【飛ぶ教室】「きょうのセンセイ~文筆家・挿話蒐(しゅう)集家 平山亜佐子さん」

23/07/14まで
高橋源一郎の飛ぶ教室
放送日:2023/07/07
#文学#読書
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23/07/14まで
2コマ目「きょうのセンセイ」は、文筆家・挿話蒐集家の平山亜佐子さん。「教科書に載らない女性」をテーマに調査している平山さん。1コマ目で紹介した著書、『明治大正昭和 化け込み 婦人記者奮闘記』では、さまざまな現場に潜入取材をして記事を書いた型破りな女性の新聞記者たちの姿を鮮やかに浮かび上がらせています。「何もなさなかった人が好き」と言う平山さんですが、平山さん自身にも型破りなところがあるようで…。
【出演者】
高橋:高橋源一郎さん(作家)
礒野:礒野佑子アナウンサー
平山:平山亜佐子さん(文筆家・挿話蒐集家)
礒野:
源一郎さん、2コマ目です。
高橋:
はい。今日のセンセイは、文筆家で挿話蒐…、言えない(笑)。この方です。
礒野:
あははは(笑)。
平山:
平山亜佐子と申します。よろしくお願いしま~す。
高橋:
よろしくお願いしま~す(拍手)。
礒野:
よろしくお願いしま~す。
平山:
あはははは(笑)。
高橋:
なにか流れてきた。
礒野:
珍しくここで、なにかの音楽が流れてまいりました。
高橋:
これはなんでしょうか?
平山:
いきなりで恐縮なんですが、私が所属する『2525稼業(にこにこかぎょう)』という唄のユニットの曲です。わははははは(笑)。
礒野:
かわいらしい声で~!
高橋:
ホントですよね~。
平山:
お恥ずかしい。
礒野:
音楽活動もされていらっしゃる?
平山:
そうです。一応、はい。まぁ社会人のバンドなので、年に1回ぐらい、最近はライブはそれぐらいなんですけど。
礒野:
すごい。多彩ですね~。
平山:
とんでもないです。
高橋:
いい曲が多いですよね。このCDは、これは売って…?
平山:
今後、売ろうとは思ってます。
高橋:
ですよね!
礒野:
CDは出されてない?
平山:
まだ出してないですね。
高橋:
是非とも、よろしくお願いします。
平山:
ありがとうございます(笑)。
礒野:
歌っているのは平山さんの声ですか?
平山:
2人で歌っています。
高橋:
2人で歌ってますよね~。
平山:
はい。私の小・中学校の同級生の「sara(サラ)」と私と、高橋裕さんの3人です。
高橋:
「旅芸人の記録」という曲。
平山:
「旅芸人の記録」。アンゲロプロスの映画と同じタイトルですけど、特に関係ありません。
高橋:
関係ありません(笑)。
礒野:
そうなんですね(笑)。
平山亜佐子さんの「謎プロフィール」
高橋:
さて、(台本に)「謎めきつつ、気になるプロフィールなのですが・・・」って。
平山:
あははははは(笑)。
高橋:
あの~、僕らは本を先に読むんですが、どんな人なのか、読んでもわからない(笑)。
礒野:
本の内容から、すごく破天荒な方がいらっしゃるのかなと思っていたら…。
高橋:
そう、そう、そう!
礒野:
すごく、なんて言うんでしょう…。穏やかな…。
平山:
いえ、いえ。とんでもないです。
高橋:
(平山さんの本に出てくる)小川好子みたいな、中平文子みたいな人が来るのかと思ったら(笑)。
平山:
目指したいですね。うふふふっ。
礒野:
実際の平山さんは、ちょっと雰囲気が、違いますよね~。
平山:
あっ、そうですか!?
高橋:
なんか、ちょっとアンニュイな感じで。
平山:
あっ、そうですか(笑)。
高橋:
今日は、よろしくお願いします~。
平山:
よろしくお願いします。
高橋:
え~っと、どっから聞こうかと思ったんですが…。本当に、非常に面白かったです。
平山:
ありがとうございます!
高橋:
それで、何冊か出されてですね。『問題の女 本荘幽蘭伝』っていうのが、あるんですが、これが最初ですか?
平山:
いえ、最初は『破天荒セレブ』(『20世紀破天荒セレブ ありえないほど楽しい女の人生カタログ』)ですね。
高橋:
あっ、そうか。『破天荒セレブ』ですね。
平山:
『破天荒セレブ』と『不良少女伝』(『明治 大正 昭和 不良少女伝 莫連女と少女ギャング団』)があって。
高橋:
あっ、『問題の女』は、けっこう後ですね。
礒野:
2021年ですね。
平山:
そうですね。
高橋:
あの~、驚いたのはですね、この『化け込み』もそうなんですけど、僕、一応、明治を取材した小説も書いてますし。けっこういろいろ。なので、ちょっと自分的にはですね、けっこう読んで知ってると思ったんですが、全く知らなくて。
平山:
あぁ…。
高橋:
「誰これ?」って(笑)。
平山:
あははははは(笑)。
礒野:
お名前なんですね。「本荘幽蘭(ほんじょう・ゆうらん)」さんという。
高橋:
しかもショックだったのは、全く無名の人なのね。
平山:
そうですね。今はもう。
高橋:
今は無名だけど、当時ものすごく…。
平山:
人気のある。
高橋:
ある意味、一世風靡(いっせいふうび)した人だったのに。
礒野:
へぇ~!
高橋:
だから逆に言うと、「なぜそういう人を、“明治大正に詳しいと思ってる人間”ですら、知らないんだろう?」っていうのが、逆に怖いというか。
平山:
うん、うん。はい。
なぜ「戦前の文化」をテーマにするの?
高橋:
そもそも平山さんは「戦前の文化」がテーマということで。
そういう本を何冊も書かれているんですが、なぜ、そこに行ってしまったのか?
平山:
そうですね。私もともとは、デザインをやってまして。雑誌とか書籍のエディトリアル・デザインというものをやってたんですけど。ひょんなことから1冊目の本を書いたんですね。
高橋:
「ひょんなこと」って?
平山:
もともと、女性の評伝を読むのが好きで、国内外の。で、たまたまブログに自分が読んだ評伝の1冊1行の感想を書いてたんですね。そしたらそれを当時、インターネットのポータルサイトで、本に関するコーナーがあって、「そこに書きませんか」っていうので、1回だけ、それを膨らませたものを書いたのを見た編集者の方が声をかけて下さって、『破天荒セレブ』っていう本が出たんですね。
高橋:
そのときは誰を書いたんですか?いちばん最初に。
平山:
え~?
でもこの本(『明治大正昭和 化け込み 婦人記者奮闘記』)に書いてあるような人たちですね、基本的に。はい。「20世紀を生きた国内外の20人の女性の評伝」ということで。
高橋:
しかも「破天荒」じゃないとダメなんだよね?
平山:
そうですね(笑)
礒野:
しかも、1冊を1行で表すのって、けっこう難しいですよね?
平山:
そうですね~。もう何を書いたか、ちょっと記憶にないんですけど(笑)。
高橋:
あの~、女性の評伝っていうと、瀬戸内寂聴さんがね。
平山:
あぁ、そうですね!
高橋:
ず~っと、管野スガとか、伊藤野枝とかね。ああいう、今でいうフェミニズム関係の人を取り上げたのが、けっこう記憶に残ってますけど。そういうのは興味ありました?
平山:
読みましたけれども、あの~、そうですね、やっぱり私が好きな人っていうのは「なにも成さなかった人」 (笑)。
高橋:
そう、そう! そう思ったんですよ~(笑)。
礒野:
なにも成さなかった人。
高橋:
瀬戸内さんが書いたものだって、当時の男性社会からは、排除されるような人だったけど、でも歴史に残ってるんだよね!
平山:
はい。
高橋:
みんな、どの本にでも彼女たちの名前は残ってるけど、平山さんが書いてる人は、平山さんが書かないと、絶対誰も知らない、って。
礒野:
目の付けどころが、“ならでは”ですね~。
高橋:
でもそれは、どこで見つけてくるんですか(笑)。そもそも。
破天荒セレブの日本代表!? 本荘幽蘭さんは、どんな人?
平山:
本荘幽蘭に関して言うと…。
高橋:
あっ、ちょっと、本荘幽蘭について説明してもらえますか? せっかくなので。
平山:
そうですね。いちばん簡単なのは、本の帯を読むのが簡単なんですが、「転職50回以上、50人近い夫と、120人以上の交際相手を持ち、日本列島、中国大陸、台湾、朝鮮半島、東南アジアに神出鬼没。明治大正昭和を駆け抜けたモダンガールの本家本元」ということで…。
礒野:
うふっ(笑)。ちょっと待ってください。“50人の夫”って言いましたか?
高橋:
そうなの。夫が50人近いんだよね。
平山:
そう…。
礒野:
えっ? それだけ結婚してるっていうことですか?
平山:
はい。一応、本人は…。あの実は「錦蘭帳」っていうノートに、付き合った人のことを書いてまして。
礒野:
はい。メモみたいな?
高橋:
付き合ったっていうか、“エッチした人”ですよね。
平山:
そうですね。
「○」「△」「□」とかって、自分で評価を…。
礒野:
すごいですね~(笑)。
平山:
「飲食店の評価や口コミを掲載しているグルメサイト」的な…。
高橋・礒野:
あはははは(笑)。
礒野:
違う意味の!
平山:
違う意味の(笑)。
高橋:
すごいよね~。そういうことをしてるから、たぶん嫌われて…。
平山:
あっ、そうですね。
高橋:
「歴史から抹殺された」っていう感じがしますよね?
平山:
そうですね。
礒野:
いや~、エピソードがすごい!
平山:
職業も50個ぐらいやってるんですね。本の帯に書いてあるのを読むと、新聞記者、保険外交員、ホテルオーナー、女優、辻占いの豆売り、日本語教師、活動弁士、講談師、浪花節語り。
高橋:
う~ん。
平山:
あと、編み物教師とかもやってるんですけど。いろんなことをやるんですけど、何ひとつモノにならず。
高橋:
それがすごいよね(笑)。
礒野:
あははは(笑)。
高橋:
で、読んでいくと、世界中というか、朝鮮とか満州とか、ロシアとか、東南アジアとかをさまよっては、無一文になって戻ってくるんだよね。
平山:
そうなんです!
高橋:
いつも無一文だったりするんだよね。
平山:
どっからか、お金を調達して、行く途中で公演とかしながらお金を稼いだりとかもして。だから、目的がないんですよね。
高橋:
あっ、そう! だから“なにかをしよう!”っていう人じゃないんだよね。なんなの?
礒野:
場当たりで?
平山:
そうです、そうです。
高橋:
「ただ生きてる」っていう感じ?
平山:
そうです、そうです。はい。
高橋:
そういう人って、確かに「伝記」は書けないよね。
平山:
そうなんです。非常に書きにくかったんですよ。あの…、“起承転結”がなくて、ずっとこう「上」…。
高橋:
ずっと“ハイ”。ず~っと高いところで。
平山:
ずっと“ハイ”。
高橋:
だから晩年も“ハイ”なんだよね?
平山:
そうなんです。“ハイ”のまま消えていくっていう感じです。歴史の波間に。
礒野:
すごい人。エネルギッシュですね。
高橋:
幽蘭も含めて、平山さんが好きなのは…。この「化け込み」をした婦人記者も、やっぱり「なにも成さなかった」と言えば「なにも成さなかった」。
平山:
そうですね。はい。
高橋:
ひかれる理由は?
平山:
私はけっこう「女性の評伝」をいろいろ書いてるんですけども、意外とフェミニズム…。今ブームがけっこう来てますけど、あんまりそこに入れないところがあって(笑)。
高橋:
そうね。ブームに乗ってないよね(笑)。
平山:
乗ってないんですけど、ただ今回この本だけは意外とちょっと、私にしては“思想強め”だったかなと思うんですけど。
高橋:
思想強め(笑)。うん。
平山:
本当にひどい目にあってたりしたので。ただやっぱりその『化け込み』とか『幽蘭』もそうなんですけど、こういうなんか「はみ出した人」というか「型破りな人が作る歴史」っていうのもあるんじゃないかなと。
礒野:
ええ、ええ。
平山:
あの、今の新聞記者って、やっぱりエリートのイメージがあるので、こういう人たちが、そもそも紛れ込んで記事を書いてたっていうのも驚きですし、記事の内容もさることながら(笑)。でも、こういう人たちを入れることで、すごくメディアが豊かになるんじゃないかなっていうのは思います。
高橋:
あのね、初期の新聞は、そこは僕も知ってますけど、「でも、しか」で。要するに、新聞記者に「でも」なるか、新聞記者に「しか」なれないとかね。
礒野:
あ~。でも、しか…。
高橋:
作家になりたいんだけどなれないから、とりあえず…。あっ、“とりま”、新聞記者、みたいな。
礒野:
そうだったんですか?
高橋:
そう、そう、そう。
平山:
いい学校を出ている人の職業の中では「でも、しか」ということですね。
“いやしい職業”というか。
礒野:
かつては、思われていた?
高橋:
ヤクザみたいな人とかね、チンピラみたいな人も紛れ込んでたりして。
平山:
はい。
高橋:
そういうところに、でもまぁ、女性が入って、男性と並んで頑張って。でも結局、読むとひどいんですよ。パワハラとセクハラが!
平山:
そうですね~。
礒野:
時代もあるんでしょうけどもね。やっぱりすごいですよね。
高橋:
僕が平山さんの本を読んでて思うのは、本当に当時の「婦人」、まぁ今もそうかもしれないし、そうなんだろうけど、メチャクチャですよね。
平山:
そうですね(笑)。
高橋:
生きてるだけで、セクハラ・パワハラされてるっていう中で、なにかをするっていうのは、だから逆に、本荘幽蘭って、すごいよね!
平山:
そうですね!
高橋:
逆に食っちゃうほうでしょ(笑)。
平山:
そうですね(笑)。
彼女は、幽蘭は、もう全く挫折というものをしないんですね。「自分で挫折と思わなければ、それは挫折にならないんだ」っていうのは、幽蘭から教わりましたね(笑)。
礒野:
お話を聞いてるだけでも、ちょっと勇気が湧いてきますよね。そういう“女性のたくましさ”とか。
高橋:
だからね、彼女はいろんな人と知り合いで、頭山満とか、折口信夫とか、出口王仁三郎とか…。なので、後で見たら載ってるんだよ、ちょっと!
平山:
あぁ、やっぱり。
高橋:
でもその時は「そんな人いたっけ?」って(笑)。だから本当に「なにかをする」ということがないと「歴史の中では残らないっていうシステム」。
平山:
う~ん。
高橋:
でも、それってさ「立身出世」とかさ。
平山:
そうですね。
高橋:
そういうのと一緒だよね。つまり「出世しないと意味がない」っていうのと同じで、そういう意味では僕もなんか、変な病に侵されてたんじゃないかと思って(笑)。平山さんの本を読むと。
平山:
いえ、いえ。
礒野:
気付かされたというか。この本で。
『明治 大正 昭和 不良少女伝 莫連女と少女ギャング団』について
高橋:
あと『不良少女伝』っていうのもありましてですね。これはもっと、明治、大正、昭和の「不良少女について」ばかり。これはどういうきっかけで?
平山:
これはですね、1冊目の本を書いてる時の資料でたまたま見つけた1つの事件がありまして、これも当時はものすごく話題になったんですけれども。大正13年の12月の年末に1人の女の子が捕まったんですね。えっと、林きみ子っていう子なんですが。「ジャンダークのおきみ」と名乗って、ハート団という…。
高橋:
ジャンヌ・ダルクのおきみ…。
礒野:
ジャンヌ・ダルクのおきみ? 自分のことを?
平山:
自分のことを。で、まぁハート団という不良少女団の首領なんですけど。で、彼女は実は、丸ビルのタイピストだったんですね、昼は。夜は丸ビル辺りで、いろいろと恐喝をしたりとか、“つつもたせ”的なことをしたりとかっていう、その事件を知って、「ほかにもこういう子たちっていたのかな?」っていうので、調べて書きました。
礒野:
へぇ~。
高橋:
そうすると、そういう、なんていうかね、少年少女たちの、え~、愚連隊というか。グループがいくつもあって。
平山:
うん。
高橋:
あの~、平山さんも書かれてましたが、川端康成に『浅草紅団』というね、有名な小説なんですよ、実は。でも、文学系から軽視されてるんですけど(苦笑)。
平山:
はい。
高橋:
あのね、やっぱり主人公が不良少女で。
平山:
そうですね。
高橋:
だから僕ね、あれをね、「ASK48」って呼んでるんですけど(笑)。
平山:
あ~~~!
礒野:
ASK?
高橋:
浅草紅団!
平山:
浅草紅団で。あはははは(笑)。
礒野:
勝手にそう呼んでるんですね(笑)。
高橋:
でもね、英語で「スカーレット・ギャング」とかって…。
平山:
あぁ、はい、はい、はい。
高橋:
「紅団」って、あの~『池袋ウエストゲートパーク』に、なんか出てる…。同じようなの!
平山:
カラーギャング。
高橋:
そう! カラーギャング。平山さんの『不良少女伝』は、大正でしたよね?
平山:
はい。
高橋:
このころからあって、そういう文化っていうのは。実は脈々と、あるんだよね。裏の歴史みたいに。
平山:
そうですね。不良少年は割と取り上げられることはあったんですけども、意外と不良少女の歴史とか、歩みみたいなものの本がないなと思ったので、まぁそれもあって、はい。
高橋:
ね。だからそういうのって本当に、歴史にならないで。
平山:
そうなんですよね~。
高橋:
もう犯罪記録みたいになって。で、「有名になるのは捕まった時だけ」みたいな。
平山:
そうですね。でも意外と、また捕まってたりして、追える人もいたりとか。
高橋:
そう、そう、そう、そう。
礒野:
やっぱり楽しいですか? 取材を進めていく中で。
平山:
そうですね。調べるのは楽しいです。私それで網膜が破れまして…。
礒野:
えっ?
高橋:
え? なんで~?
平山:
近視がひどいと網膜に穴が開くんです。それでレーザーで手術しました。
平山さんの本職は?
高橋:
はぁ…、視力…。えっと確か、平山さんは、大学図書館に?
平山:
そうです! 週5で働いています。
高橋:
「本職はどれ?」っていう。
平山:
いや、あの~。
高橋:
いいですよね、どれでも(笑)。
平山:
司書は「化け込んで」ます。
高橋:
あっ!
礒野:
なるほど~!
高橋:
化け込み!
礒野:
司書!
平山:
化け込みしてて。ポンコツ司書なんで。
高橋:
化け込み司書ですね(笑)。じゃあもう資料を探すのは…。
平山:
「読ませていただけるので、ありがたい」っていう感じですね。
挿話蒐(しゅう)集家とは?
礒野:
いろいろな肩書きがおありですけど「挿話蒐(しゅう)集家」っていうのはどういうお仕事なんですか?
平山:
これはですね…。
高橋:
ないよ、そういう職業は(笑)。
一同:
あははははは(笑)。
平山:
本当はね、「ライター」とかって言うのが普通かなと思うんですけど、「ライター」って言うと、やっぱりこう、ちゃんとしたルポをするとか、インタビュー記事を書き起こすとかっていう職人的な方たちかなと思っていて、私はまぁ、先ほどお伝えしたような経歴ですし。基本的に「自分が書きたいものを、企画書を持ってって、本を出してください」っていうほうの人なので、ちょっと「ライター」は言えないなと思って。
礒野:
なるほど。
平山:
年号とかも、すごい苦手なんで (笑)。やっぱりエピソードがすごく好きな人間なので、勝手にそういうのをつけました。
高橋:
それでね~、僕も一応、歴史小説を書いてるんで、あのエピソードはどうやって調べてくるんですかね?
平山:
あはっ(笑)。いや、でもあの本当に、新聞とか雑誌とか。
高橋:
新聞は大変でしょ?
平山:
そうですね。
高橋:
新聞を調べたことがあるんですけど、吐きそうになっちゃった。マイクロフィルムを見てて。
平山:
「根性引き」って言うんですけど、ひたすら…。
礒野:
えっ?
高橋:
根性で、引いていく!
礒野:
昔の新聞を?
平山:
そうです、そうです。
高橋:
だって、検索できないもんね。
平山:
そうなんです。
礒野:
今は確かにね、検索はパパっとできますけど。
高橋:
だって、マイクロフィルムの状態。
平山:
データベースになっている大手新聞社もあるんですけど、地方紙とか、本荘幽蘭のときだったら、台湾の新聞とか。まぁそういう、いわゆる「外地」の新聞なんかだと、マイクロフィルムで見るしかないので、大体このぐらいの時期にこの辺にいたって思ったら、もうそれて…。
高橋:
ただず~っと、ひたすら調べて読むだけ?
平山:
だから見落としてるのもあるかもしれないです、本当に。
礒野:
見つけたときってどういう気持ちなんですか?
平山:
もう、最高ですね。あははは(笑)。「そのためだけにやってます」って感じです。
高橋:
ある意味、偶然に、見つけた? それとも、もともとそういうものが好きだった?
平山:
好きだったんですね。凝り性というか。私、あの、これ、ちょっとあまり長くなるとアレなんで、短めに話しますと…
高橋:
すみません。
礒野:
ありがとうございます。
平山:
私は「はみ出し人間」だと、自分ですごく感じていて。
高橋:
うん、わかる。あはははは(笑)。
礒野:
え~、そうですか?
平山:
環境になじめない人間なんですけど。
高橋:
僕もそうですよ(笑)。
平山:
あはははは(笑)。そう、社会に出ると意外とそういう人も多いんだなと思ったんですけど。
あの~、小学校4年生の時に東京に引っ越してきて、それまでは兵庫県にずっと住んでたんですけど、環境が激変しまして。で、そのときにずっとずっと本を読んでて、授業を無視して。
高橋:
うん。
平山:
その後、絵を書いて、漫画を書くようになって、もうず~っと漫画を書いてて。で、「なんか読ませて」とか言われたりしているうちに調子にのって、6年生の時に、1学年3クラスあったんですけど、毎月、分厚い漫画雑誌を…。
高橋:
書いてた?
平山:
「出そう!」と思って、みんなに連載を頼んだんです。
高橋:
あぁ~、あぁ! 編集者だ!?
礒野:
みんなに発注したんですね?
平山:
自分も編集長だから、まぁ90ページ読み切りと、30ページ連載で、あなたは30ページ、あなたは40ページって勝手に割りふって。で、みんなに「これから創刊するから、喜びの声を書け!」とか言って、紙を配って。みんなもよくわからないけど「楽しみにしてます」とか書いて、それを1個1個書き写して、っていうのをやったんですけど。3号でまぁ、潰れたんですけど。
高橋:
3号続いたの?!
礒野:
すご~い!
平山:
3号の時に、あまりにも原稿の集まりが遅くて、鬼編集長から電話をかけたんですよ。「ぜんぜん来ないんだけど!」って。その時、中1だったんですけど、「だって、中間テストじゃん」って言われて。「えっ?なんだっけ?中間テストって聞いたことあるけど、なんだっけ?」って思って(笑)。
もう全く学校のカリキュラムを無視してやってたので、そういうちょっとなんか、おかしいところが、たぶん…。
礒野:
それで「はみ出し」を自認していらっしゃるわけですね。
平山:
そうですね、はい。
高橋:
自分が書いたお話に出てくる登場人物っぽいですね(笑)。
礒野:
ぽいですよ~(笑)。
平山:
あははは(笑)。いや、いや、いや。とんでもないです。
「これから」のお話 ~今、書いているテーマは?~
高橋:
あ~、もうこんな時間になっちゃったんで、すみません。『明治大正昭和 化け込み 婦人記者奮闘記』が出版されたばかりなんですけど、これから、“今の女性に思うこと”というのも聞きたいんですが…。
今、書いているテーマは?
平山:
はい。えっと1つは、Webで連載している『夫人小説大全』というのがありまして、これは『真珠夫人』とか『武蔵野夫人』のように、「夫人」と名前のつく小説を、時代順に読んで、夫人像を探るという。
高橋:
面白いね、それ。それは、僕がやりたかったな~(笑)。
平山:
あははは(笑)。もう1つは、これからなんですけど「男装の事件」を…。
高橋:
男装の麗人(れいじん)。男の格好をする…。
平山:
女性の、はい。
高橋:
これ、ちょこっと出てきますよね?
平山:
そうですね。出てきます。
高橋:
あれはなにか隠された意味がありますよね?
平山:
う~ん。女装ほどあまりメジャーじゃないですし、男装って。
LGBTQとか、すごく今言われますけど、もっと未分化な時代に、どういうふうにその人たちが暮らしてたのかっていうのを、ちょっと探ってみたいなと。
高橋:
まだまだけっこう、やられていないことが沢山ありますよね?
平山:
はい。そう思います。
高橋:
って言うのは、歴史に残らない人の方が、残る人より圧倒的に多いじゃないですか。
平山:
あぁ、そうですよね。
高橋:
だから、これを探していくっていうのが、平山さんの「これから」の。
平山:
はい。
高橋:
誰か今、検討してます?
平山:
あっは(笑)。
人物、個人ですか?
高橋:
うん。
平山:
徳田秋声にすごくくっついてた、山田順子。
高橋:
あぁ~! はい、はい、はい。
平山:
あの人も、ちょっと気になってます。
礒野:
どういう人ですか?
高橋:
徳田秋声って有名な作家なんですけど。
平山:
文豪なんですけど、その人のところに突然上京してきて、「作家になりたい」って言って。徳田秋声が彼女のことを書いた『順子もの』っていう一連のシリーズがあるんですけど。
高橋:
でもね、彼女がどうなったのか、僕も知らないもんな~。
礒野:
尽きませんね、いろいろとテーマは。
高橋:
いや、ホントにね、さっきも言いましたけども…。
礒野:
(割って入って)
文筆家で挿話蒐(しゅう)集家の平山亜佐子さんに、今日はお話を伺いました。あっという間でした~。
高橋:
ごめん。もう番組終了の時間なので、強制的に終わっちゃった(笑)。ホントにね、面白かったです。「歴史に残らないものを書く」っていうのは、これからの大きなテーマになると思いますので、ぜひこれからも、よろしくお願いします。
平山:
はい、ありがとうございます。
礒野:
あと5秒で~す!
高橋:
なんか言い忘れたことがあったんですが…。
礒野:
うふふ(笑)。
高橋:
まぁいいや。ありがとうございました。
平山:
ありがとうございました。
高橋:
ありが…。(時間切れで、番組終了)
【放送】
2023/07/07 「高橋源一郎の飛ぶ教室」
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23/07/14まで