハラとかマウントとか、「圧」をかけられまくってたんですよ。

高橋:
それはわかるわ!

中森:
だから、ことのほか、高橋さんとか坂本さんとか、「あっ、違うんだ! 1940年代後半の人たちと」っていう。

高橋:
いや、僕それ…、話が変わるけど、僕が大学入ったのは1969年なんですけど、ちょうど入ると、上が団塊の世代なんだよね。僕らは団塊の世代の、ちょうど後になるから。すると、すごいパワハラなんです、あの人たち(笑)。
で、なんかわかんないけど威張ってんだよね。

中森:
まず「圧」なんですよ。もう、いきなり「お前、ダメだよ!」って。

礒野:
へぇ~!

高橋:
僕はそういうの、全くなくて。

中森:
全くなかった。なんか「ニューヨークヤンキースの帽子をかぶって編集部に現れた、長髪の、不思議な小説を書くお兄ちゃん」って感じ。

高橋:
お兄ちゃん…。

礒野:
第一印象はそういう感じだったんですね。

中森:
坂本さんも、YMOで大スターだったけど、ぜんぜん偉ぶったところが無くて。で、似ている。
もうひとつは、冗談ばっかり言ってね、なんかやってる人なんだけど、ピアノを弾くと、すごいわけですよ! やっぱり。聖域。

礒野:
ええ。

中森:
高橋さんは、僕はもう、小説を読むと思いますね。やっぱり小説だけは高橋さんの聖域だなって…

高橋:
「だけは」って(笑)。

中森:
「どういう顔して書いてんだ?」って感じがするんです。だから似てると思います。
それともうひとつは、坂本さんとも随分つきあって、やっぱり高橋さんとか坂本さんたちっていうのは、優しいんだけど、やっぱただ優しいんじゃない。僕らの世代の優しさとは、ちょっと質が違うのかなっていう感じがして。何かどっかのところで、いろんなことを我慢したり。上にああいう人たちがいたから。諦めたりなんだりあった末の優しさかなっていう気がします。

高橋:
あ~、でもね~、自分でも思うんだけど。ぜんぜん関係ないんだけどさ、家で妻から「子どもに甘すぎる」って言われるんだよね。

中森:
あ~! わかるな~。

高橋:
あのね~、絶対、怒れないんだよ。

礒野:
へぇ~。

高橋:
っていうか、意味がわからない。「なんで怒る必要があるの?」って思っちゃうんで。これはたぶん、僕の上の世代の人たちを見てると、よく怒ってんじゃん。

中森:
むちゃくちゃ怒ってますよ。

礒野:
やっぱり父親って?

高橋:
父親は偉いし。

中森:
そうそう。昔の人はね。

高橋:
兄は弟を威圧するし…、みたいなのが、すごい嫌だった。

中森:
だから、高橋さんと坂本さんて、そういう「偉い父」っていう感じはしないんだけど、ただやっぱ音楽とか、小説とかっていう、やっぱ圧倒的なものがあるんでね、そこで尊敬できると。
それとやっぱりね、僕の本も(番組の)スタジオにいっぱい置いていただいて…。

高橋:
今日は中森さんの話を…。

中森:
もう~、ホント言うと、1980年に20歳だったんですね。

高橋:
あぁ、あぁ、あぁ、あぁ!
10コ違うよね、だいたい。

中森:
うん。だからYMOが出てきて、それで~、糸井重里さんとかなんとかで。
昔、橋本治さんと生前に、何か一緒に、『広告批評』っていう雑誌の編集部に行った帰りに、街を歩きながら、橋本さんがね「“80年安保”っていうのがあったと思うんだ」って、おっしゃったんですよ。

高橋:
お~~。実際にはなかったんだよね。

中森:
なかったんだけど。学生運動はなくて、いわば、そういう感性の。

高橋:
あ~。

中森:
YMOであり…

高橋:
文化運動だよね。

中森:
糸井さんであり。
で、僕が物書きになった時って、やっぱりその80年前後の、橋本治さんとか村上龍さんとか村上春樹さんとか高橋源一郎さんとか矢作俊彦さんとか、ポップカルチャーと文学が異常に接近した時期のものがあると。なんか「そういうの、いいな~」と思ってましたね。

中森さんのデビュー作『東京トンガリキッズ』と“大”サブカルチャー

高橋:
あのね、それで久々に中森さんの本を本棚から取り出して読んでたんですけど、『東京トンガリキッズ』っていうのが、これ、デビュー作?

中森:
そうなんですよ。単著としては87年に。

高橋:
87年なんだ。

中森:
27歳だったんですけど。

高橋:
で、『東京トンガリキッズ』っていうのは、都会の流行の最先端の文化とかを浴びているキッズ。
若者の話で、これ途中で「坂本龍一になりたい」っていう…

中森:
坂本さん喜んでくれたね。

高橋:
短編があるんですよ。これ、いい話だよね!

中森:
いいでしょ! うん。

礒野:
憧れてたんですか? 「なりたい」っていうのは…、本当に本心?

中森:
いや、もっと若い少年たちに託して書いた話です。

高橋:
自分じゃないよね。

中森:
もちろん僕は20代でしたから、そこまでピュアではなかったけれども。

高橋:
キッズじゃないもんね(笑)。

中森:
そういう少年たちがいたんですよね。

高橋:
で、僕、今回ちょっと気がついたことがあって、『東京トンガリキッズ』っていうのは、どこで連載してたんだっけ?

中森:
『宝島』ですね。

高橋:
『宝島』ですね。『宝島』っていう、まぁ“大”サブカルチャー雑誌。

中森:
サブカルチャー雑誌、ロック雑誌。

高橋:
サブカルチャーに “大”をつけるのも、変なんだけどさ~(笑)。

一同:
あはははははっ(大笑)。

高橋:
本当は「サブ」なのに(笑)。

礒野:
「サブ」なのに(笑)。

高橋:
「サブ」なのに「メイン」になってたんですよ!

中森:
そうですね!

礒野:
あっ、その当時?

高橋:
そうそうそう。だから、サブカルチャーって、普通はメインカルチャーがあるでしょ。で、サブじゃないですか。もはや、サブがメインで…

中森:
サブのほうが、売れたりとか、メジャーだったりしてたんですよね。

高橋:
例えば、坂本龍一さんだってさ、YMOとかさ、「サブ」じゃない!

中森:
あっ、そっか~。

礒野:
もともとは?

高橋:
音楽は何が中心かわかんないけど。

中森:
大ヒット。ヒットしたし、みんな知ってた。知名度も高かったですからね。

高橋:
クラシックがあったりとか、例えば歌謡曲が中心だったのに対して、横から出てきた、よくわからない若者の音楽が、気がついたらね、ミリオンセラーみたいな。

中森:
そうなってましたね。

高橋:
だから、サブとメインが逆転してたんですよね。
そういう文化の中を遊んでいる子どもたちの話なんですよ。

中森:
そうですね。そうそう。80年代ですから。

高橋:
ファッションとか、ロックとか。例えば、甲田益也子さんって、超有名なモデルさんとかね。1個1個そういうのがあって、僕これね、すごい既視感があって。

中森:
はい。

高橋:
これなんだろうと思ったら、あれですよ、田中康夫の『なんとなく、クリスタル』の違うバージョン!

中森:
あぁ~、なるほどね。

高橋:
田中さんの『なんとなく、クリスタル』は、あれ…。

中森:
80年?

高橋:
そう、80年なんですよ。で、あれも「文化」ね。ものすごい表面の。だから、売れてるファッションとか、売れてる音楽を、田中さんも書いてる。でも、同じ街に住んでるのに、ぜんぜん違うものを見てる(笑)。

中森:
そうですね。固有名詞が全然ね。

高橋:
田中さんには、YMOは出てこないし。

中森:
うんうん。

高橋:
ファッションも。
だから、たぶん違う世界だけど、それぞれ別に、なんて言うか、両方ともけっこう渋谷ですれ違いそうですよね。

中森:
そうですね~。

高橋:
でも、行く場所が違うんだよね。

中森:
ぜんぜん違う、と。面白いですね。

高橋:
だから、その時は気がつかなかったんだけど、中森さんは、ややアンダーグラウンド。

中森:
そうですね。

高橋:
サブのサブを、探求してた感じ。

中森:
だから、僕の本には「注釈」はないんですけど、田中さんみたいに。でも今はインターネットってものがあるので。

高橋:
当時なかったよね。

中森:
調べられると。

礒野:
ええ。

中森:
で、インターネット社会になると、そういうことがよくわかりますね。

高橋:
うん。

中森:
皆さん、街を歩いてるんだけどスマホでは違う画面を見てたりとか、違う固有名詞を。でもやっぱ田中さんはね、田中康夫さんはね、やっぱり立派な文学ですよ、それは。

高橋:
あはっ(笑)。

中森:
僕はホントに「サブカル」だもん!

高橋:
中森くんは、やっぱりさ、サブカルチャーの人だよね。

中森:
「サブカル」なんですよ。

高橋:
あのね~、そういう意味で…、僕これ初めて読んだんですけど、『青い秋』という。

中森:
あぁ~。僕の自伝的な。

礒野:
いつごろの本ですか?

中森:
3、4年前に。

高橋:
そう。3、4年前に出た…。

中森:
コロナ禍直前に。

高橋:
坂本龍一さんの『ぼくはあと何回、満月を見るだろう』が、「自伝」じゃないですか。

礒野:
ええ。

高橋:
そういう意味で中森さんも、これは「自伝」なんですよね。

中森:
そうなんですよね。

高橋:
そう。それが、あの~、何かある意味、好対照で。これけっこう、たぶん、事実に即していると思うんですね。

中森:
そうですね、ほとんどの題材は事実です。

高橋:
だからサブカルチャーにずっと生きてると、こんな目にあうんだよ、みたいな(笑)。

礒野:
え~?

中森:
だから『青い秋』っていうのは、ほら「青春」ってありますでしょ。

礒野:
青い春。

中森:
青春のあとは、赤い…、「朱夏」、「白秋」、「玄冬」って、人生の4つの季節を色で表してるんですよね。
だから僕はもう「秋」ですよ、ほとんど。髪の毛も白くなって。「白秋」なんだけど…。

高橋:
いまだに青い(笑)。

中森:
いまだに青い(笑)。
青いままだってことを書いたわけですけど。

礒野:
いいですね~!

中森:
いや、悲しいんですよ、それがね。

高橋:
これ、悲しいんだよね。

中森:
昔のような、青い光のような新鮮さじゃなくて~。なんとも言えないね。成長できないっていうか。

高橋:
そう。だから、僕はよく言うんだけどさ、例えば、夏目漱石とか見るとさ、晩年で40何歳でしょ。

中森:
ね~、若いんですよね。

礒野:
49歳でしたっけ? お亡くなりになったのが。

中森:
永井荷風とね、谷崎潤一郎以外は…。

高橋:
みんな40代。

中森:
三島由紀夫、45。中上健次、46。寺山修司、47じゃないですか。

高橋:
太宰治、38とかね。

中森:
今45、6の人って、若者ですよね。

高橋:
ね~。だから、これ見てると、年の取り方がわかんなくなってきたけど(笑)。
中森くんの読んでて。

礒野:
うふふ(笑)。

中森:
あ~、なるほどなるほど。

高橋:
でもそれってね、もしかすると、サブカルチャーね、え~っと、まぁ、ある意味、擁護してきたっていうか、関わってきて。でもなんか、そのまま関わり続けちゃいそうでしょ?

中森:
いやもう、普通は還暦で、もう引退している年なんだけど、いまだにこんな感じじゃないですか。で、しかも、そういう人は多いんですよね。生涯独身の方が、もう4人に1人ぐらいな感じになってきてるということは、自分が特異なものではないんだと、いい悪い別にして。関われることがある、語れることがある、と思いますね。

「サブカル文化人」になりたくて

中森:
1980年代に20歳だったっていうのが…、自分の感受性に決定的にもたらすもの。
自分が少年期に見たものっていうのは、今となってはね、人にバカにされるかもしれないけど、それは変わらない、と。だから僕が書いてることって、そうですよね。本当にこう、10代のころ、学校へ行かなくなってフラフラしていて…

高橋:
そう、この人はね~、不登校の始まりだしさ~。ニートの始まり(笑)。

中森:
だから70年代は、まだ無かったんですよ、行き場が。

高橋:
言葉も無かったよね。

礒野:
そういう言葉もね、無いですよね。

中森:
だから行くところが無かったんだけど、80年になって、急にやっぱり、YMOが出てきたりとか。
ゲームセンターが出てきたりとか、行く場所がすごく増えたんですね。

高橋:
うん。

中森:
本当にこう、もう「サブカル文化人」になりたくて~!

高橋:
えっ、なりたかったの!?

中森:
植草甚一さんとか…。

高橋:
かっこよかったもんね。

中森:
なんか、わかんないでしょ? 植草甚一さんの仕事とか。あと平岡正明さんとかね。奥成達さんとかね。

高橋:
まぁ当時、有名な、例えばジャズとか、そういう事を…。当時さ、インターネットがないから、そういう人たちは、個人で情報を発掘してくるんですよ。

礒野:
あぁ~! そっか、今とは…。
そういうツールもない時代ですからね。

高橋:
ぜんぜん違う! 語学堪能で、どっからでも持ってくる人が…。

中森:
博覧強記なんだけど、なんかわかんない。

高橋:
わかんない。

中森:
怪しげで、どこかうさんくさい感じの人が好きでね。

高橋:
君たちの世代になると、もううさんくさくないんだよね。

中森:
そうなんだよね。

高橋:
あはははははっ(笑)。

中森:
どううさんくさくしても、所詮はやっぱり“本物のうさんくさい人”いるじゃないですか。

礒野:
うさんくさい人(笑)。

中森:
植草さんとか~、やっぱり、ねぇ! きだみのるとか。本物がいるでしょ?

高橋:
うん。

中森:
ああはなれないって、わかりますけど。

高橋:
やっぱり「軽さ」ですよね。
中森くんの『青い秋』を読んでて、同じようにその時代にサブカルチャーをやってた人が、ひとりひとり脱落してくじゃない?

中森:
そうそうそうそう。

高橋:
「もう、田舎に帰るわ」って言って。

礒野:
ある程度の年齢になったりとか?

中森:
いろんな契機があって、「もう俺、家を継ぐからね」「35歳の時が帰れるギリギリなんだ」とか。
でもそうなっても…、いまだに僕はアイドルについて書いてるんですけど、アイドルライターとして生き残ったっていう感じがしなくて。

高橋:
うん。

中森:
何となくこう逃げ遅れたみたいな(苦笑)。

高橋:
あはっ(笑)。

中森:
う~ん。田舎へ帰った人が落後者だとは思えないんですよね。

礒野:
ええ。

中森:
ただそれはね、つなげさせていただくと…、大杉栄、寺山修司はもちろんですけど、大杉栄なんかも…。

高橋:
まぁ、そういう人だよね!

中森:
大杉栄は、100年前の関東大震災で…、虐殺された。で、虐殺した側に高橋さんの遠縁の甘粕さんがいて、その役を坂本龍一さんが…。

高橋:
そう、そう。やったよね、映画の中で。

中森:
やられた、と。

礒野:
つながりがすごいですね~。

中森:
あんな大正時代にもサブカルみたいな人がいたんだ、と。

高橋:
う~ん。

中森:
それでね、この間の「アナーキーな2時間スペシャル」の時に、ブレイディみかこさんと、栗原康さんと…。

高橋:
面白かったよね。

中森:
栗原さんがね、本を送ってくれてね。

礒野:
えっ! なんの本ですか?

中森:
『大杉栄セレクション』と『伊藤野枝セレクション』。

高橋:
僕のところにも来た。

中森:
栗原さんが編集した本。これ、すばらしいんです。それで、この間、自叙伝で…。

高橋:
あぁ、大杉栄の自叙伝ね。

中森:
大杉栄を、読んだでしょ。

高橋:
うん。

中森:
この中に僕が『アナーキー・イン・ザ・JP 』を書く契機になった、すばらしい文章があって、これを礒野さんにぜひ読んでもらいたい。

礒野:
えっ?

中森:
初見で!

礒野:
えっ???

高橋:
初見で。

礒野:
読めますかね。

中森:
短いですから。

礒野:
どこを…、最後の行ですよね?

中森:
最初のほうから…、飛ばして…。

礒野:
僕は精神が好きだ。しかしその精神が理論化されると大がいはいやになる。理論化という行程の間に、多くは社会的現実との調和、事大的妥協があるからだ。まやかしがあるからだ。
精神そのままの思想はまれだ。精神そのままの行為はなおさらまれだ。生まれたままの精神そのものすらまれだ。

(大杉栄『僕は精神が好きだ』より)

高橋:
それはでもさ、考えてみるとサブカルチャーの精神だったんだね。

中森:
そう! でも、しびれますよね? 100年前の文章なんだけど。

高橋:
そうそうそう。で、やっぱり、コピーライターの才能があるよね。

中森:
『僕は精神が好きだ』とか『生の拡充』とかね。ただ、番組冒頭のお話も興味深かったんですけど、「作家っていうのは、言葉を残す」と。
このあいだ、NHKの『クローズアップ現代』で、100年前の朝鮮人虐殺について書いた、小学生たちの…。

高橋:
あっ、あった。

中森:
あったでしょ。小学生と作家なんですよね。やっぱり。

高橋:
そう。ちょっとね、社会的に生きてきちゃった人は、もう回路ができて…。

中森:
そう。回路ができて、起こってることは書けないんだけど。

高橋:
偏見の。だからね、作家は子どもに近い気が…。

礒野:
ピュアというか?

高橋:
ピュアっていうか、無垢っていうかね。中森さんを見てると…、だから「キッズ」だよね!

中森:
そう! やっぱりこう「周縁部」っていうんですかね。昔、山口昌男先生という人が、かわいがってくれたんですけど。

高橋:
うん。

中森:
周辺にいる人とか、中心にいない人、はぐれ者とか…ね? そういうもんだと思いますね、僕らの仕事っていうのは。

高橋:
でもさ、自分が60歳になるとか、思わなかったでしょ(笑)。

中森:
ぜんぜん思わない(笑)。

高橋・礒野:
あははははっ(笑)。

礒野:
好きなことを追い続けてこられて、すごいですよね!

中森:
親父が55歳で死んでるから…。

高橋:
あぁ、そうか、もう越してるんだよね。

中森:
もう、わかんないんですよね。

高橋:
今はじゃあ、何をやりたいの? これからやろうとしてることって、中森くん、ある?

中森:
う~~ん。

高橋:
最近、気になっていること。

中森:
ないんだけど、ただ面白いですよね。さっきの坂本さんの話でもそうだけど、自分の状態っていうのを表現できるから、うれしいですね。あとはまぁ、高橋さんに長生きしてもらって…。

高橋:
わっはは(笑)。

中森:
一応、僕らの兄貴世代だから、一応ね。

礒野:
ええ。一応(笑)。

中森:
高橋さんが(長生きしてくれたら)…、うれしいですよ。やはり。

高橋:
う~ん…、僕、逆にさ、サブカルチャーの世代っていうのは確かにあってね。で、僕らは結局サブカルチャーに行かなかった、最終的には。

中森:
うんうんうん。

高橋:
だから、君たちがどういう運命をたどるのかって(笑)。

中森:
そう思います。老いとか死って、絶対に逃れられないものなんで。

高橋:
そうそうそう。偉大な作家や文学者も老いるけどさ、サブカルチャーやってる人も老いるわけじゃん。

中森:
うん。

高橋:
それはね、すごい、かっこいいと思うんだよね。ちょっとぜひ、その辺を…。

中森:
頑張って、精進して(笑)。

高橋:
頑張って(笑)。
健康には気をつけて。

中森:
楽しく!

礒野:
2コマ目のセンセイは、作家でアイドル評論家の中森明夫さんでした。ありがとうございました。

高橋:
ありがとうございました~。

中森:
ありがとうございました。


【放送】
2023/09/01 「高橋源一郎の飛ぶ教室」

放送を聴く
23/09/08まで

放送を聴く
23/09/08まで

この記事をシェアする

※別ウィンドウで開きます