【飛ぶ教室】「きょうのセンセイ~お笑いコンビ 髭男爵 ひぐち君~」

23/06/09まで

高橋源一郎の飛ぶ教室

放送日:2023/06/02

#文学#読書#ライフスタイル

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23/06/09まで

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2コマ目「きょうのセンセイ」はお笑いコンビ髭男爵のひぐち君。ワインエキスパートでソムリエ・ドヌール、北海道余市町ワイン大使も務める大のワイン愛好家! 同じくワイン好きの源一郎さんと味わい深いお話が繰り広げられました。日本ワインの魅力についても熱く語ってくれました。「みたらし団子」との意外なペアリングも興味深かったですね。

【出演者】
高橋:高橋源一郎さん(作家)
礒野:礒野佑子アナウンサー
ひぐち君:髭男爵 ひぐち君(お笑いコンビ)

礒野:
源一郎さん、2コマ目です。

高橋:
はい。今日のセンセイは、お笑い芸人でワインエキスパートの、この方です!

ひぐち君:
「ひぐちカッター!」。どうも、髭男爵・ひぐちです。よろしくお願いします!

礒野:
あははは(笑)。

高橋:
全然テンションが違うんですけど(笑)。

ひぐち君:
ちょっと場違いじゃないですか?

高橋:
いえ、いえ。大丈夫です!

礒野:
よろしくお願いいたします。

ひぐち君:
よろしくお願いします~! お世話になります。

高橋:
よろしくお願いします。「ひぐち君」でいいんですね?

ひぐち君:
あっ、「ひぐち君」でお願いします!

高橋:
「さかなクン」みたいなものですね?!

ひぐち君:
そんな感じで、はい!

高橋:
「ひぐち君さん」って呼びそうになっちゃって(笑)。

ひぐち君:
「さん」を言うとね、なんか面倒くさくなりますもんね。

高橋:
じゃあ「ひぐち君」で!

ひぐち君:
よろしくお願いします!

礒野:
源一郎さん、きょう家で面白い会話があったんですって?!

ひぐち君:
なんですか~?

高橋:
妻が「きょうのゲスト誰?」って言うから、「髭男爵」の、ひぐち君って言ったら、「え~! あのバンドやってる人?!」って言って…。

ひぐち君:
あははははは(笑)。

高橋:
「髭男」だけど、そっちじゃないって!

ひぐち君:
そっちね! そっち、よく言われるんですよね~。

礒野:
言われます? やっぱり!

ひぐち君:
言われます~。

高橋:
でもね「髭男爵」のほうが古いんだもんね!

ひぐち君:
まぁまぁ、そうなんですよね。

礒野:
先ですか!

高橋:
あははは(笑)。

ひぐち君:
NHK紅白歌合戦で、僕らのちょっとコントみたいなことを数年前にやっていただいて、その時はホントに「紅白」出てないのに、携帯電話が鳴りっぱなしでした。

高橋・礒野:
あははははは(笑)。

ひぐち君:
「あれ? なんでこんなに連絡きてるんだろう?」みたいな。

礒野:
まるで出たかのような(笑)。

ひぐち君:
「ひぐちカッター!」もやってるよ、みたいな。ありがたい。ありがとうございます、ホント。

高橋:
はい(笑)。

礒野:
簡単ですが、ひぐち君のプロフィールをご紹介させていただきます。

ひぐち君:
すみません、お願いします。

礒野:
1974年、福岡県のお生まれです。1999年に山田ルイ53世さんとお笑いコンビ「髭男爵」を結成。貴族の格好でワイングラスを持ち「ルネッサ~ンス!」と乾杯するネタでブレイクしました。2015年に、ワインエキスパートの資格を取得。現在は、日本ソムリエ協会の名誉ソムリエである「ソムリエ・ドヌール」、北海道余市町の「ワイン大使」として活動中です。去年11月に著書『髭男爵ひぐち君の 語る 日本ワインサロン』を出版されました。

ひぐち君とワインの関係

高橋:
はい! で、これが本なんですど。

ひぐち君:
源一郎さん! ホントに付箋がいっぱい!!

高橋:
びっしり! 読みました。

ひぐち君:
ホントに読んでいただいたんですね。ありがとうございます! お忙しいところ、すみません。

高橋:
いやね~、あとで言いますけど、僕もワイン好きで、一時期めっちゃハマったこともあったのね。それでちょっと「ワインにはうるさいよ!」と(笑)。嫌な“ワインうるさいオヤジ”みたいになってるけど。

ひぐち君:
あははは(笑)。

高橋:
それで、やっぱり「日本のワイン」は、そんなに飲んでなかったので、正直いって、髭男爵のひぐち君のワインの本っていっても、そんな「たいしたもんじゃないだろう」って、正直いって…。

ひぐち君:
あははは(笑)。そんなふうに思ってたんですか~(笑)。

高橋:
申し訳ない。

ひぐち君:
それはしょうがないけど。

高橋:
あの~、「お笑い芸人」って言ってたから。

ひぐち君:
まぁね~。

高橋:
そしたら、超マジで!

ひぐち君:
あぁ、本当ですか?! うれしい!

高橋:
超マジで! しかも、これインタビューなんですね。

ひぐち君:
あ~、はい! 対談を。

高橋:
基本的には、いろんなワイナリーの方とインタビューされてるのは、本当にね、ワインが好きで、よく知ってる人の…、当たり前だけど、インタビュー!

ひぐち君:
あははは(笑)。ありがとうございます。

高橋:
で、「熱い!」。

ひぐち君:
熱い気持ちが伝わってきますか?!

高橋:
うん。

ひぐち君:
ホントですか!

高橋:
これはね、ちょっとね、読んでて胸が熱くなりましたよ。

ひぐち君:
お~! うれしい!!

高橋:
これはね、ワイン好きの人は、ぜひ読んでください!

ひぐち君:
ワインを飲み慣れてない方にもわかりやすく、そういう…。

高橋:
そう、そう、そう、そう! ものすごく初歩からもわかるように書いてる。でも僕、知らなかったです。
髭男爵はワイングラスで…。

ひぐち君:
ワイングラスで「ルネッサ~ンス!」っていうギャグがあるんですけど、僕はその「ルネッサンスを言わないほう」なんです(笑)。

高橋・礒野:
あははは(笑)。

ひぐち君:
1回も言ったことないんですけど。

高橋:
言わない…。

礒野:
「じゃない」ほう…。

高橋:
だからなんとなく、ワインを飲んでるイメージがあったけど、実はあまり関係なかったんですか?

ひぐち君:
ぜんぜん関係なくて、だから最初はホント、2人とも全くワインのことを知らずにやってまして、まぁ、ぶどうジュースを入れて乾杯してたんですけど、だからそんな「貴族のお漫才」っていう感じでやってたんで、毎年あの~『ボージョレヌーボー』の解禁のイベントに呼んでいただいてたんですよ。

礒野:
ええ。11月の。

高橋:
飲まなくてもね。

ひぐち君:
飲まなくても(笑)。で、だいたいスーパーとかショッピングモールなんで、ぶどうジュースを入れて「乾杯!」みたいな。「ボージョレヌーボー、解禁しました~。ルネッサ~ンス!」みたいな。まぁその時、僕は言ってないですけどね。後ろで「カッ、カッ、カッ、カッ」って笑ってるだけだったんですけど。まぁそれを毎年やってた時に、とある年に、けっこう“格式の高い”「ボージョレヌーボーの解禁のパーティー」に呼んでいただきまして、お客さんがフランス大使館の方とか。

高橋:
やばいですね。

ひぐち君:
ワインに精通されている方ばっかりなんですよ。

礒野:
本物の方たちですね。

ひぐち君:
その時はさすがにグラスに本物が入ってたんですよ。

礒野:
うふふふ(笑)。

高橋:
あはは(笑)。

ひぐち君:
で、「飲んでみてください」って言われて、飲んだ時に…、「今年のボージョレのお味はいかがですか?」って聞かれた時に、なんかそれっぽいこと言わなきゃと思って、「いや~、今年のは重たいですね」って、全く逆のこと言っちゃったんですよ(苦笑)。

高橋:
あははははは(笑)。

ひぐち君:
軽やかで、フレッシュ&フルーティーを楽しむお酒ですから。

礒野:
ボージョレと言えば、そうですよね~!

ひぐち君:
それをフランス大使館の方に通訳されて。

高橋:
みんな微妙な顔したんじゃないですか?

ひぐち君:
どえらい空気になりましたよ(苦笑)。

高橋:
あははは(笑)。

ひぐち君:
「これは勉強しなきゃ」と思って、ワインスクールに通ったのが2015年なんですよ。

高橋:
あ~~。

ひぐち君:
それまで僕、全くワイン飲んだことなくて、むしろお酒も飲めなかったんですよ。

高橋:
そうなんだ~?!

ひぐち君:
全く。だからワインエキスパートの資格の勉強をしてるって、いつもお世話になっている事務所の先輩、カンニング竹山さんに言ったら、「酒も飲めないやつが、ソムリエとかなれるわけねぇだろう!」みたいなこと言われてたんですけど、勉強するうちに、どんどんどんどんのめり込んでハマっていきました。最初、だから教本っていうのもホント昔の電話帳ぐらい厚いんですけど…。

高橋:
分厚いの、あるよね。

ひぐち君:
はい。1行目からわかんなかったんですけど、授業を聞いてるうちに「あっ、ちょっとワインっておもしろいかもな」って。

高橋:
でも珍しいよね。普通、なんか飲んで、「おいしかった」からハマるって言うけど。

ひぐち君:
はい。

高橋:
飲んで「間違えたからハマる」っていうのも(笑)。

ひぐち君:
あははははは(笑)。

礒野:
それはやばい(笑)。

高橋:
確かに、あまり聞いたことがないよね。

ひぐち君:
なかなか無いかもしれないですね~。

礒野:
でもじゃあ、お仕事のかたわら、そういうとこに通って?

ひぐち君:
はい。でも、とりあえず勉強しようと思って、まぁお仕事もあるんで、スクールに通ってても、いや正直、僕は行けない日もあるんで、どうしたらいいか…。でも「違う曜日に振り替えてとか、授業を受けられるんで~」って言われたんですけど、たまたまその年、仕事がそんなになくて、ちゃんと皆勤賞で(笑)。

高橋:
あははは(笑)。

ひぐち君:
一般のサラリーマンの方が忙しそうで、「あれ? あの人あんまり授業に来ないな」みたいな。僕だけ皆勤賞で。めちゃくちゃ勉強しましたよ。

高橋:
おかしいね、芸人のはずなのに(笑)。

ひぐち君:
そうなんです。だから最初、スクールに来てる人も、ワイン大好きな人ばっかりなんですよ!

高橋:
ですよね。普通そうですよね。

礒野:
そうですよね~!

ひぐち君:
僕だけ知識ゼロなんですよね。最初、『カベルネ・ソーヴィニヨン』という品種があるんですけど、これをずっと言えなくて、「カルベネ、カルベネ」って言って、すぐ注意されるみたいな~。

礒野:
「カベルネです!」って。

高橋:
いや~、珍しいですよ!

ひぐち君:
いや~でも、ハマりましたね~!

ひぐち君がワインにハマった“きっかけ”は?

高橋:
なんでハマったの?

ひぐち君:
ハマったのは、やっぱり「テロワール」というのを知ってからなんですよ。

高橋:
土地ですね。

礒野:
教えていただけますか?!

ひぐち君:
「テロワール」っていうのは、“フランス語の「土地」を意味する言葉から派生した言葉”なんですけど。「ワインって土地の味が出やすい」って言われるんですよ。

高橋:
さっきの『木に学べ』ですね。(1コマ目でご紹介した本)

ひぐち君:
いや、まさにそうなんですよ!

高橋:
まさに、そう。

ひぐち君:
それは「なぜか?」といいますと、ワインっていうのは「水を使わないお酒」でもあるし、「発酵1回でワインになる、お酒になる」ので。普通は日本酒とか焼酎とかは1回「糖化」させなきゃいけないけども、ブドウには糖分があるんで、この「ブドウの糖分を酵母が食べて、二酸化炭素とアルコールになる」んですよ。だからけっこう「ストレートに土地の味が出やすい」ということで。で、シャブリ地区ってあるんですね、フランスに。

高橋:
はい。おいしいところね。

ひぐち君:
源一郎さんはご存じの通り、シャブリってあるんですけど。シャブリ地区の「シャルドネ」っていう、白ブドウがあるんですけど、そこのシャルドネはすごく「牡蠣(かき)」に合うって言われてるんですよ、海の。

高橋:
うん。

ひぐち君:
なぜかといいますと、そのシャブリ地区はもともと海だったんで、畑の下のほうに、その牡蠣の化石とか、いっぱい海の物が埋まってるんですよ。

礒野:
へぇ~!

ひぐち君:
その化石から海のミネラルを吸い上げて、ブドウの実になって、それがワインになるんで、水は使わず。だから「海のミネラルが入ったワイン」になるんですよ。だから牡蠣に合うんですよ。

礒野:
そういう理由なんですね~。すごい循環!

高橋:
さっき言った、“その土地のミネラルやモノと水と空気”を全部含んで、それがブドウになっちゃうんだよね。

ひぐち君:
そうです! だから、どんどんどんどん根っこが下のほうに行ってるから、昔のその時代…。「歴史を吸い上げる」じゃないですけど。で、オーストラリアの「シラーズ」っていうブドウがあるんですけど、それはオーストラリアに「コアラ」がいっぱいいるじゃないですか。

高橋:
うん。

ひぐち君:
ユーカリの木がいっぱいあって、それが「葉っぱが落ちて、枯葉になって、土になって」なんで、オーストラリアの「シラーズ」とかオーストラリアのワインは、けっこうユーカリ・メントールっていう、香りを嗅いでいただくと、鼻がスースーする。

礒野:
スッキリするような?

ひぐち君:
コンビニとかでけっこう置いてますけど、風邪ひいてても、鼻にくるぐらい。

高橋:
なんかさ~「竹」みたいだよね。清涼感があるよね。

ひぐち君:
ミントみたいな。

高橋:
それがオーストラリアのワインなんですね~。

礒野:
土地の物語があって、面白いですね。

ひぐち君:
そうなんです。だから日本のワイナリーで言うと、「桔梗ヶ原(ききょうがはら)のメルロー」っていうワインとかは、ちょっと「ごぼう」のニュアンスがあったり。

礒野:
えっ、どちらですか?

ひぐち君:
桔梗ヶ原。長野県です。「桔梗ヶ原のメルロー」は「ごぼう」のニュアンスがあるんで、“きんぴらごぼう”に合ったりするんですよ。

礒野:
へぇ~~!

ひぐち君:
ブドウって「熟成していくとトリュフの香り」がね、出てきたり、いいワインって。日本のワインは熟成してくると「まいたけの香り」が出てくるんですよ!

礒野:
うわぁ~!

ひぐち君:
「和」の感じ。和食に合いますし。

礒野:
へぇ~。面白い!

高橋:
僕が飲み始めたのは90年代の半ばで、ちょうどワインブームが!

ひぐち君:
あの、“赤ワイン・ブーム”ですね。

高橋:
超絶“赤ワイン・ブーム”! だから、当時、知られている日本ワインって、「登美」と「桔梗ヶ原のメルロー」ぐらいで。

ひぐち君:
あ~、なるほど! まぁね、世界で賞を取ったりとか。

高橋:
そう、そう。特に「赤」が中心だったから、あんまり日本のワインは飲まなかったのね、当時は。

ひぐち君:
う~ん。当時アレでしょ? 聞いたことがあるのが、その時代は「赤ワインが飛ぶように売れた」って、酒屋さんも言ってたんですけど、とにかく赤ワインを輸入するんですって。で、お店に来る人も「すみません、体にいい赤ワインってどれですか?」って(笑)。

高橋・礒野:
あははは(笑)。

高橋:
「ポリフェノールが体にいい」っていうね。

礒野:
味じゃなくて(笑)。

ひぐち君:
はい(笑)。

高橋:
そう。健康のために赤ワインを飲むっていう。

ひぐち君:
ね!

礒野:
すごく日本に広まったタイミングだったんですね。赤ワインがね~。

高橋:
そうですね。爆発的にはやってましたね。

礒野:
じゃあ源一郎さんも、いろいろ飲まれたんですね~。

ひぐち君:
「ボージョレヌーボー」もアレですもんね~。成田空港で解禁のイベントやってましたよね。

高橋:
そう、そう、そう、そう。

礒野:
ニュースで見た覚えがあるかも!

高橋:
信じれられないよね。で、ひぐち君は、そうやって、まず「ワインエキスパート」になっちゃったんだよね。

ひぐち君:
はい、ワインエキスパートの資格をね…。

礒野:
すごいですよ~。難しいですよね~!

ひぐち君:
最初、1次と2次があるんですけど、1次試験は筆記というか勉強なんで、これはもう「詰め込めばいける!」と。ホント、1日何時間も勉強して。ただ2次が「テイスティング」なんですよ。

高橋:
テイスティングでしょ~!

ひぐち君:
で、僕ワイン知らないですし、ワインエキスパートの資格はその時は「白ワイン2種類、赤ワイン2種類、その他のお酒2種」。“その他のお酒”も出てくるんですよ。

高橋:
おぉ!

ひぐち君:
これ、当てなきゃいけないです! しかも「年代」もそうだし「品種」「国」。

礒野:
へぇ~。そんな!

ひぐち君:
あと「味わい」とか「香り」とかを、「フルーツで例えたらどうか?」とかっていうのを全部当ててかなきゃいけないです。

高橋:
あれ、大変だよね。

ひぐち君:
大変です。

礒野:
年代とか、すごい! どうしてわかったんですか?

ひぐち君:
だからホント、“小瓶”を持ち歩きまして~。例えばニュージーランドの「ソーヴィニヨン・ブラン」という、白ブドウがあるんですけど、ニュージーランドのソーヴィニヨン・ブランと、フランスのロワールのソーヴィニヨン・ブランを小瓶に入れて、東京から名古屋間の新幹線の移動中、ずっと嗅ぎ分けたりとか。不審者ですよね(笑)。

高橋・礒野:
あははははは(笑)。

礒野:
あやしい(笑)。飲まないし!

ひぐち君:
「体にたたき込まないと!」っていう。それをずっとやったりとか。で、「シラー」っていうブドウ品種があって、これは「黒こしょうの香り」がするんですよ。

高橋:
う~ん。

ひぐち君:
これは「ロタンドン」という成分が入ってまして、このロタンドンっていう成分は黒こしょうにも入ってるんで、だから黒こしょうの香りがして、その赤ワインは「ジビエ」とかに合うんですよ。お肉に!

礒野:
ええ、ええ。

ひぐち君:
この「シラー」を嗅いだ時に、そのロタンドンっていう黒こしょうの香りがわかれば「あっ、これはシラーだ」とわかるんで。ただ、なかなかわかんないですよ。初心者なんで。

高橋:
「こしょう」を嗅いでたの?

ひぐち君:
いや(笑)。こしょうの匂いはわかりますから(笑)。ワインのほうで「シラー」をずっと嗅いでたら、急にポッとわかったんです。試験の2週間前ぐらいに「はっ! これだ~!」と。そっからもうバンバン、「シラー」わかるんですよ。黒こしょう! ロタンドンって!!

礒野:
へぇ~~~!

ひぐち君:
そしたら試験の1週間前に、奥さんに風邪をうつされまして。

高橋・礒野:
あっはっはっは(笑)。

ひぐち君:
鼻が全くきかなくなって、すぐ病院へ行って(笑)。すぐ戻る注射でもなんでもいいから「鼻をきくように治してくださ~い!」って言って、ようやく3日前に治って、なんとか。

礒野:
よかったですね~。“鼻が命”ですね~!

ひぐち君:
はい 。

高橋:
すごいね~!

ひぐち君:
いや~、人生で1番勉強しましたね。

高橋:
なんでそこまでやろうと思ったの?

ひぐち君:
僕は2年か3年かけて取ればいいやと思ってたんですよ。で、1次試験を合格した時に、そのさっき言ってた先輩のカンニング竹山さんに「1次試験、合格しました」って言ったら、「おっ、それはすごいな~!」って、「じゃあ、お祝いしよう!」って言って、おごってくれたんですよ。

高橋:
ワイン?

ひぐち君:
ワインおごってくれました! で、竹山さんが、よかれと思って、Twitterで「髭男爵のひぐち君が、ワインエキスパートの1次試験に合格しました」みたいな写真をとって、ツイートしたんです。そしたら事務所に何社か問い合わせが来たらしく、「ひぐち君は、いつワインエキスパートになるんですか?」っていう…。あははは(笑)。

礒野:
なる前提(笑)。

ひぐち君:
これはコッソリやろうと思ってたのに。

高橋:
これはもう、受かるしかないもんね。

ひぐち君:
受かるしかないと思って、もう「詰め込み、詰め込み」で。ホントもう、朝・晩、冷蔵庫に20本か30本ワインを入れといて。

礒野:
そんなに!

ひぐち君:
朝に飲むと仕事へ行けなくなっちゃうんで、香り嗅いで、あと「クチュクチュ、ペッ」って、口の中でちょっと味わいとかを、毎日、朝・晩20~30本テイスティングして、1か月で詰め込みましたね。

礒野:
すごいプレッシャー! すごいですね~。

ひぐち君:
いやいや、なんとか。

日本ワインと、ひぐち君 ~ペアリングで、さらに先の楽しさへ~

高橋:
それが仕事になって、日本ワインにいったっていうのは?

ひぐち君:
そうなんですよ。日本ワインのイベントに、それで初めてワインのお仕事で呼んでもらいまして、そこで日本ワインと出会って、そこで教えてもらうんです、作り手の人に。日本ワインっていうのは「雨が多いから、繊細な味わい」とかって言われるんだけども…、この繊細な味わいの中に「うまみ」とか、「だしの感じ」みたいなのを表現できて、それが「京料理」とか。

高橋:
う~ん、合うんだよね。

ひぐち君:
「和食にめっちゃ合う」っていう。だから「ペアリング」とかも、その和食とのペアリングで、さっきも言いましたけど「きんぴらごぼうと桔梗ヶ原のメルロー」とかもそうですし、「甲州ワインには、さんまの塩焼き」。甲州って、“和かんきつの香り”がするんで、「かぼす」とか「すだち」の香りがするんですよ。

礒野:
おいしそ~!

ひぐち君:
さんまの塩焼きって、絞ったりするじゃないですか。

礒野:
ええ、ええ。

ひぐち君:
そのニュアンスがあるんで、甲州のワインに合ったりとかもありますし。

礒野:
ちょっと飲みたくなってきちゃうな。

高橋:
面白いよね、ペアリング。

ひぐち君:
「餃子とロゼ」とかのパターンもありますし、あと「みたらし団子」に「マスカット・ベーリーA」というワインが合うんです。マスカット・ベーリーAはお飲みになったことあります?

高橋:
はい、あります。おいしいですよね。

礒野:
みたらし団子って、けっこう味が濃いし…。

突然、スタジオに…!

礒野:
あっ、今、スタジオに「みたらし団子」と「ワイン」が…。

高橋:
聞いてないよ、こんなの(笑)。

礒野:
運ばれてまいりました。

ひぐち君:
はい、じゃあ「音」をね。(ワインをグラスに注ぐ音)

礒野:
ひぐち君がワインを注いでくださっています。

ひぐち君:
マスカット・ベーリーAは広島の! じゃあ源一郎さん(ワイングラスを手渡す)

高橋:
ありがとうございます。よいしょ。

ひぐち君:
広島の三次(みよし)のワイナリーなんですが。

礒野:
へぇ~。

高橋:
マスカット・ベーリーAですね。

礒野:
きょうはちょっとペアリングを実際に楽しみながら。

ひぐち君:
ぜひ! 香りを嗅いでいただいて。

礒野:
いかがですか?

ひぐち君:
どうですか?

高橋:
爽やかな香りですね、これね~。

礒野:
私も香りだけ、じゃあ!

ひぐち君:
どういう香りがします…?

礒野:
恥ずかしくて言えないんですけど(笑)。

ひぐち君:
ぜんぜん、ぜんぜん。言っていただいて。ちょっとなんか「イチゴ」みたいな香りがしません?

高橋:
そうなんだよね。この果物なにかなと思って。

ひぐち君:
イチゴですね、はい! このイチゴの香りが「フラネオール」って成分なんですけど、これがまぁあの「ピノ・ノワール」とかにも含まれる香りで、ちょっとピノ・ノワールにも、こういう香りがしたりするんですけど、これがイチゴにも含まれてるんです、その成分。

高橋:
あぁ~。

礒野:
甘酸っぱい感じ。

ひぐち君:
あ~、いいですね。で、しょうゆにもこれが、「フラネオール」っていうのが入ってるんです。しょうゆとかみそにも。

礒野:
へぇ~!

高橋:
なんかさ、そう、みそっぽいんだよね!

ひぐち君:
あっ、はい! みそとかしょうゆにも入ってるんで。

高橋:
果物なのにみそって、変な感じだよね。

ひぐち君:
あ~、さすが。そうです。だから「みたらし団子」もそうですけど、「焼き鳥のタレ」とか「すき焼き」とかに、このマスカット・ベーリーAが合うんですよ。

礒野:
しっかりした味のお料理にも合うんですね~。

ひぐち君:
しょうゆ系。それこそ「筑前煮」とかも合いますし、「肉じゃが」とかとかも合いますし。ちょっとペアリングしていただいて…。

礒野:
今、源一郎さんが「みたらし団子」を口に…。

ひぐち君:
うん!

礒野:
そしてワインを…。

高橋:
ホントだ~!

ひぐち君:
合います?! お~~!

一同:
パチパチパチ(拍手)。

高橋:
いかん。飲み込んじゃった(笑)。

ひぐち君・礒野:
あははははは(笑)。

高橋:
テイスティングなのに…。

ひぐち君:
これは飲み込んで大丈夫ですよ。ペアリングなんで。

高橋:
おいしいですね。

高橋:
僕、ペアリングを以前やったことがあるんですよ。

ひぐち君:
お~、はい。

高橋:
90年代半ばにワインブームになった時に、雑誌で企画があって、イギリスのワイン評論家「ヒュー・ジョンソン」さんが来た時に…。

ひぐち君:
あの有名な方ですか。

高橋:
彼が来た時に、「高橋さん出てください!」って。

ひぐち君:
う~わっ。すご~い!

高橋:
それで企画が「日本食にワインを合わせる」。

ひぐち君:
なるほど。

高橋:
で、「寿司屋」から始まって、「お好み焼き」に至るまで!

ひぐち君:
なるほど!

高橋:
全種類やらされて。

ひぐち君:
ペアリングされたんですね!

高橋:
ペアリングなのに、僕、全部飲んじゃって(笑)。

ひぐち君:
あっ、そうか。取材なのに、酔っ払っちゃいますよね~(笑)。

礒野:
出さなきゃいけなかったんですね。

高橋:
ヒュー・ジョンソンさんは出してたんだけど、僕は飲んでたらさ。

ひぐち君:
あははは(笑)。

高橋:
「高橋さん、なんで飲んでるんですか?」って。「いや~、おいしいから、いいじゃない」って言って。途中で、わかんなくなっちゃって…。

ひぐち君:
わかんなくなります(笑)。

高橋:
でも、その時に思ったのが、日本の食事には、その当時はあんまりワインとは合わないと思ってたんだけど、けっこう合うんだよね。

ひぐち君:
合います、合います。

高橋:
今でも覚えてるのがさ、「シャンパン」だと、ほとんどに合うんだよね!

ひぐち君:
そうなんです! そうなんですよ。

高橋:
わかんなくなったら、シャンパンを合わせればいい。

ひぐち君:
スパークリングワインは、ホントに合わせやすいと思います。「おせち料理」にも合いますよ。

高橋:
そうなんだ! ヒュー・ジョンソンさんがね「わかんなくなったら、スパークリングワインでいい」って言ってたよ。

ひぐち君:
確かに。お魚にも合いますしね。

礒野:
これ皆さんも、是非やっていただきたいですね。

ひぐち君:
「みたらし団子」と「マスカット・ベーリーA」は! マスカット・ベーリーAは、スーパーとかでも売ってたりしますんで。

礒野:
そうですか!

高橋:
じゃあ「お好み焼き」に合うやつは?

ひぐち君:
あ~! お好み焼きも、割とこのベーリーAは…。

高橋:
あ~、合うかもしれない。

ひぐち君:
ソースの甘辛な感じに合いますから!

高橋:
一応ね、「シラー」を合わせましたよ。

ひぐち君:
あ~! シラーも合いますね。

高橋:
けっこう、“どぎつい”やつが!

ひぐち君:
なるほど。確かに「マルベック」とかね、そのへんも。

高橋:
そう、そう、そう、そう、そう。

礒野:
それはどういう?

高橋:
ガツンとくる…。

礒野:
ガツンと系の。

高橋:
赤の…。

ひぐち君:
黒こしょうの香りの。

高橋:
そう、そう、そう、そう。

高橋:
なんかね、合いましたね。

礒野:
面白いですね。ペアリングでワインの魅力の深さを感じますね。

ひぐち君:
僕は今、北海道余市町のワイン大使もやらせていただいているんですが、余市に行って、「ニシン」の面白さにハマってまして、今。

礒野:
北海道といえば!

高橋:
あっ、そうか~。

ひぐち君:
春の魚なんですよ。「ニシン」て、むこうに行くと、刺身で食べられるんですよ。

高橋:
へぇ。ニシンの刺身を食べるんだ~!

ひぐち君:
はい。ただ「足がはやい(腐りやすい)」んで、こっちではなかなか食べられないんですけど。

礒野:
ええ、なかなかね、本州では。

ひぐち君:
そうなんですよ。で、「ぬかニシン」てのがありまして、その「ぬかニシン」っていうのは、けっこう長期保存というか、こっちでも食べられるんで。「ぬかニシン」の、“炊き込みご飯”をむこうで作ってもらって、それが…。

高橋:
なんかに合わせるの?

礒野:
おいしそう~!

ひぐち君:
ご飯に「ぬかニシン」を1本。まぁ骨抜きして、バターとしょうがと黒こしょう少々。これだけです!

礒野:
へぇ~。

高橋:
あぁ~。

ひぐち君:
これで炊いていただいて、ほぐしながらそれを食べると、本当に「ワインが飲みたくなるご飯」なんですよ!

高橋:
へぇ~~。

ひぐち君:
この「ぬかニシン」の“塩味(えんみ)”が、果実の甘みを引き出すんです。だからこの「マスカット・ベーリーAと、みたらし団子」じゃないですけど、しょっぱさが、塩味が、だから「スイカに塩」のパターンですね。

礒野:
あ~~!

高橋:
なるほどね~。

礒野:
わかりやすい例え、ありがとうございます。

ひぐち君:
で、その塩味がワインの果実味を引き出してくれるんで、「ケルナー」っていう「白ブドウ」とかだと、ちょっと、余市のブドウの「和かんきつ」の香りが出てきたりとか、「ソーヴィニヨン・ブラン」だったら、余市だとちょっと「りんご」のニュアンスとかあったりするんで、りんごっぽい感じが出てたりとかして、それがね「ペアリングの良さ」というか、「マリアージュ」するんですよね~。

礒野:
旅行に行った気分にもなりますね。その土地を思い浮かべて。

高橋:
あの~、僕ちょっとこの本、ひぐち君の本を読んで感動したところがあってですね。

ひぐち君:
ありがとうございます!

高橋:
日本の生産者から、ものすごく信頼されてるじゃないですか?!

ひぐち君:
あぁ~、そうですか。ありがとうございます!

高橋:
それはやっぱり、僕のような、けっこうワインが好きな人でも「日本のワイナリーはこんなにいっぱいあって、こんなに一生懸命作ってて、こんなにおいしい」ってことは、なかなか知らなかったので。

ひぐち君:
う~ん。

高橋:
だから、すごく「大切な仕事をされてる」と思いましたので。

ひぐち君:
あぁ~、本当ですか?! ありがとうございます! 今、ワイナリーは500軒以上あるんで~。

高橋:
そうなんだよね~。

ひぐち君:
どんどんどんどん増えてるんですよ。

礒野:
楽しみですね~。

高橋:
日本中にあるんだよね!

ひぐち君:
はい、あります。今、佐賀県だけ無いです。

高橋:
あ~。

礒野:
そうなんですか。

ひぐち君:
この前、奈良県に出来たんで、初めて。

高橋:
ぜひ、佐賀でもあるといいですね~。

ひぐち君:
作っていただきたいですけど。

礒野:
ますます、ワインエキスパートとしても、ご活躍を楽しみにしています!

ひぐち君:
頑張ります。ありがとうございます!

礒野:
あっという間でしたが、きょうは「髭男爵」の「ひぐち君」にお話を伺いました。ありがとうございました。

高橋:
ありがとうございます~。

ひぐち君:
ありがとうございました~!


【放送】
2023/06/02 「高橋源一郎の飛ぶ教室」

放送を聴く
23/06/09まで

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23/06/09まで

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