【飛ぶ教室】「きょうのセンセイ~作家 町田康さん~」

23/08/11まで
高橋源一郎の飛ぶ教室
放送日:2023/08/04
#文学#読書
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23/08/11まで
「きょうのセンセイ」は、作家の町田康さん。1コマ目「ヒミツの本棚」で町田さんが「超絶文体」で訳した「口訳 古事記」を紹介しました。古典を、単に現代語の文に訳したわけではない、「口訳(こうやく)」。この口訳とはどういうことなのでしょうか。1コマ目で、源一郎センセイは「口語訳は、口語の文章。『私は今日行きました。あなたはどうしますか?』みたいなセリフ。でも、こうはしゃべらないよね。口語訳は、しゃべっているように見せかけた文章。口訳は、本当にしゃべっている文章、ことば。」と解説したのですが…
【出演者】
高橋:高橋源一郎さん(作家)
礒野:礒野佑子アナウンサー
町田:町田康さん(作家)
礒野:
源一郎さん、2コマ目です。
高橋:
はい。今日のセンセイは、作家の、この方です。
町田:
町田です。よろしくお願いします。
礒野:
よろしくお願いします。
高橋:
よろしくお願いします。どうも、どうも。いや~、町田さんが出ると緊張するんだよね(笑)。
町田:
そうなんですか(笑)。何回も会うてるやないですか。
高橋:
あはは(笑)。でも、久しぶりだよね。いつ以来だっけな…。
町田:
熊本?
高橋:
熊本で、石牟礼道子さんが亡くなられる前に、病室にお見舞いに行って…。
町田:
そうですね~。
礒野:
一緒に行かれたんですか?
高橋:
別々なんですけど、ちょうど病室で。
町田:
ええ。
高橋:
『宇治拾遺物語』を町田さんが出したころでしたよね?
町田:
そうです、そうです。
高橋:
それを確か、石牟礼さんのところで朗読したんじゃなかったっけ? ベッドのところで。
町田:
そうですね。そんなつもりじゃなかったのに。
礒野:
え~!
町田:
そんな話になってしもうて。
高橋:
そう、そう! 日本文学史に残る、すごい場所に居合わせちゃった!
町田:
写真を撮って、なんか雑誌に載ってましたね。
高橋:
そう、そう。
礒野:
そうなんですか~!
高橋:
そうだった。あれがもう10年ぐらい前ですかね。
町田:
石牟礼さん、まだ健在でね。
高橋:
ちゃんとお話もできて。
町田:
「こういうのを次は書きたい」とおっしゃってましたよね。
礒野:
意欲を、病室でもお持ちだったんですね。
高橋:
町田さんの『宇治拾遺物語』の朗読を聞いて、メラメラと…。
礒野:
町田さんは、この番組『飛ぶ教室』には初めてのご登場ということで。
高橋:
そうですね。以前『すっぴん!』という番組のときには出ていただきましたけど、本当に久しぶりで。今日は本当に楽しみにして参ったのですが…。
礒野:
メールをいただいています。ご紹介しますね。ラジオネーム・ムラオカタイヘイさんです。
町田康さんの『古事記』、旬な話題ですね。猫の話もきいてください。
町田:
あははは(笑)。
礒野:
うふふふ(笑)。楽しみにされています。ありがとうございます。
高橋:
ありがとうございます。ということで、ちょっと、僕、いつもじゃないんですけど、ゲストの本を紹介…。あとでこうやって話す前に紹介するんですけど、めっちゃやりにくいんですよね(苦笑)。
町田:
やりにくいですよね、確かに。
高橋:
でしょ? ほめているだけでも、おかしいしね。ただ紹介するだけでもおかしいし。僕、自分でやり始めて、いつもね、自分の首をしめてるんですけど(笑)。
礒野:
あははは(笑)。
高橋:
で、いつもこうやってね、自分の傷をなめるように…。1コマ目は、どうでした?
1コマ目「ヒミツの本棚」を聞いて…。
町田:
えっと朗読がね、自分でも読んでくれって言われて読む時があるんですけど、やっぱり高橋さんの息になってたな~、と思って。
礒野:
へぇ~!
町田:
すごくたたみかけるような講談調だったりとか、会話のところは上方落語を聞いてるみたいな。
高橋:
あれ、でも、そうでしょ? もともと。
町田:
あっ、そうですね。会話のところは落語っぽくは作ってましたけど。
高橋:
っていうか、漫才?
町田:
まぁ…。落語か漫才、そんな感じですね。
高橋:
そうか~。
町田:
まぁ会話の。2人の人がおって、話してるからね。
高橋:
独特の、関西風のノリっていう、そういうことでもないの?
町田:
ところどころね、その時代がいろいろあるから、要所要所でミックスにはしてるんですよね。
高橋:
本当にね、読んでて楽しいっていうか。普段はもちろん黙読するんですけど、ちょっと何か、一瞬、声に出して…。
町田:
ええ、ええ、ええ、ええ。
高橋:
読むと、楽しいですよね。
町田:
「あ~、こんな感じなんや!」って、自分もちょっと新鮮でしたね。
高橋:
ホントにこの『口訳 古事記』は面白かったんですけど! これね、町田さんといつかちゃんとお話をしたいと思ってて、まぁ「古典の翻訳」ですよね。
町田:
はい。
「口訳」と「口語訳」
高橋:
「口訳」って「口語訳」とは違う、って1コマ目で言ったけど、あれ間違ってないですよね? 僕の考えですけどね。
町田:
そうですね。まぁ「訳」じゃないですか。
高橋:
うん、うん。
町田:
直接的には、折口信夫の『口訳万葉集』が好きで、ちょっと真似したいなと思って(笑)。
高橋:
あははっ(笑)。
町田:
そういう気持ちがあったのと、それから、口訳って「くち(口)」訳じゃないですか。
高橋:
そうですね。「くち」ですよね。
町田:
「文」訳じゃなくて、「くち」訳、みたいな。「口で訳すねん!」みたいな。口で言うたことを、文字で書いた。その、文字で書いたもんを、今度は、口で語り直す、というか。まぁ書いてるんですけど、語りのように書くという。
高橋:
まず口ですよね。
町田:
ええ、そうですね。
高橋:
僕、だからホントに、町田さんの本を読んで、これはもともと稗田阿礼が読んだんですよね?
町田:
そうです、そうです。
高橋:
それを、太安万侶が書いた。
町田:
書いた。
高橋:
だから何て言うか、それは録音じゃないですか、まぁ。
町田:
今で言うたら、そうですよね。
高橋:
それを元に、原音に戻した、みたいな感じ?
町田:
そうですね。だから「口でもう1回戻す感じ」ですよね。
高橋:
そう、そう。だから、もともとは、しゃべった言葉だったはずなんですよね。
町田:
そうですね。そういうところがあると思います。
高橋:
それが、ものすごく元へ戻ってる感じが、すごいなと。
町田:
もちろん元とは全然違うんですけどね(笑)。
高橋:
すごい大昔だからね(笑)。
町田:
全く違うはずなんですけど、ただ「今やったらこんな感じだろう」っていう、そういう感じですね。
高橋:
町田さんは、さっき『宇治拾遺物語』の話も出たんですけど、古典の翻訳ですかね、まぁ「訳す」っていうことも、けっこうやってて。
礒野:
現代語訳とか、されてますよね。
高橋:
『義経記』をもとにした『ギケイキ』がありますね。『御伽草子』もあるじゃないですか。絵本ね。
もともと僕が、町田さんすごいなって、ホントに最初に思ったのは『パンク侍、斬られて候』っていう小説が…。
町田:
解説を書いていただいたんですけど。ありがとうございました。
礒野:
そうなんですか!
高橋:
そう、そう。「パンク」で「侍」なんですけど、要するに「サムライ言葉」が死ぬほど出てくるんですよ。「候(そうろう)」とかね。でも、まぁ、全部もう使わない「死語」じゃないですか。
町田:
ええ。
高橋:
これがすごく気持ちよくて。もしかするとあの辺からですか? あれはもちろん翻訳じゃないんですけど。
町田:
そうですね。
あの~、昔の言葉とか今の言葉って、あんまり分けてやるんじゃなくて、ミックスして使うというのは、あのころから、だんだんちょっとずつやり始めた感じですね。だから、よく「混ざったら良くない」って思われるじゃないですか。あははは(笑)。
礒野:
あ~。
高橋:
そういう人もいるよね(笑)。
町田:
必ず…。
高橋:
きれいにね。
町田:
「変じゃないよ~」っていうのも、「一緒に合わせても大丈夫よ」みたいな、そういう「より響きが出る」っていうか、古いものと新しいものを混ぜることによって、余計この、「うねり」というかね、「響き」というか、両方の意味がぶつかり合って。より直感的に理解できた「口訳」として、「言葉」として、俺らが普段のわかってるわかり方…
だから、字を読んでわかるわかり方と、もう1個別のわかり方って、俺はいつも感じてると思うんですよ。
高橋:
しゃべってる時ね。しゃべってる時の感じ。
町田:
いろんな「わかり方」があると思うんですけど、それを言葉でも広げたいなっていう。
礒野:
なるほど~!
高橋:
あと僕ちょっと今回また、その『ギケイキ』とか『宇治拾遺物語』を読み返して、前々からそうじゃないかなと思って、気がついていたことがあって。「古典を現代に訳そう」って人って、けっこういるじゃないですか。
町田:
いろんな方がされてますね。
高橋:
まぁ、僕もやってますし。で、好みが違うんだよね、みんな。
町田:
好み?
高橋:
つまり、例えば、町田さんは『古事記』とかね、『義経記』とか、『宇治拾遺物語』でしょ。
で、僕が『論語』やって、『方丈記』をやって、今年はね、もうすぐ『歎異抄』が出るんですよ。
町田:
あぁ。やっぱりそういうの、しそう…。
高橋:
でね、思ったの! 町田さんが選んだやつって、全部クレイジーなの(笑)。
町田:
あははは(笑)。
高橋:
めちゃくちゃで。そう思わない?
町田:
まぁ説話とか、要するに「支離滅裂」というか。
高橋:
そう。支離滅裂なのばっかり選んでる。
礒野:
そうなんですか(笑)。
高橋:
で、僕は「先生」が出てくるんだよ、みんな。「グル(指導者)」っていうかさ。「グルの話を聞く若者」みたいなやつばっかりなの!
町田:
鴨長明がおって、教えてる、みたいな。
高橋:
孔子がおってとか、親鸞がおってとか。そういうのが好きなの(笑)。
町田:
あははは~(笑)。
高橋:
だから、単に古いものをやるんじゃなくて、自分の中に何かフィットしてる…。
町田:
ええ。
高橋:
だから、町田さんのはめちゃくちゃなのよ。それはどうしてかというと、町田さんはそもそもね、やっぱりそういうものを求めているというか…。それは、実は橋本治さんが、もう亡くなられたけど、『源氏物語』と『枕草子』、代表作の。両方とも女性が書いたやつなの。
礒野:
そうですね。
町田:
あぁ、そうか~。
高橋:
彼は女性が書いたものをやりたい。女性になって。
町田:
ええ、ええ。
高橋:
だからみんな、自分がなりたい…
町田:
ものを、実は…
高橋:
古典の中に探していって、やってるんじゃないかなっていうふうに思ったら、このね、町田さんはやっぱり『古事記』。
町田:
僕は~、自分はまともだと思ってるけどね。
高橋:
うわっはっはっはっはっ(大笑)。
礒野:
あは…。いや、笑うところじゃないですよ。すみません。失礼しました。あはははっ(笑)。
高橋:
それ、マジで言ってる?
町田:
思ってるんですけどね~。
なぜ『古事記』を口訳してみようと?
礒野:
どうしてこの『古事記』を、今回、口訳してみようと思ったんですか?
町田:
支離滅裂とか、そういうのは、確かにそうなんですよ。みんな勝手に…。
高橋:
勝手にね。
町田:
物語を自分で書き足していったりとか。長い時間の間に自分の、例えば『義経記』だったりとか『太平記』だったりとかもそうですけど、まぁ自分の一族の“ええ話”を後で入れたりとか。1人の作者が、全体をコントロールしてないから。で、まぁ、人に語り継がれてくるもんやったら、しゃべってる間に何か中身も変わってくるやろうし。
礒野:
そうですね~。
町田:
作者が変わって、また物語のテイストが変わったりとか、トーンが変わったりとかするから、けっこうグッチャグチャと言えばグッチャグチャなところがあるんですけど。でも、一貫した何かやっぱりその感じ、っていうのは、これはやっぱり、ありますよね。
高橋:
それでね、僕、おかしいなって気がついたのは、池澤夏樹さんも、え~と、古事記に載っているような天皇のことを書いてて、長編を読んだ時に、出てくる人間が、全部、頭おかしいんだよね(笑)。つまり、殺人鬼みたいな人ばっかりじゃない!
町田:
ええ、ええ。
高橋:
怒ると、すぐ殺すし。とにかく「えっ? ちょっ、ちょっと待って!」っていう。足を踏んだから、「じゃ、殺すわ」みたいな人ばっかりでしょ?
町田:
ええ、ええ、ええ。
高橋:
つまりそれはそういう世界。今と心の風景が…、同じところもあるけど、そういうことが普通だった世界みたいなのがあって。だから、クレイジーじゃなくて、それが正常だったんだよね。
町田:
ええ。
高橋:
だからね、そういう、一見異常なものが、ものすごく正常に見えている感じが、好きなんだな~と。
町田:
う~~~ん。そうかな~。
礒野:
いかがですか? 源一郎さんはそのように言ってますけど。
町田:
一応、なんて言うんですかね、書かれたものに対して、原文があるわけじゃないですか。その原文に対して、納得いかへんこともあるわけですよ、僕だって。
高橋:
あ~、ありますよね。
町田:
あはははは(笑)。
高橋:
意味がわからないやつ(笑)。
町田:
意味わからへん。「ナニこれ?」「なんで?」みたいな。でも、「なんで?」っていう、わからへんことを、これは昔のことだからわからへんねんとか…。これ、よう誘惑にかられるのが「これ、間違いちゃう?」みたいなところがあって。
礒野:
へぇ~!
高橋:
1か所、説明してたところ、あったでしょ? 誰か出てきた、突然、姫が!
町田:
ええ。
高橋:
これ「なんで出てきたの?」って、書いてあるの(笑)。
町田:
あははっ(笑)。
高橋:
「なんで、いきなりいるんですか?」って。
町田:
そう、そう、そう。「なんでいるの?」みたいな。
礒野:
そこの疑問をちゃんと入れ込んでるんですね~!
町田:
そう、そう。それは例えば、映画を撮っててね、「おぉ、だいぶ前からスタンバイしてた高橋さん!」とは言わないじゃないですか。あははははっ(笑)。
高橋:
おかしい(笑)。
町田:
そやけどね、そういうのをね、矛盾なく書いていくことが、書くことやと思うんですよね。自分の中で矛盾なく。それ、自分で「おかしいな」と思いながら、そのまま何かやっちゃうと、読んでる人も「何かおかしいな」と思うと思うんですよね。
だからそれを、「どうおかしくしないか」って言うか。クレイジーっていうことで切り捨てるんじゃなくて、「こういうことがあるよね」って。実際はクレイジーなんやけど、「これやるよな、人間」っていうのが、やっぱりその小説とかね、他の現代の小説を書く時でも、創作の大意としてはね、割と同じなんですよ、それは。
「なんで~」「おかしいやん、それ!」っていうのは、あると思うんです、それは。
高橋:
でね、僕は、その~、町田さんはすごく原理的だと思うんですよ。さっき「おかしい」と言ってたのは、例の「禁酒」したじゃないですか。
町田:
禁酒しましたね。
高橋:
2015年かな?
礒野:
お酒をやめられたんですね。
高橋:
その本は、前の番組で紹介したのか…。あれは、論理的に禁酒したことになってるじゃないですか。
町田:
論理的(笑)。まぁそうですね。理屈で書いてますからね。
高橋:
ある日、気がついたら「酒を飲むって、おかしい」と。
町田:
そうですね。「飲むのがおかしいのか、飲まへんのがおかしいのか」っていう。正気と狂気のせめぎ合いみたいな話です。
高橋:
で、考えた結果、正気でいるためには、やっぱり「飲まない」っていうのが正しいと。それで決めて、飲まなくなったよね、その日から。で、これはおかしいでしょ? あははは(笑)。
礒野:
どうとるかですね~。おかしいのか。
高橋:
それで僕も一生懸命がんばって、禁酒しようと思ったけど、できないんですよ。
町田:
あぁ…。議論に負けたようで悔しいですけど(笑)。
高橋:
あはははっ(笑)。
町田:
ある人に「普通、酒って自分の意思でやめられへんので、医師の手助けとか医学の力が必要やけど、俺、なんか辞められたんや。なんでやろな~」って言うたら、「お前、頭おかしいからやろ」って言われた(笑)。
高橋:
あはははは(笑)。
礒野:
一言で(笑)。
町田:
そういうこともありましたけどね~。
礒野:
今も続いていらっしゃるんですね。
町田:
「おかしさ」は続いているみたいです(笑)。
礒野:
おかしさ(笑)。
町田康さんが『口訳 古事記』を朗読すると
礒野:
源一郎さん、『口訳 古事記』を、せっかくですから町田さんに読んでいただくとか・・・。
高橋:
あっ、そう! 応神天皇のラップを!
町田:
応神天皇のラップ? そんなのありましたっけ?
高橋:
ラップっていうか、このページのところ。
(ここで、町田さんが該当部分を朗読)
礒野:
ありがとうございます(拍手)。
高橋:
えっ? こんなきれいな感じ?
一同:
あはははは~っ(笑)。
町田:
これもっとリズミカルが良かった?
高橋:
僕、なんかさ~、もっとふざけた感じでやってるのかと思ったの。
町田:
あぁ、そうですか。まぁ、こんな感じですかね。
高橋:
あぁ~、そこはやっぱりさ、書き手と読み手の違い?
町田:
ええ。
高橋:
書いた人が読むと、全然違って聞こえるんだよね。
礒野:
すてきでした~。
高橋:
なんか、いや、ごめん。こんなすてきな感じだとは。あはははっ(笑)。
礒野:
もっと面白い感じと思っていらっしゃいました? ラップかなって。
高橋:
どうなんですか? これは「口訳」で、全編に、口語…、口語じゃなくて、しゃべるように書かれているように見えてるんですけど。ものすごく愉快な、クレイジーな感じに、全編を聞いたんですけど、こうやって見ると、ものすごくしんみりしたり、美しかったりするところも!
町田:
クレイジーなところもありますし、しんみり作ってるところも、これはあります。特にその、「歌」ですね。歌ってものすごく重要で。この古代の歌謡っていうのを、今の日本語でどうやって響かせるか、これはですね、ちょっと神経を使ったところでありまして。まぁ今のような感じでやるところもあるし、70年代フォークソング調みたいなね。あはははは(笑)。
高橋:
フォークソング調(笑)。
高橋・礒野:
あはははははっ(笑)。
町田:
もう、ひと言で、仁徳天皇が、ウダウダ言ってるところを、ひと言で「来ちゃった」とかで終わらせたり(笑)。
高橋:
あれ、良かったよね。歌さ、歌さ、ずっと書いて、「来ちゃった」って(笑)。
町田:
歌謡をいろいろ工夫するっていうのは、やっぱり「口訳」ということの、1つ醍醐味って言いますか。心を配ったところやし、読む人には「オモロがって読んでもらえるかな?」というふうに思います。
高橋:
これは千数百年前の人たちなんだけど。確かに、ちょっと頭おかしいとしか思えないけど。でも同時に何か、すごくいい感じっていうか。
町田:
そうですね。魂が通うところがあれば、現代の人にね、いいかな~っていう。
礒野:
そこに町田さんのエッセンスが加わって、凝縮されて、すごく面白い物語として、発見がありました。
町田さんの「これから」
高橋:
これまでも随分、小説がもちろんメインだとは思うんですけど、古典の翻訳も、まだこれからやる予定はあるんですか?
町田:
そうですね。雑誌で、『太平記』を今度はじめまして。(『口訳 太平記 ラブ&ピース』)
高橋:
『太平記』。これはなんで『太平記』だったんですか?
町田:
これはね、もう率直に言いましてね、編集長に「おまえ、太平記、やれぇ~」って言われて(笑)。
高橋・礒野:
あはははははっ(笑)。
高橋:
でもさ~、やっぱり「やりたい」って感じだったんですか?
町田:
まぁ、やりたいですね。
高橋:
『太平記』は、どこがいいの?
町田:
『太平記』も、やっぱり、すいません、クレイジー(笑)。あはははっ(笑)。
高橋:
そうなんだよ(笑)。結局、今の世界をクレイジーだって言うけど、クレイジーの感じとか、度合いが違うんだよね、なんか。質がね。
町田:
まぁでも、人間は基本、クレイジーですからね。人間は、どんな時代も。
礒野:
どんな時代も。あっ、なるほど~。
町田:
「正気や!」と思うてることが、間違うてる気がする。
高橋:
そう、そう、そう。で、結局、たまたま正気になるんだよね、ときどき。
町田:
鴨長明が出てきて正気なこと言うんだけど、まぁ珍しいです、そういうの。
高橋:
だから僕さ、珍しい正気のところだけ選んで…。
町田:
あははは(笑)。
高橋:
僕、そうかも~! 小説では違うんだけど、翻訳する時は、絶対、正気の人を選んでるよね!
町田:
選んでる(笑)。
高橋:
時代の中でね、そこだけちょっと正気になってるよね。
町田:
なってるね。
高橋:
だから僕、町田さんとね、ある意味で「正反対」なんだよ。
礒野:
あぁ~! 担当分野がちょっと違う!?
町田:
ユニット組んでやったら、いちばんいいかもしれない(笑)。
高橋:
うはっ(笑)。
礒野:
あははははっ(笑)。
町田:
バランスがいいんじゃないですか(笑)。
高橋:
ぜひユニットを(笑)。え~っと、新刊が…?
町田:
11月ぐらいに、種田山頭火の…。
高橋:
あっ、俳人のね。
町田:
本をやることになっています。
高橋:
町田康の山頭火。
町田:
はい。もう原稿はでけてますので。
高橋:
だんだん何かさ、山頭火みたいな感じになってきてるよね(笑)。
町田:
山頭火(笑)。
礒野:
どういうことですか(笑)。「みたいな」って。
町田:
出家しようかな(笑)。
礒野:
うふふふ(笑)。源一郎さん、なんと、あっという間にお時間です。本当は今年4月から武蔵野大学文学部の特任教授を務めていらっしゃるお話なども聞きたかったんですが…。
高橋:
学校の先生…。
礒野:
またの機会にしましょうか。
高橋:
あぁ、もうダメですか。残念ですね。じゃあ、またぜひ来てください。
礒野:
2コマ目のセンセイは、作家の町田康さんでした。ありがとうございました。
高橋:
ありがとうございました!
町田:
ありがとうございました。
【放送】
2023/08/04 「高橋源一郎の飛ぶ教室」
放送を聴く
23/08/11まで